米国IRSが2022年APA年次報告書を公表、APA申請件数の大幅な増加が明らかに

エグゼクティブサマリー

2023年3月29日、内国歳入庁(IRS)の事前確認・相互協議(APMA)プログラムは、事前確認制度(APA)に関する第24回年次報告書をAnnouncement 2023-10により公表しました。この報告書ではAPMAの2022年(暦年)の活動や体制などについて説明するとともに、APAプログラムの運用に関する有用な知見を提供しています。

2022年のAPA申請件数は2021年の145件から大幅に増加して183件となりましたが、その一方でAPA締結件数は124件から77件に減少しています。また、APAの合意に要した期間(中央値)は2021年の35.1カ月から2022年の43.4カ月に延長しています。
 

主なポイント

  • 年間のAPA締結件数は2021年の124件から2022年の77件へと大幅に減少し、2011年以降で最低となっている。
  • APA申請件数はAPA締結件数を2年連続で上回った。2022年の年間のAPA申請件数は183件、APA締結件数は77件であり、結果としてAPA未処理(繰越)件数が増加している。
  • 年末現在のAPA未処理件数は2021年の461件から増加して564件(うちバイラテラルが480件、マルチラテラルが30件、ユニラテラルが54件)となった。
  • APAの合意に要した期間(中央値)は2021年の35.1カ月から2022年の43.4カ月に延長した。
  • APMAの人員(ディレクターを含む専門職員)総数は2021年末現在の118名から2022年12月31日現在の98名に減少した。
  • 2022年中に締結された米国のバイラテラルAPAにおける相手国の内訳では、日本(39%)、カナダ(14%)、インド(8%)が合計で全体の約61%を占めた。
  • 米国のバイラテラルAPAの申請件数では、継続して関心の高い日本(24%)、インド(22%)、カナダ(11%)が合計で全体の57%を占めている。
  • 2022年に締結されたAPAのうち、外国の親会社とその米国子会社の間の取引に関するものは約62%、米国の親会社とその外国子会社の間の取引に関するものは約31%であった。
  • 関連者間の役務提供取引に関するAPAの80%で、利益比準法(CPM)/取引単位営業利益法(TNMM)が適用された。CPM/TNMMにおける利益水準指標(PLI)として最も多く選定されたのは売上高営業利益率(OM)および営業費用営業利益率であり、適用割合は53%となった。
  • 有形資産および無形資産の移転に関する事案における算定方法としては、引き続き最も多い77%でCPM/TNMMが適用されている。ここでもPLIとしてOMが最も多く適用され、適用事案の割合は73%となった。
     
APAの申請、締結および未処理件数

IRSは1991年のAPAプログラム発足から2022年12月31日までの間に合計3,119件のAPA申請を受け付け、2,268件を締結しています。以下の表は2022年のAPA申請、締結および未処理件数の統計を要約したものです。データはユニラテラルAPAとバイラテラルAPAに分かれており、2022年、2021年および2020年の合意件数の比較形式で示されています。

ユニラテラル

バイラテラル

合計*

2022

2021

2020

2022

2021

2020

2022

2021

2020

APA申請件数

22

16

15

154

121

103

183

145

121

APA締結件数

10

25

19

66

98

105

77

124

127

更新件数

10

19

11

32

59

64

42

78

75

APA未処理件数

54

39

43

480

395

384

564

461

448

更新未処理件数

37

26

25

185

147

154

237

185

187

APA取消件数

0

0

0

0

0

0

0

0

0

* 合計には追加的なマルチラテラル事案が含まれることがあります

IRSの人員配置の変更および運営の効率性

APMAの職員総数は2022年中に減少しました。エコノミストは2021年の25名から2022年の26名に増加したものの、チームリーダー(弁護士と会計士の混成)が2021年の80名から2022年の59名へと大幅に減少しました。2022年におけるマネージャーは9名、アシスタントディレクターは3名でした。アシスタントディレクターはそれぞれ3名のマネージャーを監督しており、これらのマネージャーはチームリーダーとエコノミストの両方で構成されるチームを統率しています。IRSのAPMAの連絡先一覧はこちらに掲載されています。
 

APAの合意に要した期間

以下のデータによると、新規のバイラテラルAPAの合意に要した平均期間は2021年の52.3カ月から2022年の53カ月に延長しました。ユニラテラルAPAの更新の合意に要した平均期間は2021年の24.3カ月から2022年の22.9カ月に短縮しました。新規のユニラテラルAPAは2022年に締結されませんでした。

バイラテラル(新規)

ユニラテラル(更新)

バイラテラル(複合)

2022

2021

2020

2022

2021

2020

2022

2021

2020

ユニラテラル(新規)

ユニラテラル(更新)

バイラテラル(複合)

2022

2021

2020

2022

2021

2020

2022

2021

2020

バイラテラルAPAの相手国

下掲の図から分かるように、APAの最大の相手国は日本であり、2022年に締結されたバイラテラルAPAのうち39%が日本とのAPAとなっています。これは米国と日本それぞれのAPAプログラムの成熟度、およびAPMAチームと日本の国税庁の権限ある当局が有する交渉経験に起因しています。

