情報センサー

LegalTech(リーガルテック)で法務サービスはどう変わるのか


情報センサー2019年12月号 Innovative Business & Law


EY弁護士法人 弁護士 杉浦 宏輝

国内法律事務所を経て、2017年12月にEY弁護士法人に入所。国内およびクロスボーダーのM&A・組織再編、スタートアップ・VC支援のほか、デジタル法務、フィンテック関連の助言も多く手掛ける。


Ⅰ はじめに

近年、FinTech(フィンテック)やRegTech(レグテック)に並び「LegalTech(リーガルテック)」というキーワードが注目を浴びています。
「LegalTech」とは、「法律(上の):Legal」と「技術:Technology」を組み合わせた造語で、確立した定義はありませんが、おおむね、法律が関連する分野において課題解決のために導入されるテクノロジーまたはそのようなテクノロジーを導入する取り組みや領域を指します。
2018年末にEYは、世界各国のシニア法務担当者1,058名を対象に法律業務に関する大規模な調査を実施しました※1
同調査によると、対象者の87%は「法務部門において処理すべき事案が過去5年の間に増加している」、また、82%が「今後24カ月間に法務部門のコストが削減される予定だ」と回答しています(<図1>参照)。


図1 Are you expecting a reduction in legal function costs in the next 24 months?

この結果は、法務部門の現場において、ビジネスの複雑化や法務リスクに対する関心の高まりにより業務負担が増加する一方で、増加を続ける法務コストの削減ニーズが高まるというジレンマが生じていることを示しています。このため、業務効率の改善のためにもリーガルテックの活用が期待されるところですが、回答者の64%が、「法務以外の他部門の方が、テクノロジーの導入やイノベーションへの投資の便益をより享受している」と考えていることを示しており、法務部門が、人事、IT、財務をはじめとする他部門にまだ後れを取っていることがわかります。

Ⅱ 法律サービスとテクノロジー

「LegalTech」という言葉が注目されるようになったのは近年ですが、LegalTechの歴史は、1970年代に開始された米国のCALR(Computer-Assisted Legal Research)に関する技術の研究開発まで遡(さかのぼ)ることができます※2
コモン・ロー(先例主義)を採用する米国においては、法律実務は過去の裁判例に沿って日々形成されていきます。そのため、シビル・ロー(成文法主義)を採用する国と比較して先例の調査・分析の意義が極めて高く、法律実務家が裁判例に容易にアクセスできるサービスが不可欠であり、判例・法律のリサーチは早くから米国で普及しました。
AI技術の後押しを受け、米国におけるLegalTechのマーケットは近年さらに活性化しています。LegalTechを活用したサービスを提供するスタートアップの資金調達額は、16年、17年は約2億ドルで推移していたところ、18年には10億ドルを超えたと報じられています。また、19年9月時点においても10億ドルを上回るとされており、LegalTechは一つの市場として確立しつつあります※3
近年では日本でも、すでにM&Aのデュー・ディリジェンス等で一般化していたVDR(バーチャル・データ・ルーム)に加え、電子署名サービス、フォレンジックサービス、AIによる契約書のドラフト・レビュー、契約書の管理ツール、登記・登録のサポート等のサービスが次々と開始されています※4
また、日本の裁判システムは、依然としてファクシミリによる書証の交換が行われるなどIT化の遅れが指摘されていましたが、政府は、17年に「未来投資戦略2017年」において裁判手続等のIT化の推進を閣議決定し、現在までに、ウェブ会議等を積極的に活用する争点整理等の試行・運用、関係者の出頭を要しない口頭弁論期日等の実現、オンラインでの申立て等を実現するための環境整備に向けた検討・取り組みがなされてきています※5

Ⅲ EYにおけるリーガル・マネージド・サービスの拡充

EYグループにおいても、大量のルーティンワークが発生する法律関連業務について、テクノロジーにより時間面からも費用面からも効率的なソリューションを提供するLegal Managed Service(リーガル・マネージド・サービス)の拡充を図っており、18年にはRiverview Lawを、19年に入ってからはPangea3といったLegalTech領域の企業の買収を発表しています。EYは、主に英語圏において、すでに以下のような領域でLegalTechを活用したサービスの提供を開始しており、今後、日本を含む非英語圏の各国へのサービスの展開も見込んでいます※6


  • 契約管理
  • 子会社管理
  • 規制の調査・規制マッピング
  • ディスカバリー支援
  • 大量の法務関連書類の「マネージド・レビュー」
  • 不正調査
  • テクノロジーを活用した法務部門のオペレーション管理と案件管理

Ⅳ おわりに

昨今、法務部門・法律事務所の役割や機能は変化を求められており、その流れの中で、LegalTechは大きく躍進するでしょう。テクノロジーやAIが専門家の業務の全てを代替することは考えにくいですが、LegalTechの活用によって、ルーティンワークの処理スピードのアップや事務的ミスの低減が図られれば、コスト削減だけでなく、法務部門・法律事務所のリソースを、機械やAIによっては代替できない、より付加価値の高い役割や機能に集中させていくことが可能になるでしょう。

※1 同調査では、幅広いセクターの大手企業を中心とした法務部門、政府機関及び公共セクターの法務部門のシニア法務担当者1,058名を対象に法務部門の業務に関する質問を行い、「Reimagining the legal function report 2019」というレポートにおいて結果を報告している。
assets.ey.com/content/dam/ey-sites/ey-com/en_gl/topics/tax/tax-pdfs/reimagining-the-legal-function-report-2019-pdf.pdf

※2 www.seijo-law.jp/pdf_slr/SLR-075-190.pdf

※3 abovethelaw.com/2019/09/at-1-1-billion-its-already-a-record-year-for-legal-tech-investment/

※4 tech.legal-script.com/archives/40

※5 www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/index.html

※6 www.ey.com/en_gl/law/legal-operations

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2019年12月号
 

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。