EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYではサステナビリティ開示・保証等に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。
11月12日、国際監査・保証基準審議会(IAASB)は、国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」(*1)を公表しました。ISSA 5000は、同日、証券監督者国際機構(IOSCO)により承認(*2)されました。ISSA 5000は、サステナビリティ情報に対して限定的保証および合理的保証を提供することに特化したIAASB初の基準です。ISSA 5000は、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)およびグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)の枠組みと整合しており、欧州連合(EU)が今後策定する企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく開示に関する保証基準のベースラインとなることが期待されています。
10月31日、国際公会計基準審議会(IPSASB)は、国や地方政府向けの公的部門の気候関連開示基準の草案(*3)を公表し、意見募集を行っています。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のグローバル・ベースラインを基に策定されたIPSASBの気候関連開示基準は、国や地方政府が投資家のニーズに応え、資本市場へのアクセスを維持するために、一貫性があり、比較可能で、検証可能な情報を提供できるようにするためのものです。
10月27日、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、コロンビアのカリで開催された生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)において、自然移行計画のガイダンス草案を定めた協議文書を公表(*4)しました。自然移行計画に関するこの協議文書(*5)は、企業および金融機関の戦略及び意思決定に自然資本を取り入れることを支援するものです。TNFDは、草案に対する利害関係者からの意見募集期間を2025年2月1日までとしています。また、TNFDはCOP16において、時価総額6兆5000億米ドルを超える500社以上の上場企業と、運用資産総額17兆7000億米ドルの金融機関が、TNFDの提言に沿って自然関連の情報開示を自主的に始めるというコミットメント(*6)を発表しました。
COP16の詳細については、EYによるフォーカスをご覧ください。
10月29日、ブラジルの証券取引委員会(CVM)は、ISSB基準と整合するサステナビリティ報告基準の最終版(*7)を発表しました。CVM基準は、2026年1月より上場企業に義務付けられます。
11月6日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく気候変動緩和のための移行計画に関する実施ガイダンスの草案を発表(*8)しました。このガイダンスは、企業の気候変動に関する開示をEUの気候移行目標に整合させることを支援することを目的としており、企業がCSRDの要求事項を満たすために取るべきステップの概要を示しています。このガイダンスに規範性はなく、CSRDに基づく報告要件の一部を構成するものではありません。現時点では草案への意見募集は行われていませんが、2025年の協議の草案の基礎となる予定です。
10月24日、欧州証券市場監督機構(ESMA)は、EUにおける企業報告に関する年次執行優先事項(ECEP)を発表(*9)しました。サステナビリティ報告に関して、ESMAはCSRDにおけるダブルマテリアリティの要求事項への準拠と、報告されるサステナビリティデータの質に焦点をあてています。特に、マテリアリティに関しては、企業がマテリアリティ評価により最終的にトピックがマテリアリティではないと判断したとしても、マテリアリティ評価のプロセスと方法を適切に開示していない場合、ESMAは執行措置を取る可能性があります。ESMAのアプローチは、EUの規制基準に企業が準拠しているかを厳しく監視する意図を強調しています。
