SSBJ基準の適用等を定めた開示府令の改正

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 前田和哉

1. はじめに

金融庁は、2026年2月20日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」の一部改正(以下「改正開示府令」という。)及び「企業内容等の開示に関する留意事項」(企業内容等開示ガイドライン)の一部の改正(以下「改正企業内容等開示ガイドライン」という。)等を公表しました。

今回の改正には、主にサステナビリティ開示基準の適用に関する事項、人的資本開示に関する制度の見直し、総会前開示への対応に関する事項が織り込まれており、サステナビリティ開示に対する保証等については織り込まれていません。

2. SSBJ基準の適用に関する事項

(1) 金融商品会計基準の改正

① サステナビリティ開示基準の適用

金融庁は、改正開示府令において、金融庁長官が「一般に公正妥当なサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準」として定めた基準を、有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示において適用するサステナビリティ開示基準としています(改正開示府令第19条の9第5項)。そして、金融庁長官は、2026年2月20日までに公表されている「サステナビリティ基準委員会において作成が行われたサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準」(以下「SSBJ基準」という。)を我が国における「一般に公正妥当なサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準」として指定しています。このため、サステナビリティ基準委員会が公表した基準のうち、金融庁長官が指定していないサステナビリティ開示基準は「一般に公正妥当と認められるサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準」には該当しない点に留意が必要です。

また、国際サステナビリティ開示基準(以下「ISSB基準」という。)は、「一般に公正妥当なサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準」として指定されていません。このため、有価証券報告書においてSSBJ基準の適用が求められる会社は、SSBJ基準に代えてISSB基準のみを適用することはできない点に留意が必要です。ただし、SSBJ基準独自の取扱いの適用を選択しない場合、SSBJ基準に準拠した開示は、ISSB基準にも準拠した開示になると考えられます。

なお、有価証券報告書において、SSBJ基準の適用が求められない会社では、ISSB基準を任意に適用することは認められます。

【図表1】SSBJ基準とその他の基準の位置づけ

【図表1】SSBJ基準とその他の基準の位置づけ

② SSBJ基準の適用が求められる会社

改正開示府令では、東京証券取引所プライム市場(以下「プライム市場という」。)に上場しており、平均時価総額が1兆円以上の企業について、SSBJ基準によるサステナビリティ開示を義務付けています(改正開示府令第19条の9第1項)。

ここでいう平均時価総額は、SSBJ基準が適用対象となる事業年度の前事業年度の期末日から起算して過去5年間に遡った各期末日の時価総額の平均値となります。また上場日後、5年経過していない会社については、上場日を含む事業年度の期末日から起算した平均時価総額を算定します(改正開示府令第19条の9第3項)。

各期末日の時価総額は、証券取引所において算定される時価総額を用いることとされており、普通株式のほかに種類株式を上場している場合は、それぞれを合算して時価総額を算定する必要があります(改正開示府令(案)に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下「金融庁の考え方」という。)No.17)。

また、平均時価総額の算定に用いる時価総額については、特定の証券取引所における時価総額としていないため、他の市場から東京証券取引所プライム市場に市場区分を変更している場合、有価証券報告書を提出する日の属する事業年度の直前事業年度(有価証券報告書の記載対象となる事業年度)の前事業年度以前の5事業年度における当該他の市場の時価総額も含めて平均時価総額を算定し、SSBJ基準の適用の要否を判断することになります(金融庁の考え方No24)。

そして、SSBJ基準の適用の判断における上場市場の判断は、有価証券報告書を提出する日の属する事業年度の直前事業年度(有価証券報告書の記載対象となる事業年度)の末日時点で株券等が上場されている市場で判断することになります(金融庁の考え方No12)。

【図表2】 プライム市場上場日後、5事業年度経過した会社のSSBJ基準適用時期の考え方

【図表2】 プライム市場上場日後、5事業年度経過した会社のSSBJ基準適用時期の考え方

③ 主要な経営指標の推移における平均時価総額の開示

プライム市場上場企業は、主要な経営指標等の推移において、最近5事業年度の各事業年度の末日における株券等の時価総額及び平均時価総額を注記することが求められています(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(25)h、第三号様式(記載上の注意)(5)a)。これはSSBJ基準の適用基準を満たしているか否かを容易に確認することができるようにするため、すべてのプライム市場上場企業に対して開示が求められています。

