【コラム】「技人国」に係る提出資料追加の本質
~言語能力以上に問われる「企業コンプライアンス」と「部門間連携」~

1. はじめに

(1)2026年4月9日、入管庁は、2026年4月15日以降の在留資格「技術・人文知識・国際業務(以下、「技人国」といいます。)」の在留申請について、カテゴリー3または4に該当する企業に受け入れられ、かつ言語能力を用い対人業務に従事する場合には、業務上使用する言語についてCEFR・B2相当の言語能力を有する立証資料の提出を求めることとしました。対象となる言語能力については、日本語能力に限定されていない点に注意が必要です。

(2)CEFRとは「Common European Framework of Reference for Languages」の略で、「ヨーロッパ言語共通参照枠」とも訳されます。CEFR・B2相当とは、日本語能力でいえば、「自分の専門分野の技術的な議論も含めて、具体的な話題でも抽象的な話題でも複雑なテクストの主要な内容を理解できる。お互いに緊張しないで熟達した日本語話者とやり取りができるくらい流ちょうかつ自然である」場合をいいます。今後、申請人が業務上使用する言語能力を立証する場合には、CEFR・B2に相当するどの資格・検定試験をもって立証するのか確認しなければなりません。

(3)今回の改定で注目すべき点は、単に言語能力のハードルが設定されたこと(求める言語能力のレベルが明確化されたこと)だけではなく、その背後にある企業のコンプライアンス遵守の姿勢に対する入管当局の厳しい追及です。今回は、一部では「技人国の厳格化」とも言われますが、実際には技人国の要件には変更はなく、あくまでも提出書類が追加されたにすぎません。これは、不正な受入れをする企業が存在したことによるものですが、従来言語能力を用いて対人業務を行う外国人を採用する際には、各社ともこれまで一定の言語能力を見極めて採用をしていることを考慮すると、「厳格化」とは言い難いと思われます。

(4)なお、一部の報道では、今回の提出資料の追加にとどまらず、在留資格「技能実習」「特定技能」を受け入れている企業が不正行為(暴行・賃金未払い等)を行い、受入停止となった場合には、その停止期間中は「技人国」の受入れも一律に禁止するという強力な連動措置の導入が検討されていることが報じられています。


2. 言語能力を有することを証する資料の提出

(1)概要
日本において、外国人がカテゴリー3または4に該当する企業に受け入れられ、翻訳・通訳、あるいは日本市場向けのマーケティングや一部の営業職といった、言語能力を必須とする対人業務を行う場合、今後は原則としてCEFR・B2相当の言語能力を有することを立証しなければなりません。対象となる在留申請は以下のとおりです。

・在留資格認定証明書交付申請
・在留資格変更許可申請
・在留期間更新許可(カテゴリー4の企業に転職後、初回申請の場合のみ。カテゴリー3は不要。)

(2)「技人国」の要件が加重されたわけではない
今回、言語能力を用いた対人業務に従事する場合に言語能力を有することが、基準省令等において要件として課されたものではありません。あくまでも、カテゴリー3または4の企業において当該業務に従事する場合に必要とされる言語能力について立証を求めているにすぎません。したがって、「技人国」に日本語要件が求められるようになったというのは誤りです。

(3)日本語能力について
日本語能力を用いて対人業務を行うときに、以下に該当する場合には、CEFR・B2相当の日本語能力を有するものとみなされます。この例示からも分かるとおり、業務上使用する言語能力を立証する資料として認められるのは、言語能力測定試験への合格や、試験において一定得点を得ることだけではない点に留意が必要です。

・JLPT N2以上を取得していること
・BJTビジネス日本語能力テストにおいて400点以上を取得していること
・中長期在留者として20年以上本邦に在留していること
・本邦の大学を卒業し、または本邦の高等専門学校もしくは専修学校の専門課程もしくは専攻科を修了していること
・我が国の義務教育を修了し高等学校を卒業していること

(4)日本語以外の言語能力
今回、「言語能力」とされる中の対象言語に限定はありません。そのため、例えばドイツ国籍の外国人が日本において英語能力を用いて対人業務を行う場合には、英語の言語能力についてCEFR・B2相当であることを立証する資料の提出が求められる可能性があります。


3.今、企業に求められること

(1)全ての企業に求められること
全ての企業は、これから受け入れようとする外国人、あるいは今受け入れている外国人の職務内容が、「言語能力を用いた対人業務」と評価されるか否かを検証する必要があります。仮に、対人業務の遂行上、日本語能力が求められる業務なら、在留申請時においてN2等の日本語能力を有することを示す立証資料の提出が必要となる可能性があります。そのため、資格・検定取得や立証資料の収集へのロードマップ策定などを検討することが望まれます。