2024年10月30日に、英国政府は2027年1月に導入される予定の英国炭素国境調整メカニズム(UK CBAM)に関する協議の回答(*10)を発表しました。UK CBAMは当初、アルミニウム、セメント、肥料、水素、鉄鋼などのセクターに適用され、セラミックとガラスは除外されます。UK CBAMの税率は四半期ごとに調整され、英国排出量取引制度(UK ETS)(*11)に合わせて整合性がとられます。CBAM対象商品については、12ヶ月の累計で5万ポンドを超える場合に納税義務が生じ、2028年から四半期ごとにオンラインでの納税申告が義務付けられます。英国の国税の賦課、徴収、関税当局である歳入関税庁(HMRC)は、UK CBAMに関する権限を拡大し、詐欺的な脱税に対する刑事処罰を新たに導入します。
2024年10月30日、リヤドで開催された第8回未来投資イニシアティブ(FII8)において、サウジアラビアは炭素市場戦略の段階的な進展を発表しました。第一段階として、アゼルバイジャンのバクーで開催しているCOP29の期間中に、自国内での自主的な取引市場(*12)を立ち上げました。第二段階では、今後3年以内に国内の規制炭素市場のパイロット版を実施する予定です。
11月、オーストラリアの気候変動・エネルギー・環境・水資源省は、「炭素漏出レビュー」に関する第2回の協議文書を発表(*13)しました。このレビューは、より野心的な排出削減政策を掲げる国からより野心の低い国への生産シフトを評価するものです。予備調査によると、オーストラリアでの「国境炭素調整」は、アジアの低コスト生産国との競争に直面している特定の炭素集約型商品、特にセメント、クリンカー、石灰にとって適切である可能性が示唆されています。この協議文書に対する意見募集は、2024年12月3日まで行われています。
10月24日、EUは、排出量取引制度(EU ETS)から調達した資金を活用するイノベーション基金を通じて、脱炭素化プロジェクトへ48億ユーロを投資(*14)すると発表しました。この投資は、様々なセクターに渡る「最先端」のネットゼロプロジェクトに資金を提供し、EUの炭素削減への取り組みを強化し、2050年までにネットゼロ排出を達成するという目標を支援することを目的としています。この資金は、2030年までに温室効果ガス排出量を55%削減することを目指すEUの「Fit for 55」パッケージ(一連の立法措置)に基づいており、欧州の気候政策の枠組みの中で主要なツールであるEU ETSを強化するための継続的な取り組みを補完するものです。
10月21日、香港金融管理局(HKMA)は、地域内でのサステナブルファイナンスを促進するための主要な優先事項(*15)を概説した「サステナブルファイナンス行動計画」を発表しました。この行動計画は、ファイナンスド・エミッションのネットゼロへの整合、気候リスクの開示、そして金融業務におけるサステナビリティの統合に焦点を置いています。HKMAは、香港のグリーンファイナンス市場を発展させ、金融セクターにおける環境レジリエンスと透明性を高めることを目指しています。
10月22日、オーストラリア全国広告主協会(AANA)は、グリーウォッシュに対抗し、責任ある広告慣行を通じて消費者との信頼を築くため、3月に新たな環境主張コードを導入(*16)すると発表しました。このコードにはあらゆる形式のコンテンツが含まれ、将来的なサステナビリティの主張は現実的で証拠に基づくことが求められます。AANAは導入を支援するため、カスタマイズされた研修、無料相談、さらにオンラインの研修プログラムを提供します。
11月6日、ドナルド・トランプ前米国大統領が再選を果たし、トランプ氏が所属する共和党が上院の多数派を奪還し、下院の多数派を維持しました。トランプ氏は大統領候補として、バイデン政権が進めてきた気候変動、サステナビリティ、クリーンエネルギーに関する立場や政策の廃止や撤回、縮小を主張していました。また、大統領としての最初の任期に行ったように、パリ協定のような主要な世界的気候変動対策から米国を脱退させるとも発言しています。
金融セクターでは、トランプ次期政権は、証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則(*17)(今年初めに最終決定されたものの、SECは異議を唱える係争中の訴訟が解決するまでは施行を進めていない)を取り消すか、終了させることが予想されます。また、退職年金制度の投資先選定にESG要素を使用することを禁止する労働省規則の復活を求める可能性があります。議会では、共和党議員が独自の反ESG法案(*18)を相次いで提出しており、下院と上院の両方で共和党が多数派を占めることから可決される可能性があります。その結果、さまざまなセクターにおけるサステナビリティ関連の投資や事業戦略が再編されることもあり得ます。
