red kayak floating above a shipwreck Carlisle Bay Barbados
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CEOが直面する喫緊の課題

M&Aと関税の影響:サプライチェーン再構築で企業価値を守るCEOの戦略

貿易摩擦や関税措置への対応に追われ、M&Aに慎重な姿勢を見せるCEOがいる一方で、戦略的なCEOはM&Aを長期的価値(Long-term value、LTV)創出の手段として活用しています。


要点
  • 世界的に不確実性が増し、CEOは複雑化する事業環境への迅速な対応を迫られている中、関税や貿易の問題が経営上の最重要課題として急浮上している。
  • 多くのCEOがM&Aに対して依然として旺盛な意欲を示しているものの、変化の激しい貿易情勢を踏まえ、実行のタイミングにはより慎重になっている。



EY Japanの視点 

日本企業のCEOの100%が今後12カ月間で何らかのトランザクション(M&A、スピンオフ、IPO等)の実施意向を示した一方で、M&Aへの関心は前回調査の69%から27%へと大幅に低下しました。これまでM&Aでの海外展開に積極的だった日本企業は米国による関税措置やその経済への影響が不透明なため趨勢を見守る状況にある一方で、インドやアジア諸国のように内需主導型で輸出依存度の低い地域への投資意欲は依然として高く、欧米以外への展開は続く見通しです。

日本企業のCEOの86%がジョイントベンチャーや戦略的提携を模索するとし、M&A以外の成長手段を探る動きも顕著です。

また、トランプ関税の影響が業績に表れていない中で、日本企業のCEOは外的要因による業績悪化の可能性を見据えた影響分析と対応策の検討に注力しています。75%がインフレを継続的な課題と捉え、コスト構造の見直しを進めています。これを転換期とし、ゼロベースからコスト構造を抜本的に見直し、レジリエントでサステナブルな経営体制を構築することが競争優位性の維持につながります。


EY Japanの窓口

川口 宏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenonリーダー



CEOは現在、貿易・関税政策の変動がもたらす新たなタイプの不確実性に直面しており、戦略的リーダーシップの重要性がこれまで以上に高まっています。現下の混乱は、2008年の世界金融危機(GFC)や2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックなどに匹敵するものとなるのでしょうか。それは今後明らかになっていくでしょう。いずれにせよ、先進的なCEOは、世界の貿易構造が再編されつつある中で、不確実性を機会へと転換すべく果断に行動しています。

果敢なCEOは業務運営を再評価し、厳しい決断を下し、将来の成長に向けて資本の有効活用を進めています。彼らにとって、何もしないという選択肢はありません。ポートフォリオの再構築に早期に着手するCEOは、持続的な競争優位性を確保できる可能性が高いです。

EYパルテノンでは、2025年3月から4月にかけてM&Aに関する調査「EYパルテノン CEO Outlook 調査」(以下、「本調査」)を実施しました。本調査から、取締役会で最優先に議論されている戦略課題が明らかになりました。詳細は、以下のタイルをクリックしてご覧いただけます。




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2025年に予想される地政学的動向トップ10

地政学の重要性が増しています。混乱の中にあっても自信を持って未来を形作るために、経営者は地政学戦略を必要としています。

     

    現在の混乱の影響は、企業にグローバルな関係性の再構築を迫っています。特に、サプライチェーン戦略やポートフォリオの最適化、コスト管理、さらには財務的レジリエンスといった領域では、抜本的な見直しが必要になっています。こうした変化に対応するために、 CEOは、地域経済の変動に対して、ローカルな感度とグローバルな視野をもって対応していくことが求められます。世界経済の地域化が進む中、地政学的リスクの管理は、今や戦略的プランニングの中核をなす要素となっています。

     

    CEOはまた、主にテクノロジーに関する喫緊の課題や、競争環境の変化、人材不足、顧客行動の変容がグローバルな環境変化の中でどのように再定義されつつあるのかを見極める必要があります。

     

    不確実性のパラドックスを受け入れるCEOは、慎重に計画を立て、それを果断に実行することで、確信を持って自社の未来を形づくることができます。そして、俊敏さと規律を巧みに両立させることで、彼らは企業をより強靱(きょうじん)でしなやかな存在へと導きます。こうした取り組みが、企業を大きな成功へと導きます。

