逆光を浴びるビックスビー・クリーク橋

取締役会はサステナビリティの目標と行動のギャップを埋めることができるのでしょうか?

取締役会は主要経営幹部の役割のダイナミクスと5つの戦略分野に焦点を当てることで、サステナビリティ目標の達成を推進することができます。


要点:

  • 容易に達成できる目標をクリアした後に、意欲的なサステナビリティ目標を実現していくには、サステナビリティを主要なビジネス戦略に組み込む必要がある。
  • 鍵を握るのは、取締役会、CFO(最高財務責任者)、CSuO(最高サステナビリティ責任者)の関係となり、サステナビリティへの取り組みで実際的な成果を上げるには、連携と共感、そして多様な視点を踏まえたストーリーテリングが役立つ。
  • 取締役会では5つの戦略分野で、企業によるサステナビリティへの取り組みがもたらすインパクトを強化・加速させる対応を取らなければならない。


EY Japanの視点

多くの企業がサステナビリティ目標の下方修正と達成時期の先送りを行うなど、目標達成において課題に直面しています。一方で、これらの課題を克服する鍵は、取締役会、CFO、CSuOの三者が連携し、経営戦略の中心にサステナビリティを据えることであると、日本企業を含むグローバル企業の経営層を対象にパーソナルインタビューを実施した本調査レポートでは示されています。 

また、レポート内では、取締役会が方向性と枠組みを設定し、CFOが財務業績とサステナビリティ投資のディフェンシビリティ(持続的な競合優位性)を確保すること、そしてCSuOが組織変革を引き起こすこと、といったそれぞれの役割に求められる視点が述べられています。 

今後、日本企業がよりサステナビリティを推進するためには、サステナビリティをコアビジネス戦略に織り込み、組織横断的に連携し、エコシステム全体で一丸となって取り組むことが不可欠です。EYは、企業価値の向上につながる経営戦略の策定から情報開示のサポートまで、サステナビリティの取り組みを変革の原動力に変えるためにご支援いたします。


EY Japanの窓口
瀧澤 徳也
EY Japan マネージング・パートナー/マーケッツ 兼 EY Japan チーフ・サステナビリティ・オフィサー

取締役会は国・地域を問わず、構造的な課題や、経済的・地政学的逆風にさらされながら、自社が掲げる意欲的なサステナビリティ目標をどうすれば達成できるかという、複雑な課題に直面しています。

つい最近までは、私たちはグローバル規模での目標設定の段階にありましたが、その間、ステークホルダーは各企業に対して自社のサステナビリティ目標を宣言することに期待を寄せていました。そうした段階が過ぎた今、ステークホルダーが企業に期待しているのは、その目標の達成です。とはいえ、目標と行動にギャップがあれば、信用の低下を招き、企業はグリーンウォッシングの疑いをかけられることになります。

ほとんどの企業は、容易に達成できる目標をまずクリアするところから、サステナビリティへの取り組みを開始しました。しかし現在では、エネルギー・資源システム全体を抜本的に変える必要に迫られ、多くの企業が目標の下方修正と達成時期の先送りを図っています。2023年度のEY Sustainable Value Studyの調査結果から、多くのリーダーが、変革規模のあまりの大きさに圧倒され、行動を起こすことをためらっている現状が浮かび上がってきました。

一方、こうした難しい課題に直面しながらも、自社の目標を維持し、中には上方修正すらし、サステナビリティを不可欠な要素として事業戦略に組み込んだリーダーもいます。ではなぜ、そしてどのように、そうした対応を取っているのでしょうか。

その理由を探るため、サステナビリティへの取り組みを強化した6企業を対象に、CFO、CSuO、取締役に向けて、パーソナルインタビューを実施しました。

この三者の経営陣を対象としたインタビューの結果から得られた主な知見は、部門間の連携、そして取締役会と経営陣が基本的に相利共生関係にあることが、持続可能なビジネス成果を加速させるということです。特に顕著な点は、以下の4つです。

  • サイロの打破とインクルージョンの推進:経営層の全メンバーが共に戦略と指標を策定し、部門や事業部、国・地域の壁を越えて共有する必要がある。これにより、部門間のサイロを打破し、共通の理解と支持が得られる。また、サステナビリティ関連のトピックは、どのガバナンス委員会にも関係しており、すべての関係小委員会の意見などが反映されるため、取締役会全体が徹底して行う必要がある。このことで、サイロ化された視点ではなく、総合的な視点を提供できるようになる。取締役会の役割は、意思決定の場に適切な人材が適切な情報を持って参加し、あらゆる意見を聞いた上で決定が下されるようにすることであり、その鍵を握るのは「連携」である。
  • 共感力と傾聴力の向上:三者の経営陣は、それぞれがどのような視点でサステナビリティを見ているのか、また、それぞれにとって何が成功を意味するのかを理解し、互いに理解し合える言葉でコミュニケーションをする必要がある。そして、同じ目標に向かって進む中で、時に異なる意見に慎重に耳を傾けることが重要。
  • 多様な視点を踏まえたストーリーテリング:三者の経営陣は、それぞれが最も理解しやすい言葉で、社内外のステークホルダーに偽りのないストーリーを語る技術をマスターする必要がある。ストーリーテリングの基盤となるのはパーパス(存在意義)。望ましい将来の姿から逆算して策定される戦略がモチベーションを高めるビジョンを創出する。
  • 機運の醸成:多くの企業が目標達成に必要な時間とリソースを見直している中では、目標の難易度を高めることが必ずしも大きな成果を生むとはかぎらない。部門ごとに分断された取り組みではなく、エコシステムの真の連携が取り組みを加速させる。

本レポートの最後で、レジリエントな組織を目指す成長戦略の中心にサステナビリティを確実に据えるために、取締役会が取ることができる主な対応を5つ紹介しています。

近代的な橋と川
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第1章

迅速に行動し、部門間の壁を打ち破る

経営層と取締役会の結束の力を活用して、ビジネス戦略を成功させるためのサステナビリティに関するアクションを加速させます。

サステナビリティへの取り組みがばらばらであるため、組織の他部門に影響を与えることに苦戦しているCSuO(最高サステナビリティ責任者)のチームや、他のグループなどの中でもサイロ化が生じるケースがあまりに多いのが現状です。今回のEY Sustainable Value Studyの対象となったCSuOの半数強(54%)が、サステナビリティへの取り組みのパフォーマンスについて、他者に説明責任を課す権限が自分にあると回答しています。

 

責任の欠如は、足並みの乱れの拡大を生み、部門をまたいだ連携不足が顕著となる場合があります。EY Sustainable Value Studyの調査結果から、企業の41%が、気候戦略を効果的に進めるために経営層と取締役会の連携の大幅な強化を望んでいることが分かりました。

 

このようなギャップがあると、サステナビリティ戦略が全体的な事業戦略から切り離されて作成され、その結果として、軽視されてしまうようなサステナビリティ戦略が生み出されることが少なくありません。一方、サステナビリティを企業の包括的な戦略に組み込むことでリーダーは各部門を1つにまとめ、共通の目標に向かわせることができます。

 

トップダウン型のリーダーシップへ

 

こうした分断を避けるには、取締役会の協力を受けたCEOがまず先頭に立ち、トップからサステナビリティの組み込みを主体的に推し進める必要があります。社内外で適切な会話の場を積極的に持つべく尽力することが、経営陣全体に求められます。戦略と指標を部門や事業部、国・地域の壁を越え共同で策定し浸透させることで、企業は幅広い賛同を得て、足並みをそろえることができます。

 

オーストラリア最大の不動産開発事業者の1つ、Stocklandを例に説明しましょう。CSuO兼開発部門責任者のPetie Walker氏が思い起こすのは、CEOのTarun Gupta氏が「数年前の就任時に、新事業戦略の中核にサステナビリティを据え、それをきっかけに全社で取り組むサステナビリティへの姿勢を一新させる18カ月間のプロセスが始まった」当時のことです。

 

「CEOの役割は極めて重要です」とStockland社の非業務執行取締役であり、同社のサステナビリティ委員会の委員長を務めるAndrew Stevens氏は付け加えます。「サステナビリティがリーダーの最優先課題でなければ、推進派がサステナビリティへの取り組みを大きく前進させることは、非常に困難です」

 

自動車メーカーのMahindra社では、サステナビリティ委員会の委員長をグループCEOであるAnish Shah氏が務めており、その決定に重みを持たせています。「サイロに風穴を開けています」と話すのは、Mahindra社で主席社外取締役を務めるVikram Mehta氏です。

 

戦略的かつ将来を見据えた取り組み

 

この過程で、サステナビリティへの取り組みを戦略的かつ将来を見据えたものにするには、三者(CSuO・CFO・取締役会)間の連携が欠かせません。おそらく、これをどこよりも重視しているのは、大手飲料メーカーとして、天然産物への依存が大きいアサヒグループです。「当社では、サステナビリティを将来への投資と考えています。リスクとインパクトの数値化を図り、将来のコストを避けるよう努めています」とアサヒグループのCFO﨑田薫氏は述べています。

 

同社の前サステナビリティ部門責任者を務めた近藤佳代子氏は、将来の財務成果にサステナビリティがもたらす価値を実証することが喫緊の課題となっていることから、CSuOとCFOは今後、「1つのチームとして協力する」必要があると考えています。同社の取締役EVP(執行副社長) 兼グループCPO(最高プロダクト責任者)を務める谷村圭造氏は、次のように付け加えます。「将来について考え、どのような文化、戦略、そして日々のリーダーシップを各自が追求するかを考えることが大切です。すべては、会社に沿ったダイナミクスとガバナンスの枠組みを構築し、その枠組みが継続的に進化し、実効性を維持できる基盤と支援メカニズムを作るということに帰着します」

 

三者以外にも拡大する

 

CSuO・CFO・取締役会の三者が中心的役割を果たすことに変わりはありませんが、このチームが変革を推進していく中で、企業の全リーダーが力を合わせ、サステナビリティ戦略を組織全体に浸透させていく必要があります。

 