2022年に締結されたAPAにおける相手国の第2位はカナダであり、その割合は14%となっています。これはカナダが米国にとって中国とメキシコに次ぐ第3位の貿易相手国であること、およびカナダが80年近くにわたって米国の租税条約相手国であることによります。

加えて、インドとのAPAの申請件数が着実に増え続けています。これはIRSとインドの税務当局の間における過去数年間の関係改善が一因となっています。インドは2022年のバイラテラルAPA申請件数の14%、バイラテラルAPA未処理件数の22%、バイラテラルAPA締結件数の8%を占め、申請件数および未処理件数では日本に次ぐ第2位につけています。インドに投資する多国籍企業が直面する不確実性や深刻な二重課税リスクを踏まえると、これは前向きな結果であるといえます。

対象業種

下掲の図から分かるように、製造業および卸売業/小売業がAPA事案の中で引き続き最も大きい部分を占めており、2022年に締結されたAPA全体における割合は合計で82%となっています。

製造業の事案では、コンピューターおよび電子製品、化学製品、ならびに輸送用機器の製造が合計で全体の約90%を占めています。卸売業/小売業の事案では、耐久消費財の卸売が大部分(75%)を占めています。
対象取引および検証対象企業

この報告書では対象取引について全般的に記述するとともに、それぞれの取引における検証対象企業の種類を示しています。なお、1件のAPAが複数の取引を対象としていることがあります。

重要な前提条件

重要な前提条件とは、納税者の移転価格算定方法(TPM)の拠りどころとなる事実です。APAでは一般に、特定の事業活動様式、特定の企業構造もしくは事業構造、または予想される取引数量の幅を含む、重要な前提条件が列挙されます。

IRSが使用するモデルAPAには、APA期間中に納税者の事業または納税者の税務実務もしくは財務会計実務に重要な変化がないという、標準の重要な前提条件が含まれています。この標準の重要な前提条件は、2022年に締結されたすべてのAPAに盛り込まれました。

またいくつかのバイラテラル事案には、特定の年度もしくはAPA期間全体における納税者の利益性、または納税者の売上高に対する非対象取引の金額比率のいずれかに関わる重要な前提条件が盛り込まれました。

重要な前提条件が満たされておらず、かつ当事者同士がAPAの改定方法について合意できない場合、APAは取り消される可能性があります。ただし、2022年にIRSは重要な前提条件の不履行(またはその他の理由)に関わるAPAの取消しを1件も行っていません。
 

今後の影響

この2022年報告書に示されたAPAプログラムの実績には以下が含まれます。

  • APA申請件数は2021年の145件から増加して183件となった。
  • APMAのAPA締結件数は2021年の124件から減少して77件となった。
  • 新規のバイラテラルAPAの合意に要した期間(中央値)は2021年の52.3カ月から延長して53カ月となった。
  • ユニラテラルAPAの更新の合意に要した期間(中央値)は2021年の24.3カ月から短縮して22.9カ月となった。
  • APA(バイラテラルおよびユニラテラル)の合意に要した期間(中央値)は2021年の35.1カ月および2020年の32.7カ月から延長して43.4カ月となった。

APMAの人員数は、数年間の増加を経て2022年に減少しました。現在、APMAには合計98名の移転価格専門職員(ディレクターに加えて、チームリーダー59名、エコノミスト26名、マネージャー9名、およびアシスタントディレクター3名)が所属しています。

2022年のAPA締結件数は2021年と比べて大幅に減少し、2011年以降で最低となっています。このような結果となった原因は定かではありませんが、落込みの一部はチームリーダーの人数の減少や、新型コロナのパンデミックによる遅延の長期化に起因している可能性があります。APAの締結件数には年によって多少の変動があり、低調な数年間が続いた後に好調な数年間が到来した例が過去にしばしば見られます。2023年中のAPA締結件数が、過去10年間とより一貫性のある水準まで回復するかどうかは興味深いポイントです。

世界経済や税務の情勢の絶え間ない変化を受けて、多国籍企業は自社の関連者間取引をめぐり、サプライチェーンへの影響の再検討と評価、および世界的な論争事項への対処を続けています。APA申請件数の大幅な増加は、APAが多くの納税者にとって移転価格の確実性を得るための魅力的な方法のひとつであり続けていることを示しています。ただし、予定される歳入手続2015-41およびAPAプログラム利用可能性の改定、2022年のAPA締結件数の減少により、国際コンプライアンス保証プログラム(ICAP)のような代替的な紛争解決手続の魅力が高まってくる可能性があります2。

巻末注

1 本アラートの円グラフはIRS「ANNOUNCEMENT AND REPORT CONCERNING ADVANCE PRICING AGREEMENTS」March 27, 2023、www.irs.gov/pub/irs-drop/a-23-10.pdf(2023年4月12日アクセス)に掲載されたものを基にEY Japanで作成されたものです。
2 2023年2月20日付EY Japan税務アラート「米国内国歳入庁長官代行、ICAPへの参加継続を確認」、2023年3月8日開催Webcast「国際的なコンプライアンス保証プログラム支援に関する動き ― 将来のバイラテラルAPAとICAPの関連性の解説」(オンデマンド視聴期限:2024年3月7日)をご参照ください。

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