TradeWatch 2024年 Issue 3

TradeWatch 2024年 Issue 3  EU:ロシアに対する制限措置



ウクライナでの戦争が続く中、欧州連合(EU)はロシアとベラルーシに対する貿易制限措置と制裁を導入し、現在も継続しています。EU企業はこれらの一連の措置の内容を認識し、それらを遵守する必要があります。しかし、影響はEUの国境を越えて発生してきているばかりか、EUの制裁を回避する行動が生じていることを受けて、それらの迂回行為を防止することを目的とした新たな措置も導入されています。


EU域外の子会社による回避を防止するための新措置

2024年6月24日、EUはロシアに対する制限措置の第14弾となる制裁パッケージを採択し、EU規則833/20141を改正しました。このパッケージでは、新たな第8a条が導入され、EU企業に対して、EU域外に設立された子会社もEU規則833/2014に記載された制裁を弱体化させる活動に加担しないよう最善の努力を尽くすことを要求しています。ベラルーシに対するEUの制裁に関するEC規則765/2006を改正するEU規則2024/18652には、同様の措置が含まれています。

ここ数カ月の間、EUの焦点は、EUに拠点を置く企業に対する禁止措置から、これらの禁止措置を回避しようとする試みへの防止策へと移行しました。この変化は、2023年12月に採択された第12g条で明らかになり、EU域外の企業に対し、EUから輸入した物品をロシアに再輸出しないことに契約上合意することを要求しています。

EU規則833/2014の第8a条および第12g条は、関与する企業がEUの管轄下にあるかどうかに関わらず、EUの制裁の意図した効果を損なう活動を防ぐことを目的としています。

ロシアに対するEUの制裁の域外適用に関して、企業と貿易専門家間の議論は、第12g条が採択されたときに始まり、第8a条の導入によりさらに激化しています。


EUの属地主義および属人主義の原則

EU規則833/2014の第13条に明記されているように、ロシアに対するEUの制裁は、属地主義(すなわち、EUの領域内、およびEU内で全部または一部が行われるビジネスに関して)、ならびに属人主義(すなわち、EUの市民、EU加盟国の法律に基づいて法人化または設立された企業、および加盟国の管轄下にある航空機や船舶に対して、その所在地に関わらず)に基づいて適用されます。

同様の制限は、イラン(EU規則267/2012の第49条)、シリア(EU規則36/2012の第35条)、ベネズエラ(EU規則2017/2063の第20条)、コンゴ民主共和国(EC規則1183/2005の第11条)に対する他のEUの制裁にも反映されています。

属人主義に従い、EUは、域外においても一定の規制を適用しています。例えば、外国の事業体がEU市民のデータを処理する場合の一般データ保護規則(GDPR)などです。同様に、ロシアに対する制限措置は、EU加盟国の法律に基づいて設立されたEU企業の外国の関連会社にも適用されます。


域外適用

EUは、EU規則833/2014に関連するよくある質問(FAQ)を含め、属地主義および属人主義の原則へのコミットメントを繰り返し強調してきました。EUは、「制裁は決して域外適用されるものではない」と述べ、「EU企業の子会社は、所在国の法律に基づいて設立されているため、所在国の法律に拘束される」と述べています。これらの要素に基づくと、第8a条はEUの法的権限の範囲に関する立場と矛盾しているように見えます。

さらに、EUは、非EU諸国の外国規制が自国の国境を越えて適用されることに反対しています。1996年には、EUはキューバおよびイランに対する米国の制裁からEUの事業者を保護し、これらの法律への遵守を禁止することを目的とした、ブロッキング規則(EC規則2271/96)3を採択しました。ブロッキング規則の前文には、「これらの法律の域外適用は、(中略)国際法に違反する」と記載されており、これには主権、不干渉、および管轄権の主な根拠として属地主義の原則が含まれています。ブロッキング規則は、特定の米国法に対する直接的な対応であり、米国政府が米国と関係がない(すなわち、米国とのつながりがない)米国以外の当事者に対して、米国外で取引を行うことに対して二次制裁を科す可能性に対応するものでした。また、ブロッキング規則は、所有と支配に基づく要件への遵守を妨げることも目的としています。EU内に所在し、EU加盟国の法律に基づいて設立された企業が、米国の事業体によって所有または支配されている場合であっても、イランに対する米国の制裁に従うことを禁止しています(付属書第6条(iii))。

したがって、EUが米国に対してこのような立場をとりながら、外国法に基づいて設立されたEU企業の外国子会社がEUの制裁に従うべきだと主張するのは、一貫性がないように思われます。

第14弾パッケージの前文(27)の内容を検証すると、EUは依然としてその基本原則に忠実であるように思われます。前文は、制裁が「第13条で定められた管轄権の範囲内で」実施されると述べています。また、EU企業に重要な責任を追加し、「同時に、EUの事業者が、[外国の事業体]の行動に決定的な影響力を与えることができ、かつ実際に与える場合、彼らは制限措置を弱める[事業体]の行動に対する責任を負う可能性があり、そのような行動が起こらないよう自らの影響力を行使すべきである」と述べています。

それにもかかわらず、規制当局が用いた文言は意図的なものでした。「弱体化させる」という用語が「違反する」の代わりに用いられており、EU法の対象となることと、EU法に違反すること、そしてEU法の有効性を損なうまたは、弱体化させる活動を行うことの違いを強調しています。さらに、この行為の主体はEUの事業者を指しており、子会社自体が責任を問われるのではなく、EUの事業者が子会社によって行われた行動に対して責任を負う可能性があることを示唆しています。実際、非EU企業がEUの制裁に反する行動を取ったとしても、その企業は外国法に準拠しているため、EUの裁判所は処罰することができません。

前文は法的拘束力を持たないものの、この前文は第8a条の解釈に必要な洞察を提供する可能性があり、第8a条が所有と支配を通じてEUの管轄権を確立するものではないことを確認しています。


新措置の影響

とはいえ、EU規則833/2014の第8a条は、EUの制裁制度に大幅な変更をもたらし、これにより正当な企業がロシアに対する制裁制度の複雑さを理解し、対応することがより困難になる可能性があります。

同規則の第12条はすでに、「本規則の禁止事項を回避する目的または効果を持つ活動に、故意にかつ意図的に参加することを禁止する」と述べています。FAQも、EU企業が制裁を回避するために外国子会社を利用することができないことを示しており、例えば、EUの措置に反する決定を外国子会社に委任することや、外国子会社で働くEU市民が制裁を回避する効果を持つ行動を取った場合には、責任を負う可能性があることを示しています。

第8a条の採択は、EU企業が「次に何が起こるか」に関しての役割が受動的から能動的に変わるべきであることを裏付けるものであるように思われます。EU企業はEUの制裁を弱体化させる外国子会社の活動に関与することを避けるだけでなく、これらの活動を防ぐための適切な措置を講じる必要があります。


企業に求められる対策

第8a条の解釈に関するEUからのさらなるガイダンスがない現状において、EU企業は、この新しい規定に対応するための適切な措置を講じ、自社の事業活動にどの程度関連しているかを検証すべきであるというのがEYの見解です。そのために、EU企業は以下のことを行うべきです。

  • 「所有」と「支配」4の定義が自社の構造にどのように適用されるかを検証。
    所有とは、法人の所有権の50%以上を保有していること、または過半数の持分を有していることと定義される。支配の指標としては、取締役の過半数の任命または解任の権限、子会社の資産の使用権、または連結財務報告と併せて子会社の事業を一元的に管理する能力などが挙げられる。EUは、所有と支配を「影響力」と表現することがある。
  • EU制裁を弱体化させる取引を「認識」しているだけでも、責任を問われるのに十分であることを考慮。
    例えば、EUの親会社が、非EU子会社がEU規則833/2014で禁止されている商品をロシアに輸出していることを知りながら、それらの禁止された輸出がEU域内から行われたとみなされた場合、親会社は責任を負う可能性がある。
  • 子会社の設立国、ビジネスフロー、業種、およびロシアとの取引が可能な商品、ソフトウェア、サービスといった商材の種類に基づいてリスク評価を実施。
  • 制裁を弱体化させるリスクを軽減するためのポリシー、管理、手順の導入。当局に対して、自社が実施すれば禁止される活動に子会社が従事しないよう、最善の努力を尽くしたことを証明する必要がある。


このレベルの管理が実現不可能な場合、EU親会社は、非EU子会社に対する実質的な支配の程度、子会社の規模や性質、あるいは子会社に対する支配の行使を妨げる可能性のある第三国の法律の適用などの要素を考慮し、それがなぜ実現不可能であるかを分析し、正当化する必要があります。


サマリー

EU規則833/2014の第8a条は、EU企業にロシアとの貿易に対するEUの制裁の遵守を確保するための積極的な役割を導入するように見える一方で、EUの影響を領土の国境を越えて拡大しようとしているようにも見えます。したがって、EU企業は、EUの制裁を弱める行動を防ぐために、子会社の活動を積極的に評価し、管理する必要があります。これらは複雑な問題です。さらに、これらの発展がEUの従来の域外適用に関する立場と相反する可能性があるため、EU企業は関連するEUのガイダンスを定期的に確認し、これらの課題を効果的に対応するために専門家のアドバイスを受けることを推奨します。

巻末注

  1. 2014年7月31日付の理事会規則(EU)第833/2014号は、ウクライナ情勢を不安定化させるロシアの行動を考慮した制限措置に関する規則。
  2. 2006年5月18日付の理事会規則(EC)第765/2006号は、ベラルーシ情勢およびロシアによるウクライナ侵攻へのベラルーシの関与を考慮した制限措置に関する規則。
  3. 1996年11月22日付の理事会規則(EC)第2271/96号は、第三国が採択した法律の域外適用による影響、およびそれに基づく措置またはその結果生じる措置から保護するもの。
  4. EU規則833/2014の前文(28)および「制限措置を効果的に実施するためのEUのベストプラクティス(EU Best Practices for the effective implementation of restrictive measures)」11623/24。