Stockland社のCFOであるAlison Harrop氏は「経営陣の一人ひとりが、サステナビリティ戦略の一翼を担っています」と述べています。「それはまさに組織全体に張り巡らされたクモの巣のようなもので、多くの交点がありますが取り組みを進めているのは、成果をもたらすことができる社内の人材です」

 

より厳格で、規制主導の非財務報告を求める声の高まりもまた、重要な推進要因となっています。例えば、eコマース企業であるeBay社では、サステナビリティチームが最高会計責任者やSEC(米国証券取引委員会)への報告を担当するチームとの連携を強めており、eBay社CFOのSteve Priest氏によると、「財務組織全体が協調する見事な体制が出来上がっている」とのことです。

 

テクノロジーの変化も、サステナビリティチームを拡大する必要性を高める要因となっています。生成AIの急激な普及で、世界的にエネルギー消費量とデータセンターの建設が急増しています。自社のデータセンターを維持するか、それともクラウドプロバイダーを利用するか。それを判断するには、生成AIが気候と自然に及ぼす影響を把握する必要があることから、最高情報責任者もこの問題の検討に加わるようになってきました。

経営陣の一人ひとりが、サステナビリティ戦略の一翼を担っています。

「ここで存在を欠いている最も重要な関係者はCRO(最高リスク責任者)です」とAbsa社でGroup Financial Directorを務めるDeon Raju氏は指摘します。銀行の場合、「戦略的計画や統合計画の策定に当たっては常に、戦略とサステナビリティ、財務、リスクを担当する最高責任者が歩み寄り、とても自然に合意を形成します」と続きます。EY Sustainable Value Studyの調査結果では、サステナビリティ戦略を効果的に進めるには、CROとの連携を強化する必要があると回答した割合はCSuOが38%、CFOが39%でした。

企業がサステナビリティをリスクと考える今、マイナス面だけでなく、プラス面も考慮することが重要だと指摘するのは、SAP SEで取締役会メンバー兼CFOを務めるDominik Asam氏です。「当社にとって、気候変動は言うまでもなく現在進行形の脅威ですが、機会でもあることを無視してはなりません。監査役会会議は、リスクに焦点が当てられ、機会を軽視することが多く、SAP社では、機会を記録するツールすらありません。あるのは、例えば、監査委員会のリスク登録簿だけです」

EY Global Vice Chair – SustainabilityのAmy Brachioは次のように付け加えます。「気候と自然は成長とイノベーション、リスク管理、生活と暮らしを支えています。つまり、サステナビリティは経営層が直面するほぼすべての決定を左右する、企業全体の問題なのです」

リスクや報告・情報開示、レジリエンスといった問題が優先課題として考えられている一方で、サステナビリティは、短期的な行動や決定がいかに組織の長期的な能力を新しい市場、製品、サービスに向けて構築できるのか問い直すための、企業にとっての将来を見通すレンズでもあります。事業にとって極めて大きな意味を持ち、リスク登録の参考となる、具体的なサステナビリティ関連のトピックが、異なるレンズを通して見ると、ビジネス機会を指し示すこともあるのです。


レジリエンスの高い取締役会の大部分(78%)が、長期的に見るとESGはリスクより機会を企業にもたらすと見ています(レジリエンスの低い取締役会では50%)。

2023年度EY Global Board Risk Survey

取締役会のサイロ化を防ぐ

規模の大きな企業で見受けられるのと同様、取締役会でもサイロ化は防がなければなりません。取締役会にサステナビリティ専門の委員会を設けている企業もありますが、サステナビリティ関連のトピックは、ガバナンスのあらゆる部分に関係してきます。例えば、ガバナンス・指名委員会(ESG)や報酬委員会(DE&I、インセンティブ)、監査委員会(報告・情報開示)、リスク委員会(気候変動)などです。こうした点と点の関係は自然に結び付くことはないため、取締役会がこれを意図的に結び付ける必要があります。

Stockland社のStevens氏は、複数の委員会の兼任で、サステナビリティ関連の重要な連携をどのように作っていくかを、次のように説明しています。「サステナビリティ委員会とピープル&カルチャー(総務)委員会との間でじっくりと話し合い、足並みをそろえています。しかも、サステナビリティ委員会のメンバーは、監査委員会のメンバーでもあるのです」

サイロを解消し、取締役会全体でつながりを生むことで、サステナビリティ関連のトピックをより効果的に進めることができるようになる一方、明確な責任体系の維持が重要だとアドバイスするのは、eBay社の取締役Carol Hayles氏です。「私は常にギャップと重複について考え、それぞれの問題が、適した委員会で確実にカバーされるように取り計らい、また、自分がうまくつなげられなかったせいでピースが欠けることのないように、物事が調整され、きちんと伝えられるように配慮しています」とHayles氏。「ただ同時に、多くの重複が生じる事態も避けなければなりません。私にとって鍵となるのは、統制と情報開示の監督責任を監査委員会と指名・ガバナンス委員会でどのように分けるかです」

今後、未来を形づくる上で鍵を握るのはサイロの打破です。「将来を予測することはできませんが、連携は可能です。力を合わせ、自信を持って変化に対応し、成長し、イノベーションを起こすことができます」とEY Global Vice Chair – MarketsのHanne Jesca Baxは付け加えます。

