米国大型税制改正可決~日本企業への影響

2025年7月4日米国独立記念日に、トランプ大統領の署名をもって「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」が正式に法制化されました。2017年の第1次トランプ政権下で成立した「Tax Cut and Jobs Act(TCJA)」の個人所得税その他の減税規定の多くが2025年末の自動失効を迎えることなく恒久化されています。OBBBAは税法だけでなく国防、国境警備、エネルギー政策その他を広範にカバーしていますが、当税務ニュースでは日本企業に関心が高いと思われるクロスボーダーおよび米国事業所得に関する税制のサマリーをお伝えします。

なお、OBBBAは可決したばかりで1,000ページを超える法律ですので、サマリーは現時点の理解であり、実際の適用に際しては必ず個々に取り扱いを確認する必要があります。


クロスボーダー

OECDのグローバル・タックス・ディール対抗措置

  • OECD・G7が「米国親会社グループには第2の柱の適用はなし」と合意し、米国財務省が主張していた「Side-by-Side(米国の課税権が及ぶ所得に第2の柱は触れないこと・他国間で第2の柱を適用する分には米国は関与しないというアプローチ)」が認められたことから、対抗措置として提案されていたセクション899は取り下げ
    • 合意ではインバウンド米国現地法人に対する親会社側のIIRの適用可能性には触れていない
  • セクション899が問題視していた第2の柱以外の税制(例:DST)への対処は当面関税交渉等と絡めて国別対応になると思われるが不明
    • 1934年から存在するセクション891の発動可能性は以前から常に存在し、1月20日の「アメリカファーストの貿易政策」と題する大統領令が潜在的な発動に触れているが現時点で発動可能性は不明


BEAT

  • ほぼ現状維持だが、BEATミニマム税率を10%から10.5%に引き上げ
    • 審議過程の提案で導入が期待された、「相手国がBase Erosion Paymentに18.9%以上の税金を課している場合Base Erosion Paymentから除外する」という「High Tax Exception」は取り下げ
  • 2026年1月1日以降に開始する課税年度から適用


GILTI

  • 旧「Global Intangible Low-Taxed Income(GILTI)」合算は、改訂に伴い「net CFC tested income(NCTI)」合算と改名されて恒久化
  • GILTI/NCTI想定控除率を50%から40%に引き下げ
  • CFC合算所得算定時にCFC所得(Tested Income)からマイナスが認められていた「みなしルーティン所得(Net Deemed Tangible Income Return)」を廃止
    • みなしルーティン所得はTested Incomeを認識する各CFCの有形資産の米国税務簿価(ADSベース)の10%からCFCの特定支払利息をマイナスした額


GILTI/NCTIバスケットFTC

  • GILTI/NCTIバスケットFTC対象外国法人税制限率を80%から90%に緩和
    • GILTI/NCTI合算課税済みのCFC留保所得分配時に認められるFTC対象額も90%制限率適用
  • GILTI/NCTIバスケットに配賦・按分される米国株主側の費用を原則「GILTI/NCTI控除」に限定
    • 他にGILTI/NCTIに直接配賦される費用があればそれらも配賦・按分対象
    • 支払利息およびR&D費用の按分・配賦は不要と規定され、従来の規定でGILTI/NCTIバスケットに配賦・按分されていた費用は米国源泉所得のみに配賦・按分(他のFTCバスケット限度額をマイナスしない)
  • 2026年1月1日以降に開始する課税年度から適用


FDII

  • 旧「Foreign-Derived Intangible Income(FDII)」控除は改訂に伴い「Foreign-derived deduction eligible income」控除と改名されて恒久化(ここでは便宜上FDIIという用語を使用)
  • FDII想定控除率を37.5%から33.35%に引き下げ
  • 米国法人のFDII控除計算時にマイナスが求められていた「みなしルーティン所得(Deemed Tangible Income)」の廃止
    • みなしルーティン所得は米国法人の有形資産の米国税務簿価(ADSベース)の10%
  • 2026年1月1日以降に開始する課税年度から適用