④ SSBJ基準の適用に伴う「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示項目

SSBJ基準適用状況を明確にするために、以下の事項を新たな開示項目として求めています(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(30)a、第三号様式(記載上の注意)(10))。

  • サステナビリティ開示基準に準拠している旨
  • SSBJ基準の適用が要求される会社か否か
  • 「サステナビリティに関する考え方及び取組」におけるSSBJ基準による開示について、翌事業年度の半期報告書までに訂正報告書で開示する場合、その旨
  • SSBJ基準に定められている経過措置(適用初年度における比較情報の省略や気候変動に関する開示以外の省略等)を適用している場合、その旨、根拠となる規定及び内容

一方で、人材の多様性を含む人的資本に関する開示は、SSBJ基準に従って、同様の事項を記載している場合、省略することが認められています(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(30)cただし書き、第三号様式(記載上の注意)(10))。

 なお、SSBJ基準を適用しない会社は、従来と同様の「サステナビリティに関する考え方及び取組」に関する開示が求められます(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(30)b及びc、第三号様式(記載上の注意)(10))。

⑤ スコープ3温室効果ガス排出量の虚偽記載等に係るセーフハーバー・ルール

従来、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」、「事業等のリスク」及び「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」における将来情報について、有価証券報告書に記載すべき重要な事項について、一般に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載される場合には、将来情報と実際に生じた結果が異なる場合であっても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではないと企業内容等開示ガイドラインにおいて定められていました(セーフハーバー・ルール)。改正企業内容等開示ガイドラインでは、当該企業内容等の開示ガイドラインに、「サステナビリティに関する考え方及び取組」におけるスコープ3温室効果ガス排出に関する定量情報も対象に含めています。

そして、従来からの将来情報やスコープ3温室効果ガス排出に関する定量情報について、以下の開示が求められており(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(1)k、第三号様式(記載上の注意)(1)i)、当該開示について、一般に合理的と考えられる範囲で具体的に記載している場合、セーフハーバー・ルールの適用対象となる考えが示されています。

  • 将来情報等が含まれる旨及び提出日現在において判断したものである旨
  • 事後的に異なるものとなる可能性がある場合には、その旨及びその要因
  • 将来情報等を記載するにあたり前提とされた事実及び仮定並びに推論過程
  • 情報の入手経路を含む将来情報等の適切性を検討し、評価するための社内手続(将来情報等の開示について責任を有する機関又は個人について、その名称又は役職名及び役割を含む。)

なお、前事業年度の有価証券報告書に記載した見積りの方法により算定した数値について、中間連結会計期間中に当該数値が確定し、当初見積っていた数値と確定した数値との間に差異があるときは、見積数値及び確定数値並びに当該差異が生じた理由を半期報告書に記載することができます(改正開示府令第四号の三様式(記載上の注意)(9-2))。

3. 人的資本開示に関する制度見直し

SSBJ基準の適用が義務付けられる会社も含め、「人材戦略に関する基本方針等」(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(58-2)、第三号様式(記載上の注意)(39-2) )及び「従業員の状況」(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(58-3)、第三号様式(記載上の注意)(39-3))の開示が求められています。ただし、「人材戦略に関する基本方針等」と「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載する事項に重複が生じる場合は、「人材戦略に関する基本方針等」に参照する旨の記載をした上で、「サステナビリティに関する考え方及び取組」にまとめて記載することも認められています。

「人材戦略に関する基本方針等」では、連結会社の人材戦略を経営方針・経営戦略等に関連付けて具体的に記載することや、連結会社の従業員の賞与を含む給与、その他の給付の額及び内容の決定に関する方針を記載することが求められています。なお、当該方針については提出会社に係るものに限定することが認められていますが、提出会社が主として子会社の経営管理を行う会社(持株会社)である場合には、提出会社及び最大人員会社※1についての方針の記載が必要となる点に留意が必要です。