野生動物が高速道路を安全に横切れるようにするための「グリーンブリッジコリドー」の航空写真
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第2章

すべてを一変するような野心を抱く

共通のビジョンは、CSuO、CFO、取締役会がそれぞれの視点に共感を育むための重要な一致点を見いだすことです。

企業がサステナビリティを戦略へ組み込む際は、目標達成に伴う影響とインパクトを深く理解した上で行わなければなりません。

SAP社でCSuOを務めるDaniel Schmid氏は、一度目標を設定したら、予算や投資から、イノベーションやガバナンスに至るまで、すべてに今までとは「異なる決定」を下さなければならないことを指摘しています。「非常に重要なのは、これが単独のアプローチではなく、戦略に組み込まれた、総合的なアプローチだという点です」

財務的に責任のある、強固で持続可能な事業戦略が会社の成長目標に確実に沿った内容となる形でこうしたさまざまな決定を下すには、CSuO、CFO、取締役会の一致協力が欠かせません。

CSuO、CFO、取締役会は、それぞれが独自の責任を負っているとはいえ、確実に組織を共通の成長目標へと向かわせ、その目標達成に必要な日々の決定を段階的に進めることができるよう、補完的な視点を持ち込む必要があります。

とはいえ、この三者間の効果的な連携は自然に生まれるものではありません。CSuO・CFO・取締役会の間の関係が持つ力を引き出すことができるかどうか。その鍵を握るのは、現代社会においてに重要とされる、リーダーシップとしての資質である共感力です。

共感力を養うには、ビジネス上の関係から一歩踏み出して、相手のこと、そして、相手が自身の経験や人間関係、理想、期待に基づいて、自分が担う役割にどのようにアプローチするかを考える必要があります。

しかし、共通のパーパスがなければ、共感は得られません。CSuO、CFO、取締役会が持つ補完的な力を引き出すには、サステナビリティを事業戦略の中核に据え、三者それぞれの担当範囲に明確に組み込む必要があります。

CSuOの視点

CSuOが目指すのは変革をもたらすことです。ステークホルダーの視点やサステナビリティについての知見と技術力を活用して外部を取り込み、組織変革を引き起こすことを目標としています。気候変動対策目標などのサステナビリティ目標に、目に見えるインパクトをもたらすことに注力し、それを実現すべく、全社的な取り組みを進めています。

「私は毎日サステナビリティの問題に取り組んでいるので、議論の場では誰よりも知見が豊富な人間でなければと思っています。ですから、『これに外部から関心を持っているのは誰か』という、ステークホルダーの視点を理解しています。私のチームがガイド役となって、さまざまな立場や役職にある人が、それぞれ何を知る必要があるのかを事前に伝えています。そうすることで、会社は優先事項を決め、それに集中して取り組むことができるのです」とeBay社でCSuOを務めるRenee Morin氏は述べています。

「ビジネスケースを財務的に健全なものにしつつ、確実に大きなインパクトを与えるようにするのが私の役目です」と話すのは、Absa社のCSuOであるPunki Modise氏です。

現場の声:CSuO

 

大手企業のCSuOがサステナビリティ目標の達成に向け、どのように取り組みを進めているのかを話しています。ぜひご覧ください。

CFOの視点

CFOは財務業績の向上に注力し、サステナビリティ投資のディフェンシビリティ(持続的な競合優位性)を確保することに取り組んでいます。同時に、サステナビリティ面を含め、会社の競争力の推移をチェックしています。自社のパフォーマンスを取締役会と市場の両方に伝え、社内のリスクに対処するのもCFOの役割です。

Stockland社のHarrop氏は、CFOとしての自らの役割について次のように考えています。「サステナビリティチームが進めていることに少しだけ課題を課す、取締役会からサステナビリティチームへの橋渡し役のようなものです。社内で何が起きているかを意識する必要がありますが、外部にどのように説明するかにも気を配っています。そのため、サステナビリティチームと一緒に深く掘り下げ、当社がやっていることの核心に踏み込み、会社の財務に及ぼす影響を理解するに当たっては、健全な緊張感があります」

Harrop氏はさらに次のように述べています。「サステナビリティは私の担う役割にかなり大きな変化をもたらしました。外部に発信をし、自社のポジショニングについて説明する際には、サステナビリティ戦略の内容を十二分に把握している必要がありますが、これは以前にはなかったことです」

一方、Absa社のRaju氏の視点から見ると、CFOの役割は次のとおりです。「サステナビリティ戦略をチェックし、疑問を呈して、それが本当にステークホルダーに変化をもたらすことができる意義あるものであり、実施と導入で、実際に影響を及ぼすことができるのか。そして、私たちが約束したことが、サステナビリティの観点から実現可能なのかを確かめることです」

SAP社のDominik Asam氏は「私たちは投資家の本心に向き合う必要があります」と語り、続けて「投資家が関心を持っているのはお金です。そのため、環境関連のトピックと資金への影響とを関連付ける必要があります」と述べています。

