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EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
シニアマネージャー 公認会計士 髙橋 朗
2025年4月22日に東京証券取引所で第21回の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」が開催され、「グロース市場における今後の対応」が公表されました。公表された「グロース市場における今後の対応」の中でグロース市場の上場維持基準の⾒直し(案)として新たな上場維持基準案が示され、2030年以降上場から5年経過している上場会社に時価総額100億円以上を求める内容が盛り込まれています。
東証の市場区分(プライム・スタンダード・グロース)において、グロース市場は、高い成⻑を目指すスタートアップに果敢なチャレンジを⾏っていただく市場区分とされています。未来の日本経済の成⻑を牽引するスタートアップが1社でも多く生まれるためには、グロース市場上場企業が、機関投資家の投資対象となり得る規模(100億円以上)へと早く成⻑する必要があるとされています。また、低迷する企業の合従連衡や起業家の次なる創業の促進などを日本経済の活性化に繋げるべきとの意⾒も強いことから今回グロース市場の上場維持基準の⾒直し(案)が公表されました。
グロース市場の上場維持基準を、2030年以降に上場5年経過している企業に対して、現行では上場10年経過後に時価総額40億円以上としている上場維持基準を上場5年経過後に100億円以上に引き上げるとされています。当該基準を満たせない場合は上場廃止となりますが、本件⾒直しにより影響を受ける上場会社(時価総額40億円以上100億円未満)は、スタンダード市場への市場区分変更の対象となるよう手当てするとされています。(図1)
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項目 |
現行 |
見直し案 |
|---|---|---|
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グロース市場の上場維持基準 |
上場10年経過後から時価総額40億円以上 |
上場5年経過後から時価総額100億円以上 ※ 2030年以降、上場5年経過している上場企業に適用 |
(出所)東京証券取引所「グロース市場における今後の対応」(東京証券取引所 上場部 2025年4月22日)を基にEY作成
上場時100億円未満から大きく成⻑した企業も存在することから、新規上場基準の引上げは⾏わないとされています。今後は、新たな上場維持基準(上場5年経過後から時価総額100億円以上)に適合可能な成⻑可能性を有しているかを主幹事証券会社と取引所で確認するとされています。
今般の⾒直しの影響を受ける企業(時価総額40億円以上100億円未満)は、約200社あるとされています。時価総額100億円以上を目指すための取組みにあわせて、スタンダード市場への市場区分変更を検討する企業も想定されますが、うち約60社は、市場区分変更基準のうち利益の額(年1億円)が未達であり、利益の額を捻出するために成⻑投資を抑制することは本末転倒であるため、今後、時価総額40億円以上の場合は、上場維持基準と同様の取扱いを適用し、利益基準を満たさなくてもスタンダード市場への市場区分変更申請の対象にするとされています。(図2)
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項目 |
新規上場/市場区分変更基準 |
上場維持基準 |
|---|---|---|
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流通株式時価総額 |
10億円以上 |
10億円以上 |
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流通株式比率 |
25%以上 |
25%以上 |
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利益の額 |
年1億円以上 |
-(なし) |
(出所)東京証券取引所「グロース市場における今後の対応」(東京証券取引所 上場部 2025年4月22日)を基にEY作成
今回の上場維持基準の⾒直し(案)は、グロース市場が、高い成⻑を目指すスタートアップが活用し、投資者にとって魅⼒ある市場となるよう、上場前から上場後にかけて継続的に高い成⻑に向けて取り組んでもらうための施策の一環であると考えます。「とりあえず上場」や「上場ゴール」といった短期目標の結果としての上場が企業の成長の阻害要因となっているケースは少なくないと考えます。スタートアップにとって多大なコストをかけて、また、上場に向けて一定の制約を受けて上場を目指すよりもM&Aを通じて大企業の傘下となった方が事業の成長を加速できるケースもあるように思います。今回の上場維持基準の⾒直し(案)は、スタートアップ企業にとってIPO戦略の見直しを迫る大きな転換点となる可能性があり、今後は成長を見据えた市場選択や、M&Aを活用した成長戦略の重要性が一層高まると考えられます。今後の動向を注視し、自社への影響を把握し、適時に対応していく事が重要になると考えられます。