2023年5月31日
ブラジル移転価格税制-ブラジル政府、独立企業間原則を採用した暫定措置令を発表
情報センサー2023年6月号 JBS

ブラジル移転価格税制-ブラジル政府、独立企業間原則を採用した暫定措置令を発表

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2023年5月31日
関連トピック 税務

2022年12月29日にブラジル政府は、新移転価格税制の導入に関する暫定措置令第1,152号(PM 1,152/22)を発表しました。ブラジルで事業を営む多国籍企業にとって、事業戦略の策定に重要な影響を及ぼすことになる移転価格税制の改正について解説します。

本稿の執筆者

EYブラジル サンパウロ事務所 矢萩 信行

主に多国籍企業に対する国際財務報告基準(IFRS)、米国会計基準(USGAAP)、日本会計基準(Japan GAAP)に基づく財務諸表監査、IFRSコンバージョン、USSOX・J-SOX等、アシュアランス業務に従事。2022年7月よりEYブラジル サンパウロ事務所においてアシュアランスパートナーとして現地日系企業に監査・会計アドバイザリー業務を提供するとともに、税務、アドバイザリー、法務業務支援も提供。

要点
  • 2022年12月29日ブラジル政府は新移転価格税制に関する暫定措置令第1,152号(PM 1,152/22)を発表。
  • ブラジル移転価格税制と経済協力開発機構(OECD)ガイドラインとの整合を目的とした新移転価格税制に関する暫定措置令に対するへのブラジル議会の承認に注視。
  • ブラジル新移転価格税制がブラジル進出の多国籍企業の事業に与える潜在的影響の評価を行い、最良の事業戦略について検討。

Ⅰ はじめに

多国籍企業の海外投資において、今後さらなるブラジル投資を促進するため、ブラジル進出企業にとって移転価格税制は長年の課題となっていました。経済協力開発機構(OECD)ガイドラインに整合した新たな移転価格税制の導入を目的として、ブラジル連邦国税庁(RFB)とOECDとの間での数年間にわたる共同作業がなされ、2022年12月29日にブラジル政府は、新移転価格税制の導入に関する暫定措置令第1,152号(PM 1,152/22)を発表しました。

Ⅱ 新移転価格税制(暫定措置令第1,152号)

暫定措置令は、大統領によって署名および発行される法令の一種であり、法律として制定されるためには、発行から60日以内(さらに60日延長可能)に議会によって承認される必要があります。

ブラジル大統領府の事務局長が明示したように、当該措置令の発行は、現行のブラジル移転価格税制における既存の相違点と弱点、および当該法律の不整合とOECDによって制定された最低基準との相互関係に起因しています。当該暫定措置令は、①ブラジルで事業を営む納税者の事業環境②ブラジルのグローバル・バリュー・チェーンへの参入および③効果的な税の徴収に影響を与えます。

Ⅲ 新移転価格税制の目的

当該新移転価格税制は、次の目的を達成するために導入されます。

  • 全ての関係会社間のクロスボーダー取引を規定するために独立企業間原則を採用する。
  • 二重課税と二重非課税の回避。
  • グローバル経済原則へのブラジルの参加を促進し、ブラジル多国籍企業の競争力を強化する。
  • ブラジルで徴収された所得税の米国での税額控除の認識に関する障壁を取り除く。

Ⅳ 当該暫定措置令で規定された主なポイント

  • OECDの国際原則に準じた独立企業間原則の導入。
  • 移転価格税制の対象となる関連当事者の定義。
  • 最も信頼できるデータと最良の方法に基づくテスト対象の選択。
  • 全ての関係会社間のクロスボーダー取引に当該新移転価格税制を適用。
  • 無形資産に関する全てのクロスボーダー取引を含める。
    ① 無形資産の定義の導入
    ② ロイヤルティの支払いを決定するために独立企業間原則を採用し、ロイヤルティの損金算入制限を取り除く
    ③ DEMPEコンセプトと適切な独立企業間報酬の決定との関連性を含める
    ④ 費用分担契約の導入
  • クロスボーダーの関係会社間サービスおよびそれらの取引価格設定に関する移転価格計算方法を含める。
  • 関係会社間ローン、保証、集約された財務機能および保険取引のような全てのクロスボーダー金融取引を含める。
  • OECD基準に準拠した移転価格計算方法の導入。
    ① 独立価格比準法(CUP)
    ② 再販売価格基準法(RP)
    ③ 原価基準法(CP)
    ④ 取引単位営業利益法(TNMM)
    ⑤ 取引利益分割法(TPSM)
    ⑥ その他または不特定の方法
  • 暫定措置令は、コモディティのクロスボーダー取引において信頼できる比較対象が利用できる場合、CUP法を最も適切な方法と指摘しています。ただし、納税者は適切な事実と状況に基づいて他の方法を適用することが可能。
  • 新移転価格税制の文書化規定適用のために機能(リスク、機能および資産)および経済的分析の必要性を確立する。
  • コンプライアンスの目的で現在必要とされている移転価格文書化の欠如に対するペナルティの導入。
  • ブラジル連邦国税庁との一方向の移転価格合意(事前確認制度(APA)に類似)および相互合意手続きの導入。
  • 新移転価格税制は24年1月1日に発効されますが、23年に早期適用が可能。

Ⅴ おわりに

ブラジルの移転価格税制の改正は、ブラジルで事業を営む多国籍企業にとって、今後のブラジルでの事業戦略の策定に重要な影響を及ぼすことになるでしょう。この新たな移転価格税制がブラジル議会で承認されるかどうかを注視するとともに、ブラジルに進出している多国籍企業は当該改正が事業に与える潜在的な影響を評価し、ブラジルの事業戦略を立案・構築していく過程において、最良のビジネスモデルを検討し、実行していくことが、将来的にブラジルで事業活動を行う上で、さらに重要になっていくでしょう。

(注)本稿は2023年4月21日時点の情報に基づいて執筆しています。

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サマリー

2022年12月29日にブラジル政府は、新移転価格税制の導入に関する暫定措置令第1,152号(PM 1,152/22)を発表しました。ブラジルで事業を営む多国籍企業にとって、事業戦略の策定に重要な影響を及ぼすことになる移転価格税制の改正について解説します。

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