現場の声:CFO

 

大手企業のCFOが財務へのサステナビリティの組み込みについて話しています。ぜひご覧ください。

取締役会の視点

取締役会はパーパスを守り、自社の目標に疑問を呈して、持続可能な事業を長期的に維持できるよう管理します。また、株主やステークホルダーの要望に応え、CEOに説明責任を果たさせます。

「取締役会は、方向性と枠組みを設定してから、CEOやCFO、CSuOに詳細を詰める道筋の構築を求めるという役割を担っている」と述べるのは、Absa社で取締役を務めるIhron Rensburg氏です。「これは、チェックして終わりというような作業ではありません。単なるチェックだけをしていては、多くのもの失う大きなリスクを招くことになりかねませんし、責任あるソーシャルアクターへと会社のイメージを塗り替えているという意味では、変革的であることが求められるのです。CSuOなしに、これを実現できるとはとても思えません」

「組織図で一番上に位置する取締役会は、外部の視点を提供します」とStockland社のHarrop氏は指摘しています。取締役会が真に重視しているのはポジショニングと開示項目です。戦略そのものと、それが自社にとってどのような意味を持つのかの理解に極めて強い意欲を示す一方、取締役会が物事を見るレンズは「これはどのように着地するのか」という視点にずっと近いのです。

「取締役会が一番よく口にする言葉は、『進出を目指す分野でリーダーになれるのか。また、ポジショニングの観点とブランドの観点から、そのゴールは自社の志を反映したものか』です」と語るのは、Mahindra社でCFOを務めるManoj Bhat氏です。

取締役会は、このCSuOとCFOとの連携を有効に機能させる上で不可欠な役割を果たし、三者が共に共通のパーパスを持って取り組みを進めるよう取り計らっています。

現場の声:取締役

 

大手企業の取締役がサステナビリティの目標と行動のギャップをどのように埋めているのかについて話しています。ぜひご覧ください。


レジリエンスの高い取締役会の84%が、短期的に財務業績が悪化したとしても、自社はESGの課題に対処すべきだと回答しています。

2023年度EY Global Board Risk Survey

共通の理解を築くコミュニケーション

他者が持つサステナビリティに対する視点や、成功の定義を理解することに加え、互いに理解し合える言葉で話すことが重要です。

eBay社のMorin氏も、「CSuOが直面する難題の1つは、概念や価値などを、ビジネス言語に翻訳することです。なぜなら、それがCFOの話す言葉だからです。私たちはCSuOというプロフェッショナルの立場から一歩引いて、CFOが日々暮らしている世界とは別だと認識する必要があります。最終的には、取締役会が聞きたいことは、それをさらに簡潔にまとめた内容なのです」

突き詰めれば、理解と共感というのは人間としての基本に他なりません。「鍵を握るのは人間関係です」とMorin氏。「年に1回の関わりでもなければ、年1回のメールのやり取りをするだけでもない、強固な人間関係を確実に築いておかなければならないということです。実際、特にCSuOとCFOの間では対話が生まれています」

「傾聴」する

傾聴から生まれる、共通の理解を築くために努力することは同じ目標を達成するための推進を加速させることができます。Mahindra社でグループ執行取締役を務め、サステナビリティへの取り組みの監督を担うAbanti Sankaranarayanan氏は、「特定の取締役と定期的に連絡を取り、相談役になってもらっています」と述べています。同様に、アサヒグループの近藤氏も「さまざまな背景を持つ取締役からのフィードバックに傾聴していると、新たな視点を学ぶことが多い」と話します。SAP社の監査役であるJennifer Li氏の見方も同じです。「経営幹部が取締役会の意見などにきちんと傾聴するようになれば、パラダイムシフトにつながる可能性のある視点を取り込み、サステナビリティへの取り組みで企業がさらなる飛躍を遂げ、大きな業績を上げる一助となるかもしれません」

共感と傾聴は、経営層や場合によっては企業の境界内でとどまるべきではありません。「さまざまな部署のメンバーや、若い世代を含めた、異なる年齢層の人々、自社のエコシステムを構成する外部ステークホルダーなど、幅広い視点を取り込むことが重要である」と述べるのは、アサヒグループの﨑田氏です。「そうすることで、より強固、かつより豊かな基盤を築き、そこから新たな取り組みを生み出し、社会に価値をもたらすことができます」

Stockland社のStevens氏も、先住民のステークホルダーに傾聴アプローチを取ることで得られる大きなインパクトを実感する一人です。「ファースト・ネーション(先住民)の方々と交流した当初、私たちはパワーポイントのスライドを持って出掛けていました。それから長い道のりを経て、今では相手の言葉にしっかりと耳を傾け、意見や要望などを受け止めており、それがオーストラリア流の協調の中核を成しています。その結果生まれる感情の深さと創造性は非常に驚くべきものです」

楽山大仏近くの橋
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第3章

数字は重要だが、人の心を動かすのは真のストーリーテリング

数字で判断する以上のことが存在します。人間を中心とした物語を紡ぎ出し、目的をビジネス戦略と一致させ、あらゆるレベルで行動を鼓舞します。

サステナビリティへの取り組みはビジネス的にも理にかない、かつ、ビジネスケースとして成功できるものでなければなりませんが、数字だけで人の意見を変えたり、心を動かしたりすることはまずありません。他の企業変革と同様、持続可能な事業変革でも人を中心に据え、気持ちを高揚させて、企業とステークホルダーを動かす必要があります。「数字や目標、進捗状況だけでなく、理由付けが必要なのです」とeBay社のMorin氏は指摘します。効果的なストーリーテリングが中心的な役割を果たしますが、的確なストーリーだけでなく、どのような言語で話すかも重要となります。

数字や目標、進捗状況だけでなく、理由付けが必要なのです。

パーパスが基盤をもたらす

パーパスが、サステナビリティへの取り組みに関するストーリー、すなわち企業の「理由付け」の基盤となります。「パーパスが存在していれば、自身のチームと自社の力を結集させて、問題の解決に当たることができます。パーパスのない、単独での目標設定は無意味です」とSAP社のLi氏は述べています。

Mahindra社の「Together we rise」というパーパスは、サステナビリティへの取り組みの推進に貢献してきました。「わが社には、コミュニティの形成を支援するという哲学があります。この考えがあったからこそ、サステナビリティ戦略をスムーズに理解し、取り入れることができたのです」とSankaranarayanan氏は語ります。

Stockland社の取締役であるStevens氏は、企業の指針となるパーパスがあれば、大規模なサステナビリティチームは不要だと述べています。彼は、「『より良い生き方があるという信念を持つ』というパーパスがあれば、そのパーパスに沿ってサステナビリティを確保でき、全員が顧客やステークホルダー、投資家のためにそのパーパスの実現と追及に関与するはずです」と指摘しています。

未来の展望とその重要性を共有する

未来志向型のビジョンは、戦略と投資、そしてその背後にあるストーリーの枠組みづくりに役立ちます。さまざまなシナリオがあることを想定し、望ましい未来像から逆算して計画を立てましょう。短期的なパフォーマンスに焦点を当てながら、中・長期的な視点も忘れてはなりません。

「30年から50年後の未来について考えるとき、その未来がもたらす環境変化についてもしっかりと考えを巡らせる必要があります。そして、その未来から振り返って、現在どのようなリスクと機会があるかを明確にしていきます」とアサヒグループの﨑田氏は話します。

同社の取締役である谷村氏は、次のように付け加えます。「正直なところ、長期投資は時間がかかるため、自分たちが目指す目標が達成可能であることを事前に証明するのは簡単ではありません。だからこそ、それが社会問題やビジネス上の問題の解決にどのように役立つかを示すストーリーを伝えることが重要なのです」

サステナビリティへの取り組みに潜むリスクの把握は、チームが自らの役割とパーパスをどのように見るかを再考する手助けになります。それが、Stockland社で実際に起きたことです。同社のStevens氏は、次のように語ります。「私たちは自然に興味を持ち、生物多様性が意味するところである、ネイチャーポジティブな気候変動対策に力を入れ、単なる土地の所有者兼開発事業者としてではなく、土地の管理責任者(キュレーター)兼管理人として土地に敬意を払っています。それほど土地とは奥深いものなのです」

真実を伝える、多様な視点を踏まえたストーリーテラーになる

CSuOは多様な視点を踏まえたストーリーテリングに堪能で、CFO、取締役会、投資家などそれぞれのステークホルダーの視点に合わせた視点で話せなければなりません。「知って身の引き締まる思いがしたのは、チェンジマネジメントをも担う必要があることと、そして人を『一蓮托生』にすることの重大性です」と話すのはAbsa社のModise氏です。

eBay社のMorin氏は、次のように助言しています。「取締役会レベルでは特に、ストーリーテリングを忘れてはなりません。自分の話していることを相手にきちんと理解し、考え、それに関心を払ってもらうには、どうすればいいのか。そのためには、図表や数字だけではだめなのです」

CFOもまた、重要なオーディエンスそれぞれに合った言葉を見つける必要があります。「報告するすべての数字については、なぜそれが投資家にとって重要なのか、また、なぜ社会にとって重要なのかを、CFOの私自身が説明できなければなりません」とSAP社のAsam氏は述べています。

人を中心に据えた変革で成功率を倍増させる
人を中心とした変革の成功率(そうでない時に比べて2.6倍高)
出典:EYとオックスフォード大学サイードビジネススクールによる研究、「The Future of transformation is human(変革の未来は人間にあり)」
野生動物横断路
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第4章

大規模な取り組みが、常に大きな成果を意味するわけではない

目標の実現に向け、リーダーたちは複雑な問題を克服し、サステナブルな成長を加速することを目指して、自らの核となる価値観と深く一致させた行動を取ります。

昨今のサステナビリティにおけるリーダーシップは、約束を果たすことを意味します。容易な目標達成が難しくなる中、取り組みの進展に影響を与えるのは、より根本的な変化をもたらし、多くの場合、より多くの投資が必要となる構造変革を実現できるかどうかです。地政学的緊張やグローバルな政策の不確実性、経済的逆風、構造的変革の必要性など、目標達成の前に立ちはだかる課題は増える一方です。

