旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』 ー 第59回 すべての点が線で結ばれる時 ~人生において無駄な経験や時間は何もない

堀内 麻祐子
株式会社センショー 代表取締役


Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2022年2月10日号に掲載された記事をご紹介します。



「ここへたどり着いたのか」私が家業を引継ぐと決めた時の正直な想いでした。私はまもなく創業100年を迎えるめっき工場の3代目の後継者でもあり、設立12年目の株式会社センショーの経営者でもあります。家業のめっき工場は祖父から叔父、そして私へと引き継がれる事になりましたが、多額の負債、設備の老朽化といったさまざまな問題を抱えていたうえ、同族色がとても濃い会社で、そのまま引き継ぎ立て直す事は困難な状況でした。潰すわけにはいかない事情もあり、私は身内と縁を切る覚悟で自分の会社を作り、家業を買収するという形で事業を承継しました。私が40歳の時です。

私のキャリアのスタートは建築関係の仕事でした。30年前の建築業界は正に男性社会、D&Iやワークライフバランスなど何もない時代、現場へ行っても「お嬢ちゃん邪魔」と言われ名前も呼んでもらえず、仕事相手として認めてもらうまでに相当な努力が必要でした。

その後、メーカーやサービス業へと転職をしましたが、今振り返るとどんな業種でもどんな仕事でも、楽しかったです。目の前の仕事をやり遂げるために勉強し、考え、期待以上の結果を出すことに楽しみを見いだせた、これは仕事を通じて多くの事を教えて下さった周りの方々のおかげと感謝しています(男性ばかりでしたが)。

私は「自分の足で立てる女性」に若いころから憧れていました。自分の力で生きていける女性です。キャリアに対しては明確な目標もなく、何がしたいのかもよくわからず、興味の湧く仕事にその時々就いていたという、一貫性のない生き方をしてきたように思います。どんな所でも通用する自分なのかを試していたような気もしています。このままでいいのか、こんな事をしていていいのかと不安になるたび、悩んでいる暇があったら目の前の仕事に集中しようと思い直すという事の繰り返しでした。

家業のめっき工場を手伝って欲しいと呼ばれたのはこの頃でした。会社に身内の女性を入れる事を一番嫌っていた私の父が言い出した事です。一番身近で私の仕事を見ていたのは父だったとこの時初めて気づいたのです。親孝行のつもりで入社した私が2年半後、冒頭の様な形で事業を引継ぎ、10年間で売上、社員数ともに約4倍の会社に成長できたのは、これまでの経験や巡り合った方々というあちこちにちらばっていた点が、一本の線で繋がった結果のように感じています。

今だから思える事ですが、人生において無駄な経験や時間は何もないと感じています。精一杯生きる事は、将来きっと自分や周りの大切な人達を幸せにするための点になると私は信じています。



堀内 麻祐子

堀内 麻祐子(ほりうち・まゆこ)
株式会社センショー 代表取締役

略歴
1932年創業のめっき加工会社の3代目として事業を引継ぎ、2011年株式会社センショー設立、代表取締役に就任。設立7年で3拠点体制を築く。女性だからといって出来ない事は何もないという考えのもと、製造業での女性活躍推進に取り組む。大阪府鍍金工業組合創立100年で初の女性理事に就任。 全国鍍金工業組合連合会理事、女性経営者部会会長、大阪市中小企業対策審議会委員、厚生労働省臨時労働委員 中央最低賃金審査会委員などを務める。



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