OECD、ICAPリスク評価に参加する多国籍企業向けの主要文書パッケージを更新

エクゼクティブサマリー

2025年1月29日、OECD税務長官会議(Forum on Tax Administration:FTA)は、国際的コンプライアンス確認プログラム(International Compliance Assurance Program:ICAP)への参加のための主要文書パッケージに関する追加情報を公表するため、ウェブサイトを更新しました。この主要文書パッケージは、選定段階終了後、リスク評価段階開始前に提出されるものです。OECDのウェブサイトには現在、主要文書パッケージ用の以下のテンプレートが含まれています。

  • 主要文書パッケージ-チェックリスト
  • 対象取引スケジュール

さらに、主要文書パッケージの一部として国別報告書(CbCR)の自己評価を作成するという要件が廃止されました。


詳細解説

背景

ICAPは、複数の税務当局が協力して、多国籍企業(MNE)のリスク評価を同時に行うための自主的なリスク評価・保証プログラムです。参加する税務当局は、参加するMNEが低リスクであると考えられる場合、一定期間、対象取引については追加の税務調査が行われにくくなることでMNEに一定の税の確実性を提供します。

2018年1月、ICAPの最初のパイロットプログラムが開始され、8つの税務当局が参加しました。第2回目のパイロットプログラムは2019年3月に開始し、19の税務当局が参加しました。ICAPは2021年9月に完全なプログラムとなり、現在23の国・地域が参加しています。プログラムの運用についてはICAPハンドブックに記載されており、OECDは2024年1月に最初のICAP統計を公表しました1。ICAPに関するよくある質問(FAQ)は定期的に更新され、ICAPの利点、提供される安心感のレベル、MNEグループがICAPに適しているかどうかを判断する際に考慮すべき要素、ICAPへの申請方法に関する情報が含まれています2

ICAPへの申請時に提供する情報は、MNEが通常の移転価格コンプライアンスサイクルの一環として保持することが期待されている資料に加え、ICAP申請用に特別に作成された追加情報を含みます。OECDはウェブサイト上でテンプレートを公開しています。

必要な情報は、(1)選定文書パッケージと(2)主要文書パッケージの2つのセクションに分かれています。選定文書パッケージの詳細は、2024年7月に公表されました3。構成要素は以下の通りです。

  • MNEグループ情報フォーム(テンプレートあり)
  • 対象リスクの概要(テンプレートあり)
  • 直近の期間の国別報告書
  • 直近の期間の移転価格マスターファイル
  • MNEグループの現在のグローバル構造の概要(マスターファイルに含まれていない場合)
  • 事前確認(APA)および税務ルーリングのリスト(テンプレートあり)

OECDのウェブサイトでは、ICAP結果通知書のテンプレートも公開されています。このテンプレートには、税務当局が自国の法的要件を満たすためにテンプレートを適応させることが記載されていますが、結果通知書の構成はおおむねテンプレートに従うことになります。


主要文書パッケージの更新

主要文書パッケージは、(1)主要文書パッケージ-チェックリストと(2)対象取引スケジュールの2つのパートで構成されています。


主要文書パッケージ-チェックリスト

チェックリストには、選定段階の後に提出する必要のある情報が記載されています。

  • 選定文書パッケージの一部として提供される文書の更新
  • 対象取引スケジュール(テンプレートあり)
  • 全ての対象期間に関する移転価格ローカルファイル(または同等の情報)
  • 全ての対象期間に関する監査済み連結財務諸表
  • MNEグループの税務戦略(文書化されていれば、税務管理体制〈Tax Control Framework:TCF〉4の詳細を含む)
  • MNEグループのバリューチェーン分析
  • 恒久的施設に関する文書

