EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 岡本 裕二
国内事業会社の財務諸表監査業務に従事するとともに、品質管理本部 会計監理部にて会計処理及び開示に関して相談を受ける業務に従事している。また、2021年から2024年の間、財務省関東財務局理財部統括証券監査官に在籍し、企業情報の開示充実に向けた有価証券報告書レビュー業務に携わる。
本稿では、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)が2025年4月23日に公表した、企業会計基準公開草案第83号「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等について解説します。改正後の金融商品取引法において、上場会社では、金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表は「中間財務諸表に関する会計基準」等により作成され、金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表は、「四半期財務諸表に関する会計基準」等により作成されることとなりました。これに対して、上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見を踏まえ、中間財務諸表と四半期財務諸表の会計基準等を統合した期中財務諸表に関する会計基準等が提案されました。当該会計基準等の提案では、企業の報告の頻度(年次、半期、または四半期)によって年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用し、主に、期中財務諸表の有価証券の減損処理と棚卸資産の簿価切下げに係る方法については、洗替え法を原則とすること等が提案されています。適用時期は2026年4月1日以降(公表後最初に到来する年の4月1日以降)が見込まれています。なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
2022年12月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告において、四半期開示の見直しとして、上場企業について金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(以下、金融商品取引法)上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」すること、及び開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出すること、が示されました。2023年11月には「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)(以下、金融商品取引法等の一部改正法)が成立し、金融商品取引法が改正されたことから、ASBJから2024年3月に企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」(以下、企業会計基準第33号)及び企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、企業会計基準適用指針第32号。また、以下、企業会計基準第33号と企業会計基準適用指針第32号を合わせて「企業会計基準第33号等」)が公表されました。
企業会計基準第33号等の検討にあたり、上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことを踏まえ、2024年10月に開催された第535回企業会計基準委員会において、企業会計基準第33号等と企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」(以下、企業会計基準第12号)及び企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、企業会計基準適用指針第14号。また、以下、企業会計基準第12号と企業会計基準適用指針第14号を合わせて「企業会計基準第12号等」)を統合した会計基準等を開発することが決定され、検討が重ねられ、今般、ASBJにおいて公開草案が公表されました。
本会計基準案等は、年度より短い期間の企業集団又は企業の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況について報告するために期中財務諸表を作成する場合に適用することが提案されています。本会計基準案等の適用対象となる期中財務諸表は<表1>のとおりです。
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本会計基準案等 |
種類 |
内容 |
|---|---|---|
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適用対象となるもの |
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適用対象とならないもの |
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出所:本公開草案を基に筆者作成
本会計基準案等は、改正後の金融商品取引法に基づく第一種中間財務諸表と、金融商品取引所の定める規則に基づく第1四半期及び第3四半期の四半期財務諸表の両方に適用可能となるように、企業会計基準第12号等と企業会計基準第33号等を統合することを目的としているため、次のことを前提とすることが提案されています(本会計基準案BC13項)。
(1) 改正後の金融商品取引法に基づく半期報告書制度に適用できるように、期首から6カ月間を1つの会計期間(中間会計期間)として作成する第一種中間財務諸表に適用可能な会計処理を定めることを原則とする。
(2) 企業会計基準適用指針第32号の経過措置は、金融商品取引法等の一部改正法の成立日から施行日までの期間が短期間であることを理由に定めていたが、短期的な取扱いであるため経過措置としてそのまま残すことは困難であることから、個別に検討が必要であると考えられる。
本会計基準案等は、企業の報告の頻度(年次、半期、又は四半期)によって、年次の経営成績の測定が左右されてはならないとする原則を採用することが提案されています。また、第一種中間財務諸表及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱いを区分することが提案されています(本会計基準案BC14項~BC18項)。
期中会計期間末に計上した有価証券の減損処理に基づく評価損の戻入れ及び期中会計期間末における棚卸資産の簿価切下げについては、(1)に記載している原則と整合していると考えられる洗替え法によることが提案されています。従前の会計処理との比較は<表2>のとおりです。
項目 | 有価証券の減損処理 | 棚卸資産の簿価切下げ |
従前の会計処理 |
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本会計基準案等 |