トランプ政権はまた、インフレ抑制法(IRA)の未使用または義務付けられていない資金を取り消し、電気自動車(EV)への補助金の段階的な廃止を含む、IRAの条項の廃止、修正、その他の変更を求める可能性があります。しかし、IRAに基づき交付された助成金や税制優遇措置の多くが、大統領選挙でトランプ氏を支持した州や選挙区の企業や労働者に恩恵(*19)をもたらしてきたことを考えると、トランプ氏は慎重に対応する必要があると考えます。IRAの他にも、政権は再び環境規制を撤廃(*20) (*21)し、石油、ガス、石炭の米国での生産を奨励すると見られています。これには、陸上および海上の石油・ガスのリースオークションの再開、LNG輸出の促進、燃費基準(*22)の引き下げ、石炭・天然ガス発電所の排出基準(*23)の緩和など、トランプ政権1期目に行われた取り組みを反映することが含まれます。トランプ氏はまた、国内の採掘や許認可の改革を促進するため、内務省や米国森林局などの主要機関に、化石燃料に親和的な役人を任命する可能性もあります。
次期大統領の気候・エネルギー関連政策の詳細は、追って発表される予定です。しかし、多くの米国各州のサステナビリティ関連法規制(例えば、カリフォルニア州の気候関連情報開示法)や他国のサステナビリティ関連法規制(例えば、EUのCSRD)は、これらの州や国で事業を行う多くの米国企業に適用されることには留意する必要があります。
10月、生物多様性条約第16回締約国会議(COP16)がコロンビアのカリで開催され、政策立案者、ビジネスリーダー、先住民コミュニティや市民社会の代表が一堂に会しました。195カ国が2022年に画期的な「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」(*24)を採択して以来、初めての生物多様性COPとなりました。GBFは、2030年までに世界の陸域と海域の30%を保護するという「30by30 ターゲット」を中心に、2030年までに達成すべき野心的な目標と23のターゲットを設定しています。
この2週間の会議では、GBFのコミットメントを行動に移すことに焦点が当てられ、GBF運用の実現と、導入を成功させるために必要な財源の動員という2つの優先事項に集中しました。運用面では、TNFDが「自然移行計画」に関するガイダンス草案(*25)を公表したことが大きな進展でした。このガイダンスは、企業がGBFの目的に戦略を合わせることを支援することを目的としており、企業の計画プロセスに生物多様性への配慮を組み込む方法についての指針を提供するものです。注目すべきは、EY(*26)を含む500以上のグローバル企業や金融機関が、TNFDのフレームワーク沿った情報開示を約束(*27)していることです。
しかしながら、その運用には課題が残っています。会議に先立ち、資源や能力の制約を理由に「生物多様性国家戦略行動計画」(*28)(パリ協定に基づき各国が決定する貢献(NDC)の付随事項)を提出した国はほんの一握りで、会議終了までに提出したのは195カ国中44カ国に過ぎませんでした。
財源不足に対処するため、COP16では、GBF基金(*29)に合計1億6,300万ドルの追加拠出が約束(*30)されました。この基金は、2023年8月の第7回地球環境ファシリティ(GEF)総会で186カ国が批准し、GBFの目標およびターゲットを達成するため、先住民や地域社会、小島嶼開発途上国、後発開発途上国を優先して支援するものです。また、主要な慈善団体は、海洋保護区の創設を加速させるために5,170万ドルを拠出すると発表(*31)しました。これらの寄付は前向きな一歩ではあるが、地球規模の生物多様性の喪失に効果的に対処するために必要な数十億ドルにははるかに及ばないと、支援団体は主張しています。さらに、発展途上国への財政支援を強化するために提案された世界自然保護基金は、最終的に合意を得ることができず、会議終了時に富裕国によって阻止されました。
資金面でのコミットメントは後退したものの、COP16は、先住民(*32)及び地域社会とデジタル配列情報(DSI)(*33)の両方にとって大きな成果を収めました。先住民及び地域社会の生物多様性保全への参画を強化・確保するため、常設補助機関が設立され、保全における先住民及び地域社会の役割が正式に決定されました。また会議では、遺伝資源から得られる利益の公正な分配に関する議論も進められ、DSIに関する長年の懸念に対処しました。そして最後に、生物多様性の喪失と気候変動を結びつける文書について合意(*34)に達しました。これは、今月末にアゼルバイジャンのバクーで開催されるCOP29(気候変動)に関連するもので、官民の気候変動と自然保護に関する議題がより緊密に統合されることが避けられないことを強調しています。
