ASBJの2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 森 さやか、松葉 純一、小倉 幹生、久保 慎悟

<企業会計基準委員会が2024年11月21日に公表>

2024年年次改善プロジェクトは、2024年4月1日を基準日として行ったASBJが公表した企業会計基準等の要変更事項の検出作業により検出された事項、及び当該作業後の企業会計基準等の開発の過程で検出された事項について、変更後の記載及び「企業会計基準及び修正国際基準の開発に係る適正手続に関する規則」に基づいて必要とされる手続を検討の上、必要に応じて複数の企業会計基準等の改正又は修正をまとめて行うものです。

ASBJは、2024年年次改善プロジェクトにおいて検出された事項のうち、修正項目について2024年11月1日に2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正として公表するとともに、改正項目についても検討を重ねた結果、以下の企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告の公開草案(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

1. 包括利益の表示に関する提案

  • 企業会計基準公開草案第81号(企業会計基準第25号の改正案)「包括利益の表示に関する会計基準(案)」(以下「包括利益会計基準改正案」という。)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第83号(企業会計基準適用指針第9号の改正案)「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「株主資本適用指針改正案」という。)

2. 特別法人事業税の取扱いに関する提案

  • 企業会計基準公開草案第82号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(以下「法人税等会計基準改正案」という。)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第84号(企業会計基準適用指針第28号の改正案)「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(以下「税効果適用指針改正案」という。)

3. 種類株式の取扱いに関する提案

  • 実務対応報告公開草案第69号(実務対応報告第10号の改正案)「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い(案)」(以下「実務対応報告第10号改正案」という。)

本公開草案に対しては、2025年1月20日(月)までコメントが募集されています。


Ⅰ. 本公開草案の概要

1. 包括利益の表示に関する提案の概要

(1) 概要

その他の包括利益の取扱いに関して、これまでに公表された複数の会計基準等で使用されている用語の一部が、連結財務諸表上の取扱いに関する記載に使用されるべき表現となっていないことが検出されました。このため、「包括利益の表示に関する会計基準」(以下「包括利益会計基準」という。)及び「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」(以下「株主資本等変動計算書適用指針」という。)の改正案において、用語の見直しを行うことが提案されています。

(2) 包括利益会計基準改正案(包括利益会計基準改正案第16項及び第42-3項)

包括利益会計基準改正案では、これまでに公表されている会計基準等で使用されている 「純資産の部に直接計上」、「直接純資産の部に計上」及び「直接資本の部に計上」という用語について、連結財務諸表上においては「その他の包括利益で認識した上で純資産の部のその他の包括利益累計額に計上」と読み替えるための変更を行うことが提案されています。

(3) 株主資本等変動計算書適用指針改正案(株主資本適用指針改正案第11-2項及び第21-2項並びに設例3から設例5)

株主資本適用指針改正案では、連結株主資本等変動計算書において、株主資本以外の各項目の当期変動額を主な変動事由ごとに表示する場合の例として示す項目について、「純資産の部に直接計上されたその他有価証券評価差額金の増減」等の用語が使用されていたため、用語について見直しを行うことが提案されています。

用語の見直しにあたっては、同様の区分により内訳を示している包括利益会計基準と用語の統一を図ることで、連結包括利益計算書又は連結損益及び包括利益計算書と連結株主資本等変動計算書の連携が理解しやすくなると考えられるため、「組替調整額」及び「当期発生額」という用語に変更することが提案されています。

(4) 適用時期(包括利益会計基準改正案第16-6項及び第42-3項並びに株主資本適用指針改正案第14-4項)

提案されている適用時期は以下のとおりです。

原則適用

公表日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する

早期適用

公表日以後最初に終了する連結会計年度の年度末に係る連結財務諸表から適用できる
ただし、当該連結会計年度に係る中間連結財務諸表及び四半期連結財務諸表については包括利益会計基準改正案を適用しない、また、当該連結会計年度に係る中間連結財務諸表については株主資本適用指針改正案を適用しない

2. 特別法人事業税の取扱いに関する提案の概要

(1) 概要

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下「法人税等会計基準」という。)は、具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより特定して会計処理及び開示について定めていますが、「特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律」(平成31年法律第4号)における特別法人事業税の取扱いについては個別の定めが設けられていません。

このため、法人税等会計基準における特別法人事業税の取扱いの明確化を図るための改正を行うことが提案されるとともに、税効果会計における特別法人事業税の取扱いについても所要の改正を行うことが提案されています。

(2) 法人税等会計基準改正案(法人税等会計基準改正案第4項(4-2)、第5項、第9項、第13項、第14項、第15項、第29-11項、第29-12項、第40-2項及び第40-3項)

法人税等会計基準改正案では、特別法人事業税の地方税法の規定により計算した所得割額(税率については地方税法に規定する標準税率による。)によって課すもの(以下「特別法人事業税(基準法人所得割)」という。)について、事業税(所得割)と同様の取扱いを行うこととなることを明確化するための変更を行うことが提案されています。

また、開示に関する定めについて、法人税等会計基準第9項における「法人税、住民税及び事業税などその内容を示す科目をもって表示する」とする記載における「法人税、住民税及び事業税」が表示科目の例を示していることがより明確となるように表現の変更を行うことが提案されています。

(3) 税効果適用指針改正案(税効果適用指針改正案第4項(11)、第46項、第74-2項及び第150-2項並びに設例10及び設例11)

税効果適用指針改正案では、法定実効税率の算式に特別法人事業税率が含まれることを明確化するとともに、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率に関する定めに関して、特別法人事業税は国税であるため、特別法人事業税(基準法人所得割)について法人税及び地方法人税と同様の取扱いが行われることを明確化することが提案されています。

(4) 適用時期等

① 適用時期(法人税等会計基準改正案第20-4項及び第44項並びに税効果適用指針改正案第65-4項及び第164項)

提案されている適用時期は以下のとおりです。

原則適用

公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する

早期適用

公表日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用できる
ただし、当該連結会計年度及び事業年度に係る中間連結財務諸表及び中間財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表については、法人税等会計基準改正案及び税効果適用指針改正案を適用しない

② 経過措置(法人税等会計基準改正案第20-5項、第20-6項、第45項及び第46項並びに税効果適用指針改正案第65-5項及び第165項)

法人税等会計基準改正案及び税効果適用指針改正案は、改正の影響を受ける企業の数が限定的と考えられる中で、影響を受ける場合には一定の負荷が生じる可能性があることから、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の資本剰余金、利益剰余金及び評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用できるとすることが提案されています。

また、法人税等会計基準改正案は、過年度に課税された特別法人事業税(基準法人所得割)に関する表示方法について、これまでの表示方法と異なることとなる場合、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができるとすることが提案されています。

さらに、税効果適用指針の改正については、法人税等会計基準の改正に伴うものであるため、それぞれの経過措置は、併せて適用することを求めることが提案されています。

(5) 今後の基準開発の方向性

法人税等会計基準改正案は、法人税等会計基準が具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより特定して会計処理及び開示について定めていることを踏まえて、2024年年次改善プロジェクトにおける対応として、他の税金と整合的に特別法人事業税に関する定めを追加することが提案されています。

一方、ASBJの審議の過程では、法人税等会計基準は、個別の税金の創設又は廃止の都度改正が必要となる構成になっていると考えられるため、法人税等会計基準の適用対象となる税金について、具体的な税金を挙げて、当該税金について規定する税法を参照することにより特定する方法によらない定めを検討してはどうかとの意見が聞かれました。ASBJは、そのような方法を検討する場合、法人税等会計基準の適用対象となる税金について、例えば所得を課税標準として課されるものとして定める方法などが考えられるとしています。

また、ASBJは、今後の法人税等会計基準の開発の方向性について現時点では何ら判断を行ってはいないが、法人税等会計基準の適用対象となる税金を定める方法を見直すことに関して市場関係者からコメントを募集し、今後の基準開発の方向性を検討する上での参考としたいとの考えを示しています。

3. 種類株式の取扱いに関する提案の概要

(1) 概要

実務対応報告第10号改正案は、実務対応報告第10号「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(以下「実務対応報告第10号」という。)の適用対象となる種類株式に関する定めについて、会社法の施行に伴い削除された商法(以下「旧商法」という。)の条文を参照したままとなっていることを検出したため、会社法を参照する定めに変更することが提案されています。

(2) 用語の定義

実務対応報告第10号改正案は、実務対応報告第10号の適用対象となる種類株式について、会社法第108条第1項に従い内容の異なる2以上の種類の株式を発行する場合の標準となる株式以外の株式として定義することが提案されています。この点、会社法第108条第1項では、旧商法で認められていなかった種類の株式を発行することが可能とされ、旧商法で認められていた種類の株式についても設計の柔軟化が図られているため、会社法第108条第1項を参照する定義とすることにより、実務対応報告第10号の適用対象が開発時において想定されていなかった種類株式に拡大することとなります。

(3) 適用時期

提案されている適用時期は以下のとおりです。

原則適用

公表日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する

早期適用

公表日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用できる
ただし、当該連結会計年度及び事業年度に係る中間連結財務諸表及び中間財務諸表並びに四半期連結財務諸表及び四半期財務諸表については適用しない

なお、実務対応報告第10号改正案を適用する連結会計年度及び事業年度の期首より前に取得した種類株式については、次の方法を選択できることを提案しています。また、いずれの方法を選択した場合も、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないことを提案しています。

  • 従前の取扱いを継続する。
  • 実務対応報告第10号改正案を適用する。

Ⅱ. 本公開草案に対するコメント

本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。

<質問1-1> 包括利益会計基準改正案及び株主資本適用指針改正案における上記の提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由。

<質問1-2> その他、包括利益会計基準改正案及び株主資本適用指針改正案に関する意見。

<質問2-1> 法人税等会計基準改正案及び税効果適用指針改正案における上記の提案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由。

<質問2-2> 法人税等会計基準の適用対象となる税金を定める方法を見直すことに関する意見。

<質問2-3> その他、法人税等会計基準改正案及び税効果適用指針改正案に関する意見。

<質問3-1> 実務対応報告第10号改正案に同意するか否か。同意しない場合には、その理由。

<質問3-2> その他、実務対応報告第10改正案に関する意見。

Ⅲ. 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正のポイント

ASBJは、上記の会計基準等の改正とは別に、2024年11月1日に、2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正として、複数の企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び移管指針の修正を公表しました。これらの修正は、公表と同時に適用されるものとされ、会計処理及び開示に関する定めを実質的に変更するものではないとされています。



本稿は2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)及び2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正の概要を記述したものであり、詳細についてはASBJの公開草案全文及びウェブサイトの記載をご参照ください。

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