主要文書パッケージの更新により、CbCRの自己評価は主要文書パッケージの一部としてもはや必要ないと記載されています。


対象取引スケジュール

OECDは、各対象期間におけるMNE申請者の対象取引に関する必要な情報を網羅したテンプレートのスプレッドシートをウェブサイト上で公開しています。

  • 対象取引の関連者である法人
  • 法人の納税者番号
  • 対象取引の関連者の税務上の居住国
  • 対象取引の簡単な説明
  • 対象取引がAPAの対象であるか否か
  • 対象取引の価額
  • 適用された移転価格算定方法
  • 移転価格算定方法の適用に使用されたベンチマークの範囲および検証対象企業
  • 対象取引の実績値
  • 対象期間ごとに変更がある場合の説明(該当する場合)

全ての対象期間に関するローカルファイル

各対象国・地域内の全ての事業体について、全ての対象期間に関する移転価格ローカルファイル文書を提供する必要があります。対象国・地域においてローカルファイルを作成する義務がない場合は、同等の情報および文書を提供することができます。


全ての対象期間に関する監査済み連結財務諸表

監査済み連結財務諸表が作成されていない場合は、未監査の連結財務諸表または試算表を提供する必要があります。


MNEグループのバリューチェーン分析

マスターファイルですでに記載されている場合を除き、MNEグループのバリューチェーン分析(外部および内部の利益ドライバーと、利益が経済活動とどのように関連しているかの説明)を提供する必要があります。バリュードライバーが大きく異なる場合、この分析ではMNEグループが提供する5つの主要な製品およびサービスについて取り上げる必要があります。


恒久的施設(PE)に関する文書

必要なPEに関する文書は以下の通りです。

  • 報告された全てのPEおよび営業活動を行っていない支店のスケジュール
  • 対象国・地域におけるPEおよび営業活動を行っていない支店に関する全てのプロテクティブ・ファイリングのリスト(プロテクティブ・ファイリングに至った活動の簡単な説明と、事業利得条項およびPE条項に基づく租税条約の恩恵を申請する根拠を含めること)
  • PEの財務データ(収益、所得、支出、資産、負債を含む)
  • PEへの利益の帰属を示す移転価格文書(例:機能分析)


影響

主要文書パッケージの更新により、ICAPの要件に関する実用的な情報が提供されます。さらに、CbCRの自己評価の作成要件が廃止されたことで、申請プロセスが簡素化されます。ICAPへの参加を検討している企業は、更新された資料を確認する必要があります。

現在利用可能なさまざまな紛争防止・解決メカニズムを活用することで税の確実性を高めることは、今日の絶え間なく変化する環境における税務およびビジネスのリスク管理の重要な側面です。この点に関して、ICAPを通じた共同調査は、2024年11月のOECD税の確実性の日5において、ICAP統計に反映されているように大きな成果を挙げていると報告されました。今後、ICAPをはじめとした税の確実性メカニズムは、第2の柱のグローバル・ミニマム課税ルールの実施と管理において、納税者と税務当局の双方にとって重要な役割を果たすでしょう。

巻末注

  1. 2024年1月31日付EY Global Tax Alert「OECD publishes ICAP statistics」、2024年3月1日付EY Japan税務ニュース「OECD、ICAP統計を発表」をご参照ください。
  2. 2024年6月7日付EY Global Tax Alert「OECD releases updated FAQs for MNEs participating in ICAP risk assessments」をご参照ください。
  3. 2024年8月21日付EY Global Tax Alert「OECD releases selection documentation package for MNEs participating in ICAP risk assessments」をご参照ください。
  4. OECDは税務管理体制(Tax Control Framework:TCF)を「企業が行う税務申告および開示の正確性と完全性を保証する内部統制システムの一部」と定義しています(OECDの「Co-operative Tax Compliance: Building Better Tax Control Frameworks」、p.7、2016年を参照)。
  5. 2024年11月20日付EY Global Tax Alert「OECD holds Tax Certainty Day addressing dispute prevention and resolution developments」をご参照ください。

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EY税理士法人

西村 淳 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです