サステナビリティ情報開示のグローバル動向 2024年9月号

EYではサステナビリティ開示・保証等に関連したグローバル動向の最新情報を毎月お届けしています。

サステナビリティ開示・保証

【Americas】

米国

米国カリフォルニア州議会は、カリフォルニア州大気資源局(CARB)が、2つの新しい気候関連開示法(気候関連企業データ説明責任法(SB 253)および気候関連財務リスク法(SB 261)の施行に向けた規則の策定期限を6ヶ月延期する法案を可決しました。この法案により、CARBは2025年7月1日までに規制を最終決定する必要があります。しかし、これらの州法の対象となる企業やその他の組織は、2025年の温室効果ガス排出量やその他の気候関連活動に関して、2026年に報告を行う義務があることに変わりはありません。

法案の条文に従うと、2025年1月に会計年度が始まる企業は、規制が最終決定される予定の6ヶ月前にデータの収集を開始することを義務付けられるという点で、異例の状況が生じることになります。 ニューサム知事は、これらの法律の施行日を2年延期するよう(2026年から2028年に)要請していましたが、カリフォルニア州議会はこれに同意しませんでした。 ニューサム知事は、9月30日までにこの法案に署名するか拒否するかを決定しなければなりません。一方で、SB 253とSB 261の合憲性を争う訴訟(*1)の最初の審問が9月9日に行われました。 どのような判決がいつ下されても、カリフォルニア州の上級裁判所に控訴することができます。 この訴訟は、現在係争中の証券取引委員会(SEC)の気候関連開示規則に異議を唱える訴訟とともに、カリフォルニア州の法案およびSEC規則の施行時期に影響を与える可能性があります。


チリ

8月下旬、チリの金融規制当局は、同国の上場企業や監督対象となるその他の企業に対して、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準(IFRS S1およびIFRS S2) を適用するため、既存の報告要求項目を改正する提案について、意見募集を開始しました。この提案では、年次報告書における取締役会の多様性に関する取り組みについての新たな開示義務化やその他の変更も求められています。この要求事項は、2026年から開始される会計年度に適用され、最初の報告書は2027年に提出されることになります。意見募集の期限は2024年9月27日とされています。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)

8月30日、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)のためのeXtensible Business Reporting Language(XBRL)(*2)タクソノミーを公表(*3)しました。XBRLは、ビジネス情報を電子的に交換するための国際的なフレームワークです。欧州証券市場監督機構(ESMA)が、ESRSに基づいて企業が開示するサステナビリティ報告書を機械で読み取り可能な形式でタグ付けするための技術基準を策定する際に、このタクソノミーが使用される予定です。
 

【Asia-Pacific】

香港

9月16日、香港公認会計士協会(HKICPA)は、サステナビリティ開示基準(*4)の草案を公開し、意見募集を開始(*5)したことを発表しました。HKICPAは、ISSBのIFRS S1およびIFRS S2基準と「完全に整合する」基準を提案しています。これらの基準は2025年8月1日に施行(*6)する予定です。香港証券取引所(HKEx)は、上場企業に対して、HKICPAの基準に準拠したサステナビリティ報告への移行方法を検討する意向を示しており、新たな自国基準を正式に義務化する措置を講じる見通しです。香港での要求事項は、中国本土が今年初めに発表した基準(*7)とは異なるものになると予想されます。HKICPAは、2024年10月27日まで提案された基準に関する意見を募集しています。


オーストラリア

9月9日、オーストラリア議会は、気候関連報告を義務化するオーストラリア財務省の法案を可決(*8)しました。この法案がオーストラリア総督の承認を受けると、2025年1月1日より施行され、約6,000の企業へ3年にわたって段階的に適用されます。オーストラリア会計基準審議会(AASB)はサステナビリティ基準の草案に関する意見募集を今年初めに終了しており、かつAASBにサステナビリティ基準を策定する権限を与える財務省法案が可決されたため、まもなく最終的な基準が発表される見通しです。Responsible Investor誌(*9)によると、AASBの最終基準は「可能な限り」ISSB基準に整合するものとなる見込みであり、すべてのサステナビリティトピックの開示を要求するのではなく、「気候ファースト」の開示に重点を置くことで、ISSBのベースライン基準から逸脱していた以前の草案(*10)は方針転換されたこととなります。これとは別に、9月17日には、オーストラリア監査・保証基準審議会(AUASB)が、サステナビリティ報告書に対する保証を義務付けるスケジュール案の公開草案(*11)を発表しました。このスケジュール案に関する意見募集は、2024年11月16日まで行われます。

 

カーボンプライシング・炭素市場

【Global】

自主的炭素市場十全性イニシアチブ(VCMI)

自主的炭素市場十全性イニシアティブ(VCMI)は9月初旬に、Scope 3排出量に適用するカーボンオフセットの購入に関する企業向けガイドラインを定める「Scope 3 Claim(スコープ3の主張(*12)」についての意見募集(*13)を開始しました。この意見募集では、削減されていない(unbated)スコープ3排出量の管理に関する主張のアプローチを改善するためのフィードバックを求めています。VCMIは、カーボンオフセットの十全性(質)に関して、需要と供給の両面から向上に取り組んでいる主要な組織の一つです。この組織は、カーボンクレジットを購入する企業によるカーボンオフセットの主張の信頼性を高める目的で設立されました。VCMIは、英国規格協会(BSI)と協力してこの意見募集を実施しており、期限は2024年10月7日となっています。
 

【Americas】

米国

米国では、カリフォルニア州の自主的炭素市場開示法(AB 1305)を改正する法案(*14)が、2024年8月末の議会閉会までに最終投票に至りませんでした。AB 1305は、企業に対してカーボンオフセットプロジェクト、第三者検証、ネットゼロまたはカーボンニュートラルに関する主張の正確性についての情報開示を義務付けています。新しい法案では、他の改正点とともに、開示義務の開始日を2025年1月1日とする予定でした。現行法では、開示義務の適用開始日は2024年1月1日(この日付は既に過ぎている)のままですが、改正案は2024年12月に開始する次の議会の会期まで再検討されません。AB 1305およびカリフォルニア州のその他の最近の報告に関する法律の追加情報については、EY USのTechnical Line(*15)をご覧ください。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

炭素国境調整メカニズム(CBAM)

2024年8月8日、欧州委員会は、排出量データの収集と報告において課題を抱える輸入業者を支援するため、炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関するガイダンスを発行しました。改訂された「Q&A(*16)」では、輸入業者はサプライヤーから実際の排出量データを入手するためにあらゆる努力をしなければならないこと、入手出来なかった場合にはその試みをCBAM登録簿に記録する必要があることが強調されています。このガイダンスでは、不足データの正当化に関する指針も提供されています。2024年7月1日からは、製品の総排出量の最大 20%について報告できるデフォルト(既定)の排出量値の使用が、複合製品に限定されます。輸入業者がCBAM規則を遵守するために十分な努力をしたかどうかは、各国の当局が評価します。

【Asia-Pacific】

インドネシア

9月初め、インドネシア次期大統領のプラボウォ・スビアント氏は、国内のカーボンオフセットプロジェクトから生じるカーボンクレジットの販売により2028年までに650億ドルを調達することを目的とする「グリーンファンド」を監督する新たな炭素排出規制当局を設立する計画(*17)を発表しました。この新たな規制当局は、パリ協定に基づくインドネシアの排出量目標の管理も担当することとなっています。


マレーシア

8月には、マレーシア投資貿易産業省(MITI)の長官が、同国の炭素排出量が多いセクターを対象に炭素税の導入を検討(*18)していることを発表しました。 MITIは、財務省および天然資源・環境・サステナビリティ省と協力し、「グリーン投資を促進する」税制を確立し、同国のより広範なグリーン投資および脱炭素化の目標と整合させることを目指します。

 

その他の主なサステナビリティ政策の動向

【Americas】

米国

9月4日から6日にかけて、米国の気候変動問題担当特使ジョン・ポデスタ氏が、ホワイトハウスの気候変動協力推進の取り組みの一環として、中国の担当特使である劉振民氏との会合のために北京を訪問しました。今回の協議では、気候変動対策の資金調達と2035年の排出量目標の設定が中心議題となり、この2つのトピックは今年11月にアゼルバイジャンのバクーで開催される国連COP29気候サミットで交渉担当者が焦点を当てる主要分野になると予想されています。米国と中国は、来年2月に国連に最新の気候目標(*19)を提出するよう求められています。


カナダ

8月26日、カナダは中国製電気自動車(EV)に100%の関税を課すと発表(*20)しました。これは米国による同様の措置を反映したもので、中国の補助金政策に対する米国の懸念に応えたものです。さらに、カナダ政府は中国製の鉄鋼・アルミニウム製品に25%の関税を課し、中国製バッテリーやソーラーパネルに対する関税の可能性についても協議を行う予定です。中国はこれらの関税を保護主義的であり、WTOの規則に違反すると批判し、報復措置を取る可能性があることを警告(*21)しました。大麦や豚肉などのカナダの輸出品に影響が出る可能性があるとしています。

【Asia-Pacific】

中国

8月29日、中国の国家エネルギー局は、化石燃料の段階的な廃止と電力システムの改革を継続する方針を発表しました。この発表は、再生可能エネルギーへの移行における世界のリーダーとして国を宣伝する当局の新しい白書(*22)を受けて行われたものです。

 

注目すべき政策: 中国の再生可能エネルギーのリーダーシップ - 進歩と今後の課題

世界の再生可能エネルギーの状況は、2023年に重要な節目を迎え、初めて、世界の電力の40%以上(*23)がゼロカーボン電源から供給されるようになりました。ブルームバーグNEFの最近の報告書によると、再生可能エネルギーの中で最も大きな割合を占めているのは、太陽光と風力です。

