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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 宮﨑 徹
2025年7月8日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)より、企業会計基準公開草案第87号「後発事象に関する会計基準(案)」を含め、以下の会計基準等(以下、合わせて「本公開草案」という。)が公表されています。
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企業会計基準公開草案第87号 |
後発事象に関する会計基準(案)(以下「本会計基準案」という。) |
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企業会計基準適用指針公開草案第87号 |
後発事象に関する会計基準の適用指針(案)(以下「本適用指針案」という。) |
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企業会計基準公開草案第88号 |
「中間連結財務諸表等の作成基準」の一部改正(そのX)(案) |
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補足文書(案) |
開示後発事象の例示及び開示内容の例示について(案)(以下「補足文書案」という。) |
ASBJは、日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)が公表した企業会計に関する実務指針(Q&Aを含む。)をASBJに移管するプロジェクトの一環として、JICPA 監査・保証基準委員会 監査基準報告書560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」(以下「監基報560実1」という。)における定めを会計に関する内容と監査に関する内容に切り分けて、会計に関する内容について会計基準で用いられる表現に見直した上でASBJに移管することを目的として後発事象に関する会計基準の開発を進めてきました。
今般、2025年7月3日開催の第550回企業会計基準委員会において、本公開草案の公表が承認され、2025年7月8日に公表されました。
本公開草案では、後発事象の定義、会計処理及び開示等を取り扱う包括的な会計基準を設定することを優先的な課題とし、原則として監基報560実1で示されている会計に関する内容を踏襲して移管することを基本的な方針とするとされています。
本公開草案では、この基本的な方針に従い、後発事象に係る会計処理及び開示に関して監基報560実1で示されていた「修正後発事象についての基本的な考え方」及び「開示後発事象についての基本的な考え方」を踏襲した上で、表現の見直し及び後発事象の対象期間の整理等を行っています。
監基報560実1では、監査対象となる後発事象は、監査報告書日までに発生した後発事象であることが定められていたところ、本会計基準案では、後発事象とは、決算日後に発生した企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象のうち、財務諸表の公表の承認日までに発生した会計事象とすることが提案されています。
これは、会計基準の定めは財務諸表の監査が行われることが前提となっておらず、国際的な会計基準においては監査報告書日までが後発事象の対象期間とされていないこと、また、企業が監査を受けることを前提に会計基準を定めるとしても財務諸表に対する二重責任の原則が前提となると考えられることを踏まえると、企業の観点から会計基準の定めを設ける必要があると考えられたためです。したがって、国際会計基準(IAS)第10号「後発事象」と同様に、財務諸表の公表の承認日までを後発事象の対象期間とすることが提案されています。
本適用指針案では、会計監査人設置会社(会社法(平成17年法律第86号)第2条第11号)において作成される計算書類等又は連結計算書類における後発事象の対象期間について、企業が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準及び会社計算規則(平成18年法務省令第13号)に準拠して計算書類等又は連結計算書類を作成する監査契約上の責任を果たしたことを確認した日(以下「確認日」という。)までとすることが提案されています。なお、当該確認日は、通常、経営者確認書の日付と同一になると考えられるとされています。
これは、取締役会による計算書類等及び連結計算書類の承認日(会社法第436条第3項及び第444条第5項)が計算書類等及び連結計算書類の公表の承認日に該当すると解釈されるおそれがあり、当該承認日と会計監査人の監査報告の通知(会社計算規則第130条第1項第1号及び第3号)との順序が問題となるという懸念に対処するために、監基報560実1に基づく実務を踏襲しつつ、企業の観点から会計監査人設置会社の計算書類等及び連結計算書類における後発事象の対象期間に関する指針を示すためとされています。
本適用指針案では、次の(1)及び(2)の会計事象について、修正後発事象として取り扱わず、開示後発事象に準じて取り扱い、重要な開示後発事象に関する注記を行うことが提案されています。
(1) 計算書類等に関する確認日後、金融商品取引法に基づいて作成される個別財務諸表の公表の承認日までに発生した本会計基準案第4項(修正後発事象の定義)に該当する会計事象
(2) 連結計算書類に関する確認日後、金融商品取引法に基づいて作成される連結財務諸表の公表の承認日までに発生した本会計基準案第4項(修正後発事象の定義)に該当する会計事象
これは、会社法と金融商品取引法の開示制度が併存する我が国固有の状況を踏まえ、監基報560実1の移管にあたっては、これらの特例的な取扱いについては基本的に踏襲することとしたものです。この点、当該取扱いを廃止して国際的な会計基準と整合性を図るべきとの意見も踏まえ、当該取扱いの抜本的な見直しを行うか否かについては、後発事象に関する会計基準の公表後に検討を行うとされています。
なお、本適用指針案では、(2)に関して、監基報560実1の取扱いを見直し、計算書類等に関する確認日後に発生した本会計基準案第4項に該当する会計事象ではなく、連結計算書類に関する確認日後に発生した本会計基準案第4項に該当する会計事象とするとされています。
また、本適用指針案では、監基報560実1における計算書類の会計監査人の監査報告書日から連結計算書類の会計監査人の監査報告書日までに発生した修正後発事象を開示後発事象に準ずる取扱いとする内容と同様の定めは設けられていません。
本会計基準案では、重要な開示後発事象に関する注記における開示目的は、開示後発事象が発生した場合に当該開示後発事象が将来の企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に及ぼす影響を財務諸表利用者が理解できるように十分な情報を開示することにあると定めることが提案されています。
本会計基準案では、次の注記を行うことが提案されています。
① 財務諸表の公表の承認日及び財務諸表の公表を承認した機関又は個人の名称
② 重要な開示後発事象に関する次の事項
ⅰ 重要な開示後発事象の内容及び影響額等
ⅱ ⅰの影響額の見積りができない場合、その旨及び理由
なお、上記①の注記は、後発事象が生じているかどうかにかかわらず記載を求めることが提案されています。また、上記①の注記は、連結財務諸表を作成している場合、連結財務諸表及び個別財務諸表の双方で記載を求めることが提案されています。
重要な開示後発事象に関する注記については、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記が同一の内容である場合には、個別財務諸表においては、その旨の記載をもって代えることができることとすることが提案されています。
本会計基準案では、企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」については、財務諸表の公表の承認日及び財務諸表の公表を承認した機関又は個人の名称の注記を行う改正は提案されていません。
公表から概ね1年程度経過後最初に到来する4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用すること、また、早期適用の定めは設けないことが提案されています。
なお、本公開草案等の適用初年度においては、本会計基準案を適用初年度から将来にわたって適用することが提案されています。
実務において参考となるように、監基報560実1で示されていた開示後発事象の例示及び開示内容の例示の内容を提供することを目的として、補足文書を公表することとされています。
補足文書は、企業会計基準、企業会計基準適用指針、実務対応報告及び移管指針(以下「企業会計基準等」という。)を追加又は変更するものではなく、企業会計基準等の適用にあたって参考となる文書であるとされています。
本公開草案等に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。
「財務諸表の公表の承認日」までを後発事象の対象期間とする本公開草案の提案に同意しますか。
会計監査人設置会社において作成される計算書類等及び連結計算書類における後発事象の対象期間を確認日までとする本適用指針案の提案に同意しますか。
本適用指針案の会計監査人設置会社における確認日後に生じた修正後発事象の取扱いに関する提案に同意しますか。また、後発事象に関する会計基準の公表後に会計監査人設置会社における確認日後に生じた修正後発事象の取扱いの見直しを行うことについて、ご意見があればご記載ください。
本会計基準案の開示に関する提案及び第一種中間財務諸表等における開示の提案に同意しますか。
本公開草案の適用時期等に関する提案に同意しますか。
その他、本公開草案に関して、ご意見があればご記載ください。
仮に日本公認会計士協会により監基報560実1が廃止された場合に、補足文書を公表する提案に同意しますか。
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