    Chasing Clarity underneath the wave in the clear ocean waters Gold Coast Australia
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    第1章

    混迷する世界情勢の中で

    経済の変動と貿易摩擦が続く中、従来の指標は読み取りづらくなっています。こうした状況に的確に対応するためには、経営幹部には戦略的なリーダーシップと柔軟なシナリオプランニングが求められます。

    CEOは今、進むべき道筋を見極めにくい環境に置かれています。貿易摩擦は激しさを増す一方であり、経済の先行きを見通すことはこれまでになく困難になっています。何十年もかけて築き上げてきたサプライチェーンが、一瞬にして崩れ去る恐れさえあります。

    マクロ経済指標は、今後ますます正確に読み解くことが難しくなるでしょう。世界経済は、最近の不確実性の高まり以前からすでに力強さを欠いており、年初以降、多くの経済予測が下方修正されてきました。その傾向は続いており、今後、さらに引き下げられる可能性が高まっています。

    このように流動的な環境下で、単一の予測値に固執することは、誤った判断につながる恐れがあります。そのため、CEOには、発想の転換が求められます。つまり、単一予測に依拠するのではなく、複数のシナリオを前提とした柔軟な思考が重要となります。不確実性の幅を捉えるには、確率分布という視点のほうが現実的で有効です。構造的・政治的・経済的要因が絡み合う中、従来の予測モデルの前提そのものが揺らいでいます。

    CEOはまた、財務的なレジリエンス(回復力)を高めるために、アジャイルなマインドセットを育む必要があります。信用枠は現時点では維持されているものの、ここ数カ月で金融市場は確実に引き締まりつつあります。同様に、経済の減速は、重要な投資に必要な自社資本を確保する能力に、さらなる制約をもたらす可能性があります。こうした状況下で最大限のレジリエンスを維持するには、コスト意識を業績悪化の兆候と捉えるのではなく、戦略的な視点として前向きに取り入れる必要があります。そのような姿勢を持つことで、企業は今日の複雑な市場環境を乗り越え、将来の課題にも柔軟に対応できる体制を築くことができます。そして、その基盤となるのが、成功を加速させるために必要な能力や資産への継続的な投資です。


    CEOは、現在のこうした深刻な不確実性を明確に認識しています。国・地域を問わず、多くのCEOが、「地政学、マクロ経済、貿易面での不確実性」という相互に関連する問題は成長予測の達成を阻む主要なリスクであると述べています。国際貿易への依存度が高い企業のCEOほど、こうした懸念を抱く傾向が強く見られます。

    貿易・関税摩擦という新たな混乱が世界情勢を揺るがす中、「テクノロジーの導入とサイバーセキュリティの脅威」といった既存の課題も引き続き存在しています。また、労働市場は新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる深刻な制約からは徐々に解放されつつあるものの、人工知能(AI)やテクノロジー分野の専門人材の採用に関しては依然として懸念が残っています。

    こうした不確実性は、CEOの投資判断にも影響を与えています。




    CEOは、最近の関税をめぐる緊張が高まる以前から、すでに地政学的リスクの軽減に向けた対応を進めていました。過去12カ月間に戦略的投資計画を見直したと回答したCEOは全体の85%にのぼり、そのうちの過半数が予定していた投資を延期しています。さらに、約4割(39%)が事業資産を他の地域市場へ移転しており、新たな関税制度の影響がより明らかになるにつれて、こうした動きは今後さらに加速する可能性があります。

     

    地政学的戦略を経営判断に組み込むことは、今や不可欠です。自社に関わるあらゆる動向を踏まえた地政学的戦略を実行するCEOは、変動の激しい環境を乗り越えるための強固な戦略を構築する上で、より有利な立場にあると言えるでしょう。EYパルテノンでは、CEOが地政学的な課題に対応し、自社独自の地政学的戦略を確立するためのフレームワークを提示しています。



    CEOにとって新たな懸念材料となっている関税問題は、経済や地政学的課題への対応を加速させています。今後12カ月間における自社の事業運営および売り上げへの影響について、CEOの半数(50%)が「非常に懸念している」あるいは「極めて懸念している」と回答し、「懸念していない」とするCEOはわずか2%にとどまりました。


