補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告(公開草案)のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 平川 浩光

<日本公認会計士協会が2025年2月19 日付で公表>

2025年2月19日に、日本公認会計士協会(会計制度委員会)より、会計制度委員会研究報告「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」(公開草案)(以下「本公開草案」という。)が公表されています。

公開草案のポイント

本稿では、本公開草案のポイントを解説します。なお、本稿において、会計基準等の略称は以下を用いています。

正式名称

本文中の略称

企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」

純資産会計基準

企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」

企業会計基準第24号

企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」

法人税等会計基準

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

収益認識会計基準

監査第一委員会報告第43号「圧縮記帳に関する監査上の取扱い」

監査第一委員会報告第43号

討議資料「財務会計の概念フレームワーク」

概念フレームワーク

国際会計基準書第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」

IAS第20号


Ⅰ. はじめに

1. 検討の経緯及び本公開草案の位置付け

昨今の激しい経済環境の変化に合わせて、様々な補助金及び助成金(以下「補助金等」という。)が国又は地方公共団体(これらに準ずるものを含む。以下「国等」という。)から交付される事例が数多く見られています。しかし、我が国には、現時点においては補助金等に関する会計基準は存在しておらず、補助金等に係る会計処理及び開示について、様々な実務が行われていることが想定されています。

このような現状を踏まえ、日本公認会計士協会において、補助金等に関する会計処理及び開示(圧縮記帳に関する会計処理及び表示を含む。)について、国際的な会計基準における取扱いを参考にしつつ、実務上の課題等を整理し、主に収益認識の時期、総額表示・純額表示及び表示区分等について検討が行われ、現時点における考えを取りまとめたものとして本公開草案が公表されました。

なお、本公開草案において示されている会計処理等は、現時点における調査・研究の成果を踏まえた考察であり、あくまでも現時点における一つの考え方を示したにすぎないことから、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものでもないとされています。

2. 本公開草案の構成

補助金等には、様々な形態がありますが、本公開草案では、国等から交付される補助金等のうち反対給付のない収益(非交換取引収益)に該当する補助金等を検討の対象としています。

補助金等という名称であっても、その実態は反対給付のある収益(交換取引収益)、すなわち、双務契約と同様のものもあります。実態が双務契約となる補助金等については、その名称にかかわらず他の双務契約と同様の収益認識(例えば、収益認識会計基準に従った会計処理)を行うことになると考えられるため、本公開草案の検討の対象とはされていません。

そして、本公開草案においては、IAS第20号を参考に、補助金等について資産に関する補助金と収益に関する補助金の2つの分類に従って検討がされています(図表1参照)。また、本公開草案では、資産に関する補助金等に密接に関連する論点として、税法に規定する圧縮記帳(以下「圧縮記帳」という。)に関する会計処理及び表示についても検討を行っています。

図表1 IAS第20号第3項の政府補助金の分類

分類

内容

本公開草案

資産に関する補助金

補助金を受ける資格を有する企業が固定資産を購入、建設又はその他の方法で取得しなければならないことを主要な条件とする政府補肋金をいう。

第Ⅲ章及び第Ⅳ章

収益に関する補助金

資産に関する補助金以外の政府補助金をいう。

第Ⅱ章


Ⅱ. 収益に関する補助金等

1. 本章での対象

本章では、収益に関する補助金等(資産に関する補助金等以外の補助金等)を対象としており、以下のものが例示として挙げられています。

研究開発助成金

助成先が主体的に取り組む研究開発に対し、国等がその事業費の一部を助成事業として支給する助成金

雇用調整助成金

経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を助成する制度

2. 会計処理等の考え方

(1) 会計処理(補助金の認識時点)

本公開草案で対象とする補助金等は反対給付のない収益である点が特徴的ですが、それを踏まえた補助金等の収益の認識時点を検討するに当たって参考になる考え方として、図表2の3つの考え方が挙げられています。