(2)カテゴリー1または2に該当する企業
カテゴリー1または2に該当する企業については、言語能力を立証する資料の提出は求められていません。そもそも、言語能力は、「技人国」の上陸許可基準として求められているわけでなく、「技人国」の要件ではありません。しかし、追加資料の提出指示などの場面で、言語能力を立証する資料提出が求められる可能性は十分にあります。カテゴリー1または2の企業が、在留申請後に言語能力を立証する資料の提出を入管庁に求められた場合には、速やかに、CEFR・B2相当の言語能力を有する資料を提出してください。仮に当該資料が提出できない場合であっても、場当たり的に「言語能力を用いて行う対人業務は行わせていない」といった説明は避けるのが望ましいでしょう。業務の詳細、言語能力をどのように担保しているのか、といったことを丁寧に説明した書面を提出することを検討してください。

(3)カテゴリー3または4に該当する企業
カテゴリー3または4に該当する企業は、「技人国」に係る在留申請において、申請人が言語能力を用いた対人業務を行う、あるいはすでに行っている場合、「申請人が『N2等に合格していない』または『言語能力を立証する資料が用意できない』ため、『日本語が不要な職種』に変更して申請しよう」といった合理性のない場当たり的な対応は可能な限り避けることを推奨します。特に在留期間の更新や変更申請においては、入管当局は過去の申請データや実態を詳細に把握しているため、このような安易な対応は避けることが望ましいです。仮に在留期間の更新許可申請や変更申請において、職務内容を「日本語を必要とする職務内容」から、「日本語能力が不要な職務内容」に変更する場合、「なぜこれまでは日本語が必要だったのに、今後は不要なのか」「これまでN2未満でどのように高度な専門業務を遂行していたのか」について、客観的な証拠を伴う説得力のある説明が求められます。

また、在留資格認定証明書交付許可申請時に「言語能力を用いた対人業務」ではない職務内容を記載しその許可を受けたあとで、実際には言語能力を用いた対人業務を行わせることも、虚偽申請を疑われる可能性がありますので、職務内容の変更に合理性があるかを十分に検討してください。改定された指針に合わせて職務を加工することは、虚偽申請の疑いを招くだけでなく、その後の更新申請や変更申請の審査においてもかえって不利益となるおそれがあります。


4. 「技能実習」「特定技能」と「技人国」の連動:全社的ガバナンスの欠如が命取りに

言語能力を有することを証する資料の提出義務化が注目される今回の改定ですが、最も実務的なインパクトが大きいのは、技能実習や特定技能の不祥事が「技人国」の採用にも直接影響する点です。すなわち、技能実習や特定技能を受け入れている事業者が、暴行事案・賃金未払いなどを理由に5年間、これらの制度に基づく受入れが認められない場合には、その停止期間終了まで「技人国」での受入れも認められなくなる見込みです。おそらく来年4月以降は、育成就労も含まれると思われます。この点、現在多くの企業において外国人雇用の管理体制は分断されているため、どのように企業がガバナンスを効かせるのかが問われます。これらの在留資格をめぐっては、以下の二者が管理していることが多くなっています。
 

現場:工場・店舗等の現場責任者やHRBPが「技能実習」や「特定技能」を管理
本社:主に本社人事や事業部のHRBPが「技人国(赴任者・プロフェッショナル採用)」を管理


もし、本社や事業部の預かり知らない現場で労務トラブルが発生し、技能実習や特定技能の受入れが5年間停止されたらどうなるでしょうか。その瞬間、本社が必要とする高度外国人材の採用や更新までもが全てストップするという、経営戦略上の致命傷を負うことになります。


5. 持続可能な外国人雇用のための「3つのアクション」

今回の提出資料の追加を「日本語の試験を受験しなければならない場合が増えるだけ」と捉えるべきではありません。企業が早期に検討・対応しておくことが望ましい実務的な対策は、以下のとおりです。

(1)部門横断的なコンプライアンス監査の実施
もはや現場のミスでは済まされません。本社人事が主導し、現場(工場・店舗)の技能実習や特定技能の管理状況を定期的にチェックする内部監査体制を構築することを推奨します。労働法令違反のリスクを全社で共有することが、高度人材の確保を継続する上で極めて重要です。

(2)日本語教育を「経営投資」として予算化
日本語能力が必要な業務であれば、入社前から計画的に試験の受験を促し、その合格を内定条件に組み込むなどの計画的な採用計画および労務管理体制が必要です。日本語教育を個人の努力に委ねるのではなく、法務・コンプライアンス維持のための必要なコストとして予算化することを推奨します。

(3)職務内容の変遷データの蓄積と整理
合理性のない場当たり的な基準対応を避けるため、各ポジションの職務内容(Job Description)と、そこで求められる言語能力の相関性を今から整理しておいてください。「なぜこのレベルが必要か」という論理的説明のバックデータを蓄積しておくことが、将来の入管審査における最強の防御となります。


6. 結びに

外国人の雇用にあたっては、現場の管理不足が経営戦略の破綻を招きかねません。外国人雇用におけるリスクを正しく理解し、職務内容の精緻なアセスメントと、誠実な運用体制を構築することこそが、これからのグローバル競争において、優秀な外国人材を安定的に活用するための新基準となるといえます。



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木島 祥登 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです