EUDR(欧州森林破壊防止規則):12カ月の適用延期と追加ガイダンスの公表


  • 欧州委員会は欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始時期について、2025年12月30日への延期と、追加ガイダンスを発表。
  • 本延期は、影響を受ける企業に十分な対応期間を与えるための措置であり、影響を受ける企業においては、本延長期間を利用して本規則の遵守に必要な態勢整備に着手することが求められる。

欧州森林破壊防止規則(EUDR)の複雑性や世界にもたらす影響に関する国際的に幅広い対話、調査およびステークホルダーからの情報提供を受け、欧州委員会は2024年10月に以下の公表を行いました。

1.   EUDRの適用日を12カ月延期
2.   EUDRに関する正式なガイダンスの発行
3.   FAQ(よくある質問)の更新
4.   国際協調に対する戦略的枠組み
 

発表内容の主な5つのポイント

1.   EUDRの適用日は、大企業で2025年12月30日、小規模・零細企業で2026年6月30日に延期。
2.   具体的なシナリオや40件の質問が付け加えられた詳細なガイダンスが公表され、以下のポイントが明確化されました。

  • 主な定義(「対象」製品など)
  • 合法性の要求事項
  • さまざまなサプライチェーン運用モデルにおける役割と責任
  • EUDRの要求事項の対象となる非EU企業の義務
  • 包装材に関する要求事項
  • トレーサビリティ義務
  • 土地区画情報(ポリゴン)の利用
  • ITシステムの仕様
  • 罰則の可能性
  • 適用される移行期間

3.   国際協調に関する戦略的枠組み案には、資金拠出に関する原則、優先的に対策すべき分野および各国を分類するベンチマーキング手法に関する一般原則が概説されています。改正後のスケジュールでは、各国の低リスクまたは高リスクへの分類は2025年6月30日までに開示されることとされています。
4.   EUは2024年10月後半に情報システムに関するオンライン研修を開催する予定です。企業によるデューデリジェンス・ステートメントの提出は、この情報システムを通して行われることになります。
5.   12カ月間の猶予期間は企業において本規則の遵守体制を整備する最後の機会を提供するものであり、この期間を利用した体制整備の対応が求められます。欧州委員会は、「延長案は本規則の目的や実態に疑問を呈するものでは全くない」と強調しました。EUのITシステムはテスト段階を終え、EUDRの適用を前に準備が整う予定です。

このような各種明確化により、EUDRの遵守体制整備を継続する必要性が事実上強調されたといえます。なお違反した場合、多額の罰金、EU市場や公的調達プロセスからの一時的な排除、国によっては取締役個人に対する賠償責任など、重大な影響をもたらす可能性があります。
 

12カ月延期以外の知見

上述の通り、最近発行されたガイダンスやFAQ(よくある質問)により、いくつかのシナリオや不透明な点が以下のように明確化されています。

  • 複合製品や、対象コモディティおよび製品のすべてがデューデリジェンス対象となるか否か
  • EU域外を拠点とする事業者の義務と、情報システムへのアクセス
  • 関連製品の自社での使用、および「being placed on the market(市場投入)」に該当する条件

広範な追加ガイダンスが公表されたものの、実務上重要ないくつかの問い(例:包装材の種類とその対象となる条件)については未回答のままとなりました。
 

準備を整えるには

改正後の適用日である2025年12月30日はかなり先であるように感じられるものの、多くの企業が、この過去1年でEUDRの自社への影響の検証や体制整備を行うには、時間的に不十分であるという経験をされたと思われます。したがって、EUDR対象品目を扱う企業においては、この追加の12カ月間の「段階的導入」期間を利用して、適切なサプライチェーン戦略を導入し、有効なシステムおよびプロセスでその戦略を補完し、関連するサプライチェーン全体でトレーサビリティを達成していくことが重要になってくると考えられます。

一方で、最近の公表文書では、デューデリジェンスについて定めたEUDRとその他の規則、特に今後予定されている企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive:CSDDD)との間に重複があることも浮き彫りになっています。各種規制の遵守に向けた取り組みにおいては、不必要に重複した取り組みを回避し、一貫した合理的な対応が求められます。

EUは気候変動対策や生物多様性保護に力を入れており、森林破壊や森林劣化はこの問題に大きく寄与していることから、サプライチェーンが森林破壊に関与していない状態を維持し、法的基準を遵守することが今後も企業に期待されると考えられます。

以上より、企業の取り組みにおいて以下の点が重要なポイントになると考えられます。

  • EUDRの遵守に不可欠な態勢整備について、遅滞なく開始、またはすでに着手した取り組みを継続していくこと
  • サプライチェーン全体で社内連携や協調を促進することによって不必要な作業を抑え、遵守プロセスの効率性を最大化すること

EUDRの背景については、EY Japanウェブキャスト「欧州環境規制(CBAM・欧州森林破壊防止法)に対して企業のサプライチェーン担当者が取るべきアクション」をご覧ください。EUDRへの態勢整備に関する追加の情報やサポートを必要とされる場合は、以下のEUDR担当者にお問い合わせください。
 

お問い合わせ先

EY税理士法人
今井 遼子 アソシエイトパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです


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