アイスランドのラングヨークトル氷河。氷河下に存在する温泉や、地表から流れ込む融解水によって形成された氷の洞窟

絶え間ない変化の時代に、取締役会はガバナンスの優先事項をどう見直すべきか


今日の取締役会にとっての難題は、優先課題を選び出すことではなく、変化の中で俊敏性や先見性、信頼性を備えたガバナンスをいかに設計するかにあります。


要点

  • 地政学、イノベーション、サイバーセキュリティ、サステナビリティ、リーダーシップは、依然として最も優先度の高い課題であるが、今や取締役会によるガバナンスの在り方が決定的に重要な課題になっている。
  • 取締役は、事後的な監視にとどまらず、戦略的な先見性やレジリエンス(復元力)、新しい働き方を組織全体に浸透させるべく行動しなければならない。
  • 戦略的先見性は、自信を持って未来を切り開くために必要な考え方、明確な方向性や連携を生み出す上で有効である。 

EYのクライアントやステークホルダーのネットワーク全般において取締役会の主要アジェンダは従来どおり、優先度の高い順に、地政学、リーダーシップと企業文化、イノベーション、サイバーセキュリティ、サステナビリティであり、この傾向はここ数年変わっていません。

一方で、大きく変化しているのは、企業を取り巻く環境です。変革をもたらす破壊的な力は、非線形・加速・高変動・相互連関といった特性(NAVI:Nonlinear、Accelerated、Volatile、Interconnected)を一層強めています。そのため、従来とは異なるアプローチが必要です。取締役会が今問われているのは、何を優先すべきかではなく、次の12カ月とその先を見据え、それらにどう対処すべきかです。

成果の最大化を目指す場合には地政学戦略が最優先事項になるかもしれませんが、取締役会は自らのガバナンスの在り方に目を向ける必要があります。日常となったNAVI環境に対処する最も有効で、場合によっては唯一の方法は、取締役会の実務的な運営の在り方を見直すことです。

Woman climbing out of glacier cave, Slheimajkull Galcier, Iceland
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第1章

政治的リスクを戦略や事業に織り込む

地政学は今や、単なるリスクでなく、戦略を左右する要因になっています。レジリエンスを強化し好機を捉えるためには、取締役会が政治情勢に関する知見を事業活動全体に浸透させなければなりません。

さまざまな紛争が注目を集め、各国政府の政策が経済偏重から国家安全保障重視へとシフトする中、地政学は取締役会にとって最も混乱をもたらす重要事項になっており、取締役会アジェンダとしての優先度が急速に高まっています。2021年には、地政学を理由として何らかの行動を取った取締役会はわずか26%でしたが、2025年には76%に増加しました1

EY-ParthenonのGeostrategic Outlook 2026 版は、AIとエネルギーが新たな重要資産となり、デジタルインフラを支える天然資源への需要が高まる中、国家の介入主義により事業が多大な影響を受けている状況を浮き彫りにしています。この問題は、今後ますます深刻化していくと考えられます2

インタビュー対象者によると、先進的な取締役会では、地政学の役割を危機管理から戦略策定へと格上げしており、地政学的インテリジェンスが、投資判断、事業運営モデル、価値創造戦略を検討する際の視点に取り入れられています。

EYの「成功する『地政学戦略家企業』に必要とされる5つの行動とは」で明確に示されているのは、地政学戦略が競争力の源泉になっていることです。このレポートでは、複雑さを増す事業環境の中で、企業が混乱を予測し、好機を捉え、レジリエンスを構築するためのアプローチを強調しています。

1. 地政学的な現状を踏まえてサプライチェーンを見直す

事後対応ではなく、調達、生産、物流の拠点や経路を多様化し、戦略的なレジリエンスと効率性の均衡を図る必要があります。取締役会による主要な脆弱性の特定が、臨機応変な対応と同等に重要というアドバイスが複数のインタビュー対象者からありました。