Downward attribution

  • CFC判断時の外国人から米国人への「Downward attribution」適用除外復活
    • 2017年TCJAで「De-Control」と呼ばれるCFC課税回避プランニングに網を掛ける目的でDownward attributionが適用されるようになったが、その適用関連者に限定されていなかったため実際には広範な適用がありDownward attribution適用除外の復活が望まれていた
  • Downward attribution適用除外を復活させる代わりに「Foreign controlled foreign corporation」の「Foreign controlled United States shareholder」にCFC・NCTI(旧GILTI)合算課税を適用する制度導入
    • 「Foreign controlled United States shareholder」とはDownward Attributionを適用し、外国法人の50%超の持分(議決権・価値のいずれか)を所有する米国人
    • 「Foreign controlled foreign corporation」とはDownward Attributionを適用しForeign controlled United States shareholderに50%超の持分(議決権・価値のいずれか)を所有されるCFC以外の外国法人


CFC合算課税対象米国株主と合算持分

  • 従来のCFC合算課税制度は、外国法人がCFCに区分される「最終日(株主に変更がなければ通常は外国法人の期末日)」に直接または間接にCFC持分を所有する米国株主が対象だったが、新規定においては外国法人がCFCに区分される課税年度を「CFC課税年度」と定義し、CFC課税年度内にCFCの米国株主だった者は(CFC最終日に持分を所有しているか否かにかかわらず)各自が自己所有期間に対応持分を対象とする制度に変更
  • 2026年1月1日以降に開始するCFCの課税年度から適用


セクション954(c)(6)(C)Look-through規定恒久化

  • セクション954(c)(6)(C)はCFCが他の関連者CFCから受け取る配当、利息、賃貸、ロイヤルティが支払い側CFCのSub FまたはECI以外の所得を源泉としている場合、受け手側のSub F所得(Foreign Personal Holding Company Income)から除外する規定
    • セクション954(c)(6)(C)は時限立法で延長を繰り返し2025年末で再度失効予定だったもので、恒久化が望まれていた


CFC課税年度1カ月期ズレ例外廃止

  • CFCの米国税務目的課税年度は支配米国株主の課税年度に合致することが原則だが、従来はCFCが1カ月早期に終了する課税年度の選択が認められていたものを撤廃
  • 2025年12月1日以降に開始するCFC課税年度から適用(経過措置あり)


FTC限度額と棚卸資産販売益

  • FTC限度額計算目的で米国人が「米国内で生産」し「米国外事務所の関与により」米国外販売している棚卸資産販売益は、米国外事務所関与に帰する額(50%上限)を米国外源泉とする
    • 現状は納税者が自ら生産する棚卸資産販売の源泉地は生産場所のみに基づいて判断


米国事業所得

セクション163(j)支払利息損金算入制限

  • セクション163(j)はATIの30%を超えるネット支払利息の損金算入を認めず、超過額は無期限に繰り越す規定
  • 2025年1月1日以降に開始する課税年度に過去遡及して「Adjusted Taxable Income(ATI)」算定時に償却費用(Depreciation/Amortization)加算復活
  • ATIからCFC合算課税額(Sub F・Net CFC Tested Income)除外
  • 支払利息が資産計上される場合も損金算入される支払利息同様に発生時にセクション163(j)対象
    • ただしセクション263(g)またはセクション263A(f)で法的に資産計上が求められる支払利息には不適用(それらの支出はセクション163(j)制限対象外)
    • セクション163(j)制限適用後に損金算入が認められる額をセクション163(j)がなければ資産計上したであろう金額を全額資産計上
    • セクション163(j)制限枠に抵触し後年に繰り越される額は将来課税年度において資産計上対象にはならない
  • 2026年1月1日以降に開始する課税年度から適用(償却費用加算以外)


即時償却

  • 2025年1月19日以降に使用開始される適格資産に100%即時償却適用復活・恒久化
    • 引き続き即時償却不適用選択あり
  • 2025年1月19日以降に終了する最も直近の課税年度に関しては納税者の選択で100%の代わりに40%(特定の資産は60%)のボーナス償却を適用することができる


適格製造施設

  • 適格製造施設の使用開始年度に全額損金算入の選択を可能とする新制度
  • 適格製造施設とは次の条件を満たす資産
    • 居住・オフィス目的外の不動産(建造物・構築物)であること
    • 適格生産活動に不可欠な資産であること
    • 米国領土・保護領内で事業用途に供されること
    • 2025年1月20日以降2028年12月31日以前に着工され2030年12月31日以前に事業用途に供される資産であること
    • 納税者が新規に使用する(中古ではない)資産であること


