【コラム】在留資格「企業内転勤」の「厳格化」の本質
~「説明できない運用」が問われる時代へ~

1. はじめに

2026年4月から始まった在留資格「企業内転勤」の提出書類に関する運用見直しについては、「審査の厳格化」といった言葉が先行して用いられています。しかし、実務家の視点から見れば、今回の動きの本質は、単なる書類要件の強化にとどまるものではありません。企業が自らの在留資格運用について、制度趣旨と業務実態の両面から合理的に説明できるかどうかという点が問われています。

2. 在留資格「企業内転勤」の在留審査における提出書類の追加

今回の見直しは、「厳格化」というよりも、在留審査において出入国在留管理庁(以下、入管庁)がこれまでも重視してきた考え方が、より明確な形で示されたものと捉えるのが適切でしょう。裏を返せば、こうした点について十分な説明がなされていない、あるいは立証が不十分な申請が一定数存在していたことが、今回の運用見直しの背景にあります。

今回の見直しにより、以下の資料の提出が義務付けられることとなりました。
 

(ア) 転勤前に勤務していた事業所と転勤後の事業所の関係を示す次のいずれかの資料

① 同一の法人内の転勤の場合
外国法人の支店の登記事項証明書等、当該法人が日本に事業所を有することを明らかにする資料

② 日本法人への出向の場合
当該日本法人と出向元の外国法人との出資関係を明らかにする資料

③ 日本に事務所を有する外国法人への出向の場合
(a) 当該外国法人の支店の登記事項証明書等、当該外国法人が日本に事務所を有することを明らかにする資料
(b) 当該外国法人と出向元の法人との資本関係を明らかにする資料


(イ) 転勤前に勤務していた事業所の存在を明らかにする資料

① 公的機関から発行された法人登記に関する資料

② 納税状況、取引実績、船荷証券、輸出入許可書、広告等


(ウ) 申請人の経歴を証明する文書

① 関連する業務に従事した機関及び内容並びに期間を明示した履歴書

② 過去1年間に従事した業務内容及び地位、報酬を明示した転勤の直前に勤務した外国の機関(転勤の直前1年以内に申請人が企業内転勤の在留資格をもって本邦に在留していた期間がある場合には、当該期間に勤務していた本邦の機関を含む。)の文書(社会保険加入証明、戸口簿等)

3.追加された書類の位置づけ

もっとも、この見直しを「大幅な厳格化」と捉えるのは、ややミスリーディングといえます。実務家の立場からすれば、今回示された考え方や必要資料は、決して新しい要求ではありません。私たち専門家はこれまでも、申請要件の充足について慎重な立証が必要と判断した場合、直近に勤務している企業の法人登記簿謄本、取引資料、事業実態が分かる写真、名刺など、複数の客観資料を組み合わせて主張・立証を行ってきました。

実際、従来から入管庁は、追加資料の提出指示などを通じて、直近に勤務している会社の実態や、企業間関係についての説明を求めており、これらの資料を用いて立証を行うことは、実務家にとって特段目新しい対応ではありません。その意味では、今回の見直しは、入管庁の審査において、全く新しい資料が新設されたものではないと考えられます。

4. 必要書類が示す「入管庁が見ている3つの視点」

入管庁が明示する必要書類の内容を見ると、この視点はより明確になります。入管庁が確認しようとしているのは、大きく分けて次の3点です。

  • 転勤前後の各事業所間の関係性
  • 転勤前に勤務していた事業所の実在性および事業実態
  • 申請人本人の直近の勤務実態
     

(1) 転勤前後の各事業所間の関係性

同一法人内の転勤であれば外国法人が日本に事業所を有していること、日本法人への出向であれば日本法人と外国法人との出資関係、日本に事務所を有する外国法人への出向であれば当該外国法人の日本での事業所の存在および資本関係といった点を、客観資料によって示すことが求められています。
 

(2) 転勤前に勤務していた事業所の実在性および事業実態

公的機関から発行された法人登記資料に加え、納税状況、取引実績、船荷証券、輸出入許可書、広告などを通じて、事業活動の実体を裏付けることが必要とされています。
 

(3) 申請人本人の直近の勤務実態

申請人本人についても、関連業務に従事してきた期間や内容を記載した履歴書に加え、過去1年間の業務内容、地位、報酬を明示した文書(社会保険加入証明等)によって、勤務実態を具体的に示すことが求められています。
 

これらはいずれも、「企業内転勤」の要件を正面から説明しようとする上で、従来から専門家が当然に収集・整理してきた情報です。
したがって、今回の見直しは、「企業内転勤」を「取りにくくする」ための厳格化ではなく、説明責任を果たせない運用を排除し、審査の判断基準を可視化・標準化する取り組みと理解するのが妥当でしょう。

5. 「企業内転勤」は万能ではない

これまで在留資格「企業内転勤」は、学歴要件がなく、実務要件も「直近1年の勤務」と比較的利用しやすい在留資格と認識されてきました。その結果、研修名目でありながら実態は単純作業にとどまるケースや、帰国前提としつつ実質的には長期就労となっているケース、他の在留資格では説明が難しい業務を「企業内転勤」で整理しているケースなど、本来の趣旨に沿わない、いわばご都合主義的な「制度の使い分け(誤用・濫用)」が常態化していた面も否定できません。

今回の見直しは、こうした誤用・濫用的な運用に対して明確に歯止めをかけるものといえるでしょう。特に、5年を超える在留を当然視する運用については、「なぜ一時的な転勤なのか」「なぜ他の在留資格ではないのか」という根本的な問いに対して、これまで以上に明確な説明が求められることになります。

6. 在留資格は「取得するもの」から企業が「設計するもの」へ

今回の対応は主として書類面の整理に焦点が当てられていますが、今後は、日本における活動内容そのものについても、技能実習・特定技能・育成就労との関係性、あるいは技術・人文知識・国際業務、経営・管理や高度専門職との線引きが論理的に説明できるかといった点まで、踏み込んで確認される可能性が高まると考えられます。

特に内製化を進める企業にとって、在留資格の正確な切り分けは、人事・法務・事業部門が高度に連携しなければ対応できないテーマであり、決して片手間で済むものではありません。

今回の運用見直しは、「企業内転勤の審査が厳しくなった」という一言で片付けるべきものではないといえるでしょう。これは企業に対して、「なぜその在留資格を選択するのか」を自ら設計し、その合理性を入管庁に説明できる姿勢を持っているかを問うメッセージだと受け止める必要があります。制度を十分に理解し、業務実態と整合した運用を行っている企業にとっては、今回の見直しを過度に懸念する必要はありません。一方で、「これまで許可を得てきたら大丈夫」という姿勢でいると、今後の実務が立ち行かなくなる可能性があることを十分に留意する必要があります。


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木島 祥登 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです