世界の新規上場動向 - 2025年1月~6月

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
甲斐 佑典

1. IPO市場の概況

2025年上半期(2025年1月~6月)における世界のIPO 市場は、上場数539件、調達額614億米ドルとなりました。対前年同期比では、件数で4%の減少、調達額で17%の増加となりました。政策の不確実性や市場のボラティリティが高まる中でIPO活動が持続したことは、戦略的に優位な立場にあり、準備が整ったIPO企業のレジリエンスおよび変化する資本市場に適応する能力を浮き彫りにしています。特に、中華圏は主要なプレーヤーとして再浮上し、世界全体の調達額の3分の1を占めた一方で、欧州のシェアは10%まで減少しました。

2025年上半期は市場のボラティリティが高まっている状況のもと、多くの企業は出口戦略を再考し、上場を先延ばしにするか、より小規模での上場を目指すかの判断を迫られました。こうした中、2025年上半期のクロスボーダーIPO活動は過去最高を記録し、世界全体の取引件数の14%を占めました。地理的に明確な傾向が現れており、中華圏とシンガポールがIPOを実施する企業の主要な拠点となっており、上場先としては、米国が最も多く選ばれています。

表1 上位12証券取引所のIPO件数(2025年上半期)

表1 上位12証券取引所のIPO件数(2025年上半期)
出典: Dealogic、EY

表2 上位12証券取引所のIPO調達額(2025年上半期)

表2 上位12証券取引所のIPO調達額(2025年上半期)
出典: Dealogic、EY

2. エリア別の概況

(1) ASEAN

2025年上半期、ASEANのIPO市場は激しい逆風に直面し、上場件数は前年同期比で27%減の48件となり、2024年から始まった低迷がさらに加速する形となりました。こうしたIPO活動の大幅な低下にもかかわらず、総調達額は14億米ドルと安定していました。インドネシアはこの影響を受けてIPO活動が著しく縮小し、14件で4億米ドルを調達するのみでした。一方、マレーシアが地域の先導役として台頭し、上場件数・調達額ともにASEAN全体の半数以上を占めました。 

(2) 欧州

欧州のIPO市場は、1月と2月に順調な滑り出しを見せましたが、3月には米国の貿易関税や政策の不透明感を背景に株式市場が急落し、ボラティリティが高まったことで、急速に縮小しました。その結果、2025年上半期の欧州におけるIPO活動は低調となり、上場件数は前年同期比15%減の50件、調達額は前年同期比58%減の59億米ドルにとどまりました。

(3)中華圏

2025年上半期、中華圏のIPO市場は大きく回復し、上場件数は104件で207億米ドルの資金が調達されました。取引件数では前年同期比33%、調達額では前年同期比218%と大幅な増加を示しています。2025年上半期に調達額が7倍に増えたことで、香港は6年ぶりにIPOによる資金調達額で世界トップの証券取引所の座を奪還しました。また、中国本土および海外から香港資本市場への大規模な資本注入によって、過去10年間の上半期の中では、2021年に次ぐ第2位の資金調達実績となりました。

(4) インド

2025年上半期のインドのIPO活動は、取引件数108件で46億米ドルの資金が調達されました。注目すべきは、取引件数が前年同期比で30%減少したにもかかわらず、資金調達額がわずか2%の減少にとどまった点で、上場企業数が減少したものの、案件の質と規模は依然として堅調だったことを示しています。

(5) 日本

日本のIPO市場は、2025年上半期に世界的な不確実性の影響を受けて逆風に直面しました。特に、米国政府が4月初旬に「相互」関税を発表したことを受けて、金融市場におけるボラティリティが上昇した他、米中間の貿易摩擦も影響を及ぼす要因となっています。 東証グロース市場250指数と日経平均株価が以前の高値から下落したことをうけて、2024年上半期に比べてIPOを見送る企業が増加し、2025年上半期には27件と 2024年上半期の37件から減少しています。しかし、2025年3月にJX金属が30億米ドル規模で上場したことにより、資金調達額は前年同期比で大幅に増加しました。

(6) 中東

中東地域では2025年上半期に36件のIPOが実施され、調達額は約51億米ドルに達しました。IPO件数は前年同期比で24%増加し、調達額も前年同期比で31%増加しました。サウジアラビア王国(KSA)が地域のIPO活動を主導しており、36件の上場のうち25件が同国の証券取引所で行われ、総額38億米ドルを調達しました。

(7) オセアニア

オーストラリアのIPO市場は、2025年に低調なスタートを切りました。2024年末に見られた改善と安定の兆しにもかかわらず、米国の関税変更による最近のボラティリティに大きく影響を受けています。オーストラリアとニュージーランドは直接的な影響は比較的少ないものの、世界的な成長の減速が投資家心理に影響を与え、取引のスケジュールが遅れる要因となっています。 

