EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2024年4月と5月に開催された欧州議会および欧州理事会では、グリーンディール1を推進し、2050年までに排出量ネットゼロを実現するための多くの規制が採択されました。本稿では、4月と5月に実施された欧州議会の一連の投票から生じた主な進展と、その他の注目すべき進展について概説します。
それぞれの施策の導入時期はさまざまですが、1つ確かなことがあります。現在の欧州連合(EU)の規制は、グローバル・バリューチェーン全体への影響を考慮すると、EUと取引を行う全ての企業にとって、持続可能なビジネス変革を加速させる明確な指標となります。場合によっては、これらの指標に即さないコンプライアンス違反によりEUと貿易を行うことができなくなる可能性もあります。
2024年4月24日、EUのコーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CS3DまたはCSDDD)2が欧州議会によって採択されました。同指令は、企業の規模に応じて2027年から段階的に適用される予定です。対象となる企業は、人権や環境への悪影響を防止、軽減、是正するためのデューデリジェンス対策を、グローバルに展開する活動および自社の事業全体にわたって実施することが求められます。対象企業のバリューチェーンで事業を展開する世界中の中小企業は、結果として対象企業から課される契約上の要求として間接的に影響を受けることになります(トリクルダウン効果)。
その他の関連するサプライチェーン規制には、EU強制労働規制3があり、これは規制の公布から3年以内に強制労働によって製造された商品の販売、輸入、輸出を禁止しています。また、EU森林破壊防止規則(EUDR)4もあります。2024年12月30日以降、EUDRは、EU域内への輸入、域内取引、域外への輸出を行う特定の製品・商品について、森林破壊のない状態(「森林破壊フリー」)で生産され、合法であることを確認するデューデリジェンス宣言書(Due Diligence Statement)の添付を義務付ける予定です。
上記の規制は、環境への悪影響を防ぐために、グローバル・サプライチェーンを明確にマッピングし、分析し、評価する必要性を示しています。この喫緊の課題は、EU炭素国境調整メカニズム(CBAM)5が示しているように、欧州グリーンディールでは目新しいものではなく、企業は部門横断的なアプローチを取り、サプライヤーと緊密に協力することが求められています。
Fit for 55政策パッケージの一環であるエネルギー効率化指令とともに採択された建築物のエネルギー性能指令6により、EUは2050年までに気候中立な建築セクターを目指しています。2030年までに、全ての新築建物をゼロエミッションにし、住宅用建物ではエネルギー使用量を少なくとも16%削減する必要があります。
メタンもまた注目されています。新しいメタン規制7の下では、エネルギー部門(石油、ガス、石炭)の影響を受ける企業は、資産レベルで排出量を監視、報告、検証し、漏洩・検知に関するコンプライアンス対策を実施することが求められます。メタンを直接大気中に放出するベントや制御燃焼させて処分するフレアリングは禁止されます。新しい規制は、EUを拠点とする生産者だけでなく、EU域内への石油・ガスの輸入者、そして間接的にはEU域外の生産者にも影響を与えます。
輸送分野では、大型車両に対する新たな排出削減目標8が設定され、特に自動車やバンの排出基準、今後導入される道路輸送の排出量取引制度(ETS)、海運のETS、持続可能な航空燃料の目標など、他のFit for 55要素と組み合わせることで、輸送の脱炭素化に向けた新たな推進力となっています。
脱炭素化は、大気、水、土壌の質を改善し、廃棄物を全般的に減らすことにより、発生源での汚染を削減するという目標を含むゼロ汚染アクションプランによって継続されます。改正産業排出指令9は、産業施設からの大気、水、土壌の汚染を規制するEUの主要な手段です。新しい規則では、産業用の大規模畜産農場からの排出物に対する規制が厳格化されます。水の使用、廃棄物管理、エネルギー効率、原材料の使用についても、より厳しい規則が導入されます。その他の重要な産業界の進展には、新しい自主的な炭素除去認証枠組み10や、二酸化炭素回収・利用・貯留の普及を支援することを目的とした産業炭素管理戦略などがあります。
廃棄物への対処を続ける中で、最近の進展が製品のライフサイクルを延長し、電子廃棄物を削減する道を切り開いています。新たに採択されたエコデザイン規則11により、EUで販売される優先製品は、循環性原則を念頭に置いて設計されることになるため、より再利用、修理、アップグレード、そしてリサイクルが可能なものとなり、鉄、鋼、アルミニウム、繊維、洗剤、潤滑油、化学薬品などが最初に対象となる見込みです。事業者は廃棄量を報告する必要があり、売れ残った衣類、アクセサリー、履物は破棄できません。
エコデザイン規則の重要な要素は、デジタル・プロダクト・パスポート(DPP)であり、これもサプライチェーンのトレーサビリティにつながるものです。DPPは、使用材料、リサイクル可能性、修理可能性など、新規則で規制される全ての製品のライフサイクルに関する標準化された情報を提供するもので、消費者がより多くの情報に基づいた持続可能な購買決定を行えるようにすることを目的としています。
修理する権利指令12の採択により、消費者は修理サービスを評価、比較、利用しやすくなり、再購入よりも修理や改修が奨励されます。同指令は、製造業者が商品を修理し、修理を通じて製品のライフサイクルを延長する義務を定めています。
2024年3月、EUグリーンクレーム指令(GCD)13が採択され、消費者のための耐久性や修理可能性に関する製品情報の改善、グリーンウォッシュや早期陳腐化からの消費者の保護、修理の促進に関するグリーン移行のために消費者に権限を与える指令を補完するものとなりました。GCDの下では、環境に優しいとする主張を検証した企業のみが、EU市場で販売される製品のマーケティングやコミュニケーションにおいて、そのような主張を使用することができます。
最近採択されたEUの改正包装・包装廃棄物指令(PPWD)14は、陸上・海上にかかわらず、プラスチック廃棄物に対処するための解決策の一部です。PPWDには、プラスチック包装廃棄物を削減し、再使用、詰め替え、リサイクルを奨励する新たな目標が含まれています。さらに、特定の使い捨てプラスチック包装と「永遠の化学物質(forever chemicals)」(PFAS)は禁止されます。PPWDは、欧州全域における各国の拡大生産者責任制度の調和を図り、新たな表示要件を定めています。
新しい規則が次々と制定される一方で、EUにはHorizon Europe、LIFE、EU Innovation Fundなど、企業がネットゼロ目標を達成するのを支援するための融資・資金提供プログラムがすでに数多くあります。暫定危機・移行枠組み15の下では、バッテリー、電解槽、ヒートポンプ、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)、ソーラーパネル、風力タービンの生産への投資を支援するための国家助成金が利用可能です。
最近欧州議会で採択されたEUネットゼロ産業法16は、ネットゼロ技術、すなわち再生可能エネルギー、原子力、産業の脱炭素化、送電網、エネルギー貯蔵技術、バイオ技術の導入を支援するものです。この法律の下では、計画や届出手続きが簡素化され、場合によってはスケジュールが早まります。
サステナビリティに関する規制の進展が加速することは、税務部門にとってどのような意味を持つのでしょうか?税務部門は大きな役割を果たします。
これほど多くの変化が起きている今こそ、税務部門がより幅広く事業部門と協力し、サステナビリティ戦略やより広範なビジネス変革計画を理解する絶好の機会です。その第一歩として、EYグリーンタックス・トラッカー17は、65を超える国・地域の環境税や優遇措置の状況を把握するのに役立ちます。
巻末注
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