EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ジョブ型やスキルベースなどハードスキルを重視した組織管理手法が注目される一方で、そのカウンターとも言える動きが見られ始めています。その名もPersonality Hire、日本語訳だと「パーソナリティ採用」、または「人柄採用」あたりでしょうか(本稿ではパーソナリティ採用とします)。リモートワークやデジタル化が進むにつれてスキル重視の採用が拡大した中において、スキル要件を充足していないにもかかわらず採用された人のことをやゆするニュアンスがあった用語ではあるのですが、そのような批判的な意見への反論が最近徐々に増えてきているのです。今回はこのパーソナリティ採用について考えてみましょう。
人材プールが希少な特定スキル保有者を採らなければならない場面を想定しましょう。そこへ当該スキルを持っているらしい、しかしこれまでの企業カルチャーとはなんとなく雰囲気の異なる人物が応募してきたとして、その人を採用するか、別の候補者を探すか、というのが問題です。当然現実はそのバランス型となりますが、ここでは単純化のため2択とすると、採用を選択するケースが増えている、というのが「スキル重視が増えた」ということです。そうやって「スキルを保有しているはず」の人を採ったものの、やはりパフォーマンスが優れない人もいる。そうした時に、「スキルではなくパーソナリティで採用されたのでは?」と皮肉を言うのが否定的な「パーソナリティ採用」の用法です。
既に問題がいくつか見えています。1つは、スキルは評価が難しいこともある、ということ。スキル重視採用と言うからには少なからずスキル評価はするのでしょう。それでも見極められない例が、皮肉が散見される程度に発生していると理解されます。そしてもう1つは、パーソナリティがパフォーマンスに影響しないと考えられているということ。スケープゴート的にパーソナリティが用いられるというのは、すなわちスキルさえあれば成果は出る(はず)という前提を多くの人が共有しており、それが「スキル重視」という組織の価値観となってしまっているということです。
当たり前と言えば当たり前なのですが、例えばコミュニケーションスキルがなければチームプロジェクトやインタラクティブなタスク推進は難しいでしょうし、単にスキルだけではビジョンへの共感も低くエンゲージメントも高まらないでしょう。もっと極端に、達成志向性や新しいものへのオープンさなどを持つ人はスキルが足りなくてもすぐにキャッチアップするはずで、成長の見込みと将来的な成功可能性を考えるとスキルよりもパーソナリティを見るべきだ、という声さえあります。つまりスキル「だけ」で成り立つ世界というのはそもそも考えづらい中で、「スキル重視」の進め方を間違うと先のような皮肉を言う排他的な組織風土を生み出してしまうリスクがあるということを証明していると考えられるのです。
そしてもう1つの潜在的論点が、ここで言う「スキル」は今の仕事で必要な「スキル」なのか?という時間軸問題です。採用時には確かにそのスキルが必要だったかもしれませんし、正しくスキル評価もできていたかもしれません。一方でスキル陳腐化のライフサイクルは年々短縮され続けていますので、一見すると「パーソナリティ採用」と言われるような状態を生みやすくなっていることもまた、事実なのです。その時に「パーソナリティ採用」だと皮肉を言って終わらせていては組織としての成熟度はいまひとつと言わざるを得ません。そこで膠着状態に陥らないためにも、そのような状況からもすぐに回復できる柔軟性や学習意欲、問題解決力などのパーソナリティを有した人を、本来の意味での「パーソナリティ採用」することが必要とされるのです。
日本ではパーソナリティ採用はごく普通に行われる慣行と言って差し支えないと思いますが、しかしその手法はまだまだ洗練されているとは言えず、労働人口は減少傾向にもかかわらず、候補者と選考者が共に生成AIを活用し合ってあれこれ時間を浪費している感が否めません。スキル重視への切り替えを検討する企業が増える中で、スキルとパーソナリティをどう採用時にバランスさせるのが自社にとって最も良いのか、という自社最適のバランスを追求することは当然として、一周回った感のあるPersonality Hire(海外の状況を指す意味であえて英語に戻します)の動きから、MBTI、DiSCなど各種診断ツールの今後の進化に注目し、ガクチカ論争の効率的かつ科学的な解消を目指してみるのも有意義かもしれません。
参考文献 ※内容はアクセス当時のものとなります。
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