EY-ParthenonのGeostrategic Business Group Leader、Famke Krumbmüllerは、迅速な行動だけではなく事前準備も要する注目すべき例を示しています。「公共調達ルールの変更により、突如として、他の国・地域に立地する主な競合企業が自社の主要自国市場に参入できなくなったとします。そのようなことが起こった場合、時機を逃さず、即座に行動できるよう準備しておく必要があります」

公共調達ルールの変更により、突如として、他の国・地域に立地する主な競合企業が自社の主要自国市場に参入できなくなったとします。そのようなことが起こった場合、時機を逃さず、即座に行動できるよう準備しておく必要があります。

2. 政治的リスク分析を投資判断に組み込む

政治的・政策的な動向を事前に評価し、国家の首脳や政府が態度を変化させたとしても、取引の確実性が維持できるようにします。

3. 不測の事態に備える

先進的な取締役会は、体系的なシナリオプランニングを実施し、早期警戒・危機対応体制を構築しています。これにより、事態が深刻化したとしても、事業運営やレピュテーションへの影響を最小限にできます。

4. 取締役会が地政学戦略に定期的に関与する

取締役会は地政学戦略を重視する姿勢を強めているものの、その多くは、依然として十分な頻度で取り組んでいるわけではありません。認識の共有と定期的な評価が不可欠です。

5. 地政学戦略に関する意思決定に誰が関与するのか、そして誰が関与する必要があるのかを判断する

実効性の高い組織では、責任の所在が明確です。経営陣の職責を定義し、部門横断的な連携体制を整えることで、場当たり的な対応ではなく、地政学的な知見に基づいて首尾一貫した対策を取ることが可能になります。

インタビュー対象者が強調したのは、監査委員会の果たすべき役割です。それは、内部監査を活用して新興リスクを戦略的な議論の俎上(そじょう)に載せ、シナリオ分析やその後の意思決定において多様な視点を確保することです。

これらの5つの行動をガバナンスのアプローチに取り入れることで、取締役会は、地政学的変化を好機とし得る適切な基盤構築を可能にします。

Male snowboarder jumping down from a glacier cave
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第2章

AIの時代にはイノベーションを優先する

イノベーションに必要なのは、過剰な宣伝ではなく、明確さです。取締役会は、戦略的意図を持ち、責任ある監督を行い、長期的価値に焦点を定めて、AI導入の舵を取らなければなりません。

イノベーションに選択は余地ありません。イノベーションは、戦略的基盤です。企業が混乱に対処し、変化する顧客の期待に応え、急速な技術革新を最大限に活用し、競争と進化を支援するものです。

今日のイノベーションの中心に位置するのは、AIと新興テクノロジーです。AIは、意思決定の向上とプロセスの自動化について、大きな可能性を持つ変革的な力です。

一方で、本レポート作成にあたって実施したインタビューから引き出された明確なメッセージは、次の2点を回避する必要性であり、これは、AIに対する熱狂と「取り残されることへの不安」です。AIへの過度な注目によって真のイノベーションから投資が離れ、長期的な競争力の足かせとなるリスクもあります。

EY Asia-Pacific Consulting Managing Partner、Iain Burnetは、次のように警告します。「戦略的な視点に立ってアプローチしなければ、AIは「デジタルなポップコーン」になる恐れがあります。組織のあらゆる場所に小規模にぽつぽつと導入され、構造的で長期的な影響を生み出すに至らない可能性があります」

戦略的な視点に立ってアプローチしなければ、AIは「デジタルなポップコーン」になる恐れがあります。組織のあらゆる場所に小規模にぽつぽつと導入され、構造的で長期的な影響を生み出すに至らない可能性があります。

さらに、インタビュー対象者は、過度にAIを信頼することに強い疑念を示しており、準備が不十分な状態でAIを導入している企業があると指摘しています。

 

また、EYが先般公表したレポート How boards can lead in a world remade by AI (PDF版)において、取締役会のAIに対する考え方は、漸進的ではなく変革的であることが必要とされています。競争上の差別化をさらに高い次元に押し上げるのは、単なる既存のワークフローの自動化ではなく、AIを中心に据えたプロセスや業務モデルの抜本的な再設計だと予想されます。

 

取締役会が経営陣に促すべきことは、AIによる価値の再形成が可能な領域を特定することや技術リスク選好度を再評価すること、AI導入の取り組みと戦略的成果の緊密な関係を確実にすることです。これらの取り組みについては、規制や事業、レピュテーションに関するリスクを回避するために、ガバナンスや倫理的監視、強力なデータ管理を通じて、責任を持って実施する必要があります。

 

また、このレポートでは、人材・従業員戦略に対する重大な影響も指摘されており、人材モデル変更の必要性が示唆されています。取締役会は、人的資本戦略の進化を実現しなければなりません。これは短期的なコスト削減と長期的な組織基盤や社会的期待を均衡させることです。

 

もう1つの極めて重要なテーマは説明責任です。AIの自律性の進歩にもかかわらず、結果に対する責任は依然として人間が負っています。偏見や不正確な回答などの問題のために、企業がレピュテーションリスクなどの組織的リスクにさらされる可能性があります。取締役会は、強固なガバナンス、明確な説明責任、透明性の高いリスク管理を徹底することで、信頼を競争上の差別化要因に昇華させなければなりません。

 

最後に、取締役会自体も進化する必要があります。EYが公表したレポート、Enhancing Board Oversight of Technology(PDF版)には、最高技術責任者(CTO)が取締役会に期待していることについて、興味深い知見が示されています。取締役会は、教育、明確性、専門性の尊重が組み合わさっていることが最も望ましいとされています。取締役に対する継続的なAI教育や経営陣とのより深い連携に加え、取締役会のあらゆる議論でAIを考慮することは、効果的な監視を行う上でますます欠かせなくなっています。

A picture of a man exploring an ice cave in Baikal region, Russia.
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第3章

サイバーセキュリティを強化し、レジリエンスと信頼を築く

デジタルな相互依存の拡大が脆弱性を高めています。信頼を守るために、取締役会にはアジャイルな監督、強固なガバナンス、継続的な学習が求められます。

新しいテクノロジーは、組織全体に、またより広範なエコシステムに組み込まれ、相互に接続されており、企業のあらゆる側面を支えています。しかしながら、テクノロジーへの依存が増すにつれて、システミックリスクも高まります。

注目を集めている大企業の事例は、この問題に極めて真剣に取り組む必要があることを示す重要な警告になっています。影響の範囲と監督の対象は、ITにとどまらず、財務や調達、業務、内部監査にまで及びます。大規模な技術的変更やM&A、新市場への進出の際にも、システム統合や人材不足に起因する広範なサイバーリスクが生じます。

財務的なレジリエンスと信頼を守るには、ガバナンスの強化や事前検知、部門横断的な協力体制の構築を通じてこの問題に対処する必要があることを企業は理解しています。そのため、サイバーセキュリティを取締役会の議題に格上げする動きが加速しています。EY GmbH& Co.KG WirtschaftsprüfungsgesellschaftのAssurance Technology Risk Partner、Lutz Naakeは、次のように説明しています。「金融サービスセクターは、EUのデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA:Digital Operational Resilience Act)などの規制が推進要因となって、サイバーセキュリティリスク管理のベストプラクティスを先導しています。他のセクターも早急に後れを取り戻す必要があります」

金融サービスセクターは、EUのデジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA:Digital Operational Resilience Act)などの規制が推進要因となって、サイバーセキュリティリスク管理のベストプラクティスを先導しています。他のセクターも早急に後れを取り戻す必要があります。

取締役会によるサイバーセキュリティの監視は通常、監査委員会 (ey.com 米国サイトへ)が担当します。しかしながら、サイバーリスクや企業文化、リスク選好度に適切に注意が払われるようにするため、体制を見直す必要があるかもしれません。急速に進化するサイバーリスクに対処するには、四半期のサイクルでは遅すぎるため、機動的な情報共有が不可欠です。

