ISSBからの2つの意見募集 -「優先課題に関する情報要請」「SASB基準の国際的な適用可能性の改善に関する公開草案」

ISSBからの2つの意見募集 -「優先課題に関する情報要請」「SASB基準の国際的な適用可能性の改善に関する公開草案」


情報センサー2023年8月・9月合併号 IFRS実務講座


EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室/品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 大野 雄裕

上場企業での経理部門を経て、2005年当法人に入社。国内および外資系企業の会計監査に従事。16年から2年間、EYロンドン事務所に駐在。22年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事。また、サステナビリティ開示推進室メンバーとしても活動している。


Ⅰ はじめに

 

2023年6月26日、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、最初のIFRSサステナビリティ開示基準となる「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項(以下、S1基準)」と「気候関連開示(以下、S2基準)」の最終基準を公表しました。

本稿では、ISSBの今後の動向にも関連する23年5月にISSBから公表された、2つの意見募集の概要を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

 

Ⅱ 優先課題に関する情報要請

 

ISSBは、23年5月に優先課題に関する最初の情報要請「アジェンダの優先度に関する協議」を公表しました。これは24年から開始する2年間の作業計画に情報を提供するものであり、次の項目について正式なインプットを受けることが目的です。

a. ISSBの活動の戦略的方向性とバランス
b. 作業計画に含まれる可能性のあるプロジェクトを評価するための規準
c. サステナビリティ報告事項テーマの優先順位

また、項目c.については、ISSBが優先課題になり得ると識別した4つのプロジェクト候補※1(次の①~④)も含まれています。

① 生物多様性、生態系及び生態系サービス(他の自然関連の論点を含む)
② 人的資本(特にDEI:多様性(Diversity)、公平性(Equity)、包摂性(Inclusion)を重視)
③ 人権(特にバリューチェーンの文脈における労働者または労働の権利及び地域社会の権利)
④ 報告(レポーティング)における統合

まず、ISSBの調査及びアウトリーチによると、投資家や市場からは、幅広く定義されるサステナビリティに関連するトピックの中でも、特に①~③の3つについての情報ニーズが集中していました。

また、当情報要請の4つ目のプロジェクト候補である④は、一般財務報告の構成要素がどのように組み合わされているかを明確にすることが目的とされており、サステナビリティ関連財務情報とその他の財務情報を1つの新しい統合された情報セットにまとめるためのガイダンスの策定につながる可能性があると考えられます。

当情報要請では、プロジェクトの優先順位を利害関係者に尋ねることに加えて、この4つ目のプロジェクトを主にISSBのプロジェクト(必要に応じてIASB(国際会計基準審議会)からインプットを引き出す)として進めるべきか、あるいはISSBとIASBの間の正式な共同プロジェクトとして進めるべきかについてもフィードバックを求めています。

当情報要請のコメントは、23年9月1日に終了し、ISSBは、23年第4四半期(10月から12月)から24年第1四半期(1月から3月)に寄せられたフィードバックを議論の上、アジェンダ協議の最終結果を受けた作業計画を決定する見込みです。

 

Ⅲ 公開草案「SASB基準の国際的な適用可能性を向上させるための方法論及びSASB基準タクソノミ・アップデート」

 

S1基準を適用する企業は、気候変動以外のサステナビリティ関連のリスクと機会を特定し、指標を開示する際にSASB基準※2を考慮することが要求されています。

しかし、SASB基準の一部には、国際的に適用できない可能性がある法域固有の法律や規制への参照が含まれており、地域的な偏りの発生や適用コストの増加、結果として生じる開示の比較可能性及び意思決定の有用性の低下の可能性があることをISSBは識別しています。このため、ISSBは、SASB基準から法域固有の内容を削除することによって、気候関連以外の指標の国際的な適用可能性を高めるための方法論について23年5月に公開草案を公表し、パブリック・コメントを募集しています(期限は23年8月9日)。

なお、SASB基準における気候関連の開示の国際的な適用可能性を高めるための修正は、すでにS2基準の付録Bに組み込まれているため、当該公開草案は、気候関連以外の指標に焦点を当てたものとなっています。

当公開草案にて提案された方法論は、<図1>のように要約されます。

図1 SASB基準の気候関連以外の指標を改訂するために提案された方法論

ISSBは、S1基準(発効日は24年1月1日)の適用と導入を促進するため、当該公開草案へのフィードバックを検討した後、適時にSASB基準の修正を公表する予定であり、23年末までには更新されたSASB基準が公表される見込みです。

 

Ⅳ おわりに

 

サステナビリティ関連の幅広いトピックに対するマーケットからの情報ニーズは強く、サステナビリティ関連開示基準のグローバルベースライン確立に向けたISSBの活動は、S1基準及びS2基準の導入支援にとどまらない多岐にわたるものになると予想されます。

また、ISSBだけでなく、欧州連合(EU)や米国等の各国のサステナビリティ開示のルール策定の動向や日本の金融庁やサステナビリティ基準委員会(SSBJ)における議論や基準開発状況も引き続き、注視する必要があります。

 

※1 フィードバック提供者は、ISSBが情報要請の中で提案しなかった他のトピック及びサブトピックを提案してもよいとされている。

※2 2022年8月のIFRS財団(IFRS Foundation)とバリュー・レポーティング財団(Value Reporting Foundation)の統合に伴い、ISSBが、SASB(Sustainability Accounting Standards Board)基準に関する責任を有している。SASB基準は、各業界におけるサステナビリティ関連財務情報の開示要求事項を含む77の産業別基準で構成されており、各SASB基準には、特定の業界におけるサステナビリティ関連のリスクや機会に焦点を当てた開示トピックと、各開示トピックに関連する指標が含まれている。


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