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EY新日本有限責任監査法人 金融事業部 公認会計士 西田 裕志
当法人の品質管理本部を兼務。また、日本公認会計士協会においては、会計制度委員会補助金等検討専門委員会の専門委員長として、研究報告の起草に関与した。
本稿では、2025年6月26日付で日本公認会計士協会(会計制度委員会)から公表された会計制度委員会研究報告第18号「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」の概要について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2025年6月26日付で、会計制度委員会研究報告第18号「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」(以下、研究報告)を公表しました。
昨今の激しい経済環境の変化に合わせて、さまざまな補助金及び助成金(以下、補助金等)が国又は地方公共団体(これらに準ずるものを含む。以下、国等)から交付される事例が数多く見られています。
しかしながら、わが国においては補助金等に関する会計基準は存在せず、補助金等に係る会計処理及び開示について、さまざまな実務が行われていることが想定されます。
研究報告では、こうした現状を受けて、補助金等に関する会計処理及び開示について実務上の課題等が整理されており、これまでの日本公認会計士協会における調査・研究の結果及びこれを踏まえた現時点における考えが取りまとめられています。
補助金等にはさまざまな形態がありますが、研究報告では<表1>のように国等から交付される補助金等のうち、財又はサービスといった反対給付のない収益(非交換取引収益)に該当する補助金等を検討の対象としています(研究報告Ⅰ.4.(1))。
また、こうした補助金等の中には、補助金等の交付に付帯条件(補助金等の交付について付された条件をいいます)が付されており、当該付帯条件が満たされなければ補助金等が支給されない、又は返還が求められるものもありますが、それらの付帯条件にも着目して検討されています。
内容 | 研究報告の検討対象 | |
国等から交付される補助金等 | 反対給付のない収益に該当するもの (非交換取引収益) | 対象 |
| 反対給付のある収益に該当するもの (交換取引収益) | 対象外 | |
それ以外の補助金等 | 対象外 | |
具体的には、大きく分けて<表2>の3つの領域についてその会計処理等が検討されています。
本稿では、<表2>に掲げた項目のうち収益に関する補助金等及び資産に関する補助金等に絞って、その概要を解説します。
なお、研究報告は、その性格上、実務上の指針として位置付けられるものではなく、また、実務を拘束するものでもないとされている点には留意が必要です。ただし、補助金等に関する会計処理等(圧縮記帳に関する会計処理等を含む)を検討する上での一助となる資料として意義があるものと考えます。
補助金等の収益の認識時点を検討するに当たって参考になる考え方として<表3>のとおり3つのものがあるとされています(研究報告Ⅱ.2.(1)①~③)。
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考え方 |
内容 |
|---|---|
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①企業会計原則における実現主義 |
補助金等については、財又はサービスといった反対給付がないことから、企業会計原則の実現主義は補助金等に直接適用される会計基準ではないと考えられるが、補助金等の認識時点を判断するに当たっては「対価の成立」を含む実現主義の考え方を勘案することも考えられる。 |
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②非営利組織モデル会計基準(注)第194項 |
企業会計に関するものではなく非営利組織会計に関するものであるが、非営利組織モデル会計基準第194項では、原則として補助金等の交付決定通知を受領した時点で補助金等の収益を認識し、付帯条件が付された場合には当該条件を満たした時点で収益を認識するとされている。 |
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③企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(以下、法人税等会計基準)第7項 |
法人税等会計基準は補助金等に直接適用される会計基準ではないと考えられるが、補助金等は法人税等と同様に反対給付がなく、政府や地方公共団体が相手である点で類似していると考えられる。また、法人税等会計基準第7項では、企業会計原則における実現主義よりも具体的な蓋然性の閾値(還付が確実に見込まれる)や測定要件(合理的に見積ることができる)が示されている。 |
注:日本公認会計士協会(非営利組織会計検討会)は2019年7月31日に非営利組織会計検討会による報告「非営利組織における財務報告の検討~財務報告の基礎概念・モデル会計基準の提案~」において非営利組織モデル会計基準を公表している。
わが国においては補助金等の認識に関する会計基準は存在しないため、研究報告では、企業会計原則における実現主義(対価の成立の時点)、非営利組織モデル会計基準第194項(付帯条件を満たした時点)及び法人税等会計基準第7項(還付が確実に見込まれ金額が合理的に見積り可能な時点)を参考に、補助金等の交付額確定通知の受領時や付帯条件を満たした時点等、具体的にどの時点で企業が計上すべきかについて、個々の補助金等の内容を踏まえて、事実と状況に応じて判断することになるとの考え方が示されています(研究報告Ⅱ.2.(1)④)。
原則として、事業対象に係る費用と補助金等を純額処理することはなく、補助金等は営業外収益に計上することになると考えられるとされています。一方、純額処理する場合、利害関係人が会社の状況に関する適正な判断を行うために必要な事項があるときは当該事項を注記しなければならないという追加情報の注記の趣旨に鑑み、企業が補助金等を受け入れているかどうかが不明確にならないように、相殺表示している旨、相殺された金額を追加情報として開示することが考えられるとされています(研究報告Ⅱ.2.(2))。
企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(以下、企業会計基準第24号)において、会計処理の対象となる会計事象や取引(以下、会計事象等)に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合には重要な会計方針に関する注記の開示が求められています(企業会計基準第24号第4-2項)。
収益に関する補助金等の会計処理は会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当すると考えられることから、重要性がある場合には重要な会計方針として具体的な収益の認識時点を開示することが考えられるとしています(研究報告Ⅱ.3.(2))。
収益に関する補助金等の会計処理及び表示は企業により異なる可能性があり、その場合、これらに関する企業の判断による比較可能性の低下をもたらすことになります。したがって、研究報告では、これらに関する考え方を開示により明確にすることが期待されるとしています(研究報告Ⅱ.3.(1)③)。
資産に関する補助金等の会計処理については、大別すると<表4>のように①資本説と②利益説に分けることができますが、研究報告では、現行の会計基準において資本説は採用されておらず利益説に従っていると考えられるとされています(研究報告Ⅲ.2.(1))。
| 会計処理 | 利益の計上時点 |
資本説 | 資本剰余金に計上する方法(制度上は不採用) | ― |
利益説 | 利益に計上する方法 | 一時点で利益を計上する方法 |
一定期間にわたり利益を計上する方法 |
利益説によった場合、受領した補助金等を利益として計上するまでの間に貸方差額として計上する場合があると考えられ、研究報告では、当該貸方差額の処理について、<表5>のようにわが国の制度上において現状採用されていないアプローチも含め幅広く検討が行われています(研究報告Ⅲ.2.(2))。
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内容 |
わが国の制度上の取扱い |
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|---|---|---|
|
繰延収益アプローチ |
貸方差額を繰延収益(負債)とするアプローチ |
不採用 |
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仮受金アプローチ |
貸方差額を仮受金等(負債)とするアプローチ |
必ずしも否定されないと考えられる |
|
その他の包括利益アプローチ |
貸方差額をその他の包括利益(純資産)とするアプローチ |
現状は採用されていない |
以上を踏まえ、研究報告では、現状の制度会計上は、利益説の一時点で利益を計上する方法又は一定期間にわたり利益を計上する方法の仮受金アプローチに基づき補助金等を会計処理することになると考えられるとしています(研究報告Ⅲ.2.(3))。
また、資産に関する補助金等を認識するに当たっては、収益に関する補助金等と同様、企業会計原則における実現主義(対価の成立の時点)、非営利組織モデル会計基準第194項(付帯条件を満たした時点)及び法人税等会計基準第7項(還付が確実に見込まれ金額が合理的に見積り可能な時点)を参考に、補助金等の交付額確定通知の受領時や付帯条件を満たした時点等、具体的にどの時点で企業が計上すべきかについて、個々の補助金等の内容を踏まえて、事実と状況に応じて判断することになるとの考え方が示されています(研究報告Ⅲ.2.(3))。
なお、資産に関する補助金等については複数かつ長期間の付帯条件が付される可能性もあることから、そういった付帯条件が付された場合には当該付帯条件を満たしているか、あるいは、満たす可能性が確実かどうかの慎重な検討が必要となると考えられる点には留意が必要です。
わが国の会計基準においては、資産に関する補助金等の表示区分については、臨時性があると判断される場合には特別利益に計上し、金額が僅少な場合又は経常的に発生する場合には企業会計原則注解(注12)により営業外収益として計上することが考えられるとされています(研究報告Ⅲ.2.(4))。
資産に関する補助金等の会計処理は会計事象等に関連する会計基準等の定めが明らかでない場合(企業会計基準第24号第4-2項参照)に該当すると考えられることから、重要性がある場合には重要な会計方針として具体的な収益の認識時点を開示することが考えられるとしています。また、付帯条件の内容、補助金等の返還条件等についても、追加情報の注記として開示することが望ましいと考えられるとしています(研究報告Ⅲ.2.(5))。
資産に関する補助金等については、わが国には補助金の認識に関する会計基準が存在しない中で、特に、一定期間にわたる付帯条件の遵守が要求される場合、一時点で利益を計上すべきか又は一定期間にわたり利益を計上すべきか、会計処理が必ずしも明らかではなく、実務に多様性が生じる可能性があるという課題が指摘されています(研究報告Ⅲ.3.(2))。
研究報告では、会計実務における多様性や企業間の財務情報に係る比較可能性の観点からは、本稿で取り上げた件以外を含めて<表6>のように主に4つの点に課題があるとしています。
ただし、これらの点については、現行の会計制度の枠内においても以下の方法により一定の対応を図ることが可能であると考えられるとしています。
① 補助金等の認識規準を重要な会計方針として開示
② 収益に関する補助金等の金額についての開示の拡充(追加情報の注記含む)
③ 資産に関する補助金等の金額についての開示の拡充(追加情報の注記含む)
研究報告の「Ⅴ.全体のまとめ」では、わが国においては補助金等に関する会計基準は存在していないものの、重要な補助金等の会計処理及び表示に関しては、会計実務上、このような情報開示の拡充により、企業間の財務情報に係る比較可能性が確保されることが期待されるとの提言が述べられていますので、財務諸表利用者の観点から補助金等に関する適切な開示がなされているかどうか留意が必要と考えます。
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