EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
獨協大学 法学部教授 高橋 均
一橋大学博士(経営法)。獨協大学法科大学院教授を経て現職。複数の大学(院)客員教授及び社外独立取締役・監査役を兼任。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務(特に、企業統治の在り方、リスク管理体制、企業集団の内部統制等)。法理論と実務面の双方からのアプローチを実践している。近著として『監査役監査の実務と対応(第9版)』同文舘出版(2026年)、『グループ会社リスク管理の法務(第4版)』中央経済社(2022年)、『監査役・監査(等)委員監査の論点解説』同文舘出版(2022年)、『実務の視点から考える会社法(第2版)』中央経済社(2020年)等。
監査役制度は、明治時代に商法が施行された時から存在している長い伝統をもった制度です※1。監査役は、法的に取締役以下執行部門から独立していると言われています。会社法の条文において、監査役の独立性が直接規定されているわけではありませんが、①取締役とは別に株主総会で選任(会社法329条1項)、②会社や子会社の取締役や使用人の兼務不可(会社法335条2項)、③取締役より長い4年任期(定款の定めによる短縮不可、会社法336条1項)、④監査役の選任・解任・辞任についての株主総会での意見陳述権(会社法345条4項)の条文が独立性の根拠となっています。
取締役が法令・定款違反を行うなど善管注意義務違反(会社法330条、民法644条)及び会社の利益より自己の利益を優先する忠実義務違反(会社法355条)を犯すことがあり得る中で、監査役が執行部門から法的に独立した中立的な立場から監査を行うことは、株主の負託に応えることになります。
一方で、監査役は株主総会で選任されるものの、あらかじめ社内において選任議案の内容が代表取締役主導で決定されるケースが多く見られたことから、代表取締役社長に人事権を掌握されているとの批判が常にありました。これに対して、監査役候補者に対する監査役(会)における事前同意権の付与(会社法343条1項)、監査役会における社外監査役半数の選任義務付け(会社法335条3項)の法的手当てがなされてきました。しかし、監査役に対する株主や投資家からの評判は必ずしも良くなく、「閑散役」とか「社内の上がりのポスト」などと揶揄されることも少なからずありました。
他方、社外取締役の数がここ10年間に急増しています※2。令和元年改正会社法によって、監査役会設置会社(公開会社であり、かつ大会社に限る)であって、有価証券報告書提出義務会社は、社外取締役の選任が義務付けられたこと(会社法327条の2)は、社外取締役の選任を法的に後押ししたことになります。社外取締役は、取締役会の監督機能(会社法362条2項2号)の強化が目的です。特に近時の上場会社では、社外取締役の複数名選任に加えて、社外取締役の過半数化やメンバーの多様化についても意識され、実行に移している会社も多くあります。社外取締役による取締役会の監督機能の強化は、監査役による執行部門への監視の観点では共通点がありますが、社外取締役による取締役会への機能強化が図られれば図られるほど、社内における意識面も含めて、監査役の監視機能が相対的に低下する懸念もあります。
しかしながら、監査役はコーポレートガバナンスの一翼を担うと言われているように、「守りのガバナンス」の要としての役割が期待されている中で、監査役としての職責を積極的に果たすことが求められています。「閑散役」との従前の評価に甘んじているわけにはいきません。そこで、本稿では重要な論点に対して、監査役としての姿勢・向き合い方について、監査実務の観点から解説します。
※1 監査役制度誕生の経緯や背景等については、高田晴仁『監査役の誕生-歴史の窓から-』国元書房(2022年)を参照。
※2 2名以上の独立社外取締役が就任している上場会社数は、89.1%(プライム市場の会社では、99.6%)となっている。株式会社東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2025年7月18日)6ページ。会社法上の社外取締役には、大株主から派遣された社外者も含まれていることから、社外取締役の定義上の実数は、東証の数値を上回っているはずである。
監査役に就任して、執行部門との距離感に戸惑いを感じる監査役は少なくないようです。基本的な考え方としては、監査役が執行部門から法的に独立しているものの、コンプライアンス経営を前提とした会社の持続的発展に貢献する方向性は執行部門と変わりはありません。したがって、監査役と執行部門は対立する立場ではないため、過度に執行部門との距離感を意識する必要はないと考えます。また、内部監査部門は執行側の組織であることから、内部監査部門との合同監査はすべきではないと考える必要もなく、効率的な監査(この点は監査を受ける部門にとっても重複感はなくなります)のメリットも勘案すれば、取締役の職務執行を監査する(会社法381条1項)という監査役としての視点を意識しさえすれば、問題があるわけではありません。
