改訂版ESRSの最新情報

簡素化のポイント

欧州財務報告諮問グループ(“EFRAG”)は、改訂版ESRSである公開草案(Exposure Drafts)を2025年7月31日に公開しました。今回の公開草案では、現行のESRSと比較して「shall」である必須データポイントが約57%削減、「may」の任意データポイントはすべて削減されたことにより、全データポイントは1073から347に修正されました。

ESRSの簡素化は以下の6つの主要な方策に基づき取り組みを進めています:
 

方策①:ダブル・マテリアリティ評価(”DMA”)の簡素化

目的:過剰な手続きを排除し、戦略やビジネスモデルに即した柔軟で実務的な評価手法を導入することで、DMAプロセスの負担軽減と報告の有効性向上を図る。
主な変更点:特に重要なトピックの特定にあたってトップダウンアプローチの採用が可能になる(公開草案ESRS 1.AR17項) など従前の実務を大きく簡素化する可能性がある変更が含まれています。また、インパクトの評価に際して緩和・予防の方針・行動考慮に関して新たな考慮事項が追加されています。(公開草案ESRS 1.34項および35項)
 

方策②:サステナビリティ報告の読みやすさ・簡潔さの向上、および企業報告全体への統合性の強化

目的:報告の重複や過剰な粒度を避け、規定の報告文化を尊重しつつ過度に規定的にならないよう柔軟な構成や要約・付録の活用を促す。
主な変更点:開示単位としてインパクト、リスク及び機会という詳細な単位でだけでなく、インパクト等の性質や管理方法を反映するなど、最も関連性の高い情報を提供するのであればトピック単位での開示もすべきことが明確化されています。(公開草案ESRS 1.22項)
 

方策③:最低限開示要件(MDR)とトピック別基準の仕様との関係性の根本的な見直し

目的:重複や曖昧さを解消するため、ESRS 2の一般開示要件を中心に据え、トピック別の詳細要件を大幅に削減する。
主な変更点:特に従前の最低限開示要件(MDR)が全般的開示要件(GDR)に変更されたことに伴い情報の重要性が適用になり、より原則主義に近い基準が提案されています。(公開草案ESRS 2.29項~44項)
 

方策④:基準の理解しやすさ、明確さ、アクセスのしやすさの改善

目的:任意開示の廃止や構造の整理、言語の簡素化により、ESRSの理解しやすさと実務での使いやすさを大幅に改善する。
主な変更点:任意開示項目である「may」は全て削除され、拘束力のない例示ガイダンスが新たに作成されています。
 

方策⑤:その他の報告負担軽減策の導入

目的:ISSB基準との整合性等を考慮しつつ、過度なコストや労力をかけずに推定値に基づく報告への緩和策を強化する
主な変更点: ISSB基準で採用されているプロポーショナリティ(企業の成熟度に比例した規定)のメカニズムの導入(公開草案ESRS 1.87項)、指標の集計範囲からの重要でない活動の除外に関する規定(公開草案ESRS 1.90項)などが導入されています。
 

方策⑥:相互運用性の強化

目的:ESRSとISSB基準との間で相互運用性を強化することで、複数の法域で報告義務を持つ企業の負担軽減を目指している
主な変更点:ISSB基準とのアライメントが、予想される財務的影響の開示に要求(公開草案ESRS 1.23項)、プロポーショナリティのメカニズム(公開草案ESRS 1.87項)など幅広く導入されています。
 

参考: Amended ESRS – Exposure Drafts July 2025 Basis for Conclusions | EFRAG

 

改訂版ESRS 今後の提出スケジュール

7月31日のEFRAGのUpdateによれば現在のスケジュールでは次のようなステップが予定されています。

  • 7月31日:改訂版ESRSの公開草案公表
         公開意見募集(Public consultation)開始
  • 9月29日:公開意見募集終了
  • 11月末:改訂版ESRSを含むテクニカルアドバイスの欧州委員会(“EC”)への提出

なお、改訂版ESRSは委任規則として採択後に採用可能となります。このため、2025年11月から改定版ESRSが使用可能となるわけではない点にご留意ください。委任規則の採択は「CSRDのコアコンテンツに係る指令」の成立後6ヶ月以内になされるという表現が背景文書において使用されています。 

 

EYがサポートできること

EYでは、上記の改訂版ESRSの内容・スケジュールを含め、CSRDやCSDDDなどに関する最新の動向を継続的にモニタリングしています。その他立法状況に関するスケジュールに関する詳細はこちらをご確認ください。

なお、簡素化ESRSの公開草案に関しても、日系企業の皆様が基準の分析等に時間を取られ、本来注力すべき実務への適用の時間が削られてしまわないよう詳細な解説資料も用意しております。

規制を巡る議論は日々活発に展開されていますので、CSRDを取り巻く最新情報が必要な方は、以下のメンバーまでお気軽にお問い合わせください。

EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 米国公認会計士  マネージャー 山中 紗織
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 大宮 萌
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 鈴木 慧
EY Belgium JBS(Japan Business Services)  公認会計士・CFA・日本アクチュアリー会 準会員   馬場 翔太



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