英国春季予算案:2024年3月6日

ジェレミー・ハント財務相は3月6日、「長期的成長のための予算」を発表しました。財務相によれば、同予算案は、「2028-29年度に経済規模を0.2%拡大し、財政ルールを順守しながら、減税、公共サービスの向上、投資の促進を実現することにより、政府の計画を堅持し、明るい未来を築くために必要な長期的な決定を下す」ものです。

本稿では、首相の予算演説とそれに付随する文書から特定した重要なポイントを取り上げます。注目すべき事項には、英国内に居所を有さない居住者(「ノンドム」)税制の廃止(下記「個人税・雇用税」のセクション参照)が含まれていますが、これまで同様、検討すべき詳細な発表がいくつかあります。春季予算案の第一読会は3月12日に開催されました。

法人税関連

  • 英国の法人税率に変更はありません。
  • 政府はエネルギー(石油・ガス)利得税(EPL)の終了日を2029年3月31日まで延長します。なお、春季財政法案にはエネルギー価格が予想より早く歴史的な水準に戻った場合にEPLを廃止する規定が含まれる予定です。
  • BEPS2.0第2の柱のバックストップルールである軽課税支払ルール(UTPR)についての言及はありません。この規則は将来の財政法案に盛り込まれ、2024年12月31日以降に開始する会計期間から適用される予定のものです。
  • リース資産に対する全額損金算入を拡大する法案が公表される予定です(導入の是非については今後決定されます)。
  • クリエイティブ産業に対してさらなる減税措置が導入される予定です。これには、オーディオビジュアル支出控除の下で、視覚効果関連支出の39%が控除可能になることの確認が含まれます。また、視覚効果関連費用については、適格支出の80%の上限も撤廃されます。これらの変更は2025年4月1日から適用されます。新しいインディペンデント映画税額控除は、制作予算(または中核的支出総額)が最大1,500万ポンドまでの映画で、英国映画協会から新しい認定を受けた映画を対象としています。政府はまた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの間に導入されたオーケストラや劇場、博物館やギャラリーに対する減税措置の増加(巡業公演45%、非巡業公演40%)を恒久化します。
  • 暗号資産報告フレームワーク(Cryptoasset Reporting Framework:CARF)を導入する英国ルールと共通報告基準への修正についての新たなコンサルテーションが開始され、回答は2024年5月29日まで受け付けています。
  • HMRCは、研究開発費控除の実施を支援する専門家諮問委員会を設置します。この諮問委員会は、HMRCと協力して関連するガイダンスを見直し、申請者に明確なガイダンスを提供できるよう、その更新を行います。
  • また、投資できる者は限定されるかもしれませんが、新たなリザーブド・インベスター・ファンド(RIF)の税制に関する提案もあります。

個人税・雇用税

  • 2024年4月6日から、週給967ポンド未満の被用者向け第1種国民保険料率がさらに2%ポイント引き下げられ(10%から8%に)、自営業者の国民保険料率も8%から6%に引き下げられることが発表されました。雇用主が支払うべき国民保険料率には変更がありませんでした。
  • 2025年4月6日から「Non-Dom(non-domiciled、英国非永住者)」に対する現行の税制は廃止されます。これに代わって、新しい4年間の外国所得・利益(FIG)制度が導入され、10年間の課税年度を通じて英国の税務上の非居住者であった後に、英国の税務上の居住者となった個人が対象となります。適格な個人は、英国の税務上の居住者となってから最初の4課税年度に発生したFIGについては課税されず、これらの資金を追加的な費用無しで英国に持ち込むことができます。また、非居住者信託の分配金に対する課税もありません。ただし、英国非永住者に対する現行制度と同様に、英国の所得および利益に対する税金を支払うことになります。
  • 新たな制度に移るための移行措置が設けられます。資本資産の評価基準を2019年4月5日に評価替えするオプション、新制度の初年度(2025-26年)の外国所得に対する課税の一時的な50%免除、過去に発生した外国所得および利益を12%の税率で英国に持ち込むための2年間の一時的本国送金制度(Temporary Repatriation Facility:TRF)などが含まれます。TRFは、2025年4月6日以前に信託や信託構造内で発生したFIGには適用されません。
  • 政府はまた、国外勤務日数控除(Overseas Workday Relief:OWR)を改正します。適格な従業員は、税務上の居住を開始してから最初の3年間はOWRを申請することができ、国外での勤務による収入に対する所得税軽減の恩恵を受けることができますが、これらの収入の送金に関する現行の制限は撤廃されます。適格基準の詳細については適時発表されます。
  • 租税回避のために、個人が所有者である会社または財務上の利害関係を有する会社を利用して海外に資産を移転することにより、個人が海外資産移転の規定から逃れることができないようにするための法律が導入されます。これは、英国に居住する個人に適用され、2024年4月6日以降、国外で発生する個人の所得に適用されます。
  • 政府は、2024-25課税年度から、高所得者向け児童手当(High Income Child Benefit Charge:HICBC)の調整後純所得の開始閾値を6万ポンドに引き上げるための法律を導入します。調整後純所得が6万ポンドから8万ポンドの間の場合、200ポンドごとに児童手当全額の1%がHICBCとして課せられます。これは現在のHICBCの料率を半分にするものです。
  • 家具付き貸別荘に対する税制(furnished holiday lets tax regime)は2025年4月より廃止されます。
  • スコットランド以外の英国では、個人基礎控除や高税率・追加税率の対象となる所得水準の変更は発表されませんでした(スコットランドの個人基礎控除以外の課税所得区分と税率は、2月末に可決された2024年度スコットランド予算ですでに決定されています)。
  • 相続税の一般規定と課税基準額には変更はありませんでしたが、「ノンドム」税制の廃止に伴い、政府は相続税について居住ベースの制度に移行する意向を表明し、これを実現するための最善の方法について、新規入国者に対する10年間の免除期間や、英国を出国して非居住者となった後も10年間は対象範囲とする規定(「テール規定」)を含む協議が追って行われる予定です。このような変更は2025年4月6日より前には発効しません。
  • 2025年4月6日以降、農地に対する相続税軽減措置の範囲が拡大され、8年間以上の借地契約に限定されなくなります。関係者とのさらなる協議が行われる予定です。