図表2 補助金等の収益の認識時点を検討するに当たって参考になる考え方

考え方

内容

①実現主義の考え方

  • 企業会計原則の実現主義(企業会計原則 第二三 B)の下での収益認識要件としては、一般に「財貨の移転又は役務の提供の完了」とそれに対する「対価の成立」が求められていると考えられる。
  • 補助金等については、財貨の移転等の反対給付がないことから、企業会計原則の実現主義は補助金等に直接適用される会計基準ではないと考えられるが、補助金等の認識時点を判断するに当たっては「対価の成立」を含む実現主義の考え方を勘案することも考えられる。

②非営利組織モデル会計基準の考え方

  • 非営利組織モデル会計基準第194項では、原則として補助金等の交付決定通知を受領した時点で補助金等の収益を認識し、付帯条件が付された場合には当該条件を満たした時点で収益を認識するとされている。

③法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準

  • 法人税等会計基準第7項において、過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等に関する還付税額の会計処理が定められている(※)
  • 法人税等会計基準は補助金等に直接適用される会計基準ではないと考えられるが、補助金等は法人税等と同様に反対給付がなく、政府や地方公共団体が相手である点で類似していると考えられる。また、法人税等会計基準では、企業会計原則における実現主義よりも具体的な蓋然性の閾値(還付が確実に見込まれる。)や測定要件(合理的に見積ることができる。)が示されている。
  • このため、法人税等会計基準第7項を参考にすることが、利害関係者にとって有用となる可能性があると考えられる。

※法人税等会計基準第7項において以下のように定められている。
7. 過年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等について、更正等により還付されることが確実に見込まれ、当該還付税額を合理的に見積ることができる場合、企業会計基準第24号第4項(8)に定める誤謬に該当するときを除き、当該還付税額を損益に計上する。

そして、我が国においては補助金等の認識に関する会計基準は存在しないため、上記の定めを参考に、補助金等の交付額確定通知の受領時や付帯条件を満たした時点等、具体的にどの時点で企業が計上すべきかについて、事実と状況に応じて判断することになると考えられると小括されています。

また、補助金等の交付に付帯条件が付された場合には当該条件を満たしているか、満たす可能性が確実かどうかの検討が必要となると考えられるとしています。

(2) 表示

本公開草案では、以下の理由から、原則として、事業対象に係る費用と補助金等を純額処理することはなく、補助金等は営業外収益に計上することになると考えられるとされています。

  • 企業は、通常は、補助金等を支給する国等の代理として事業対象を行うのではなく、主体的に行うものであることから、事業対象に係る費用と補助金等に係る収益を相殺する純額処理することをしないと考えられる。また、総額主義の原則(企業会計原則 第二一 B)の観点からも、原則として総額処理することになると考えられる。
  • 本公開草案の補助金等は顧客との契約から生じる収益ではなく、反対給付のない収益(非交換取引収益)に該当する補助金等を検討の対象としていることから、原則として営業外収益に計上することになると考えられる。

なお、純額処理する場合には、相殺表示している旨及び相殺された金額を追加情報として開示することが考えられるとされています。

3. 実務上の課題

(1) 収益に関する補助金等の会計処理及び損益計算書上の表示

本公開草案では、研究開発助成金及び雇用調整助成金を具体的事例として取り上げ、収益に関する補助金の収入の会計処理及び損益計算書の表示について検討を行っています。

事例1 研究開発助成金
(前提(一部抜粋))

  • 国等へ開発費助成金を申請し、その後、国等から交付決定通知書を受け取る。
  • 助成金の交付の対象となった研究開発を行う者である企業(助成事業者)に対し、当該研究開発に必要な費用の一部を助成するものである。
  •  国等は、助成事業が完了し、助成事業者から実績報告書を受理し、その内容の審査ののち、助成金の額を確定し、確定通知書によって通知する。
  • 助成事業者は、助成事業の完了年度の翌年度以降5年間、企業化状況報告書を国等に提出し、当該助成事業の成果に基づく収益が生じたときは、国等の請求に応じ、交付された助成金の額を上限として、その収益の一部を国等に納付する(収益納付)。
     

