2022年1月31日
メキシコにおける近年の税制改正の動向および2022年の税制改正の解説

メキシコにおける近年の税制改正の動向および2022年の税制改正の解説

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2022年1月31日

メキシコでは近年、2020年度税制改正を皮切りに、企業への課税を強化する税制が数多く採用されています。この近年の税制改正について22年1月1日より施行の22年度改正を中心に解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 メキシコシティ駐在員 公認会計士 小河原達矢

2004年12月に当法人に入所。主に旅客運送業、製造業等の監査業務、日系企業の海外子会社へのJ-SOX導入支援、企業結合会計基準の実務書などの執筆などに携わる。15年7月〜18年6月EYメキシコ レオン事務所へ駐在員として赴任し、日本帰任後グローバル日系企業のIFRS導入支援業務に従事した後、21年8月より再びメキシコシティに赴任。会計や税務に係るサービスにより日系企業の支援を行っている。

EY新日本有限責任監査法人 メキシコシティ駐在員 公認会計士 吉本 裕

2007年11月に当法人に入所。主に自動車部品メーカー等の監査業務に従事しながら、収益認識基準に係る実務書の執筆、IFRS導入支援業務およびIFRS15(ASC606)導入支援業務等に携わる。21年7月よりメキシコシティに赴任。会計や税務に係るサービスにより日系企業の支援を行っている。

要点
  • メキシコでは2018年12月に就任した現大統領の下、企業への課税を強化する税制が数多く採用されています。
  • 2022年1月1日施行の22年度税制改正においては申告業務などの税務負担が増すような改正がなされています。
  • 具体的な改正項目としては、過小資本税制の計算方法の一部変更、利息を配当として認識する融資に係る定義の拡大、移転価格に係る諸変更や税務監査の義務化が挙げられます。

Ⅰ はじめに

メキシコでは2018年12月に就任したアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領のもとで20年度税制改正を皮切りに法人税をはじめとする左派大衆主義的な税制改正が大きく進められています。本稿では、この近年の税制改正について22年1月1日より施行の22年度改正を中心に解説します。

Ⅱ メキシコの法人税制

1. 概要

法人所得税や付加価値税は連邦法により規定されています。会計期間および税務申告年度は12月31日を期末日とする暦年のみが認められています。日本に先駆けてインボイス制が導入されており、全ての企業は原則として全取引にCFDIと呼ばれる電子インボイスを発行することが義務付けられています。通常このCFDIの受領をもとに益金や損金の発生が認識されます。
税制改正案は毎年の経済政策の一環として国会に提出されます。例年、公布から施行までの期間が短く、22年度の税制改正は21年9月上旬に国会に提出された後、10月下旬に議会で承認され、22年1月1日に施行されています。

2. 近年における税制改正の傾向

前述の通り、メキシコでは現大統領のもと企業への課税を強化する税制が数多く採用されています。<表1>は、現政権下における税制改正のうち主要な改正項目をまとめたものです。

表1 現政権下における税制改正

メキシコの大統領の任期は6年間であり現大統領にとって22年は折り返しの年となりますが、今後も引き続き法人への課税強化が進められていくことが予想されます。

3. 22年度税制改正

22年度税制改正では、新税の導入や税率の引き上げはないものの、企業にとっては申告業務などの税務負担が増すような改正がなされています。主要な改正項目は以下の通りです。

(1) 過少資本税制の計算方法の一部変更

メキシコの過少資本税制の計算における「資本」は、会計上の株主資本もしくは税務上の資本(税務申告書上の拠出金(CUCA)+純利益(CUFIN)+再投資純利益(CUFINRE)のいずれかを選択適用することが認められています。ここで、税務上の資本を利用する場合、以前は繰越欠損金を考慮する必要はありませんでしたが、本改正により繰越欠損金を控除することになりました。

繰越欠損金があり、これまで税務上の資本を選択適用していた場合には、今回の改正により過少資本税制の影響を受ける可能性があります。

(2) 利息を配当として認識する融資に係る定義の拡大

従来「Back-to-Back」ローン(親会社等から借入を行い、そのまま子会社等に対して同条件の貸付けを行うような借入等)に該当する国外関連者からの借入に係る支払利息を配当として損金算入を否認するルールがありましたが、今回の改正により当該ルールの適用範囲が、事業上の正当な理由を欠く全ての国外居住者からの資金調達取引に拡大されています。

海外居住者からの有利子負債等を有する会社は、税務当局からの照会を受けた際に説明できるディフェンスファイルの準備が必要となります。

(3) 移転価格に係る諸変更

移転価格に係るルールの変更としては、①マキラドーラ(外国企業の誘致や輸出促進を目的に原材料・部品や機械設備・工具等を無関税で輸入できる仕組み)における移転価格事前確認(APA)の適用が廃止され、セーフハーバー・ルールのみの適用が認められることとなったこと、②ローカルファイルの提出期限が対象年度の翌年12月31日から同5月15日に、また関連者取引に関する税務申告附表(DIM Anexo 9)の提出期限が対象年度の翌年7月15日から同5月15日にそれぞれ短縮されたこと、③対象取引が国外関連者だけでなく国内関連者との取引にも拡大されたことの三つが大きな変更点となります。

メキシコの移転価格におけるセーフハーバー・ルールは、営業費用の6.5%および総資産(海外主体者の保有在庫ならびに機械装置を含む)の6.9%のいずれも上回る利益を上げることが条件となるため、これまでマキラドーラにおいてAPAを適用していた会社は、改めて上記条件を満たしているかどうかの確認が必要になります。

(4) 一定規模以上の会社に対する税務監査の義務化および税務監査の期限の短縮

メキシコでは財務諸表の会計基準への準拠性を監査目的とする会計監査とは別に、監査法人等が法人の税務申告書類等の税法への準拠性を監査目的とする税務監査(Dictamen Fiscal)と呼ばれる制度があります。14年以降、税務監査の実施は任意となっていましたが、今回の改正により課税収入が約1,650百万ペソを超える企業に対して、税務監査の実施が義務化されました。

さらに、当局への提出期限についても対象年度の翌年7月15日から同5月15日に短縮されています。

Ⅲ おわりに

近年のメキシコにおける左派大衆主義的な税制は、日本の税制にはあまり見られないような規定があり、税制改正に際しても、対象となる会社にとって大きく支払税額が変動する可能性のある事項が多く出てきます。前述の通り改正の公布から施行までの期間が短いこともあり、改正の動向を常に注視する必要があります。

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サマリー

メキシコでは近年、2020年度税制改正を皮切りに、企業への課税を強化する税制が数多く採用されています。この近年の税制改正について22年1月1日より施行の22年度改正を中心に解説します。

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