    4月2日に米国が発動した関税措置は90日間の猶予が設けられていますが、10%の一律関税は維持され、中国への高関税および業種別関税も依然として有効です。CEOは、関税の影響をどう緩和できるか、その対応策を模索しています。

    今後12カ月において、自社の事業運営や売り上げ面で関税引き上げの影響を最小限に抑えるために、CEOが検討している主な対応策は、以下の5つです。

    1. 代替となる国内調達を模索し、新たなサプライネットワークを地域内で再構築する
    2. 関税対象資材への依存を低減するため、製品設計や素材におけるイノベーションを加速させる
    3. 業務効率化やコスト削減を通じて追加コストを社内で吸収する
    4. 生産や調達を関税非対象地域に移すことで、サプライチェーンを多様化する
    5. 戦略的な価格調整により、顧客に追加コストを転嫁する

    CEOをはじめとする経営幹部は、競争力を維持するために、あらゆる選択肢を視野に入れて対応を検討していることが明らかになっています。しかし、すでに厳しさを増している経済環境の下では、戦略的価格改定によってコスト増を顧客に転嫁するという選択肢は、あまり現実的とは言えないかもしれません。

    異例の高関税により新たな価格圧力が加わる以前から、CEOは自社ビジネスへのインフレの影響を懸念していました。本調査でも、CEOの7割超が、インフレは依然として経営上の大きな課題であり、今後1年間にわたって乗り越えるべき重要なテーマであると回答しています。


    インフレ圧力
    インフレは、依然として経営上の大きな課題であり、今後1年間にわたって乗り越えるべき重要なテーマであると回答したCEOの割合

    こうした中、新たな関税措置の発動に備えて、CEOとその経営執行チームが今すぐ実行できる行動があります。

    1. 現状の把握とマッピング

    • 現行のサプライチェーンを分析し、関税率や自由貿易協定などの貿易条件を踏まえて、基準コストモデルを構築する
    • 影響評価を実施し、起こり得るシナリオを想定・モデル化する
    • 原産国ごとの関税率を評価・比較する
    • 市場ごとの特性に応じたリスク分析を実施する

    2. 関税チームの編成:

    • 税務、法務、リスクなどの各部門と連携し、関税措置の影響をそれぞれの業務領域で評価する
    • 上記のフェーズ1で得られた評価結果を業務別の関税条件と照らし合わせることで、関税負担がどのように、何に対して、いつ、どこで発生するのかを理解する
    • 緩和戦略における役割と責任、そして今後の対応フェーズにおける経営層への支援のあり方について、関係部門間で認識を共有する

    3. 関税リスクの緩和と回復計画

    • 原産地や関税評価額の見直しなどを含む通関手続きに関して以下の点を検討することで、関税の引き上げや貿易に起因するリスクを軽減する
      • 完成品の原産地を変更するために、影響を受けた市場からサプライチェーンの一部を移すことは可能か?
      • ファーストセールを適用することは可能か?
      • 移転価格と関税評価額の整合性をさらに高めることは可能か?
    • 可能な場合は、保税地域や代替的な関税還付制度を活用し、支払い済みの輸入関税の繰り延べや還付を適用する

    4. サプライチェーンと税務戦略の最適化

    • 社内の関税チームと連携し、効果的なサプライチェーンの再構築とサプライヤーネットワークの最適化を検討する
    • 代替調達のシナリオを策定する
    • 現状のマッピングを基に、サプライチェーン、物流、調達のパフォーマンスを評価し、貿易フローの見直しや再編を検討する

    これらの取り組みを進めるにあたり、CEOは部門横断的な連携を図り、主導的に関与する必要があります。関税および貿易の問題は、サプライチェーンの課題として捉えられがちですが、実際には企業のグローバルな構造と事業運営に長期的な影響を及ぼす、極めて戦略的なテーマです。

    企業にとって最も重要な貿易相手国や本社所在地との関係が、必ずしも最大の懸念事項になるとは限りません。実際、中国の回答者の42%は米国と中国間の関税・貿易摩擦を最も懸念している一方で、8%は米国とメキシコ間の関係の方をより懸念しています。これは、グローバル経済の深い相互依存性と、関税戦争の中でのかじ取りがいかに複雑であるかを浮き彫りにしています。とりわけ、米国の関税措置に対して他の主要経済国が反応し始める中、その複雑さは一層増しています。