もっとも、監査役として法的に決定・決議しなければならない事項、例えば、①取締役の善管注意義務違反の有無の確認・決定、②株主代表訴訟における株主からの提訴請求に関する一連の調査と結果、③会計監査人変更の有無及び新たな選任等については、執行部門に一方的にこれらの決定を委ねることは避ける必要があります。要するに、日々の監査活動において、必要に応じて執行部門との連携をしつつ、監査役としての法的権限を行使するときは、執行部門からの独立性を意識することが基本です。
監査役にとって、適法性監査に限定されるのか妥当性監査に及ぶかについては、監査役に就任して戸惑うテーマの1つです。監査委員や監査等委員は、取締役であり取締役会で議決権があるので、妥当性監査まで及ぶことには異論はないところです。なぜならば、取締役会で上程された案件の妥当性を判断しなければ、議決権を行使できないからです。一方、監査役は、監査という職務を通じて期末監査報告に監査の方法と結果を示す中で、旧商法時代のように取締役の善管注意義務違反の有無等の適法性項目のみの判断であった時代はともかく、会社法においては、内部統制システムの相当性、買収防衛策や親会社等との取引への意見等、妥当性に関する監査項目が存在しています。実務的にも、妥当性の問題の指摘が適法性問題につながる事象、例えば赤字経営からの脱却への指摘は、不正会計への可能性が高まることに対する警鐘にもなります。そもそも論として、研究者の中にも、取締役の善管注意義務違反の有無の監査において、妥当性に関わる事項についても監査権限を有することと実際問題としてはほとんど変わらないとの主張もあります※3。
また、企業実務に大きな影響を及ぼしているコーポレートガバナンス・コード(CGコード)においても、監査役としての役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切ではないとの記載があり(CGコード原則4-4)、適法性監査に限定して監査活動をすることは適切でないと解されます。したがって、執行部門の経営方針や具体的提案について、監査役として適法性監査限定論を意識して発言を控える必要はないことになります。もっとも、監査役は非業務執行役員ですので、執行部門の意思決定に直接指図することについては自制すべきということになります。
監査役は限られた員数の中で※4、網羅的に監査を実施することは現実的に不可能です。もちろん、内部監査部門がよく利用するチェックリストを利用して、各事業部門が自主点検をした結果を集約する網羅的な監査方法もできないわけではありませんが、監査対象部門が形式的な自主点検にとどまることになれば意味がありません。また、監査役が全て網羅的に監査をしなければ監査役としての善管注意義務を果たしていないと法は考えているわけではありません。監査役の業務監査は全部門を一通り実施することにはなりますが、一方で、各事業部門のリスク管理体制(内部統制システム)の是非を判断した上で、問題があるとの印象をもった事業部門に対しては、重点的にヒアリングを行ったり、書類等を閲覧したりすることが理にかなっています。
例えば、ベテラン担当者が集中的に定年退職したり、長らく人事ローテーションが行われずに一部の担当者に業務が任せきりになること、またシステム化が遅れて人為的な作業が続いている職場では、リスクコントロールができずに、不正・不祥事が発生しやすくなります。したがって、監査役としては、各事業部門に対して、事件や事故の事実関係の有無の確認とともに、リスク管理体制の現状を把握した上で、脆弱な職場環境にある部門に対して重点化を図った業務監査を実施することが効率的かつ有益となります。重点的に監査すべきとした事業部門に対しては、個別の重点監査ポイントを事前に提示して、その結果をヒアリングした上で、意見交換及び改善に向けた指摘を行うことになります。
監査役は、監査を通じて取締役(執行部門)に対する監視・是正機能があります。取締役以下は、監査役が業務監査等を通じて指摘し改善要請を行った項目については、真摯に受け止めて検討した上で、必要に応じて対応する責務があります。
一方で、監査役の方からは、執行部門に対して指摘や改善要望を行ったにもかかわらず、対応がなされないことが多いとの悩みを伺うことも多々あります。いわゆる「言いっぱなし」「聞きっぱなし」の状態です。このような現象が続くと、少なくとも監査役からのリスク管理等の視点からの指摘や助言が具体的に執行部門の業務に活用されないばかりか、監査役としても無力感を感じることにもなります。したがって、このような現象は避けなければなりません。