(8) 韓国

2025年上半期の韓国のIPO活動は、過去22年間で2番目に多いIPO件数を達成しました。地域全体のIPO発行は第2四半期に減速しましたが、2025年上半期全体では第1四半期の好調な動きに支えられ、取引件数・調達額ともに二桁成長を記録し、他国を上回る成果を挙げました。2025年上半期終了時点で、前年同期比の取引件数は31%増加し、調達額も前年同期比で24%増加しました。

(9) 米国、カナダ、ラテンアメリカ

2025年第2四半期、米国、カナダ、ラテンアメリカのIPO件数は前年同期比で10%増加しましたが、IPOによる調達額は20%減少しました。この四半期は、序盤は関税や広範な経済の不透明感による強い逆風がありましたが、中盤には活動がやや回復し、四半期後半には市場環境の大幅な改善に伴い、IPO活動が顕著に回復しました。

表3 主要エリア別IPO実績(2025年上半期)

表3 主要エリア別IPO実績(2025年上半期)
※5,000万米ドル未満
出典: Dealogic、EY

3. セクター別の概況

(1) 消費財セクター

2025年上半期、世界の消費財セクターのIPO市場は、継続するマクロ経済と地政学的な不確実性にもかかわらず、取引件数が5%増加しました。調達額は約30%減少しましたが、これは多くの大手企業が市場環境の改善とバリュエーションの回復を待って上場を延期したためです。調達額が1億米ドル未満のIPOが全体の82%を占め、小規模・中規模案件へのシフトが鮮明になっています。

(2) エネルギーセクター

2025年上半期、エネルギーセクターのIPO件数は前年同期比34%減の38件にとどまりました。これは主に、欧州・中東・インドにおける件数の減少が要因です。一方、調達額は235%増の76億米ドルに達しました。この急増は、日本の非鉄金属製品メーカーと米国のLNG供給会社による2件の大型IPOが合計で約47億米ドルを調達し、今年のメガIPOにランクインしたことが主な要因となっています。

(3) ヘルス&ライフサイエンスセクター

2025年上半期、ヘルス&ライフサイエンスセクターのIPO件数は、両分野とも前年より1件ずつ増加しましたが、資金調達総額は減少しています。医療関連企業は今年、世界全体で18件のIPOを、ライフサイエンス関連企業は41件のIPOを実施しました。 ライフサイエンスセクターの調達額は、2024年上半期の72億米ドルから2025年上半期は39億米ドルに落ち込んだ一方、医療関連企業では調達額が2024年上半期の28億米ドルから2025年上半期は37億米ドルまで増加しました。

(4) 製造業セクター

2025年上半期、製造業セクターのIPO件数は129件で前年同期比の8%増となり、調達額は2倍以上の159億米ドルに達しました。調達額ベースでは、5,000万米ドル超のIPOが全体の92%を占めており、より大規模な案件へのシフトが顕著になりました。この成長の主な要因となっているのが、中華圏における自動車部品製造業のIPOです。2025年上半期に実施されたIPOのうち、調達額で上位2件(それぞれが53億米ドルと12億米ドル)は、電気自動車(EV)用バッテリーのメーカーと、車両・建設システム向けの各種部品メーカーの資金調達を支援するものでした。

(5) テクノロジーセクター

テクノロジーセクターのIPO調達額は2025年上半期に前年同期比19%増の129億米ドルとなりました。成長を牽引したのは、ソフトウェア関連企業の力強い回復で、調達額は前年度比で約40%増の約100億米ドルに達し、テクノロジーセクター全体のIPOによる調達額の74%を占めました(2024年上半期は63%)。2025年上半期には、米国で上場したCircle Internet、CoreWeave、SailPointや、インドのHexaware Technologiesを含む、調達額が10億米ドルを超える大型IPOが4件ありました。 

表4 セクター別IPO実績(2025年上半期)

表4 セクター別IPO実績(2025年上半期)
出典: EY analysis、Dealogic

4. クロスボーダー上場

2025年上半期、クロスボーダーIPOは過去最高水準に達し、世界全体の取引件数の14%を占めました。10年前の6%から大幅な増加を示すものであり、地域別の動向を見ると、中華圏とシンガポールが主要な発行元として台頭し、米国が上場先として定着しました。この2つのアジア太平洋地域は、2025年上半期の国際上場全体の74%を占めており、そのうち中華圏の発行体の約30%、シンガポールの発行体の93%が米国取引所での上場を選択しています。2025年上半期には、世界中のクロスボーダーIPOの93%が米国での上場を選択しており、これは2016年の30%からの劇的な増加となっています。

5. 今後の見通し

世界のIPO市場は2025年上半期に回復力を見せました。下半期については、引き続き課題は存在するものの、慎重ながらも前向きな見通しが示されています。世界のIPO市場が回復する可能性は、より協調的な貿易体制、金融緩和政策、インフレの抑制、地政学的緊張の緩和にかかっています。国家の優先課題やイノベーションに沿った戦略を掲げ、現実的なバリュエーションと柔軟なタイミングをもって、説得力あるエクイティストーリーを描ける企業は、この複雑な環境下でも成功を収めやすいでしょう。


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