    世界的な貿易摩擦の激化は、各国政府がすでに進めている主権的産業政策の実施を加速させると見られます。これは、産業安全保障の強化を目的とした戦略的な国家介入の動きが一層強まることを意味します。また、度重なる世界的な危機や地政学的緊張の高まりによってサプライチェーンの脆弱性が露呈し、各国政府は重要産業における基幹製品の確保を優先課題とするようになっています。

    Drone image looking down on a river confluence, Iceland
    2

    第2章

    M&Aは危機への対応策となり得るか

    M&A(合併・買収)は、危機対応の有力な手段となり得ますが、変動の激しい市場では、戦略的な投資判断に一層の慎重さが求められます。

    危機の初期段階でM&Aを進めることは、戦略的に優位な企業にとって、通常では得られない価値創出の好機となり得ます。市場が混乱するこうした局面における市場移転は、資産価格が本来の価値から大きく乖離し、長期的な成長可能性を持つ企業が、大幅な割安価格で取引されることも少なくありません。このような一時的な評価圧縮は、強固な財務基盤を持つ先見的な買手企業にとって絶好のチャンスとなります。

    進行中の関税危機が、M&Aやその他の企業投資にどのような影響をもたらすのかは、現時点ではまだ見通せません。本調査で見られたCEOのM&Aに対する意欲の高まりや、3月までの取引件数の増加といったデータは、2025年におけるM&Aの活況を示唆しています。しかし、ここに来てその見通しには一抹の不透明感が漂い始めています。


    一方で、足元のデータを見る限りでは、M&A活動は依然として活発です。2025年第1四半期に発表された取引総額は1兆米ドルに達し、前年同期比で25%の増加となっています。このうち5,000億米ドル以上は3月に集中し、同月のM&A活動は、パンデミック後のM&Aブーム期以来の水準に達しています。

    さらに、1億米ドル超の大型案件も、前年同期比で18%増となっています。


    ディ―ル市場は業種を問わず幅広く活性化しており、特にテクノロジーと金融サービス分野が堅調でした。加えて、消費財、航空宇宙・防衛、工業製品の分野でも大幅な増加が見られました。

     

    しかし、2020年3月に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった直後と同様に、4月のディ―ル活動は一転して減速し、取引総額は2,500億米ドルにとどまりました。

     

    M&Aを進める企業にとっては、マクロ経済の動向を正確に把握することが、対象資産の適正な評価に不可欠です。経済成長の軌道は、将来の収益予測や市場機会の規模の算定に直接影響を与えるため、あらゆる評価モデルの根幹を成します。信頼できる成長予測がなければ、買手企業はその資産が持つ本来の可能性を享受できず、高値づかみにつながりかねません。

     

    税制や関税政策も、買収後のキャッシュフローや統合コストに大きく影響します。法人税率の変動、国際貿易政策の転換、特定の業界に対する徴税などは、ディ―ルの経済性を劇的に変化させ、利益を見込んでいたディ―ルが逆に価値毀損の要因にもなり得ます。

     

    資本市場の動向は、評価倍率や資金調達コストの基準を形づくる重要な要素です。金利、株式リスクプレミアム、為替レート、債務調達の可否といった指針の変動は、買収価格や取引構造に影響を及ぼします。市場が不安定な局面では、買い手と売り手の間でのバリュエーションに対する期待値の乖離が広がりやすくなるため、取引のタイミングが一層重要になります。

     

    実際、CEOの約4分の3(71%)が、こうしたバリュエーションギャップの存在を、今後1年間のM&A活動をさらに鈍化させる複雑要因のひとつと捉えています。


    拡大するバリュエーションギャップ
    バリュエーションギャップの拡大が、M&A回復の妨げになると見ているCEOの割合

    こうした背景を踏まえ、豊富な知識や経験を有する買手企業は、戦略的取引が想定通りの価値を創出できるよう、前提条件のストレステストの実施し、株式リスクプレミアムを評価モデルに組み込むための経済シナリオを精緻に構築する必要があります。