図表3 研究開発助成金の検討のポイント

検討のポイント

考え方

助成金に係る収益の認識時点

助成金の交付の目的と助成事業者に課された義務等を考慮して、例えば、右記の会計処理が考えられるが、事実と状況に応じて判断することになると考えられる

会計処理案(1):助成金の額の確定時に一時の収益として認識する。

会計処理案(2):助成金の額の確定時以降、企業化状況の報告期間満了までの期間(5年間)にわたって収益として認識する(収益納付する額を除く。)。

会計処理案(3):企業化状況の報告期間満了時に収益として認識する(収益納付する額を除く。)。

助成金に係る収益の表示

原則として、研究開発費と助成金を純額処理することはなく、助成金は営業外収益に計上することになると考えられる。

なお、純額処理する場合には、相殺表示している旨及び相殺された金額を追加情報として開示することが考えられる。

事例2 雇用調整助成金
(前提(一部抜粋))

  • 支給される雇用調整助成金は、政府が、景気の変動等の経済上の理由により急激な事業活動の縮小を余儀なくされた場合等における失業の予防その他雇用の安定を図るため、その雇用する労働者について休業若しくは教育訓練又は出向により雇用調整を行う事業主に対して助成及び援助を行う(雇用保険法(昭和49年法律第116号)第62条第1項)。
  • 政府は、雇用を維持する企業(事業主)に対して雇用の安定を図るために雇用調整助成金を支給するものであり、政府が従業員に対して支給することを目的として企業(事業主)に支給するものではないと考えられる。
     

図表4 雇用調整助成金の検討のポイント

検討のポイント

考え方

助成金に係る収益の認識時期

助成金の交付の目的と助成事業者に課された義務等を考慮して、例えば、右記の会計処理が考えられるが、事実と状況に応じて判断することになると考えられる

会計処理案(1):雇用調整助成金については企業の申請後に審査が行われることから支給決定通知を受領した時点で助成金受領の要件を具備したと考え、その時点に収益を認識する。

会計処理案(2):雇用調整助成金の場合、受給の要件が明確であり、過去の実績等から支給額を合理的に見積もることができるのであれば、雇用調整助成金の支給申請を会社として機関決定し、支給申請の手続が行われ、当該助成金を収受することが確実に見込まれ(申請が却下される可能性も考慮する。)、かつ、その金額を合理的に見積ることができる時点で収益認識する。

助成金に係る収益の表示

雇用調整助成金の支給金額を、営業外収益として表示することが考えられる

  • 政府は、雇用を維持する企業(事業主)に対して雇用の安定を図るために雇用調整助成金を支給するものであり、政府が従業員に対して支給することを目的として企業(事業主)に支給するものではないため、人件費のマイナスではなく、当該支給金額を営業外収益として表示することが考えられる。

なお、純額処理した場合には、相殺表示している旨及び相殺された金額を追加情報として開示することが考えられる。

事例1及び2のとおり、収益に関する補助金等の会計処理及び損益計算書上の表示は企業により異なる可能性があり、その場合、これらに関する企業の判断による比較可能性の低下をもたらすことになるため、これらに関する考え方を開示により明確にすることが期待されるとしています。

(3) 会計方針

本公開草案において取り上げた補助金等の会計処理は会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当すると考えられ、重要性がある場合には重要な会計方針として注記することが考えられる(企業会計基準第24号第4-2項等)とされています。

(4) 収益に関する補助金等のキャッシュ・フロー計算書上での表示

営業外収益に計上した収益に関する補助金等に係る収入は、投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローに該当すると考えられるが、小計欄は「営業活動によるキャッシュ・フロー」のうち、おおむね営業損益計算の対象となった取引に係るキャッシュ・フローの合計額を意味することから、小計欄に含めるのか、小計欄以下の項目とするのかが論点となります。

本公開草案では、図表5の2つの考え方を示していますが、いずれの方法を採用するかは、キャッシュ・フロー計算書の表示の明瞭性、財務諸表利用者がキャッシュ・フローの状況を把握するに当たっての有用性等を勘案して判断するものとされています。

図表5 収益に関する補助金等のキャッシュ・フロー計算書上での表示方法

表示方法

理由

小計欄に含める

営業損益計算の対象となっていない取引であることから、この取引に係るキャッシュ・フローを、原則どおりに「営業活動によるキャッシュ・フロー」の小計欄以下に表示した場合、この取引に係る損益を税金等調整前当期純利益に対して調整しなければならず、間接法による「営業活動によるキャッシュ・フロー」の表示の明瞭性を著しく損なうおそれがあるという考えがある。

小計欄以下の項目とする

収益に関する補助金等に係る収入の重要性が高い場合には、小計欄以下に表示して補助金等に係るキャッシュ・フロー情報を開示することが財務諸表利用者にとって有用とする考えもあり得る。


Ⅲ. 資産に関する補助金(圧縮記帳に関する会計処理を除く。)

1. 会計処理等の考え方

企業が固定資産を購入又は建設すること等を条件として、国等から受領する補助金等の会計処理としては、大別すると、図表6のように資本説と利益説に分けることができると考えられるとされていますが、本公開草案では小括として、以下の考え方が示されています。

  • 現状の制度会計上、利益説の一時点で利益を計上する方法、又は一定期間にわたり利益を計上する方法の仮受金アプローチに基づき補助金収入を会計処理することになると考えられる(我が国の制度会計上認められていない繰延収益アプローチ及びその他の包括利益アプローチを除く。)(図表7参照)。
  • しかしながら、我が国においては補助金等の認識に関する会計基準は存在しないため、補助金等の交付額確定通知の受領時や付帯条件を満たした時点等、具体的にどの時点で企業が計上すべきかについて、事実と状況に応じて判断することになると考えられる。
  • なお、補助金等の交付に付帯条件が付された場合には当該条件を満たしているか、満たす可能性が確実かどうかの検討が必要となると考えられる。

図表6 資産に関する補助金等の会計処理の考え方

会計処理

資本説

資本剰余金に計上する方法(ただし制度上は不採用)

利益説

一時点で利益を計上する方法

一定期間にわたり利益を計上する方法

図表7 利益説における貸方差額に対するアプローチ

貸方差額

貸借対照表

我が国の制度上

会計基準等

繰延収益アプローチ

負債

不採用

IAS第20号第24項

仮受金アプローチ

負債

必ずしも否定されないと考えられる

純資産会計基準第24項

その他の包括利益アプローチ

純資産

現状は採用されていない

概念フレームワーク第3章第5項及び脚注5

2. 表示

我が国の会計基準においては、資産に関する補助金等の表示区分については、臨時性があると判断される場合には特別利益に計上し、金額が僅少な場合又は経常的に発生する場合には営業外収益として計上することが考えられる(企業会計原則注解(注 12))とされています。

3. 注記

我が国の会計基準においては、企業会計原則注解(注24)以外の資産に関する補助金収入について、具体的な開示要求はありません。

そして本公開草案において、資産に関する補助金等の認識規準については、我が国の会計基準には具体的な定めがなく、実務に多様性が存在する可能性があるため、「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」として、重要性がある場合には重要な会計方針として具体的な収益の認識時点を開示することが考えられるとしています。また、付帯条件の内容、補助金等の返還条件等についても、追加情報の注記として開示することが望ましいと考えられるとしています。

