タブレットで在庫を確認している薬剤師の手元

今こそ、デジタルの力でD2Cヘルスケア変革を

医療機関は変化し続ける患者の期待に寄り添うため、患者と直接つながるデジタルコマースを積極的に取り入れ、自らのビジネスの変革を強力に推進しています。


要点

  • デジタルコマースが、変化し続ける患者の期待に応える原動力となり、ヘルスケア業界に変革をもたらしています。
  • 患者と直接つながるD2C(Direct to Consumer)デジタルソリューションは、既存システムと連携し、規制遵守に対応するためのクラウド型サービス(SaaS)を提供します。
  • 世界のヘルスケア分野におけるデジタルコマース市場は、年平均成長率(CAGR)18.5%で拡大し、2022年には3,100億米ドル規模に達しました。さらに今後も拡大し続け、2026年までCAGR 18.7%で成長し、6,140億米ドル規模に達すると予測されています。



EY Japanの視点 

ヘルスケア業界におけるD2Cモデルの導入は、患者の期待に応えるための重要な変革をもたらします。患者接点のデジタルコマース化を通じて、患者との直接的なつながりを深化させ、より良い医療体験を提供することで、ユーザーのロイヤルティ向上とビジネス収益拡大を実現します。

この分野では、規制を遵守しつつ柔軟性と拡張性をもたらすデジタルプラットフォームの活用が求められます。これにより、医療機関はサービスを効率化しながら、患者の利便性を向上させることが可能です。我々はShopifyとのアライアンスを通じて、変化する規制環境に対応しつつ、医療機関が患者との信頼関係を築き、持続的な成長を実現するための戦略的ソリューションを提供しています。

EYは、ビジネスモデルの再構築、デジタル変革、顧客体験に関するプロフェッショナルを集結し、Shopify導入に際してAI領域やCX変革、複雑なインテグレーションの実現を俊敏性と機動性を持つ体制で強力に支援いたします。


EY Japanの窓口

森 雅也
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・エンジニアリング パートナー



人々は常にシンプルでより良い体験を求めており、ヘルスケア分野も例外ではありません。こうした期待に応えるため、医療機関は積極的にデジタルコマースを取り入れ、患者と新しい形でつながりを深めることで、ロイヤルティ向上と収益拡大の大きなチャンスを創出しています。その可能性を最大限に引き出すためには、業界全体が規制を遵守する姿勢を維持するとともに、従来のパラダイムを見直すことが必要です。どちらか一方だけでは成り立たないのです。

なぜ今、ヘルスケア業界にとってD2Cデジタル変革が重要なのか?

従来の医療(病気やけがの予防・治療に必要なさまざまな製品・サービスを含む)を支える仕組みは、もともと非常に複雑でした。医療従事者の必要性はこれまで以上に増え、システムの負荷も増大しています。その一方で、患者はより良い医療体験を求め始めています。それは、生活のあらゆる場面においてスムーズで手軽に利用できる、D2Cモデルのデジタル医療体験です。一般的なコンシューマー業界と同等のスピードが、今日の医療業界にも求められているのです。製品やサービス、規制、そして何よりも患者のニーズは多様化しています。「自前でシステムを作る」時代は終えんを迎えました。医療機関が時代の変化に追随するためには、常に最良のソリューションを提供し続けなければならないでしょう。それは一体どのようなものでしょうか?必要となるのは、ローコード、ノーコード、またはSaaSのような仕組みで、柔軟性・拡張性が高く、既存のシステムやプラットフォームに統合できるソリューションです。

数字で見ると、世界のヘルスケア・デジタルコマース市場は2021年の2,610億米ドルから2022年には3,100億米ドルへと拡大し、年平均成長率(CAGR)は18.5%でした。今後も市場成長が続くと予測されています。業界アナリストによると、ヘルスケア・デジタルコマース市場は2026年までCAGR 18.7%で成長し、6,140億米ドルに達すると見込まれています。なぜこれほど急成長しているのでしょうか? 医療に対して、患者はさらに次のようなことを求めています。

  • 選択肢の多様化:患者は、ウェブサイトやモバイルアプリ、クラウドサービスなど、さまざまな手段を通じて、幅広い医療製品やサービスに簡単にアクセスできるようになっています。一般の製品・サービスと同じように、患者は医療に対しても複数の選択肢を求めており、利用コストと得られる効果については、これまで以上に意識をしています。
  • 信頼性:ヘルスケア・デジタルコマースの利用者にとって最低限必要なのは、安心感と高い信頼性を兼ね備えた強力なユーザー体験が得られることです。どの業界でも、“デジタルトラスト”が、自社ブランドを差別化し顧客の関心を惹きつけ、ロイヤルティを高めるドライバーになっています。
  • バーチャル化:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、デジタル化された非接触型の医療サービスが強く求められるようになりました。さらに、コロナによる隔離生活が心身に与えた影響も加わり、患者の医療体験への期待は大きく変化し、その変化は今も続いています。
  • 利便性:ショッピングや旅行、資金管理などで当たり前になった便利さを、人々は医療にも求めるようになっています。患者は自宅にいながら医療サービスを利用でき、薬も自宅まで届けられます。その結果、待合室での長い待ち時間や薬局に行く負担を回避できるのです。こうした“デジタルファースト”アプローチはユーザーの負担を軽減し、患者にも高く評価されています。
  • 手頃な価格:2023年には、インフレが続く中で世界の消費者の94%が生活費の高騰に不安を感じていました。同時に、世界の医療保険費用も上昇しており、約15年ぶりの高水準に達することが見込まれています。世界的に、保険会社は2021年、2022年と同様、2023年も引き続き10%の医療保険費用の上昇を織り込んでいます。患者はこうした費用負担増を実感しており、医療に関わる制度やプロセスの見直しに関心が高まっています。

こうした社会経済や患者のニーズに対応し、その実現に向けてデジタル変革を進めることは、規制の厳しい医療分野では決して簡単ではありません。新たな市場は開かれ、新しい技術も実用化され始めています。一方で、患者のヘルスケアジャーニー全体をデジタル化するには、多くの規制に対応しながら進めなければなりませんが、こうした規制は地域ごとに異なるだけでなく、今もリアルタイムで変化し続けています。これらの要因により、従来の医療のあり方は大きく変化し、オンラインの医療エコシステムを通じてより良い患者体験を提供する大きなチャンスを迎えています。しかしそれと同時に、規制の細かな違いに一つずつ対応し、同じ時間でより多くの患者にサービスを提供できるプラットフォームやエコシステムに関わる協力関係を構築しながら進めなければならないのです。こうした新しい取り組みを業界全体に広げつつ、適切なコンプライアンスチェックを実施することで、さらに多くの変革のメリットが得られるようになるでしょう。

 

医療にデジタルコマースを取り入れることが、患者と医療従事者の双方にどう役立つのか?

 

医療分野でも多くのことが、すでにオンライン化されています。例えば、予約の手続きや遠隔診療、処方薬のリフィル、医療製品の購入などです。それでも、医療業界のデジタル化は他の業界に比べて遅れています。その大きな理由としては、医療行為の当事者以外の仲介者が多くプロセスが複雑であること、また、医療業界を取り巻く規制環境が特殊であることが挙げられます。ライドシェアやフードデリバリーのような他業界のサービスとは異なり、医療をオンライン化するには、以下のような非常に細かい規制や業界特有の要件に対応しなければなりません。

  • 医療の質と安全の確保
  • 患者のプライバシー保護
  • 法規制の遵守
  • 新技術を取り入れた管理
  • レガシー基幹システムへの対応

こうした重要な要素を捉え、変化する患者ニーズに合ったデジタルアプローチを取り入れることで、医療機関や関連企業に新たなチャンスが生まれます。

例えば、患者はもっと効率的な医療サービスを望んでいます。オンラインのサービス提供は、患者の利便性を向上するだけでなく、医療従事者が同じ時間内でより多くの患者を診療できる効率性をもたらします。こうした仕組みを医療のバリューチェーン全体に展開し、要所にコンプライアンスチェックのプロセスを組み込むことで、さらに多くのメリットが得られるようになるでしょう。

例えば、製品やサービスを患者に直接提供することで、より値打ちのある価格を求める患者の声を反映することができます。これにより、企業の流通コストやムダの削減も可能になり、プロセス全体で利益率を改善することにもつながります。

さらに、デジタルD2Cモデルを取り入れることで、患者は情報に簡単にアクセスし、自分自身の健康管理に主体的に関与することができます。同時に、ヘルスケア・デジタルコマースを活用することが、医療機関と患者の相互のやり取りや、データ共有を可能にします。その結果、よりパーソナライズされた医療体験を提供できるのです。具体的には、個人に合わせた製品やサービス、情報提供ができたり、症状のデジタル記録・可視化、症状に応じた治療の提示などができたりします。これらはすべて、適切なデジタルプラットフォームが医療を支える仕組みによって具現化できるのです。

 

Shopifyのような効率的なデジタルコマース・プラットフォームの導入により、患者の医療体験をシームレスにつなげることができます。また、患者の治療成果や医療従事者の体験を向上させ、さらにコンプライアンスチェックの仕組みを業務モデルに組み込むことも可能です。

 

ヘルスケア業界が今そこにあるチャンスをつかむために、どう変革するべきか?

 

医療現場を取り巻く規制環境は、急速に変化をしています。医療業界のデジタルコマースも同様のスピードで進みながら、規制を遵守しリスクを減らした上で、事業運営やサービス提供を行わなくてはなりません。医療分野でD2Cモデルを加速させるためには、技術的に安定した信頼性の高いデジタルプラットフォームが不可欠です。またそれには、規制対応やデータ分析、税務上の検討事項などをシームレスに統合できる仕組みが求められます。


サマリー

医療機関が変化する患者の期待に応えるために、デジタル変革を推進し患者とのつながりを深め医療体験を向上させることで、結果的にロイヤルティ向上と収益拡大の両立をもたらす大きなチャンスになります。


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