研究開発支出

  • 米国内研究開発支出に関して、2025年1月1日以降に開始する課税年度から過去遡及適用で発生年度に全額損金算入復活
    • 便益が実現した時点から60カ月以上の期間で定額償却選択可能
    • 支出時点から10年間で定額償却選択可能
  • 米国外研究開発支出に関しては引き続き資産計上の上15年で定額償却
  • 2022年1月1日から2024年12月31日までに発生した米国内研究開発費を資産計上している場合は、以下のいずれかを選択可能
    • 5年での償却を継続
    • 2025年1月1日以降に開始する課税年度において未償却残高を損金算入
    • 2025年1月1日以降に開始する課税年度およびその翌年度に半額ずつ損金算入
  • 全世界関連者グループベースで2022~2024課税年度平均売上3,100万米ドル以下の小規模事業は2022年1月1日以降に開始する課税年度に早期適用選択


少額資産費用化

  • 減価償却の対象となる有形動産の少額資産費用化上限を125万米ドルから250万米ドルに引き上げ
    • 年間に使用開始する有形動産の総額が制限額を上回ると、超過額をもって少額資産費用化上限額が逓減されるが、この制限額を313万米ドルから400万米ドルに引き上げ
    • 上限額・制限額はともにインフレ調整対象
  • 2025年1月1日以降に使用を開始する適格資産に適用


エネルギークレジット段階的撤廃

45X条:先進的部品生産税額控除(PTC)

  • 特定の部品(太陽光発電関連部品、風力発電関連部品、インバーター、適格バッテリー関連、重要鉱物)の販売売上高に基づく税額控除制度
  • 2028年1月1日以降に製造・販売された風力発電機器について不適用
  • 2030年1月1日以降に製造された冶金用石炭について不適用
  • OBBBA成立後に開始する課税年度について、冶金用石炭の税額控除率を2.5%に引き下げ
  • その他の適格重要鉱物について、税率控除を2031年には従来の75%、2032年には50%、2033年には25%、2034年以降は0%とし段階的撤廃
  • 2027年以降、適格部品に組み込まれるパーツは適格部品と同じ工場で製造されなければならない
  • 製造コストベースで適格部品に組み込まれるパーツの65%以上が国内製造品でなければならない
  • 特定の外国関連事業体等への税額控除付与を制限・禁止


45Y条:クリーン電力生産税額控除(PTC)

  • 風力発電、地熱発電、太陽光発電等による発電量に基づく税額控除制度であり、2024年で失効した再生可能エネルギー発電税額控除制度(45条)の後継制度
  • OBBBA発効12カ月以降に着工し、2028年1月1日以降に使用開始する風力・太陽光発電設備について不適用
  • 小規模風力設備および太陽光温水設備については、第三者に賃貸している設備を適用対象外とする
  • 特定の外国関連事業体等への税額控除付与を制限・禁止
  • 排出量係数テーブルの計算方法の一部変更


45Z条:クリーン燃料生産税額控除(PTC)

  • 適格施設において2025年~2027年に製造された低排出燃料の生産量に基づく税額控除制度
  • 適用期間を2030年12月31日まで3年間延長
  • 2025年1月1日以降、SAFに関する上乗せ税額控除を撤廃
  • 2026年以降は米国、カナダ、メキシコ産原料のみを使用していることを条件とする
  • 小規模農業バイオディーゼル税額控除は2026年12月31日販売分まで適用を延長し、2025年7月1日以降製造分については、米国、カナダ、メキシコ産原料のみを使用していることを条件に、1ガロンあたりにつき10セントから20セントへ引き上げ
  • 特定の外国関連事業体等への税額控除付与を制限・禁止
  • 排出量係数テーブルの計算方法の一部変更


その他の生産税額控除(PTC)

  • 45V条:クリーン水素生産税額控除
    • 2028年1月1日以降に着工する設備について不適用(2032年12月31日終了予定を前倒し)
  • 45L条:省エネ住宅建設税額控除
    • 2026年7月1日以降に販売した住宅について不適用(2032年12月31日終了予定を前倒し)
  • 45W条:適格商用クリーン車両税額控除
    • 2025年10月1日以降に取得された車両について不適用(2032年12月31日終了予定を前倒し)
  • 45Q条:酸化炭素(COx)回収税額控除
    • OBBBA発効後直ちに酸化炭素の回収・使用に対する税額控除を回収・貯留に対する税額控除と同額に引き上げ(シェールガス開発における利用を促進)
  • 45U条:ゼロ排出ガス原子力発電生産税額控除
    • 特定の外国関連事業体等への税額控除付与を制限・禁止