EY Sustainable Value Studyの調査結果から、目標の達成時期を大幅に先送りする企業が多いことが分かりました。中央値で2036年だった達成時期が14年の先送りとなり、2050年となっています。

今回の調査の対象となった各リーダーは、それぞれ独自の優先課題を踏まえ、自社がもたらすことができ、かつ、もたらす必要があるインパクトに焦点を絞り、取り組みを前に進める方法を見いだしています。例えばStockland社の場合、取り組みを拡大させるのではなく、既存の取り組みを加速させることで、より大きなインパクトをもたらしています。Stockland社のアプローチをStevens氏は、「これで成果を出せているのだから、もっと加速させよう」と言います。「メリットは大きい。ただ、『さらに多くのことに取り組む』のではなく、私たちが既に取り組んでいることを継続し、そのペースを加速させるのです。これが私たちにとっての大きな転機となります」

コアビジネスに沿って進む

サステナビリティへの取り組みをビジネスの主要なバリュードライバーに沿ったものにできるかどうかも、どのようなインパクトをもたらせるかを左右します。「本業と密接に関連する内容に焦点を当て、その事業活動を具体的な目標と指標に落とし込む必要があります」と述べるのはAbsa社のRaju氏です。「それが本業と関連していないと判明した時点で、それに関わる実行能力について疑問を持つことになるでしょう」

主要なバリュードライバーに沿った内容にすれば、価値を高めることができるとの見方をeBay社のSteve Priest氏は示しています。「投資対効果が非常に大きいのはなぜだと思いますか。プラットフォームでやるべきことを行い、適切な分野に投資をすれば、相場のモメンタム(勢い)と安定が生まれ、顧客が必ず戻ってくるからです」

テクノロジーで加速する

今後はテクノロジーが、気候変動対策目標の実現を加速させる上で不可欠な存在になるでしょう。実際、EY Sustainable Value Studyの調査結果から、CSuOの66%が社内投資で、気候変動対策関連の新たなテクノロジーの開発を進めていると回答したことが分かりました。また、調査対象者の過半数(63%)が人工知能(AI)の進化は自社のサプライチェーンを最適化し、二酸化炭素排出量を削減する大きな可能性を秘めているとも回答しています。

「AIは今後、ビジネスのやり方を変え、インターネットよりもさらに大きなインパクトをもたらすでしょう。生産性や生活の質の向上という面で、テクノロジーはパラダイムシフトを生み出す非常に大きな要因です。AIも今後、サステナビリティへの取り組みで極めて大きな役割を担うことになると思います」とSAP社のLi氏は話します。AIは事業やサステナビリティへの取り組みに幅広いインパクトをもたらしており、CIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)を含むリーダーシップチーム全体を持続可能な事業戦略の実施に関与させる必要性を浮き彫りにしています。

「AIによりサステナビリティの変革を加速させる方法とは」にあるように、AIはビジネスリーダーが変革・変化の速度や規模、複雑さに対処し、サステナビリティへの取り組みで大胆な措置を講じることができます。しかし、より良い結果を生み出す急成長技術として、ステークホルダーがAIを信頼していなければ、それを実現できません。

ステークホルダーが目下、懸念しているのは、データセンターにおける、AIの膨大なエネルギー使用量が環境に及ぼすインパクトへの対処です。SAP社でCSuOを務めるSchmid氏は、次のような見方を示しています。「データセンターを冷却するには膨大なエネルギーを消費します。この問題に対してIT業界全体が責任を負っていることは明らかです」

その一方で、リーダーは、誰が何のためにデータを使用するのかの明確化や、AIが幅広い労働者に及ぼすインパクトなど、AIの責任ある利用に関する倫理的配慮に対処する必要があります。「こうした構造変革の過程では、勝者と敗者が生まれ、こうした潜在的なインパクトをどのように管理するのかが、私たちにとってとても重要な業務になる」とSAP社のCFOであるAsam氏は認めています。

公平性を重視して成長を加速させる

Absa社やMahindra社のようなグローバルサウスに位置する企業の場合、地域社会(コミュニティ)が望む長期的成長を支えるとともに、これらの国が偏って受けている気候変動による影響にも対処しなければなりません。Absa社のRensburg氏は、次のように述べています。「貧困のため、政府などによる介入を求めているこうしたコミュニティ(地域社会)の社会的側面に対応していることを明確に示す、バランスの取れたアプローチが必要です。その一方で、50年から70年後に人々が生活を続けられる環境を守るための、真剣な取り組みも必要です」

AIも今後、サステナビリティへの取り組みで極めて大きな役割を担うことになると思います。
天津の街並み
5

第5章

取締役会の行動アジェンダ

取締役会がサステナビリティを高めるための5つの戦略的分野を紹介します。

世界各国のリーダーを対象に行った今回のインタビューでは、企業がもたらすインパクトを拡大・加速させるために、取締役会が行動計画に組み入れるべき、5つの重要な項目が明らかになりました。