また、「従業員の状況」では、従来から行われている提出会社の従業員の平均給与額等の開示に加えて、平均給与額の対前事業年度増減率の開示が求められています。なお、持株会社については、最大人員会社の従業員の平均給与額、前年比増減率等も記載が求められています。

そして、従業員の状況は、改正前は「第1【企業の概況】」において開示することとされていましたが、改正後は従業員に関する情報を集約して、「第4【提出会社の状況】」に開示します。

なお、使用人等のみに対して発行する新株予約権の付与に関する決議、付与数、行使時の払込金額や行使期間等、改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(39)aからd、第三号様式(記載上の注意)(19)の記載事項について、「従業員の状況」に記載する場合、その旨を記載することで新株予約権等の状況の記載を省略することができます。

同様に、使用人やその他の従業員のみを対象とした役員・従業員株式所有制度についても、制度の概要等、改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(46)a(a)から(c)、第三号様式(記載上の注意)(27)の記載事項を「従業員の状況」に記載する場合は、その旨を記載することで役員・従業員株式所有制度の内容の記載を省略することができます。一方で、これらの開示について、新株予約権等の状況や役員・従業員株式所有制度の内容に記載し、従業員の状況では、その旨を記載し当該開示を省略することもできます(改正開示府令第二号様式(記載上の注意)(58-3)e、第三号様式(記載上の注意)(39-3))。

【図表3】人的資本開示に関する有価証券報告書の記載

【図表3】人的資本開示に関する有価証券報告書の記載

4. 総会前開示への対応

会社の開示負担を軽減し、株主総会前の有価証券報告書の開示を促進する観点から、改正開示府令では、有価証券報告書の総会前開示を行う場合、有価証券報告書の記載事項等が定時株主総会又は取締役会の決議事項となっている場合は、当該決議事項等の概要の開示は原則として不要となります。ただし、自己株式の取得及び剰余金の配当の当該決議事項については、その旨とその概要を関する箇所に開示が必要となる点に留意が必要です(改正開示府令第三号様式(記載上の注意)(1)g)。

また、半期報告書において、中間配当基準日現在における「大株主の状況」及び「議決権の状況」を記載することができます。

5. 適用時期

改正開示府令は、公布日から施行されますが(改正開示府令附則第1条)、(1)サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備、(2)人的資本開示に関する制度見直し、及び(3)総会前開示への対応の適用時期の適用時期は以下のとおりとなります。なお、いずれも施行日以後に提出する有価証券報告書について早期適用は可能です(改正開示府令附則第2条本文、第6条、第7条、第8条)。

(1) サステナビリティ開示基準の適用開始に向けた環境整備:

① SSBJ基準適用会社

  • 平均時価総額3兆円以上:2027年3月31日以降に終了する事業年度
  • 平均時価総額1兆円以上:2028年3月31日以降に終了する事業年度

② SSBJ基準適用会社以外にも適用される規定:2028年3月31日以降に終了する事業年度
 

(2) 人的資本開示に関する制度見直し:

2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等

(3) 総会前開示への対応:

2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等
 

その他、改正企業内容等開示ガイドライン(セーフハーバー・ルール等)は2026年2月20日から適用されます。

また、SSBJ基準の適用開始年度及びその翌年度においては、それぞれの翌期の半期報告書の提出期限までに、訂正報告書によってSSBJ基準に準拠したサステナビリティ開示を行うことを前提に、有価証券報告書にはSSBJ基準に従ったサステナビリティ関連記載事項を開示しないこと、いわゆる二段階開示が認められています(改正開示府令附則第2条第2項)。

なお、平均時価総額が5,000億円以上、1兆円未満の会社をSSBJ基準の適用対象とすることの是非について、2025年12月に公表された金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告書案」では適用対象とすることが示されていますが、今回の改正開示府令ではまだ対象になっていません。

※1. 外国会社を除く連結子会社のうち、従業員数が最も多い会社(同社従業員数が連結従業員数の過半数を超えない場合は次点も含む)。以下同様。


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