Global new power capacity additions by technology

報告書によれば、中国は世界の再生可能エネルギー生産量のほぼ3分の1を占めており、近年、2023年だけでも6,760億ドル(*24)のエネルギー転換プロジェクトを含む、大規模な投資を行っています。

公式なデータによると、中国は、資本コストの低下と政府の積極的なインセンティブにより、2030年までに1,200ギガワットの風力・太陽光発電を設置するという目標(*25)6年前倒し(*24)で達成しました。2024年6月に発表されたEY の再生可能エネルギー国別魅力指数(*26)の分析によると、中国市場は再生可能エネルギー投資の魅力度でも上位にランクされています。市場魅力指数での順位は、インフレ抑制法によってクリーンエネルギーへの投資が大幅に増加した米国に次いで2位で、世界のエネルギー転換における中国の影響力が高まっていることを示しています。

The US and China lead on renewables investment attractiveness.

中国の国家エネルギー局は最近、グリーン電力取引を拡大し、化石燃料への依存を減らす計画を改めて表明し、脱炭素化に長期的に注力することを示唆しました。Carbon Brief(*27)の最近の分析によると、中国は2030年の目標(*28)よりも前に排出量のピークに達する可能性さえあると言っています。とはいえ、いくつかの重大な課題も残っており、特に中国はエネルギー供給の60%以上を占める石炭への依存(*29)が続いており、住宅建設の回復により排出量が増加する可能性もあります。

このような課題にもかかわらず、中国が現在も進めている改革と再生可能エネルギーへの多額の投資は、中国がグリーンエネルギーへの移行において世界的リーダーであり続けることを示しています。

 

その他の重要トピック

【Global】

“Companies Are Scaling Back Sustainability Pledges. Here’s What They Should Do Instead”

ハーバードビジネスレビュー(*30)によると、政治的・経済的圧力により、多くの企業がサステナビリティへのコミットメントを縮小していることが最近の傾向として明らかになりました。記事は、企業が現実的な目標を設定し、サステナビリティ戦略を強化する必要があることを示唆しています。


“Most Climate Policies Don’t Work. Here’s What Science Says Does Reduce Emissions”

ウォールストリートジャーナル(*31)によると、『サイエンス』誌において、カーボンプライシングのような価格ベースの戦略と組み合わせない限り、補助金や規制だけでは、排出量削減には効果がないことが多い、という最新の研究結果が示されました。


“A Guide for Corporate Leaders on Paid Leave Policies”

ジャストキャピタル(*32)が発行する「有給休暇ポリシーに関するガイド」は、ラッセル1000社のベストプラクティスとベンチマークに関する洞察を企業のリーダーに提供し、企業が従業員のウェルビーイングを向上させ、協力的な職場文化を構築するのに役立ちます。
 

【Americas】

米国

“White House Races to Lend Billions in Climate Funds before Election”

ウォールストリートジャーナル(*33)によると、連邦政府によるクリーンエネルギー融資プログラムは、選挙前に資金を交付する取り組みを強化しています。これは、プログラムの立ち上がりの遅れや新政権下での政策変更の可能性に対する懸念に対応するものです。


“2024 US Energy & Employment Jobs Report (USEER)”

米国エネルギー省(*34)は、2024 USEERにおいて、クリーンエネルギー分野での雇用が大幅に増加していることを強調しました。これは、連邦政府の投資、労働組合結成の増加、建設業やその他のエネルギー分野での雇用増加、そしてより若く多様な労働力に牽引されたものです。


“US regulator finds banks have work to do on climate risk”

ロイター通信(*35)によると、米国の銀行規制当局による調査により、銀行は気候変動リスクの管理の初期段階にあり、その取り組みと準備には大きなギャップがあることが明らかになりました。


“Investor Climate Action Plans are Becoming a Norm”

セレス社のレポート(*36)では、北米の主要な投資家がネットゼロへのコミットメントと気候変動に関する行動計画を策定していることを明らかにし、気候変動のリスクと機会をどのように管理しているかについての洞察を提供しています。
 

【EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)】

“The future of European competitiveness: Report by Mario Draghi”

欧州中央銀行元総裁マリオ・ドラギ氏は、欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長が委託した新しい報告書(*37)の中で、EUの競争力を向上させるためには「新たな産業戦略」が必要であると主張しています。

 

今後の日程

現在予定されている、注目すべき今後の主な日程は以下です。

  • 2024年9月:IAASB「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000」最終化

  • 2024年10月:COP16(生物多様性)がコロンビアのカリで始まる

  • 2024年10月:国際公会計基準(IPSASB)が、パブリックセクター向けの気候関連開示基準を公表予定

  • 2024年11月:COP29(気候)がアゼルバイジャンのバクーで始まる

  • 2024年末または2025年初め:EFRAGがセクター別ESRS及び第三国企業向けESRSの公開協議開始
     


〈お問い合わせ先〉
EY新日本有限責任監査法人
サステナビリティ開示推進室

牛島 慶一
EY Climate Change and Sustainability Services, Japan Regional Leader, APAC ESG & Sustainability Strategy Solution Leader
馬野 隆一郎
EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 室長 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです。


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