米国財務省および内国歳入庁、上場企業の特定のインバウンドF型再編に対するFIRPTA規則の緩和を発表

  • 通達2025-45は、上場法人が登記場所を米国外から米国に変更する際のF型再編に対するFIRPTA適用にかかわる優遇措置を公表した。
  • また、本通達では、F型再編適格性判断時に再編プラン外で生じる株主変動はF型再編適格に悪影響を及ぼさないことも明確にしている。

2025年8月19日、米国財務省および内国歳入庁(IRS)は、IRCセクション897(d)および(e)(FIRPTA規則)にかかわる規則草案発行意向を通達2025-45(以下、「本通達」)で表明しました。これらの規則草案は、米国不動産持分(USRPI)の移管を伴うインバウンドIRCセクション368(a)(1)(F)(F型再編)に適用されます。特に本通達が対象としているのは、外国に登記される上場法人(上場外国法人)がF型再編を通じて米国登記の上場法人(上場米国法人)となる組織再編(適用対象インバウンドF型再編)の一環で生じる資産移管および分配です。また、財務省とIRSはF型再編の適格要件を規定している財務省規則セクション1.368-2(m)の要件の一部を緩和する規則草案発行の意向も表明しました。

本通達は、本来ならばF型再編として非課税となる取引に対しFIRPTA規則の適用により課税が生じる現行制度が、上場外国法人から上場米国法人に変更(米国へのRe-Domicile〈レドミサル〉)を実行しようとする際の障害となる危惧に対処しています。

本通達では、今後公表される規則草案は、2025年8月19日以降に実行される適用対象インバウンドF型再編時の資産譲渡、分配、交換に適用開始予定であるとしています。納税者は、規則草案が公表される前に、適用対象インバウンドF型再編に関して本通達のガイダンスに依拠することができますが、依拠する場合はガイダンスの全規則を一貫して適用することが条件となります。納税者はまた、規則草案が公表される前に、財務省規則セクション1.368-2(m)に基づくガイダンスに依拠することもできます。本通達に対するパブリックコメントの提出期限は2025年10月20日とされています。


背景

FIRPTAの概要

一般にFIRPTAでは、非居住者外国人個人または外国法人(外国人)が得るUSRPI譲渡損益をみなし事業所得(ECI)として取り扱うことで、結果として譲渡益は累進税率に基づく米国連邦所得税・法人税申告課税対象となります。USRPIには米国不動産そのものばかりでなく米国法人の持分(単なる債権者としての持分を除く)が含まれますが、持分処分前5年間(または納税者の法人持分所有期間が5年未満の場合は所有期間)のテスト期間において、その法人が一度も米国不動産保有法人(USRPHC)ではなかったことを立証できる場合はこの限りではありません。

USRPHCとは、法人が保有する米国不動産持分の時価が、その米国不動産持分、外国不動産持分、事業資産の合計時価の50%以上を占める法人を指します。ただし、公認証券市場で定期的に取引されるクラスの株式は、USRPIではないと定めています(上場株式例外)。上述のテスト期間中のいずれかの時点で5%を超える対象株式を保有する者には上場株式例外の恩典は認められません。


非課税規則とFIRPTA

通常であれば適格組織再編または適格現物出資等の非課税規則に基づき非課税となる取引でも、FIRPTA規則では外国人によるUSRPIの分配または譲渡は一定の要件(後述)が満たされない限り課税取引としています。

外国法人によるUSRPIの分配(清算分配および償還を含む)に関してFIRPTA規則に基づき外国法人が認識する譲渡益は、そのUSRPIの時価が税務簿価を超える額となりますが、以下2つのいずれかの条件を満たす場合、譲渡益認識の例外が適用され通常の非課税規則が適用されます。

(1)   分配時に、(a)分配を受ける者によるその後のUSRPI処分が米国の課税対象であり、かつ(b)USRPIの税務簿価が分配前に分配法人が認識しているUSRPIの税務簿価(分配法人が譲渡益を認識する場合は譲渡益を加算した額)を超えない場合

(2)   財務省規則に非課税の取り扱いが定められている場合

外国人によるUSRPI交換に関しては、財務省規則では、一般に以下の条件を満たす場合、FIRPTA規則に基づく譲渡益認識は求められないとしています。

(1)   USRPIの交換時に譲渡者が受け取る資産がUSRPIであること(USRPI対USRPI要件)

(2)   交換直後に、譲渡者が受け取った代替資産のその後の処分が米国の課税対象となること(米国課税対象要件)

(3)   譲渡者が、財務省規則および通達で定められた開示報告書提出要件を遵守すること(報告要件)


特定のインバウンド資産移管型組織再編に関連するUSRPHC株式の分配

FIRPTA規則では、外国法人がF型再編を含む特定の資産譲渡型再編を実行する際に、外国法人がUSRPHCの株式をその株主に分配・みなし分配する場合、一般にその外国法人に分配する株式の含み益を譲渡益として認識を要求しています。ただし、FIRPTA規則および通達が規定する例外要件が満たされている場合、譲渡益認識は不要です。すなわち、外国法人が次の条件を満たす場合、分配・みなし分配による譲渡益を認識する必要はありません。

(1)   その外国法人が仮に米国法人であったならば外国人株主にFIRPTA規則で課されたであろう譲渡益課税に相当する金額(トールチャージ)を、外国法人が支払うこと

(2)    分配を受ける者(すなわち、組織再編時の外国法人株主)が、その後USRPHCの株式を処分する際に米国の課税対象となること(修正米国課税対象要件)

(3)    報告要件が満たされていること

なお、トールチャージ算定の適用は過去10年間を参照する必要があります。


F型再編の概要

F型再編とは、法人格、形態、または設立地の単なる変更と定義されており、譲渡法人から再編後の法人への資産移管・みなし移管を伴うことがあります。例えば、外国法人による米国へのレドミサルは、F型再編に該当する可能性があります。

F型再編の範囲と要件を定めている財務省規則には「株主同一」要件が含まれています。この規則の下では、定められた一定の例外を除き、F型再編の直前に譲渡法人の全株式を保有していた者が、再編直後に再編後の法人の全株式を同一の割合で保有していなければなりません(株主同一要件)。


通達2025-45

本通達は、適用対象インバウンドF型再編において生じるUSRPI譲渡、分配に適用されるFIRPTA規則を改正するものです。また、組織再編のプラン外で行われる株式の持分変動はF型再編と時間的に近接して生じていても、F型再編の株主同一要件は充足されることを明確にしています。


適用対象インバウンドF型再編

上述のとおり、適用対象インバウンドF型再編は、譲渡法人が上場外国法人であり、再編後の法人が上場米国法人であるF型再編と定義されます。

外国譲渡法人は、F型再編の完了直前の3年間を通して、その株式の主要クラスが公認証券市場で定期的に取引されていた場合、上場外国法人と取り扱われます。同様に、再編後の米国法人は、F型再編の完了直後の1年間を通して、その株式の主要クラスが公認証券市場で定期的に取引されている場合、上場米国法人と取り扱われます。

「株式の主要クラス」とは、一般的に、その法人の総議決権および総価値の過半数を占める普通株式(または複数クラスが存在する場合は組み合わせ)を意味します。株式の主要クラスの取引が、財務省規則に定められる一定の期間および取引量の基準を満たす場合、「定期的に取引される」と取り扱われます。「公認証券市場」とは、米国内証券取引所または政府機関により正式に認可もしくは監督される外国証券取引所を指します。

適用対象インバウンドF型再編には、他の適格要件を満たしていても、再編プランの一環で再編後の米国法人がその株主のいずれかに資産(金銭を除く)を移管する取引は含まれません。そのような移管がF型再編から1年以内に行われた場合、移管は再編プランの一環であったという推定事実認定の対象となります。ただし、譲渡される非現金資産の時価総額が、F型再編時点での外国譲渡法人の総資産の1%未満となる場合には少額免除が適用されます。


適用対象インバウンドF型再編の非課税措置適用条件に関する改正案

本通達は、外国法人の米国へのレドミサルがF型再編となる際の、FIRPTA規則に基づく課税の弊害を緩和・解決しようとするものです。

規則草案では、適用対象インバウンドF型再編において、トールチャージの計算時に上場株式例外規定を加味することを認める見込みです。適用対象インバウンドF型再編に適用される上場株式例外規定は、外国譲渡法人が、トールチャージ算定対象期間となる過去10年間にわたり、上場株式例外の対象となるクラスの株式の5%超を保有していた株主の存在を認識していた、または認識し得たかどうかにより判断されます。譲渡法人は、公開情報の確認を含め、合理的な努力をもってこのことを確認しなければなりません。本通達には例示が含まれており、例示では適用対象インバウンドF型再編において過去10年の間に、非居住者個人株主による外国譲渡法人の株式譲渡が上場株式例外の要件を満たしていることから譲渡対象株式は非USRPIとして取り扱われ、結果として当株式譲渡はトールチャージの対象にはならないとしています(修正米国課税対象要件および報告要件は満たす前提)。

さらに規則草案によれば、適用対象インバウンドF型再編において、再編後の米国法人株式の分配を受ける者であって、分配時点でその株式が上場株式例外の対象となる場合、その者は修正米国課税対象要件を満たすと取り扱う見込みです。

また、通常報告要件に関連して求められる宣誓書は、適用対象インバウンド F型再編について再編後の米国株式分配時に上場株式例外要件を満たさない株主のみに求められると定められる予定です。

上述のとおり、一般的にUSRPIの交換に関して非課税規定が適用されるのは、USRPI対USRPI要件、米国課税対象要件、報告要件の3要件が満たされる場合ですが、規則草案は、適用対象インバウンドF型再編において、外国譲渡法人がUSRPIを、再編後の米国法人(米国新法人)の株式と交換して当該米国法人へ譲渡する場合は、上述3要件の充足有無にかかわらず非課税の取り扱いを適用すると定める予定です。この取り扱いは、USRPIの移管の対価となる米国新法人株式がUSRPIか否か、外国譲渡法人がUSRPI交換で取得した米国新法人の株式の処分が米国課税対象となるか否かを問いません。この規則により、適用対象インバウンドF型再編においては、実質的にUSRPI対USRPI要件および米国課税対象要件が排除されることになります。

従来存在する例外を除き、本通達は、報告要件は引き続き適用されることを明確にしています。ただし、交換で取得したUSRPIの説明および特定の署名入り宣言の提出は不要となります。報告には、USRPI譲渡が適用対象インバウンドF型再編に基づくものである旨の表明を含める必要があります。


株主同一要件

前述の通り、財務省規則は、取引がF型再編として認められるために満たすべき要件を定めています。本通達では、要件の1つである株主同一要件の適用時に、F型再編を構成する一連の取引の途中で譲渡法人または再編後法人の株式の売却、交換、その他の移管が発生する場合の取り扱いについて、明確化の要望を受けて規則の改正が行われています。

本通達は、財務省規則を改正し、譲渡法人または再編後法人の株式移管が再編プランの一環で行われていない場合には、株主同一要件に影響を与えないことを明確にすることを提案しています。規則草案には、この取り扱いを示す事例が含まれるとされ、事例では、上場外国法人であるP社がF型再編を介して米国へのレドミサルを達成するため、名目的な資本を出資して米国法人を設立します。そしてF型再編実行手順として、米国法人は子会社(Merger Sub)を設立し、Merger SubがP社に逆三角合併することで、米国法人が新たな上場企業となり、P社は米国法人の完全子会社となります(逆三角合併)。逆三角合併の3日後、P社はCheck-the-Box主体区分選択を行い、米国税務上支店に区分される事業体に転換されます(みなし清算)。逆三角合併とみなし清算の間の3日間に、米国法人の一部の株主が新規株主に株式を売却します。米国法人株式の売却は再編プランの一環で行われた取引ではありません。本事例では、この株式売却が再編プランの一環で行われていないため、財務省規則の株主同一要件の充足には影響しないと結論づけています。


影響

本通達は、上場外国法人の米国へのレドミサルを実行する際のインバウンドF型再編に関して、FIRPTA規則の適用を緩和し容易に非課税取引とする有益なガイダンスを納税者に提供しています。財務省およびIRSは、本通達により緩和される取引はFIRPTA規則政策上の懸念を生じさせるタイプのものではなく、現行規則は不要に米国へのレドミサルを阻害し、本来非課税となる取引に、著しいコンプライアンス負担を課している実態を認めています。

本通達は、特に一般投資家が関与する取引において、USRPHC株式の分配を受領する者が修正米国課税対象要件を満たさない可能性があるという懸念に対し、分配時点で上場株式例外要件を満たす者は、修正米国課税対象要件を満たすものとすると規定し、納税者にとって好ましい対処をしています。「合理的な確認努力」の内容については、例えばSchedule 13Gに記載された情報への依拠など、より具体的なガイダンスがあると望ましく、納税者は2025年10月20日までのパブリックコメント募集期間中にこの点や他の問題について意見を提出することを検討すべきです。

また本通達は、適用対象インバウンドF型再編に対して、USRPI対USRPI要件および米国課税対象要件の両方を撤廃するという救済措置を提供しています。米国親会社企業グループがOECD第2の柱制度の所得合算ルールや軽課税所得(UTPR)ルールの適用除外となる可能性があり、米国へのレドミサルはますます魅力的になっています。現在のこのような状況における上述の救済措置は、米国へのレドミサルを希望する納税者にとって大きな進展となります。

株主同一要件の明確化も歓迎すべき進展であり、F型再編を構成する取引の過程で偶発的に株式の売却や交換が発生するケースに対して、より高い確実性を提供します。再編プランの一環で行われていない限り、そのような売却や交換はF型再編の適格性を損なうべきものではありません。



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