固定資産税

  • 土地印紙税(SDLT)の複数住宅軽減措置(MDR)が2024年6月1日から廃止されます。MDRは2024年3月6日以前に締結された契約については、完成の時期にかかわらず、引き続き請求することができます。
  • 登録公共住宅協会に関するSDLTの定義が改正され、公共団体が50万ポンド超の住宅用不動産を購入する場合、SDLT15%の高率課税から除外されます。これらの変更は2024年3月6日から適用されます。
  • 新規リースの購入者は、ノミニーまたはベアトラストを使用してSDLTの初回購入者の軽減措置を申請できますが、同時に将来、自己名義でまた申請することができないようになります。
  • 2024年4月6日より、住宅用不動産に対するキャピタルゲイン税の高税率が28%から24%に引き下げられます。

間接税および物品税

  • 2024年4月1日より、VAT登録が必要となる基準額が年間売上高8万5,000ポンドから9万ポンドに引き上げられます。登録抹消の閾値は8万3,000ポンドから8万8,000ポンドに引き上げられます。
  • Terminal Markets Order(TMO)の法律が更新され、炭素クレジットの取引がTMOの範囲に含まれるようになります。これをサポートする法律は、2024年度春季財政法案に盛り込まれる予定で、コンサルテーションへの回答は近日中に公表される予定です。
  • VAT小売輸出スキームに関しては、発表が期待されているかもしれませんが、政府は予算責任局(OBR)の調査結果を業界からの要望や提案および広範なデータと共に検討し、さらなる意見を募っています。
  • 政府は、ウーバー・ブリタニア対セフトンMBC事件の高等法院の判決が民間ハイヤー市場に及ぼす潜在的影響に関するコンサルテーションを2024年4月に発表する予定です。
  • 政府は、2027年1月1日から英国の炭素国境調整メカニズム(CBAM)を導入し、アルミニウム、セメント、セラミックス、肥料、ガラス、水素、鉄鋼分野の輸入関連商品に適用することを再確認しました。詳細は2024年後半にパブリックコンサルテーションの対象となります(コンサルテーションそのものではないにしても、少なくともコンサルテーションの明確な日付が多数の人から期待されていました)。
  • エコノミー以外のフライトに対する航空旅客税が1回限り引き上げられます。
  • 燃料税の引き上げはありません(現行の一時的な5ペンスの引き下げも延長されます)。
  • 酒税は2025年2月まで凍結されます。
  • たばこ税の1回限りの引き上げと並行して、電子タバコ製品に新たな物品税が導入されます。この物品税は2026年4月1日に登録が開始され、2026年10月1日から適用されます。

税務行政

  • 既存のISAに加えて、英国内への投資にのみ利用可能な5,000ポンドの英国ISAが、コンサルテーションの上、導入されます。
  • 政府はまた、確定拠出年金基金が英国株式を含む資産配分の内訳を公表する要件を前倒しする意向であり、市場の要件設定に責任を共有する金融行動監督機構(FCA)と緊密に連携します。FCAは春にコンサルテーションを行う予定です。政府は、早ければ2024年4月にもイングランドとウェールズの地方政府年金基金に同等の要件を導入する予定です。このデータで英国株式への配分が増加していることが実証されない場合、政府がどのような追加措置を講じるべきかを検討します。
  • フリーポート特別租税地のサンセット条項の日付が(二次法を通じて)次のように延長されます:英国のフリーポートに関する特別税制地域については2031年9月30日まで、スコットランドのグリーンフリーポートおよびウェールズのフリーポートに関する特別税制地域については2034年9月30日までとなっています。
  • 政府はまた、グレーター・マンチェスター、リバプール・シティ・リージョン、ノースイースト、サウス・ヨークシャー、ウェスト・ミッドランズ、ティーズの6つのインベストメントゾーンの詳細と、これらのゾーンが利用可能な資金をどのように利用するか(これらのゾーンに企業を誘致するための税制優遇措置の提供を含む)を発表しました。
  • 政府は、2024年4月18日に、さらなる税務行政・維持に関する発表を行う予定です。いずれの発表も、2024年春季財政法案での立法を必要とするものではありません。これには、アンブレラカンパニー(契約社員とフリーランス専門家の雇用者)市場におけるコンプライアンス違反に取り組むための次のステップが含まれる可能性があります。

日本に拠点を置くUK Tax Deskチームは、上記およびその他の英国税制の動向が、企業グループのビジネスに与える影響を理解するお手伝いをします。

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※所属・役職は記事公開当時のものです