1. 成長の加速手段としてテクノロジーの利用を見直す

経営陣に対し、サステナビリティを真の喫緊課題として取り入れ、政策と技術の進展を通じて進捗を加速させるよう促す、自身の「チャレンジャー」としての役割を強化しましょう。営業利益と環境へのインパクト、倫理的配慮の間の密接な関係を確保しながら、AIとディスラプティブテクノロジー(従来の技術や業界の価値基準を根底から覆す程の革新的な技術)を活用する機会を優先させる経営陣のサポートをします。

2. ビジネスモデルを見直す

成長機会と価値創造機会を見極め、持続可能なビジネス変革を進める大胆なプログラムを推し進めるよう、経営陣の背中を強く押します。政策・規制関連のアジェンダにより意欲的かつ戦略的なアプローチを取り、単にコンプライアンスにとどまらず、循環経済に向けた有望なシナリオの策定など、戦略上の競争優位点はどこにあるのかを正確に把握することを強く求めましょう。それと並行して、中・長期的シナリオが受ける、短期的な影響を誠実に伝えるストーリーを策定して、株主とステークホルダーに伝えます。そして、何も行動を起こさないリスクと比較検討しましょう。


取締役会のわずか24%が、自社の重要なESGの優先事項に対処する戦略について「完全に満足」しています。その戦略が信頼できる分析に裏打ちされ、価値創造の目標を達成するという明確なビジョンを持っていると感じている取締役会は、4分の1未満(24%)なのです。

2024年度EY Long-Term Value and Corporate Governance Survey

3. 投資回収期間と投資収益率(ROI)を見直す

短期的パフォーマンスという喫緊の課題と、大規模な変革を求める今の時代に同時に対応した、中・長期投資のビジネスケースを策定します。投資回収期間が不確実な状況に慣れつつ、気候変動と生物多様性に関わる取り組みのために調達する必要のある資金の計算を経営陣に求めましょう。事業全体の内部炭素価格を考慮に入れつつ、一貫性を持ってシナリオを再実行するよう経営陣に求めます。明確な長期ロードマップを策定してください。極めて重要なのは、企業のパーパスに根差した論理的根拠を明確に示し、リターンが不透明な長期投資実施の妥当性を示すことです。

4. 自社のエコシステムを拡大する

競争の前段階で、同業者やバリューチェーン全体で、外部エコシステムパートナーシップを構築し、取りまとめて、サステナビリティへの取り組みの進展とメリットを加速させましょう。EY Sustainable Value Studyの調査結果から、「気候変動対策で先を行く」企業はより積極的に(96%)パートナーシップの構築を進めて気候変動に対処していることが分かりました。安心して競合他社との提携を結び、共通して直面する問題の解決を図ることを奨励しましょう。気候変動対策リーダーの57%が、直接の競合相手と提携していました。

一部の企業がおのずと先駆者となり、他社もサステナビリティの実現に向け取り組みを進められるよう手助けすることになるでしょう。

5. ガバナンスを再考する

代表的なステークホルダーの参加を受け入れ、取締役会の会議で、あらゆる意見(自然に関するものなど)を示す場を与えるようにします。取締役、特に取締役会議長は、そのガバナンスの手法として、以下のような対策を取り入れることを検討すべきです。

  • サステナビリティのさまざまな側面を支える推進担当者を取締役会内に置く一方で、取締役会とCSuOを結ぶ接点数の増加と質の向上、媒体の増加を図り、これをセンターオブエクセレンス(CoE)にする。
  • サステナビリティから価値を引き出す企業の能力を制限する内部要因(例えば、取締役会の多様性の限界や主要なサステナビリティ問題についての知識不足、組織の体制のサイロ化や硬直化、文化や戦略の不一致など)に対処する。
  • サステナビリティ問題を、取締役会の体制と意思決定プロセスに完全に組み込み、サステナビリティを定例の議題項目とする。
  • 持続可能な社会的価値と環境価値の拡大状況に応じた役員報酬制度の導入を強く求める。

サステナビリティ問題が自社の体制と意思決定プロセスに完全に組み込まれていると感じる取締役は全体の7%にすぎません。

2023年度EY Europe Long-Term Value and Corporate Governance Survey

最後に

EY Global Center for Board Matters LeaderであるSharon Sutherlandは、最後に次のようにまとめています。「イノベーターは『行動を起こす理由』ではなく、『行動しない理由』を問うものです。積極的に現状に疑問を投げかけるリーダーのように、今こそ、私たち全員が『行動を起こす理由』に時間とエネルギーを費やすのを止め、代わりに、明確なビジョンを持ち、連携して変革・変化に影響を与え、持続可能な未来を再定義し、書き換えることに情熱を傾けて取り組む時です。

サマリー

取締役会は、経済的・構造的課題に直面しながらも、サステナビリティ目標と具体的な行動を結び付けるという任務を担っています。成功を収めるためには、サステナビリティをコアビジネス戦略に織り込み、部門をまたいだ連携を奨励し、エコシステム全体が一丸となって取り組むことが不可欠です。こうした総合的なアプローチを取ることで、サステナビリティを単なる目標ではなく、行動を伴う、変革の原動力とすることができます。

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