EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田 和哉
2024年11月29日(金)に、サステナビリティ基準委員会から2024年3月に公表したサステナビリティ開示ユニバーサル基準及びサステナビリティ開示テーマ別基準の公開草案(「2024年3月公開草案」という。)に寄せられたコメントを踏まえ、「指標の報告のための算定期間」に関する定めの修正についての公開草案(以下「本公開草案」という。)が公表されました。
気候基準案第53項及び第54項を削除することを提案しています。
気候基準案第53項及び第54項では、温室効果ガス排出の測定にあたり、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づく「温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度」(以下「温対法」という。)の対象企業が、「温室効果ガスプロトコルの企業算定及び報告基準(2004年)」(以下「GHGプロトコル(2004年)」という。)とは異なる方法により測定した温室効果ガス排出量を報告することを選択した場合、サステナビリティ関連財務開示の公表承認日において既に当局に提出した温室効果ガス排出量のデータのうち、直近のものを用いらなければならないとされており、その算定期間と当該企業のサステナビリティ関連財務開示の報告期間の差異が1年を超える場合、以下の開示を求めていました。
当該定めについて、作成者からは気候基準案の定めを支持する意見が多く寄せられましたが、温対法により測定した温室効果ガス排出量を当局に提出していない場合であっても温室効果ガス排出量を見積ることができる場合には、当該見積値を用いることを認めるべきといった意見や、企業によっては任意で温室効果ガス排出量の報告を行う際に既に期間調整を行っている場合もあるため、2024年3月公開草案においても期間調整を認めるべきとの意見がありました。
一方で、国内外の利用者及び保証業務実施者からは、既に当局に提出した温対法に基づく温室効果ガス排出量のデータを用いることで得られるコスト低減の便益よりも、このような報告期間の差異が生じることにより、関連する項目の間のつながりが希薄となり情報の有用性が低下する可能性に対する強い懸念や、温対法で報告が求められている温室効果ガス排出量は、スコープ1及びスコープ2温室効果ガス排出量に限定されるため、スコープ3温室効果ガス排出量はGHGプロトコル(2004)を用いてサステナビリティ関連財務開示(及び関連する財務諸表)の報告期間にあわせて報告することになることから、スコープ1及びスコープ2温室効果ガス排出量とスコープ3温室効果ガス排出量との間で算定期間が異なる場合が生じる可能性があることに対する懸念の意見もありました。
これらの意見を踏まえ、サステナビリティ関連財務開示と関連する財務諸表の情報との間のつながり(適用基準案第31項(3))を重視する観点から、特に国内外の利用者及び保証業務実施者から強い意見があることも踏まえ、気候基準案第53項及び第54項の定めを削除し、適用基準案第70項の原則に従うことの再提案が行われました。
適用基準案第70項の原則
サステナビリティ関連財務開示は、関連する財務諸表と同じ報告期間を対象としなければならない。
なお、サステナビリティ関連財務開示(及び関連する財務諸表)の報告期間と、温室効果ガス排出量の報告のための算定期間との間に差異が生じる場合、サステナビリティ関連財務開示(及び関連する財務諸表)の報告期間に温室効果ガス排出量の報告のための算定期間をあわせるための調整方法については、さまざまな企業の実態を反映する期間調整の方法が考えられ、特定の期間調整の方法を定めた場合には、必ずしも企業活動を忠実に表現しない場合があると考えられるため、期間調整のための合理的な方法については具体的に定めないとしています。なお、情報に重要性があるとはいえない限りにおいて、期間調整を行う必要はないとされています。
適用基準案第71項を削除し、あわせて適用基準案第70項を修正することを提案しています。
適用基準案第71項では、企業が活動する法域の法令の要請により指標を報告することが要求されており、当該指標の報告のための算定期間がサステナビリティ関連財務開示の報告期間と異なる場合、以下の全ての要件を満たすときは、当該指標の報告のための算定期間を用いて当該指標について報告ができるとしていました。
要件
当該定めについて、開示されるサステナビリティ関連財務開示の有用性の観点から、原則として指標の報告のための算定期間の一致を求めるべきという意見や、両者に差異が生じる場合、追加の開示を認めるべきという意見、また、両社の差異を容認する定めは恒久的な措置ではなく、経過措置として定めるべきといった意見がありました。
当該定めは、例えば、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」に基づく化学物質排出移動量届出制度(PRTR制度)のように企業が活動する法域の法令の要請により指標を報告することが要求されており、当該指標の報告のための算定期間がサステナビリティ関連財務開示(及び関連する財務諸表)の報告期間と異なる場合は、温室効果ガス排出量を報告する際の温対法に限られるものではないことから追加したものです。
したがって、上記のとおり、気候基準案において指標の報告のための算定期間に関する論点を再提案するのであれば、適用基準案における指標の報告のための算定期間についても同様の再提案をすることが整合的であると考えられるため、気候基準案と同様の再提案が行われています。
2024年3月公開草案で示された適用時期から変更はありません。したがって、2024年3月公表公開草案において提案されている公表日以後終了する年次報告期間に係るサステナビリティ関連財務開示から適用することができることになり、2025年3月末までの最終化を目標としています。
本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の質問が示されています。
質問
本公開草案における再提案の内容に同意しますか。同意しない場合には、その理由
なお、本公開草案にて提案されている内容以外についてのコメントは求められていません。
サステナビリティ基準委員会から2024年3月29日に以下のサステナビリティ開示ユニバーサル基準及びサステナビリティ開示テーマ別基準の公開草案が公表されました。本稿では当該公開草案について解説します。
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