このための対応方法としては、監査役が指摘・改善要請をした重要な項目については、監査実施部門に文書で通知し、指摘等について十分に認識をしてもらうとともに、具体的な対応状況について個別又は次回の業務監査時に必ず報告を受けることを習慣化することが大切です。監査役としては、執行部門から①監査役の指摘等について遅滞なく対応できること、②現時点での対応は困難であるけれども、中期的な課題として対応する予定であること、③諸条件から、現状においては対応が困難なこと、のどれに該当するか明確に回答を得ることが大切です。特に、対応が困難との回答については、その理由についても確認することです。
また、監査役としてどうしても対応すべきと考える内容については、社外取締役とも情報共有して、社外取締役からも執行部門に対して、強く要請することが考えられます。社外取締役からの指摘・要請は代表取締役以下執行部門に対してインパクトがあり、オーナー色が強い一部の会社以外は、社外取締役からの意見・提言について無視することはしないのが通例ですから、社外取締役との連携を通じて指摘事項の改善の実現を図る手段も考慮してよいと思われます。
※3 神田秀樹『会社法(第24版)』弘文堂(2022年)268ページ。
※4 2024年のアンケート結果によると、監査役平均人数は、2.81人(内、常勤者1.20人)である。(公社)日本監査役協会「2024年監査役制度の運用実態調査 第25回定時株主総会後の監査役等の体制に関する年次調査集計結果」月刊監査役No.770(2025年)26ページ。
社内出身の監査役が就任の内示を受けたときに、戸惑いを感じたとの声を多く聞きます。執行部門に在籍していたとき年に1~2回の業務監査のヒアリングに対応したといっても、それだけでは監査役監査の実態は不明ですし、執行部門の職場において監査役やスタッフの経験者が基本的には存在しないことからすれば、当然の感想と思います。また、監査役に就任した後も「思ったより忙しい」という意見と「暇である」という意見に分かれています。後者の場合は、執行部門に在籍していたときに、最前線で経営の意思決定に関わり、かつ日々実行してきた経験のある監査役に多いようです。
社内において、監査役の存在・立ち位置が確立し、監査役の意見や主張に対して、取締役以下執行部門が真摯に耳を傾けて、必要に応じてその意見等を積極的に取り入れている会社はガバナンス面でもしっかりしているとの印象です。良い意味での監査役と執行部門との緊張関係と言ってよいかもしれません。監査役の意見等が執行部門に対して説得的となるためには、監査役としても単に問題点や課題を一般論として指摘するだけではなく、具体的な方法論まで展開できることが重要と思います。監査役からの具体的な提言を採用するか否かは執行部門の判断です。このためには、監査役は常に法令やガイドライン等の改正の知識修得のみならず、さまざまなテーマに対する最新情報を収集する研鑽が求められます。CGコード記述のトレーニング(原則4-14)です。単に社内業務監査を一通り実行して終わりというのではなく、常に自己研鑽が必要ということになります。
監査役のコーポレートガバナンスの一翼を担うという点に着目した株主や投資家からの期待が高まってきている現状を踏まえて、監査役としての権限を適切に行使し、社内のリスク管理体制の構築・運用状況を監査すること、及び取締役に重大な法令違反の恐れがあったり、それが実際に表面化したりしたときには、監査役間はもちろんのこと社外取締役とも連携をとって、毅然とした対応をとる監査役の覚悟が求められているとの自覚も必要と思います。これらの点は、監査委員や監査等委員に就任したとしても変わるものではありません。
私は、監査役制度については、監査役の報酬や選任議案等に関する現行法について、新たな立法措置としての改正の余地があると考えています。研究者の一人として、監査役の実務実態を踏まえて、監査役の活動がより実効性を確保できる立法的な措置について、立法事実を踏まえてこれからも主張・提言していきたいと考えています。
2017年にEY新日本有限責任監査法人の「情報センサー」編集責任者の方から、定期的な特別寄稿の依頼があったのを契機に、2018年1月号から四半期に1度のペースで、時々のトピックスやテーマについて寄稿してきました。一般研修会及び社内研修会での質疑、また(公社)日本監査役協会及び(一社)監査懇話会の会員監査役の皆さんとの意見交換も参考にしながら、これまで32回にわたって掲載していただきました。今回を持ちまして特別寄稿は終了となります。長い間のご愛読ありがとうございました。監査役の皆さまの益々のご活躍を祈念しています。
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