十分な理解があれば、迅速な意思決定が容易になります。サイバーセキュリティに対するマインドセットを、コンプライアンス(しなければならないこと)から好奇心(興味を持って取り組みたいこと)に変えるには、取締役自身が必要な専門知識がないことを認めた上で、積極的に研修プログラムを受講し、外部の専門家の招きシミュレーションの実施を行う必要があるかもしれません。Fortune 100企業の大半(58%)  (ey.com 米国サイトへ)が、この分野でシミュレーションや演習、対応準備状況テストを実施していると回答しており、2019年のわずか3%から大きく増加しています。

サイバーセキュリティに対する監視をガバナンスの主要プロセスに組み込むことで、組織のレジリエンスが強化されます。米国国立標準技術研究所(NIST)や国際標準化機構(ISO)が提供するものなどの、知名度の高いフレームワークに沿った実践が標準的な慣行になりつつあります。このことは、規制当局や投資家に対して、リスクが厳格かつ戦略的な意図を持って管理されていることを示す際に役立ちます。

ヴァトナヨークル氷河の氷の洞窟の入り口に立つ男性
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第4章

自社の事業にサステナビリティをより深く根付かせる

監視の目が強まり、今後、サステナビリティに関する選択がより難しくなっていく中、取締役会は意思決定を長期的な価値に根差したものとし、現在のプレッシャーによって将来の機会が損なわれないようにする必要があります。

EY Long-Term Value and Corporate Governance SurveyなどのEYの調査によると、サステナビリティを自社の戦略に組み込んでいる企業は、同業他社よりも将来の業績に対する自信の程度が40%以上高く、成長とイノベーションに向けて優位な立場にあります。また、調査結果からは、投資家からの信頼向上や資金調達の実現に加え、高まるステークホルダーの期待に応えられる可能性が高いことがうかがえます。

しかしながら、成果が容易に達成された場合、次は予算上の制約を受けつつ、さらなる抜本的な組織変革が求められます。取締役会は、疑問を提示するという役割を強化しなければなりません。それは短期的な利益と長期的な存続可能性とのトレードオフのバランスが取れるように、経営陣の脱線を牽制しつつ支援することです。

EY Sustainable Value Study によると、企業の41%が、経営戦略や財務とサステナビリティ目標との統合に大幅な改善を必要としています。この調査は、取締役会や最高サステナビリティ責任者(CSO)、最高財務責任者(CFO)がサステナビリティ戦略を企業の成長目標に組み込むために、どのように協働、共感、ストーリーテリングを活用できるかを明らかにしています。

サステナビリティと長期的な価値創造の密接な関係を踏まえると、取締役会が投資判断をレビューする際に、サステナビリティを財務上の重要な検討事項として考慮することは極めて重要です。取締役会は、目標設定や定期的なモニタリング、サステナビリティ実績と連動する役員報酬制度により、前進を促すことができます。

女性エアリアルアクロバットダンサーが、ダイナミックに流れるようなダンスを披露している
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第5章

将来にわたって通用するリーダーシップ、企業文化、人材

企業文化が業績向上を導きます。取締役会は行動規範の策定やリーダーシップの強化、人材モデルの構築を行わなければならず、それらはテクノロジーにより急変し続ける現代社会に適合している必要があります。

急変し続けるテクノロジー主導の環境下では、従業員が状況に適応し、イノベーションを起こし、自信を持って課題に対処できてこそ、企業は成功を収められます。

 

最終的に、多様な能力や問題解決アプローチ、実務経験豊富な人材を意図的に集めてチームを作り上げる企業が競合他社に勝つことになるでしょう。取締役会は率先して模範を示し、全社的に望ましい知的好奇心や挑戦への寛容さを体現するべきです。

 

理念(Purpose)は、企業の主要な原動力と究極的ビジョンを決定付けるものであり、目標であると同時に道標となります。取締役会はチームが一丸となって前進できるように、理念やストーリー、短期・中期・長期的成功に向けた共通認識を抜かりなく整備する必要があります。

 

結果重視のアプローチをとるためには、企業文化をパフォーマンスシステムとして捉える必要があります。つまり、単に価値観声明集ではなく、従業員のパフォーマンスや意思決定を左右する行動、日常業務、労働環境に焦点を当てなければなりません。