48E条:クリーンエネルギー生産設備投資税額控除(ITC)

  • 太陽光発電、地熱発電、小規模陸上風力、電力貯蓄、燃料電池、マイクロ・タービン、廃棄エネルギー回収等の設備への投資額に基づく税額控除制度であり、2024年で失効した再生可能エネルギー発電設備投資税額控除制度の後継制度
  • OBBBA発効12カ月以降に着工し、2028年以降に使用開始する風力・太陽光設備に係る適格資産(エネルギー貯留テクノロジーを除く)について不適用
  • OBBBA発効後に開始する課税年度において、第三者にリースされている太陽光・風力整備について不適用
  • 2025年6月16日以降に着工する適格マイクロ・タービン資産、太陽光資産、地熱エネルギー資産について不適用
  • 2026年以降に着工する適格燃料電池関連資産に関する税額控除を最大30%に引き上げ、当該資産を据え付ける施設の温室化ガス排出レベル要件を免除する
  • 2025年6月16日以降に開始する課税年度において、国内要件に基づく税額控除の割り増しに必要な国内生産割合を段階的に引き上げ
  • 特定の外国事業体に対して特定の支払いを行った場合、税額控除は返納
  • 特定の外国関連事業体等への税額控除付与を制限・禁止


48C条:先進エネルギープロジェクト投資税額控除(ITC)

  • 特定のクリーンエネルギー関連製品(再生可能エネルギー〈風力・太陽光・地熱等〉、エネルギー貯蔵、電気自動車、スマートグリッド、再生燃料、省エネ、温室効果ガス削減等に関連する製品および特定の重要素材)を製造する設備の新設・拡張・再装備に関する投資額に基づく税額控除制度
  • 総額100億米ドルの税額控除をプロジェクト内容の審査により申請者に配分(40億米ドルはエネルギー・コミュニティーのプロジェクト用)
  • 認証申請資格を得た納税者は、2年以内にプロジェクトが認証要件を満たしていることを証明し、認証から2年以内にプロジェクトを開始しなければならない
  • 認証から2年以内にプロジェクトが開始できない場合は、認証を取り消して税額控除を他の申請者に再配分するとされていたが、OBBBAでは再配分を禁止


48D条:先進的製造設備投資税額控除(ITC)

  • 半導体および半導体製造機器の製造設備への設備投資に25%の税額控除を与える制度
  • OBBBAで税額控除率を30%に引き上げ


その他のエネルギー関連改正条項

  • 太陽光・風力発電設備資産へのMACRS法5年加速度償却の不適用(2025年1月1日以降に着工の設備について不適用)
  • 省エネ住宅改築税額控除制度の撤廃(2026年1月1日以降に使用開始する資産について不適用)
  • 住宅用クリーンエネルギー機器税額控除制度の撤廃(同上)
  • クリーン車両に対する税額控除制度(新車7,500米ドル、中古車4,000米ドル)の撤廃(2025年10月1日以降取得の車両について不適用)
  • 代替燃料車充填設備税額控除制度の撤廃(2026年7月1日以降に使用開始する資産について不適用)


その他

  • 個人納税者が認識するQualified Small Business Stock (QSBS)譲渡益の非課税%を段階的に100%に増額し所有期間要件も5年から3年に短縮
  • 個人納税者が認識する適格事業所得(パススルー主体・S Corporationから配賦される適格事業所得を含む)に対する20%想定控除の減額トリガー所得レベルの増額(単身5万米ドルから7万5,000米ドル、夫婦合算10万米ドルから15万米ドルに引き上げ)
  • Opportunity Zone指定の一部恒久化
  • 個人による送金に1%のExcise Tax(米国銀行からの送金等免除あり)
  • 就労権のある社会保障番号(SSN)所持者は還付請求権
  • 最終組み立て工程が米国の新車(オートバイ含む)取得ローン金利を年間1万米ドルまで控除
  • 7歳以下の米国市民権を所有する子供を持つ親(少なくともどちらか親が就労権のあるSSN所有)が開設し両親、親戚、第三者が拠出・子供が18歳になると引き出し可能な貯蓄口座(トランプ口座)を新設
  • 遺産税非課税枠1,500万米ドルを恒久化


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