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第3回 学⽣ルール形成アイデアコンテストは、今年も多数の団体から応募いただきました。
数多くの優秀な提案の中から最終審査を通過し、授賞したチームとアイデアの概要、講評を掲載いたします。
法政大学 廣田 愛莉 ⽒/東京⼤学 ナップ アリエル ⽒/白百合女子大学 瀧川 ことみ ⽒
生徒の自主性を重んじる教育を実践する千代田区立麹町中学校の経験から、主体性は制度が支えなければ持続しないという問題意識を起点に“教育・就職・社会の間にある構造的な“断絶”が若者の主体的な挑戦を妨げている”というボトルネックに対して、その断絶をつなぎ直すための仕組みとして、3つのルールを提言。1つ目は、教育内部の主体性を回復する〈学校内民主主義〉(生徒の声を制度化し、主体的に学校を創る仕組み)。2つ目は、教育から就職への接続を多様化する〈多元キャリアルート〉(勉強時間を削る必要があるインターン偏重の就活の見直し)。3つ目は、学びと働くをつなぐ〈教育連携型インターン〉(無報酬インターンの増加が生んでいる経済格差による就活機会の不平等を解消するための報酬付きおよび単位認定)。これらのルールを通じて、挑戦し続けられる社会への橋渡しを図る。今後の展望として、国際的ネットワークを通じて、「教育と就活の間に民主主義(若者が自分の意思で選び挑戦できる状態)を取り戻す」構想を提示。
本提案は、教育・就職・社会の間にある構造的な断絶に着目し、経済格差によって若者が主体的に挑戦し続けられなくなる社会課題にルール案を提示した点に大きな意義があった。「主体性は教育・就活・社会のシステムによって減衰していく」という課題を学生目線から具体化し、近年増加傾向にあるインターンシップが学生に強いる問題を勉強時間の減少と経済格差による不平等という社会課題として昇華させた点を高く評価した。
早稲⽥⼤学 小田 茜音 ⽒/多胡 七香 ⽒/竹内 柚葉 ⽒/山田 仁之佑 氏
社会構造の変化を背景に形成された「子どもは家庭の私有財産である」という規範が、子育ての孤立と分断を生む根本原因であると特定し、これを「子どもは社会のコモンズである」という新たな規範へ転換することで、若者が子どもを産み育てたいと思える社会を再設計する構想。こうした規範転換を実現するため、①こども家庭庁の改称とこども基本法改正、②育休取得者の同僚フォロー制度、③「孫・姪・甥」短期育休、④保育サービスのオプトアウト化という妊娠前から幼児期までの孤立要因を体系的に解消する4つのルール形成を提言。また、本提案は国内政策にとどまらず、「子どもは社会のコモンズ」という規範を国連子どもの権利条約の一般的意見に追加し、SDGs・ポストSDGsの目標形成に寄与する国際的モデルとしての展望も含んでおり、規範と制度を往復させながら持続可能なマルチステークホルダー型子育て社会の実現を目指している。
本提案は、少子化を経済支援以外の視点から問い直し、“規範の問題”として再定義した点を評価した。とりわけ、核家族化・社会保障制度の変容という歴史的背景から、若者が子どもを持ちにくい構造を「私有財産規範」による制度的歪みとして捉え直した洞察が優れていた。さらに、SDGsや国連一般的意見への組み込みは、日本が世界に規範提案してみる価値を感じさせるものとして期待を抱かせる内容であった。
東京⼤学 向井 大樹 ⽒/田村 優 ⽒/小泉 剛愼⽒
探究学習を経験した“探究世代”は、授業を担当する先生によって質が異なることを実感しており、現行の教員免許制度では探求学習を指導できる先生の輩出が困難であることを社会課題と設定。現行の教員免許制度が時間的・経済的負担の大きいボトルネックとなっており、教育現場が必要とする教員数のギャップを埋めることが困難と分析。本提案は、教員採用を免許型から登録型へ転換し、教科研修型・探究研修型・探究教育貢献型の3ルートを創設して教員になるために必要なプロセスを変革し、大学生・社会人・リタイア人材が柔軟に教壇に立てる制度整備を提言。約11万人規模の探究教育者の人材プールを形成し、「誰もが教壇に立てる社会」を実現する構想。