 

将来に備える企業は、高いパフォーマンスを期待するだけでなく、責任の所在を明確にしています。同時に、挑戦するための心理的安全性を提供し、試行錯誤と学びを許容します。このバランスを維持するために取締役会が貢献できるのは、期待事項が明確で達成可能なことの確約、リーダーの共感力・コミュニケーション能力・コーチングスキル習得支援、従業員のウェルビーイングやエンゲージメントをモニタリングすることによるリスクの早期特定です。

 

本レポートのインタビュー対象の経営幹部は、取締役会は自らを「チーム」と呼ぶことが多い反面、性質上、年に数回しか集まらない多様なメンバーにより構成されているため、必ずしもチームとして機能しているとは限らないことを指摘しました。

 

取締役会がパフォーマンスを最適化するには、協力体制の構築に時間を注ぎ、チームとしての成功指標を定義する必要があります。この最適化の過程では、取締役会議長の役割が極めて重要になります。多様な意見や経験を集めて調整し、議論をまとめ、取締役会が心理的に安全な場であるようにしなければなりません。

 

そのためには、取締役会と経営陣の間の縦割りを解消し、共通の規則を定め、透明性と学び合いを促すことも必要です。経営陣は、取締役会を単なるコンプライアンスチェック機関ではなく、戦略的な資産として捉え、その専門知識やネットワークの集積を活用するべきです。

 

企業がAIによる効率化を追求する中、強固な人材パイプラインの構築は、さらに難しい課題になっています。EY Center for Board Mattersのレポート、 How boards can lead in a world remade by AI (PDF版) で引用されているハーバード大学およびスタンフォード大学の最近の研究では、AIの影響により2022年以降、未経験者レベルの雇用が有意に縮少しており、これにより、実務を通じた学習の機会の減少や現場発のイノベーションの消失のリスクが生じていることが明らかになっています。EYのリーダーの経験からは、AIファーストのプロセス再構築により、組織の効率性を90%以上向上できると示唆されています。一方で、取締役会は、こうしたコスト削減と長期的な人材育成とのバランスを取れるように、人的資本戦略を策定する必要があります。それには、若手社員の育成、定着、昇進に関する明確なKPIの設定も含まれます。

アサバスカ氷河のターコイズ色の氷壁をアイスクライミングする赤い上着を着た男性
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第6章

「6つのEのアジェンダ」を活用し、ガバナンスを再構築する

ガバナンスモデルに対する重圧がさらに高まっています。「6つのEのアジェンダ」は、作業負荷の軽減や先見性の深化、取締役会の影響力の向上につながる実践的な方法を提示します。

このような取締役会の優先課題への対処に要する膨大な業務に圧倒されそうに思えたとしても、それはあなただけではありません。EY Board of the Future第1部(PDF版)の調査では、世界有数の大企業の非業務執行取締役21名3にインタビューを行いました。彼らは、現在のガバナンスモデルに重圧がかかっていると述べています。

レポートによると、取締役は、複数市場にわたる広範な事業全体を監督するという負担の大きい職務に悪戦苦闘しています。一方で、重要な戦略的の見通しを検討するのに十分な時間を確保しているとの回答もありました。肯定的な見方をしている回答者でさえ、ガバナンス上の課題が増大していることを認めています。

また、回答からは重要な知見が得られました。それに基づいて導き出された、変革を優先的に進めるべき6つの領域を、レポートでは「6つのEアジェンダ」としてまとめています。

EYのグローバル組織がこのアプローチを導入して以来、EYのネットワークに所属する多くの取締役から、「以前から感じていたことが、このレポートに的確に述べられている」という声が寄せられています。それは、現在のガバナンス体制は、NAVIワールドに適した形に設計されたものではないということです。「6つのEのモデル」は、今日のガバナンスについて考える際の指針となるものであり、変革に向けた実践的な検討課題を提示しています。