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出所:本公開草案を基に筆者作成
期中会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高について、次のように算定することができるとすることが提案されています(本適用指針案第3項、BC8項~BC10項)。
ⅰ. 一般債権の貸倒実績率等が前年度の財務諸表の作成において使用した貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられる場合には、期中会計期間末において、前年度末の決算において算定した貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
ⅱ. 期中において前年度の貸倒実績率等から著しい変動があり見直しを行った場合に、当該見直しを行った後の期中会計期間末において見直し後の貸倒実績率等と著しく変動していないと考えられるときは、当該見直し後の貸倒実績率等の合理的な基準を使用することができる。
連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる期中会計期間末における未実現損益の消去にあたっては、期中会計期間末在庫高に占める当該棚卸資産の金額及び当該取引に係る損益率を合理的に見積って計算することができるとすることが提案されています。また、損益率については次のように算定することができるとすることが提案されています(本適用指針案第31項、BC21項、BC22項)。
ⅰ. 前年度から取引状況に大きな変化がないと認められる場合には、前年度の損益率や合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる。
ⅱ. 期中において前年度から取引状況に大きな変化があり見直しを行った場合に、当該見直しを行った後の期中会計期間末において見直し後の損益率や見直し後の合理的な予算から取引状況に大きな変化がないと認められるときは、当該見直し後の損益率や見直し後の合理的な予算制度に基づいて算定された損益率を使用して計算することができる。
本公開草案に関する他の会計基準等についての修正は、<表3>のとおり対応することが提案されています。
| 四半期及び中間の取扱いを定めた 現行の会計基準等の種類 | 他の会計基準等についての修正の方法 |
企業会計基準 | 本会計基準案等又は中間作成基準等に取り込む |
企業会計基準適用指針 | |
実務対応報告 | 用語の置き換え |
移管指針 |
出所:本公開草案を基に筆者作成
上記①の方針に従い、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において定めている四半期財務諸表の取扱いを本会計基準案等に取り込むにあたっては、次のとおりとすることが提案されています(本会計基準案BC19項)。
ⅰ. 会計処理については、期中特有の会計処理及び簡便的な会計処理を除き、年度と同様の会計処理を行うこととなるため、四半期固有の取扱いを定めたもののみを本会計基準案等に引き継ぎ、年度と同様の取扱いを定めたものは引き継がない。
ⅱ. 注記事項については、本会計基準案等において開示が求められていない注記事項は原則として期中財務諸表において開示を要しないと考えられる旨を注記事項に関する基本的な考え方として示し、当該考え方に従って開示を求めるもののみを引き継ぎ、四半期財務諸表での注記を省略できるとの定めは引き継がない。
他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針において第二種中間財務諸表の取扱いを定めていたもののうち四半期財務諸表及び第一種中間財務諸表の取扱いを定めていない取扱いについては、次のとおり期中財務諸表における取扱いを明らかにし、本会計基準案等に取り込むことが提案されています(本会計基準案BC20項)。
ⅰ. 自己株式の処分及び消却
自己株式の処分及び消却(企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」(以下、自己株式等会計基準)第10項、第11項)の会計処理の結果、期中決算において、その他資本剰余金の残高が負の値になった場合の取扱い(自己株式等会計基準第12項)について、自己株式等会計基準第42項では、中間決算において負の値となったその他資本剰余金をその他利益剰余金(繰越利益剰余金)で補てんするとき、年度決算においては洗替処理するとされていました。本会計基準案等においても、6カ月ごとより高い頻度で本会計基準案に従い期中財務諸表を作成する場合には、その後の期中決算において洗替処理を行うことが提案されています(本適用指針案第68項、BC28項)。
ⅱ. 役員賞与の会計処理
企業会計基準第4号「役員賞与に関する会計基準」第14項では、「役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため中間会計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、中間会計期間においては、費用処理しないことができる」とされていました。期中財務諸表においても、役員賞与の金額が事業年度の業績等に基づき算定されることとなっているため事業年度の業績等が確定していないという点は、同様と考えられることから、期首からの累計期間において合理的に見積ることが困難な場合や、重要性が乏しいと想定される場合には、期首からの累計期間においては、費用処理しないことができるとすることが提案されています(本適用指針案第15項、BC20項)。
中間作成基準等の適用対象となる中間連結財務諸表及び中間財務諸表が第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表であることを明確化することが提案されています。また、他の企業会計基準及び企業会計基準適用指針における中間財務諸表の取扱いについては、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表の取扱いとして、内容を維持したまま中間作成基準等に取り込むことが提案されています(中間作成基準等の一部改正案、BC3項、BC5項、BC6項)。
本会計基準案等は、適用時期について 20XX年4月1日(公表後最初に到来する年の4月1日が想定されています)以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用することが提案されています(本会計基準案第34項、BC45項、BC46項、本適用指針案第72項)。
これに関して、有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法について、本会計基準案等の適用前から切放し法を適用しており、本適用指針案の適用に伴い洗替え法に変更する場合、本適用指針案の適用初年度においては、遡及(そきゅう)適用を求めず、適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用することが提案されています(本適用指針案第73項、BC32項)。
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