4. 実務上の課題

(1) 資産に関する補助金等の認識規準

我が国では、課税の繰延べ効果を享受するため、税務上、圧縮記帳を採用することが多いと考えられるものの、例えば、繰越欠損金の失効が見込まれる場合等において、資産に関する補助金等について圧縮記帳を採用しない場合があるとされています。本公開草案では、具体的事例を取り上げ、資産に関する補助金収入の認識時点について検討を行い、図表8のような考え方が示されています。

図表8 圧縮記帳を採用していない場合の補助金収入の計上時点

具体的事例

前提

補助金収入の計上時点の考え方

(ケース①)交付額は確定しているが、補助金等の交付が翌期となるケース

  • 当事業年度において、補助金等の交付決定通知及び交付額の確定通知を受領しているが、補助金等の交付は翌事業年度に行われる。
  • 補助金等の交付額確定後に付帯条件はない。

当事業年度の補助金交付額の確定通知時点で補助金収入を一括して利益として計上することが適当と考えられる。

(ケース②)補助金等が一定の期間にわたり分割して交付されるケース

  • 補助金等の交付が、将来の一定の期間(例えば、5年間)にわたり分割して交付される。
  • 上記以外はケース①と同様

当事業年度の補助金交付額の確定通知時において補助金収入を一括して利益として計上することが適当と考えられる。

(ケース③)当事業年度において補助金等の交付額が確定していないケース

  • 当事業年度において国等から補助金等の交付決定通知を受領し、固定資産を取得しているが、稼働を開始しておらず、補助金等の交付額の確定が翌期になる。
  • 国等の検査により確定するため、条件を満たしていないと判断される場合、交付額が減額又は交付自体が取り消される可能性がある。

一般的には翌事業年度の補助金交付額の確定通知時点で補助金収入を計上することになると考えられる。

(ケース④)補助金等が概算で交付されたが、固定資産の取得と交付額の確定が翌期になるケース

  • 当事業年度において、国等から補助金等の交付決定通知を受領し、補助金等の概算交付(前払)を受けた。
  • 固定資産の取得とその後の確定検査を経て、補助金等の交付額の確定通知は翌事業年度に行われる。
  • 補助金等の交付額確定後に付帯条件はない。

一般的には翌事業年度の補助金交付額の確定通知時点で補助金収入を計上することになると考えられる。

(ケース⑤)補助金交付額確定後も一定期間にわたる付帯条件の遵守が要求されるケース

  • 当事業年度において国から補助金等の交付額の確定通知を受領している。
  • 一定の期間(例えば、5年間)にわたり事業継続状況等について報告することが要求されている。
  • 補助金等の交付額の確定通知を受領した後であっても、国から交付決定の取消が可能であり、企業に補助金等の全部又は一部について返還義務が生じる。
  • 企業が補助事業により取得した固定資産については、一定の期間において処分が禁止されており、やむを得ず処分した場合には、補助金等の全部又は一部を返還することが要求されている。

会計処理案①:補助金交付額の確定時点で利益として一括して認識する

会計処理案②:付帯条件を完全に満たした時点で利益として一括して認識する

会計処理案③:付帯条件の遵守が要求される一定の期間にわたり利益を認識する

(2) 課題

資産に関する補助金等について、圧縮記帳に関する会計処理を採用しないケースの具体的事例の検討を踏まえ、本公開草案では、以下の課題が挙げられています。

  • 我が国には補助金収入の認識に関する会計基準が存在しない中で、特に、一定期間にわたる付帯条件の遵守が要求され、圧縮記帳に関する会計処理を採用しない場合、一時点で利益を計上すべきか又は一定期間にわたり利益を計上すべきか、会計処理が必ずしも明らかではなく、実務に多様性が生じる可能性があると考えられる。
  • 重要な会計方針として具体的な収益の認識時点を開示することの有用性がより高まることも考えられる。
  • 補助金等の付帯条件の達成状況によっては過去に受け入れた補助金等を事後的に返還しなければならない可能性もあるため、付帯条件に違反した場合の帰結と違反が発生する可能性を考慮して、重要性がある場合には補助金等の付帯条件等を会計方針の記載に併せて追加情報の注記として開示することが望ましいと考えられる。