効率性を高める(Elevate efficiency):取締役会は業務量や規制要件の増大に直面しており、余力を確保し、戦略策定に注力する時間を増やすには、さらなる効率化が必要です。取締役会では、会議前に事前説明や意見交換の機会を設けるとともに、新しいテクノロジーを導入し、プロセスを合理化することで、価値の高いアジェンダにフォーカスすべきです。

実効性を高める(Enhance effectiveness):取締役会と経営陣の関係が円滑ではなく、信頼関係が形成されていない場合、経営陣は、取締役会の助言から恩恵を受ける機会を逃してしまう可能性があります。これを防ぐための主な取り組みとして、意識的に信頼関係を築く、取締役の専門性の向上を図る、取締役会と経営陣の間で期待事項を明確にする、などが挙げられます。

先見性を発揮する(Exercise foresight):未来志向の考え方を実践する機会が足りないという課題への対応として、取締役会は、社外のエコシステムとの連携やシナリオプランニングの体系化、柔軟な会議アジェンダの検討、取締役のローテーションや構成に関するより機動的なアプローチの採用、スプリント方式による運営、AI活用による戦略的議論の充実などの措置を取るべきです。

独立性を奨励する(Encourage independence):取締役会が実効性を発揮するには、自律的な思考と批判的検証が不可欠です。しかしながら、社内の文化的圧力や合意形成の偏重により議論が抑制され、ガバナンスの機能不全を招く恐れがあります。強固な監督体制の構築に向けて、取締役会は、独自のリスク観を培い、独立した情報源を求め、主体的にあえて逆の視点に立ってみるべきです。

シンプルさを追求する(Engineer simplicity):企業組織が複雑化すると、ガバナンス上の課題が生じやすく、組織全体で何が起きているのかを確信を持って把握するのが難しくなります。取締役会は、グローバルな一貫性と地域ごとの適応の両立、事業運営への直接的な関与の強化、組織構造の簡素化につながる、原則に基づくフレームワークの構築を検討するべきです。

AIを活用する(Employ AI):AIには変革起こす可能性があるにもかかわらず、ガバナンス分野でフルに活用できていないことを取締役会は十分に認識しています。取締役会は責任あるAIフレームワークの導入を主導し、AIによって補完・強化される人間中心のガバナンスの拡充を推進するべきです。

将来に目を向け、取締役会の構成や機能を進化させなければなりません。さまざまな長期予測によると、取締役会に人間の取締役とAIエージェントが混在するようになり、そのスキルにおいてスペシャリストとゼネラリスト間の緊張関係に変化が生じる可能性があります。しかしながら、取締役会が経営陣の良き助言者として果たす役割が不可欠だということは、今後も変わりません。

結論

取締役会が2026年を乗り越えていくにあたり、地政学的緊張の高まり、リーダーシップと企業文化、イノベーション、サイバーセキュリティ、サステナビリティといったテーマは、引き続き、企業の業績に多大な影響を与える主要な要因になっています。一方で、NAVI環境が強まっていく中で問われているのは、取締役会がこうした課題に対する監督手法をどのように実装するかです。その手法の条件は、首尾一貫し、未来志向で、かつ戦略的整合性のあることです。 

しかしながら、多くの取締役とガバナンスモデル自体が、大きな重圧下にあります。業務に忙殺されることなく戦略的思考のための時間を捻出するために、取締役会は、EY Board of the Futureの調査において提唱されている「6つのEのアジェンダ」を踏まえ、改善に向けた好循環を生み出すべきです。

好奇心や新たな視点に意識を向け直すことで、先行きの確実な見通しが不可能に思える状況においても、取締役会は、より良い意思決定ができるようになります。  


サマリー

加速する混乱によって、取締役会が取るべき行動、さらに重要な点として、取締役会によるガバナンスの在り方が根本的に変わりつつあります。地政学やイノベーション、サイバーセキュリティ、サステナビリティ、リーダーシップが、依然として決定的に重要な課題ですが、今日の取締役会は、さらにダイナミックで関連性の高いアプローチを必要としています。ガバナンスそのものに焦点を当てることは、単に構造的な必要性だけでなく戦略的な優位性に着目することになります。


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