政策保有株式等の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田 和哉

<内閣府令第6号が2025年1月31日に公布・施行>

2025年1月31日に政策保有株式の開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(以下「本改正」という。)が公布され、同日に施行されました。


1. 改正された内閣府令等

  • 企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「改正開示府令」という。)
  • 企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)(以下「改正開示ガイドライン」という。)

2. 本改正の背景

以下の点を踏まえ、有価証券報告書及び有価証券届出書(以下「有価証券報告書等」という。)における「株式の保有状況」の開示について改正が行われました。

① 令和5年度の有価証券報告書レビューにおいて、「株式の保有状況」の開示のうち、保有目的が純投資目的以外であるいわゆる政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式の開示状況を検証したところ、実質的に政策保有を目的として株式を継続保有していることと差異がない状態になっている課題が識別された。

② 2024年6月に公表された「コーポレートガバナンス改革の実践に向けたアクション・プログラム2024」において、投資株式の保有目的を、純投資目的に変更することについて、その理由の開示が求められていないことから、実態が不透明となっているとの指摘がされた。そのうえで、保有の合理性についての検証を尽くすよう促すべきであり、形式的な対応とならないよう、有価証券報告書等において実態を踏まえた適切な開示が行われることが重要であると提言された。

③ 2024年8月に公表された「2024事務年度金融行政方針」において、「政策保有株式の開示の適切性について有価証券報告書レビュー等で検証を行うとともに、政策保有株式に係る開示事項の追加等を検討する」との方針を示している。

3. 本改正の概要

有価証券報告書等における「株式の保有状況」の開示では、従前、最近事業年度中に投資株式の保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合には、それぞれ区分して、銘柄ごとに、銘柄、株式数及び貸借対照表計上額を記載することとされていました。しかし、本改正では、当事業年度末において保有している投資株式で、保有目的を変更した場合における開示について、純投資目的以外の目的に変更したもの又は純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある以下の開示を求めています。

① 最近事業年度において、純投資目的から純投資目的以外の目的に変更した場合(改正開示府令 第二号様式(記載上の注意)(58)株式の保有状況f(a))

i.  銘柄
ii. 株式数
iii. 貸借対照表計上額

② 当期を含む最近5事業年度以内に政策保有目的から純投資目的に保有目的を変更した株式がある場合(改正開示府令 第二号様式(記載上の注意)(58)株式の保有状況f(b))

i. 銘柄
ii. 株式数
iii. 貸借対照表計上額
iv. 保有目的を変更した事業年度
v. 保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針

「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいうとされています。例えば、当該株式の発行者等が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意することとされています(改正開示ガイドライン5-19-3-2)。

「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする」という点について、発行者との関係において売却を妨げる事情が認められない限り、純投資目的に区分することは可能と考えられますが、配当収入を得ることを目的として保有目的を純投資目的に変更した場合には、保有目的の変更後の保有の方針として、投資者との対話に資するような適切な情報開示を行う必要があるという考えが金融庁から示されています。

また、「当該株式の発行者等」には、提出会社が上場持株会社の株式を保有し、当該上場持株会社の子会社が提出会社の株式を保有している場合、当該上場持株会社との関係において「売却を妨げる事情」が存在する場合には、当該子会社も含まれるという考えが金融庁から示されています(5. 公開草案からの変更点参照)。

純投資目的に区分すべきか否かの判断は、第一義的には個別事例ごとに提出会社において実態判断すべきものと考えられますが、金融庁より以下の場合、純投資目的に区分することは否定されないことも示されています。

  • 新規公開株式に付されたロックアップによる譲渡制限は、「発行会社との関係において」売却を妨げる事業があるといえないため、譲渡制限のある株式を純投資目的に区分することは否定されるものではない。
  • 形式的に相互保有関係に至ったとしても、「売却を妨げる事情」がないと判断された場合には、純投資目的に区分することを否定するものではない。
  • 提出会社が保有する発行者の株式と、当該発行者が保有する提出会社の株式の保有目的の区分が異なる場合であっても、そのこと自体により純投資目的に区分することが否定されるものではない。
  • 市場において株式を短期間に大量に売却する場合、当該株式の急激な株価変動が生じ得るため、これを回避する目的で発行体と売却の進め方を調整し、段階的に売却を進めていくことが想定されるが、このことのみをもって純投資目的に区分することを否定するものではない。ただし、投資者が保有目的変更後の当該株式の売却又は保有の方針を理解できるように、発行体との間で調整された売却計画の概要を記載することが有用と考えられる。

4. 適用時期

2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます。

5. 公開草案からの変更点

改正開示ガイドライン5-19-3-2における「当該株式の発行者」が「当該株式の発行者等」に修正されています。

これは、提出会社が上場持持株会社の株式を保有し、当該上場持株会社の子会社が提出会社の株式を保有しているという状況であっても、当該上場持株会社との関係において「売却を妨げる事情」が存在する場合には、当該上場持株会社の株式については純投資目的で保有しているとはいえないものと考えられるため、「当該株式の発行者」にその子会社も含まれ得る点を明確化しています。


なお、本稿は本改正の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

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