Ⅳ.資産に関する補助金等(圧縮記帳)

1. 圧縮記帳に関する会計処理及び開示

我が国の圧縮記帳に関する会計処理については、監査第一委員会報告第43号まえがきにおいて、「従来の監査委員会報告第23号では、法人税法及び租税特別措置法(以下「税法」という。)に規定する固定資産の圧縮記帳の会計処理について、利益処分方式が認められているものについては、優先してこの方式を採用することが望ましいとしながらも、商法第285条の取得原価主義の規定に照らして問題があるとされてきた直接減額方式によることも、監査上妥当な会計処理とみなして取り扱ってきた。」と記載されているとおり、直接減額方式と直接減額を採用しない方式の二つのパターンが存在するとされています(図表9参照)。

図表9 圧縮記帳の方式

方式

内容

直接減額方式

  • 受け取った国庫補助金等について、利益で計上する一方、国庫補助金等により取得した固定資産について、国庫補助金等に相当する金額を固定資産の取得価額から控除し、損失として処理する方式である。
  • 開示については、取得した固定資産について取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除する形式で記載する方法、又は取得原価から国庫補助金等に相当する金額を控除した残額のみを記載し、当該国庫補助金等の金額を注記する方法のいずれかの方法で開示が必要となる(企業会計原則注解(注24))。

直接減額を採用しない方式

  • 受け取った国庫補助金等について、利益で計上し、国庫補助金等により取得した固定資産については取得価額をそのまま固定資産として計上する。
  • 税務上、課税の繰延べの効果を得るために、剰余金の処分により圧縮積立金を積み立てる会計処理、いわゆる積立金方式が実務上行われている。

2. 実務上の課題

(1) 圧縮記帳に関する会計処理による比較可能性の低下

会計上は監査第一委員会報告第43号に記載されているとおり、「利益処分方式が認められているものについては、優先してこの方式を採用することが望ましいとしながらも、商法第285条の取得原価主義の規定に照らして問題があるとされてきた直接減額方式によることも、監査上妥当な会計処理とみなして取り扱ってきた。」とされ、直接減額を採用しない方式の適用を優先することが望ましいとの位置付けであるとされています。

当該監査上の取扱いでは、直接減額を採用しない方式を優先して適用するとしつつも、直接減額方式も否定されていないことから、実務上は両方法のいずれも適用されており、各企業の圧縮記帳に関する会計処理として直接減額方式を適用するか、直接減額を採用しない方式を適用するかの判断の違いにより、財務数値に及ぼす影響が異なり、企業間の比較可能性が低下するという課題が生じるとしています。

(2) 会計方針に関する事項

我が国では、直接減額方式と直接減額を採用しない方式の二つのパターンの会計処理が企業会計上認められていますが、圧縮記帳に関する会計処理(直接減額方式と直接減額を採用しない方式)がそもそも会計方針、すなわち「財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続」に該当するのかどうかについて論点があるとされています(図表10参照)。

そして、仮に圧縮記帳に関する会計処理を会計方針として整理した場合には、重要な会計方針として注記を求めるのか、また、その選択適用の際、補助金等と種類の異なる税務上の圧縮記帳について異なる会計方針を適用することを認めるのか、さらには、補助金等の種類の違いによって異なる会計方針を適用することを認めるのか、実務上の課題が存在するとしています。

図表10 圧縮記帳の会計処理の会計方針の該非

論点

論点整理

圧縮記帳に関する会計処理は会計方針に該当するのか

  • 直接減額方式又は直接減額方式を採用しない方式は、会計処理の原則及び手続であると考えられることから、会計方針に該当するという考えがある。
  • 監査第一委員会報告第43号では、直接減額方式についてはやむを得ず容認している姿勢を示しているように見受けられ、また、取得原価主義に合わない直接減額方式の適用を選択することは本来的な意味での会計方針の選択になっていないという考えもある。

図表11 圧縮記帳に関する会計処理が会計方針に該当すると整理した場合の追加論点

論点

論点整理

重要な会計方針としての注記

  • 仮に圧縮記帳に関する会計処理が会計方針であると整理するならば、毎期継続して適用することが求められる。
  • 重要性がある場合には重要な会計方針として注記することが考えられる。

圧縮記帳に関する会計処理の整合性が求められる範囲(補助金等以外の工事負担金、保険差益等の会計処理との整合性)

ア. 会計上、直接減額方式と直接減額方式を採用しない方式のいずれかの適用しか認められていないケースがあり、会計処理方法が分かれる場合

  • 監査第一委員会報告第43号では、交換取引又は交換取引に準ずるものに該当する場合には会計上直接減額方式が認められているが、交換取引又は交換取引に準ずるものに該当しない場合には、会計上直接減額方式が認められないものもあると考えられる。この場合、同一企業において直接減額方式と直接減額を採用しない方式で会計処理が併用されることも考えられる。

イ. 会計上、直接減額方式と直接減額を採用しない方式の双方の適用が認められているケースで会計処理方法が分かれる場合

  • 会計上認められている会計処理方法の選択という点に着目すれば、企業会計原則における継続性の原則から毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならないとして、会計事象等が異なるといえども会計処理方法の併用は否定されるという考えがある。
  • 例えば、補助金等による固定資産の取得に関する圧縮記帳に関する会計処理と、特定資産の買換えによる固定資産の取得に関する圧縮記帳に関する会計処理では、その取引の目的や性質が異なることもあり、同一の会計事象等ではないとして、補助金等と特定資産の買換えで異なる会計処理方法の適用を認めるという考えもある。

(3) 表示に関する事項

①損益計算書表示に関する論点

圧縮記帳に関する会計処理について、直接減額方式を採用する場合には、補助金収入と圧縮損の損益計算書上の表示について、総額表示とするか、純額表示とするかについて論点があります。

監査第一委員会報告第43号によると、交換取引に準ずるものとして取り扱う以上、収用や特定資産の買換えにおける圧縮損と譲渡益は損益計算書上相殺表示が望ましいとされているものの、税務上は損金経理により帳簿価額を減額する処理が認められるため、税務上の取扱いとの調整がなされるまでは、圧縮損と譲渡益を両建表示しても監査上妥当なものとして取り扱うというものであるとされています。

現行実務においては、補助金等についても同様に、損益の総額表示及び純額表示の両方が認められているものと考えられるとされています。

②キャッシュ・フロー計算書の表示に関する論点

キャッシュ・フロー計算書の表示については、主に補助金収入の総額表示と純額表示、資産に関する補助金収入の表示区分(営業活動によるキャッシュ・フロー又は投資活動によるキャッシュ・フロー)の論点が考えられ、図表12のような考え方が示されています。

図表12 キャッシュ・フロー計算書の表示に関する論点

論点

考え方

ア. 補助金収入のキャッシュ・フロー計算書上の総額表示と純額表示

  • 連結キャッシュ・フロー実務指針において、「「投資活動によるキャッシュ・フロー」及び「財務活動によるキャッシュ・フロー」に表示される主要な取引ごとのキャッシュ・フローは、原則として総額表示しなければならない。」とされている。このため、補助金等の受取額と資産の購入は総額表示されるものと考えられる。
  • 損益計算書を純額表示している場合には、キャッシュ・フロー計算書上も損益計算書との整合性を重視して純額表示することも考えられ、キャッシュ・フロー計算書上の表示に関し、今後整理が必要になると考えられる。

イ. キャッシュ・フロー計算書上の補助金収入の表示区分(営業活動によるキャッシュ・フロー又は投資活動によるキャッシュ・フロー)

  • 営業活動によるキャッシュ・フローについて、「営業損益計算の対象となった取引のほか、投資活動及び財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローを記載する。」こととされ、「投資活動によるキャッシュ・フロー」について、「固定資産の取得及び売却、現金同等物に含まれない短期投資の取得及び売却等によるキャッシュ・フローを記載する。」(「連結キャッシュ・フロー計算書作成基準」二 1①②)こととされている。このため、補助金収入は投資活動によるキャッシュ・フローの定義に該当するか否かにより、営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローのいずれかに表示されることとなる。
  • 各企業は資産に関する補助金等の受領取引について、例えば、受領した補助金等が全て資産の取得のために使用されるなど、投資活動によるキャッシュ・フローの性格を強く有する取引は投資活動によるキャッシュ・フローで表示し、投資活動によるキャッシュ・フローの性格を強く有しない取引については営業活動によるキャッシュ・フローで表示しているものと考えられる。

Ⅴ. 全体のまとめ

1. 本公開草案に基づく提言

本公開草案では、具体的な事例を取り上げた上で、補助金等に関する会計処理及び開示(圧縮記帳に関する会計処理及び表示を含む。)について、国際的な会計基準における取扱いを参考にしつつ、実務上の課題等を整理し、主に収益認識の時期、総額表示・純額表示及び表示区分等について検討が行われています。

そして、現在、我が国においては補助金等に関する会計基準は存在しておらず、会計実務における多様性や企業間の財務情報に係る比較可能性の観点からは、主に以下の四つの点に課題があると考えられるとしています。

(1)補助金等の認識規準についての会計実務における多様性
(2)収益に関する補助金等で許容されている会計処理方法の選択(収益又は費用控除)による比較可能性の低下
(3)圧縮記帳に関する会計処理(直接減額方式と直接減額を採用しない方式)の選択による比較可能性の低下
(4)補助金等をキャッシュ・フロー計算書でどのように表示するかについての会計実務における多様性

ただし、これらの点については、現行の会計制度の枠内においても、以下の方法により一定の対応を図ることが可能であると考えられるとしています。

① 補助金等の認識規準を重要な会計方針として開示
② 収益に関する補助金等の金額についての開示の拡充(追加情報の注記を含む。)
③ 資産に関する補助金等の金額についての開示の拡充(追加情報の注記を含む。)

したがって、我が国においては補助金等に関する会計基準は存在していないものの、重要な補助金等の会計処理及び表示に関しては、会計実務上、このような情報開示の拡充により、企業間の財務情報に係る比較可能性が確保されることが期待されると提言されています。

2. 今後に向けて

現在、世界的に政府による補助金等を通じた積極的な支援により自国の産業を育成する動きも見られます。このため、補助金等を受け入れている企業において、補助金等に関するディスクロージャーが十分でない場合、補助金等以外で利益を確保しているのか、補助金等を受け入れることで利益を確保しているのかが財務諸表利用者からは不明確になる可能性があります。また、補助金等には様々な付帯条件が付されることがあり、付帯条件の達成状況によっては過去に受け入れた補助金等を事後的に返還しなければならない可能性もあります。

国際的な会計基準においても補助金等は重要なテーマとして位置付けられ、具体的な会計処理及び表示のガイダンスがない米国では米国財務会計基準審議会(FASB)が「政府補助金の会計処理」のプロジェクトをテクニカルアジェンダに追加することを暫定決定し、IAS第20号における会計上の枠組みを活用しつつ検討を進めており、2024年11月に公開草案を公表しています。

我が国においても、補助金等に関する会計基準は存在しておらず、実務慣行に委ねられているものの、こうした国際的な会計基準の今後の議論の状況を注視することが必要であると考えられると提言されています。



なお、本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
公開草案全文はこちら。

日本公認会計士協会ウェブサイトへ


この記事に関連するテーマ別一覧

企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。

EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