    今後、状況がより明確になるまでに、M&Aの動きが一時的に停滞する可能性があります。ただし、その停滞期間が、リーマン・ショック後のように2年近く続くのか、それとも新型コロナウイルス感染症後のように数カ月にとどまるのかは、現時点では不透明です。

    過去の分析によれば、経済危機下で実行された買収は、景気拡大期に実行された買収よりも、長期的に優れたリターンをもたらすことが多いことが示されています。これは、買収後の統合プロセスが経済回復のタイミングと重なりやすく、市場が反転する局面で新たなケイパビリティを的確かつ最大限に活かせる環境が整うためです。

    競合が守勢に回る中で戦略的な規律を維持しているCEOや企業では、景気回復とともに、競争優位性を大幅に高め、成長軌道を加速させることができるでしょう。

    Lake and circular pattern on water surface at sunrise in summer
    3

    第3章

    M&Aがもたらす価値の本質を捉える

    適切な買収戦略と実行力、そして的確なリーダーシップが伴えば、M&Aは企業価値創造の原動力となるでしょう。

    M&Aに関しては、統合作業の難航、企業文化の不一致、シナジーの過大評価などにより、多くの案件が株主価値を生み出せないとの見方が根強くあります。しかし、この見解は実態を単純化し過ぎているかもしれません。実際のところ、戦略・実行力・リーダーシップの三位一体が確立していれば、M&Aは長期的成長と価値創出の強力な推進力となり得ます。 

    M&Aによって得られる潜在的な価値は、必ずしも十分に理解されているとは限りません。その背景にはいくつかの要因があります。


    第一に、短期的な業績指標では、M&Aによってもたらされる長期的な戦略的メリットを捉えきれないことがあります。第二に、成功を収める買手企業は、成果を継続的に高めるための再現可能な統合プロセスを確立しており、これが時間とともに成果の向上につながっています。第三に、競争上の不利を回避するための「守りの買収」は、価値の毀損ではなく、むしろ価値の維持と捉える必要があります。最後に、「成功」をどう測るかという評価手法そのものに課題があり、即時的な財務リターンだけでは測れない戦略的な成果が見落とされる可能性があります。

    真の価値創出は、競争優位を高める本質的なシナジーから生まれます。その基盤となる要素としては、コスト効率の向上、補完的な機能の獲得、市場アクセスの拡大、イノベーションの加速などが挙げられます。単なる規模の拡大を目的とした統合型の買収よりも、明確な戦略的根拠に基づく案件の方が高い成果を生みやすい傾向にあります。

    成功の鍵となるのは、徹底したデューデリジェンスに基づく慎重な対象企業の選定、買収経済性を損なわない合理的なプレミアムの支払い、そしてクロージング前から始まる綿密な統合計画です。加えて、文化的な相性も同様に重要であり、組織間の摩擦は、想定されるシナジーを一瞬にして損なうリスクをはらんでいます。

    また、タイミングの重要性も軽視できません。業界の構造変革の初期段階や市場が低迷している局面で実行された買収は、往々にして優れたリターンを生むことがあります。M&Aは、戦略的に明確さと実行力の下で活用されれば、最終的には強力な精密ツールとなり、多大な価値を生み出しますが、過信や準備不足のままで実行された場合には、株主の価値を損なうもろ刃の剣にもなり得ます。 

    実際、CEOの認識は通説とは異なります。55%のCEOが、最近の買収で「期待通りの価値を創出した」または「期待を上回る価値を創出した」と回答しています。一方、買収により「価値を損なった」とするCEOは、わずか2%でした。買い手側・売り手側のいずれにおいても、大半のディ―ルは価値を創出するものと評価されています。

    2025年5月期の Global CEO Outlook Pulseをダウンロードする



    サマリー

    多くのCEOが、現在の緊迫した状況に対応し、新たな環境に備えるために、今まさに必要な一歩を踏み出そうとしています。彼らは、目の前に広がる新たな世界が以前よりも不安定になることを認識しており、このような状況を踏まえ、変革や取引戦略をこれまでになく果敢に取り組む可能性があります。近年の危機への対応からも明らかなように、嵐が過ぎ去るのをただ待つのではなく、「今」行動することが、すべてのステークホルダーに対して長期的価値を創出する大きなチャンスとなります。


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