探究学習を初めて経験した“探究世代”自身が探求学習の有効性を実感し、より多くの学生に学習機会を提供する上で教員の不足を社会課題と定義したことを評価した。現在の教員免許を取得するためのプログラムを、探求教育を担う教員については別のプログラムでもいいのではという仮説のもとに、学びの担い手を社会全体へと拡張しようと試みた。また、現行制度について詳細に分析し、AI時代の教員不足が予測される中、探究学習を経験した世代が実体験から教員輩出案とそのために必要な制度案を描いたことを高く評価した。
東京⼤学 乙川 文隆 ⽒/小林 寛 ⽒/田口 瑛太 ⽒/川村 輝 氏
自身の議員インターン経験から政策形成が限られた主体に偏る現状に対する問題意識を起点に、議員インターンを民主主義の入口として再設計する構想。議員インターンは、学生がルール形成を学び、ルール形成に対して政治家、官僚、民間のどこに所属して取り組むべきかを判断する最適な場と定義し、ここに参加できる人材像の偏りがそのまま将来のルール形成人材の偏りを再生産する構造に着目した。現状を①人脈依存の狭い入口、②無給中心の少ない報酬、③契約の不明瞭さによる曖昧な責任、という状況が、アルバイトをしなくてもいい経済環境にあり、議員と接点を有する限られた学生の参加に限定され、選挙事務所の個人情報や政策情報など機微な情報の漏洩リスクを問題提起。本提案は公募による事務所受け入れを前提として、経済格差で機会を奪わせないように最低賃金以上の報酬を義務化、および業務委託契約と倫理研修を義務化し、責任の曖昧さを解消する具体的な提言を行った。加えて、単位認定を導入することで、インターンを労働ではなく“育成インフラ”へと転換することも提案し、学生の積極的な参加によって民主主義の基盤の強化を打ち出した。
本提案では、学生インターンを「民主主義の入口を誰もが当たり前に通れるリボルビングドア」と再定義した規範提案と、そこに潜む社会課題を経験から的確に指摘した点を評価した。現行の無給および責任が不透明な議員インターンは、ルール形成人材の偏りを固定化し、各学生の責任感によって異なってしまう業務品質が議員にリスクを生じさせる構造的な不安定性を社会課題として顕在化させた意義は大きい。さらに、英国の「Speaker’s Parliamentary Placement Scheme」など海外制度を参照し、有償化・共通報酬・契約化・教育プログラムなどの制度化プロセスを具体的に提示した点は、新規性と実現可能性の両立が図られていた。
今回の応募群の特徴として、次の3点が大きな特徴であり、学生世代ならではの価値観と時代感覚が明確に表れていました。
第一に、多くの提案が 自律的に学び・挑戦する個人を制度で支えることを中心課題に据えており、他者や社会に委ねず「自分の意思で未来を形づくる」という姿勢が色濃く反映されていました。第二に、AIを脅威ではなく共創のパートナーと捉え、人間の役割(問いの設定・価値判断・説明責任)を再定義する視点が広く見られました。近年、LLMやエージェントに「何を与え、どのようなサイクルを作るか」が重要になる中で、こうした思考そのものがルール形成の発想に接続している点が印象的でした。第三に、地域活性化に向けて制度の土台を整え、熱意をもって行動する個人を支える仕組みを提示する提案も多く、地方創生への関心の高まりと若年層の政治参加への問題意識を示すものとなっていました。
これらの潮流は、日本の社会課題・政策形成に新しい視座をもたらすものであると期待しています。
学⽣がこの経験を通じて、⾃らの考えを友⼈と議論し、将来に向けてルール形成を通じて社会を動かす⼀歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。そして、この取り組みが、学⽣時代の⼤切な思い出となることを願っています。
本リリースに記載の各提案内容は、本コンテストに参加した学生チームによるアイデア・意見であり、EYSCの公式見解や政策提言を示すものではありません。また、受賞者の氏名・所属・写真等の掲載については、コンテスト応募時に取得した同意に基づき、広報目的の範囲で掲載しています。
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