今後、政策立案者が明確で強制力のある情報開示規制によって、これらの基盤をどのように構築していくかが注目されます。TNFDガイダンスは企業に対して、「自然移行計画」はGBFで設定された世界的な目標への貢献に焦点を当てるべきであり、生物多様性保全のための具体的な行動を推進すべきであると強調しています。
“Extreme weather events cost economy $2 trillion over the last decade”
国際商業会議所による報告書(*35)は、気候関連の異常気象の経済的コストを検証しています。
“Global Net-Zero Pulse Report 2024“
ナスダックの報告書(*36)は、地域間の政策調整における課題や、拡張可能な戦略とスコープ3排出量報告の改善の必要性があるにもかかわらず、ネットゼロ目標に向けた企業の機運が高まっていることを明らかにしています。
“Nations Must Close Huge Emissions Gap with New Climate Pledges and Faster Action”
国連環境計画(UNEP)の最新報告書(*37)は、温暖化を1.5℃に抑えるためには、現在の気候に関する公約では不十分であると警告し、予想される 「排出ギャップ」を埋めるために、再生可能エネルギー戦略を加速させ、緩和策を強化するよう各国に求めています。
“Decarbonization is Underway for Many of the World’s Largest Corporate Emitters”
The Climate Action 100+のベンチマーク(*38)は、主要排出企業における脱炭素化への重要な取り組みを報告していますが、堅牢な気候移行戦略の不足を浮き彫りにしており、より野心的な中間目標と説明責任が必要であると強調しています。
“New Guidelines for Biodiversity Credits Introduced at COP16, Drawing both Support and Criticism”
自然保護への資金提供の可能性を評価する声がある一方で、活動家たちはカーボン・クレジット市場と同様のリスクを警告(*39)しています。市場はまだ小さいながらも拡大しており、2024年には生物多様性資金は37億ドルに達する見込みです。
“DOE Releases Carbon Management Strategy Outlining Steps to Enable These Technologies”
米国エネルギー省のカーボンマネジメント戦略(*40)は、米国のネットゼロ目標とエネルギー移行インフラを支援する上で不可欠な、二酸化炭素回収・利用・貯留技術を促進するための重要なステップを概説しています。
“US Supreme Court Won't Pause EPA Power Plant Emissions Rule”
ロイター通信(*41)によると、連邦最高裁判所は米国環境保護庁(EPA)による発電所排出規制を支持しました。これは、EPAの排出規制権限をめぐる法廷闘争が続く中、バイデン政権の気候変動アジェンダにとって勝利となりました。
“Washington Voters Uphold Climate Law”
エネルギーコストに対する懸念にもかかわらず、排出事業者への排出量の支払いと気候変動プログラムへの資金提供を義務づける気候コミットメント法(*42)が支持されました。支持者たちは、この法律を廃止すれば重要な州の資金を危険にさらすことになると述べています。
“Scottish Government Unveils Framework for Carbon and Biodiversity Markets”
11月5日、スコットランド政府(*43)は自然資本への民間投資を促進するための枠組みを発表し、十全性(質)の高い原則と、2026年までに炭素および生物多様性クレジット市場を拡大するためのロードマップについて概説しました。
現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。
2021年10月22日に欧州監督当局がサステナブルファイナンス開示規則のドラフト版細則を公表
2021年10月22日、欧州監督当局より、欧州の資産運用会社等に対する開示を義務付けた「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」における詳細な内容を定めた「ドラフト版細則(Draft Regulatory Technical Standards; Draft RTS)」が公表されました。
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