欧州議会、欧州委員会が提案した炭素国境調整メカニズム(CBAM)手続きの簡素化を承認


  • 2025年5月22日、欧州連合(EU)議会は、欧州委員会が提案した炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関するオムニバス簡素化パッケージ法案第1弾を承認した。
  • 欧州議会は当該承認に当たって、欧州委員会の草案に修正を加えなかった。
  • 後続のステップとして、法案は欧州理事会との協議を経て最終決定される必要がある。


エクゼクティブサマリー

2025年5月22日、欧州議会は、欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)に関するオムニバス簡素化パッケージ法案第1弾を承認しました。

詳細

背景

2025年2月26日、欧州委員会は、CBAM制度の機能を維持しつつ、企業の事務負担を軽減するためのCBAM規則の簡素化案を提案しました。提案の主な内容は、年間50トンを超えるCBAM対象製品を輸入する事業者のみをCBAM上のコンプライアンス義務の対象とし、それ以外を適用除外とする基準を設けることです。この新たな基準により、現在の輸入者の90%がCBAM認可申告者となるための申請手続き対象から除外される見込みです。このようなCBAM適用基準の引き下げが採用された場合でも、CBAM対象製品の体化排出量のうち約99%は依然としてCBAM規則によってカバーされることになります(詳細については、2025年3月3日付EY Global Tax Alert「European Commission releases Omnibus Package I proposal to simplify EU Carbon Border Adjustment Mechanism regulation」および2025年3月24日付 EY Japan税務ニュース「欧州委員会、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)規則を簡素化するためのオムニバスパッケージ法案を発表」をご参照ください)。

投票後、報告者のアントニオ・デカロ議員(社会民主進歩同盟〈S&D〉、イタリア)は次のように述べました。「CBAMは、EUがカーボンリーケージを防ぎ、EU域外での気候変動対策にインセンティブを与えるための重要な手段です。したがって、欧州議会がCBAM法案の他の条項について再審議を行わないと決定したことを嬉しく思います。このアプローチにより、CBAMを廃止したり弱体化させたりすることなく、企業にとっての手続きを簡素化することが可能になります。私たちは、全てのCBAM関係者に法的な明確性と確実性をもたらすため、引き続き迅速に取り組んでまいります」


次のステップ

次に、欧州議会は欧州理事会と法案の最終案について協議を行います。その後、EU官報に最終的な規則が掲載される見通しです。


予想される影響

CBAM簡素化法案は、CBAM規則の対象となる欧州の事業者が当該規則への対応を行うに当たって明確さを提供するものとなっています。特に、電気および水素を除くCBAM対象製品をEU域内へと輸入する場合、その輸入量が年間で50トンの適用除外基準を超えない全ての輸入者は、CBAM上の義務が免除されることとなります(ただし、CBAM対象製品の申告を実施する間接代理人は除きます)。簡素化法案に基づくこのような変更により、対象となる事業者の事務負担は大幅に軽減されます。さらに、提案されている手続きの簡素化により、CBAM申告のプロセス自体にも緩和がみられると考えられます。一方、現状においてはEU加盟国の代表からなるEU理事会が、欧州議会との間で簡素化案の修正を交渉するかどうかはいまだ不明となっています。

いずれにせよ、2025年中には、CBAM規則の詳細を定める複数の追加的な法令が制定されると予想されています。例えば、CBAMの対象となる製品を拡大する法令が、2025年末に制定される見通しです。対象製品の範囲が拡大され次第、多くの企業が再びCBAMの適用対象となり得ると見込まれています。

CBAMは、現在影響を受けていない企業や、CBAMの適用除外基準の対象となる見込みがある企業であっても、体化排出量の多い環境での生産が一般的な製品を輸入している場合には、本件を最優先事項として検討する必要があります。企業はCBAMに関する情報収集、理解促進および従業員のスキル強化に注力するとともに、CBAMに関連する一連のプロセスを管理するための能力構築や、事業戦略の視点からのCBAM対応計画策定を行う必要があります。CBAMの適用拡大およびコストの増加は、競争力に大きな影響を与える可能性があります。対応計画の立案やその最適化の観点からは、特例的な通関制度の活用や、炭素排出量の少ない製品の戦略的な調達も有効な策として挙げられます。


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