サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年8月号

EYではサステナビリティ開示・保証等に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

 

サステナビリティ開示・保証

【Global】

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)

6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、英国政府の移行計画タスクフォース(TPT)(*1)が開発した教育的資料に対する「責任を引き受ける」と発表し、TPTガイダンスの側面を自らの基準に取り入れることを検討すると発表しました。この発表は、ISSBが他のサステナビリティ開示のフレームワークとのさらなる整合性を図るための幅広い取り組み(*2)の一環です。


国際会計基準審議会(IASB)

7月31日、国際会計基準審議会(IASB)は、企業が財務諸表において気候関連及びその他の不確実性の影響を報告するためのガイダンス案(*3)に関する協議を開始(*4)しました。このガイダンス案には設例が含まれており、財務諸表と企業の報告のその他の部分(サステナビリティ開示など)とのつながりを強化することを目的としています。

このガイダンスは、国際財務報告基準(IFRS)における要求事項を追加するものでも変更するものでもありません。利害関係者は、2024年11月28日までに設例に関するフィードバックを提出するよう求められています。

グローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)と自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、TNFD開示提言とGRIスタンダードとの整合性について詳細な概要を示したインターオペラビリティ(相互運用可能性)ガイド(*5)とマッピング資料を共同で公開しました。この取り組みの目的は、組織による生物多様性に関する報告を簡素化することです。TNFDはまた、6月に意見募集のために追加のセクター基準の草案(*6)も公表し、9月27日までに草案へのフィードバックを求めています。

【Americas】

6月28日、米国連邦最高裁判所は、40年前の判例を覆し、ローパー・ブライト事件において、下級裁判所はもはや、曖昧な法律条項に対する政府機関の合理的な解釈に従う必要はないとの判決を下しました。むしろ、裁判所は、政府機関の規則制定がそのような条項や他の法律条項と一致しているかどうかを自ら判断することができます。ローパー判決は、連邦政府機関に特に明確な立法権限がない場合、連邦政府機関の規則制定の裁量を大幅に制限する可能性があります。この判決は、サステナビリティに関するものも含め、連邦政府全体の政府機関の規則制定に重大な影響を及ぼす可能性があります。

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事と議員は、カリフォルニア州大気資源委員会がカリフォルニア州における気候開示法の施行に向けた規則の策定期限を6ヶ月延期すること(*7)に合意しました。カリフォルニア州政府は、気候関連財務リスクの報告時期を2026年から2028年へ2年間延期することを提案していましたが、法案の起草者を含む主要議員から反対されていました。この妥協案では、企業は依然として2026年から排出量と気候関連財務リスクの報告を開始することが求められます。この6ヶ月の延期の合意にかかわらず、カリフォルニア州法は引き続き法的異議申し立てに直面しており、現時点では最終的な施行について不確実な状況となっています。

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

企業サステナビリティ報告指令(CSRD)

欧州連合(EU)では、加盟国は7月6日までにEU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)を「国内法に移管」、つまり自国に導入するための法律を制定する必要がありました。法律事務所ロープス・アンド・グレイの分析(*8)によると、移管期限時点で、EU加盟国27カ国のうち18カ国がまだそれぞれの法律の草案を作成中、あるいは協議中でした。この遅れは、CSRDへの準拠が求められる企業にとって、さらなる課題を生じさせる可能性があります。一部の企業は、自国の法律が最終化されていない場合でも、自主的に報告することを選択する可能性があります。


企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CS3D)

企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CS3D)が7月25日に発効し、2027年から大規模企業に適用されます。同指令は、企業が人権や環境への悪影響を防止、軽減、是正するために、グローバルなバリューチェーン上の活動と自社の事業活動全体にわたってデューデリジェンスを実施するための概要を示したものです。欧州委員会は現在、CS3Dに関するQ&A(*9)を公表しており、同指令の適用、範囲、義務、施行、セーフガード、影響に関する質問を取り上げています。


欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)

7月25日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は2024年第2四半期においてEUの大規模企業を対象に実施された調査に基づき、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の早期導入事例に関する調査結果(*10)を発表しました。調査結果の重点領域は、ダブルマテリアリティ、データポイント、バリューチェーン、企業の報告プロセスです。CSRDに基づくESRSの導入を支援するため、欧州委員会は8月にCSRDの適用範囲、適用時期、免除規定に関連する一般的な質問に対応するための新しいFAQ集(*11)を公表しました。同文書はまた、CSRDによってEU会計指令、監査指令、監査規則、透明性指令に導入された特定の報告規定の解釈や、サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)の一部の規定の解釈についても明確にしています。


欧州監査監督機関委員会(CEAOB)

7月22日、欧州監査監督機関委員会(CEAOB)はサステナビリティ報告に対する限定的保証のガイドライン草案(*12)に関する協議を終了しました。欧州委員会は、自らのサステナビリティ保証基準を採択するまでの間、CEAOBに拘束力のないこれらのガイドラインを作成するよう要請していました。EY欧州はCEAOB草案への意見募集に対し、回答書を提出しました。


スイス

6月26日、スイス政府はEUのCSRD開示要求事項と整合させるため、ダブルマテリアリティおよび影響を受ける企業の範囲に関する規定を含め、同国のサステナビリティ関連の開示義務を拡大することを提案しました。スイス政府はまた、国内企業に対するCS3Dの影響を評価し、今年後半に次のステップを決定すると述べています。

 

カーボンプライシング・炭素市場

【Global】

自主的炭素市場のための十全性評議会(ICVCM)

8月6日、コアカーボン原則(CCP)に沿ったカーボンクレジットを認証する自主的炭素市場のための十全性評議会(ICVCM)(*13)は、再生可能エネルギープロジェクト向けに発行されたカーボンクレジットが、ICVCMの「十全性の高い(高品質な)」クレジット要件を満たしていないと発表しました。この決定は、現在の炭素市場の未償却クレジットの約32%にあたる2億3,600万に影響を及ぼします。ICVCMは、「追加性」の懸念を挙げ、既存の再生可能エネルギー手法は、カーボンクレジット収入のインセンティブがなければ再生可能エネルギープロジェクトが遂行されたか評価する上で「厳密さが不十分」であると結論づけました。ICVCMは、今後、カーボンクレジットプログラムがさらに発展または更新されれば、改訂された「厳密な」手法を検討する用意があると述べています。


科学に基づく目標設定イニシアチブ(Science Based Targets initiative, SBTi)

7月、企業のネットゼロ目標を検証する科学に基づく目標設定イニシアチブ(Science Based Targets initiative, SBTi)は、より効果的なスコープ3排出量のアプローチに関する検討事項について、4つの技術的文書(*14)を発行しました。最初に発行した「Scope 3 ディスカッションペーパー」(*15)では、Scope 3の排出量削減を促進するためのカーボンクレジットの潜在的な利用法について概説していますが、カーボンクレジットの利用をSBTiの基準に組み込む前に、「さらなる研究、テスト、学習及び改良」が必要であると指摘しています。この技術的文書発行の少し前に、SBTiは、2024年4月にScope3排出量削減のためにクレジットを適用することを認めると発表し、このような方針が企業の気候変動に関する誓約を損なうのではないかと、激しい議論を呼び起こしました。SBTiは直後にこの方針変更を撤回し、基準を変更する場合は「証拠に基づいて」行われると述べました。


自主的炭素市場十全性イニシアチブ(VCMI)

7月23日、自主的炭素市場十全性イニシアティブ(VCMI)は、スコープ3の排出量に適用されるカーボン・オフセットの購入に関する企業向けガイドラインを定めた「Scope 3 Claim」(*16)の更新について、意見募集(*17)を行うと発表しました。意見募集は9月2日に開始し、2024年10月7日に締め切られます。VCMIはその発表の中で、今後の協議はSBTiの最近の発表と無関係であると述べています。

6月、VCMIは、気候脆弱性フォーラムおよびV20の財務長官とのパートナーシップ協定(*18)に調印しました。これにより「十全性の高い(高品質な)」炭素市場メカニズムを通じて加盟国にカーボンファイナンスの機会を提供することを目指しています。V20は、気候変動に対して脆弱な国々で構成されています。

6月、ドイツのボンで開催された国連気候変動会議において、交渉参加国は、パリ協定第6条に関連する未解決の課題について合意に達することができませんでした。第6条は、各国が炭素取引市場を通じて気候変動目標の達成に協力するための枠組みを規定しています。交渉参加国は、11月のCOP29でも合意に向けて引き続き調整を続ける見通しです。最終合意されれば、第6条に定められた原則が国際炭素市場のデファクトスタンダードとなる可能性があります。

【Americas】

ブラジル

7月14日、ブラジルは炭素排出量取引制度(ETS)と規制炭素市場の最終案を取りまとめました。この制度案では、欧州やカリフォルニアの市場と同様の「キャップ・アンド・トレード」モデルが採用されています。連邦政府は、COP30(2025年11月にブラジルが主催)までに炭素市場を創設するための法案を制定したい意向です。

 

その他の主なサステナビリティ政策の動向

【Americas】

米国

7月19日、バイデン政権は連邦政府のプラスチック汚染対策に関するファクトシート(*19)を発表しました。このファクトシートでは、2035年までに連邦政府機関による使い捨てプラスチックの調達を段階的に廃止するという公約も含めた、プラスチック汚染対策に関する政府全体の戦略(*20)が述べられています。米国政府は世界最大の消費財購入者であり、この決定は多くの汎用プラスチック製品の供給に大きな影響を与える可能性があります。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

欧州連合(EU)

8月18日、欧州連合(EU)の自然再生法が施行されました。この新法は、2030年までにEUの陸地と海域の少なくとも20%を再生し、2050年までに再生が必要なすべての生態系を再生するというEUの拘束力のある目標を定めています。EUの生物多様性戦略の主要な構成要素である同規則は、すべての加盟国において劣化した生態系を再生させ、EUの気候変動と生物多様性に関する目標の達成を支援し、食糧安全保障を強化することを目的としています。
 

【Asia-Pacific】

オーストラリア

6月19日、オーストラリア政府はサステナブルファイナンス・ロードマップ(*21)を発表しました。このロードマップでは、主なサステナブルファイナンス改革と気候関連報告、サステナブル投資ラベル、移行計画の開示などの関連施策の実施に関するビジョンが示されました。

 

政策レビュー:米国の排出削減取組の現状と今後の課題

7月、ロジウム・グループ(*22)は、米国が温室効果ガス排出量の削減において大きな前進を遂げたと報じました。インフレ抑制法(IRA)やインフラ投資・雇用法(IIJA)といった画期的な法案は、連邦政府の規制や州レベルでの取り組みと並び、排出量削減の深化を目指したこれまでで最も重要な政府の取り組みといえるでしょう。こうした勢いにもかかわらず、米国は、2030年までに排出量を2005年比で50%~52%削減するというパリ協定の目標を達成するのに依然として課題に直面しているとロジウムは分析しています。

米国の温室効果ガス排出量は、現在および将来の政策の実施とその効果によって変動するが、2030年までに(2005年レベルから)約32%~43%の削減になると、ロジウムの分析では予測されています。この報告書では、IRAとIIJAが大幅な削減を牽引し、従来の政策により達成可能であった削減量よりもさらに5~10%排出量を削減する可能性があると強調されています。

US greenhouse gas emissions under current policy

米国の政策動向は引き続き不透明であり、現在の排出量削減の軌道を維持するには課題があると本報告書は述べています。既存の政策は効果的であるが、今後の取り組みが成功するかどうかは、超党派の支持、財務省や内国歳入庁(IRS)が提案したような税額控除案の実施および法的・政治的ハードルを克服できるかどうかにかかっていると、ロジウムは指摘しています。連邦政府機関の規則制定における裁量を制限する最高裁判所の最近の判決も、パリ協定の温室効果ガス削減目標の達成の障害となる可能性があります。さらに、次期大統領選挙の結果、どの候補者が当選するかによって、現在の気候関連政策が強化されることもあれば、弱められることもあります。そのため、新たに立法措置がとられ、安定した政策環境が整わなければ、2030年のパリ協定の目標達成はますます困難になるとロジウム・グループは主張しています。

 

その他の重要トピック

“How the EU Taxonomy impacts sustainability reporting”

EY USの記事(*23)では、EUの新しい分類体系(EUタクソノミー)を企業がどのように活用すべきかに注目しています。


“How the climate-related disclosures under the SEC rules, the ESRS and the ISSB standards compare”

EY US の最新レポート(*24)は、企業が3つのサステナビリティ開示関連の主要規則の公開草案と最終基準を理解するのに役立ちます。


“Investor viewpoint on sustainability assurance”

国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)の報告書(*25)では、投資意思決定に資する信頼性の高い情報開示を求める投資家の要求、「グリーンウォッシュ」への懸念、サステナビリティ報告の信頼を築くための独立した保証の重要性について概説しています。


“How ‘carbon cowboys’ are cashing in on protected Amazon Forest”

ワシントン・ポスト紙によると、6ヶ月にわたる調査(*26)により、ブラジルのアマゾンにおける多くのカーボンクレジットプロジェクトが、法的、政策的、政治的に重大な懸念を引き起こしていることが明らかになっています。


“The corruption climate: how corruption stands in the way of the response to climate change”

国連薬物犯罪事務所(UNODC)と世界銀行の気候変動に関連する汚職に関する審議案(*27)は、資金の流用や歪んだ政策による汚職が気候変動への対応の取り組みを損ねると結論づけています。国連薬物犯罪事務所は、気候ファイナンスと政策立案における統合的な汚職の防止対策を推奨しています。


“Distributional Impacts of Heterogenous Carbon Prices in the EU”

国際通貨基金(IMF)によって行われたこの研究(*28)では、2010年から2020年にかけてEU世帯に対する様々な炭素価格の設定(カーボンプライシング)による影響について調査しています。特にEU世帯の家計への経済的負担の観点から調べています。調査結果によると、炭素価格の設定を統一することにより、低所得世帯における炭素価格の設定による悪影響を緩和できる可能性があることを示唆しています。


“Linking UK and EU carbon markets.”

シンクタンクのフロンティア・エコノミクスによると、本報告書(*29)では、EUと英国の排出量取引制度を連携させることで、効率的な取引と費用対効果の高い気候変動を抑制する最終目標の達成を促進し、2025年から2030年にかけて英国政府が最大80億ポンドの逸失利益を回避できる可能性があると主張しています。

 

今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年8月31日:韓国KSSBによるサステナビリティ開示基準の公開草案の意見募集終了

  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化

  • 2024年10月:COP16(生物多様性)がコロンビアのカリで始まる

  • 2024年11月:COP29(気候)がアゼルバイジャンのバクーで始まる

  • 2024年末または2025年初め:EFRAGがセクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始
     


〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室

牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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