CFOが直面する喫緊の課題:企業が自信を持って未来を形づくるために財務コントローラーが起こすべきトランスフォーメーションとは

CFOが直面する喫緊の課題:企業が自信を持って未来を形づくるために財務コントローラーが起こすべきトランスフォーメーションとは

将来の財務コントローラーは組織内でダイナミックかつ戦略的な力を発揮し、財務データを管理する担い手という役割と、CFOの戦略的目標を支える役割のバランスも取らなければなりません。


要点

  • 財務コントローラーの役割は進化しており、価値の保護と最適化に加え、価値創造も含むようになってきた。
  • 財務コントローラーはデータや人工知能、サステナビリティを通じて組織に価値をもたらすことができる。
  • 財務コントローラーがCFOの特別なパートナーとして機能するには、現在の責任を引き続き果たしながら、将来を見据えたマインドセットとスキルセットを身に付けなければならない。

財務コントローラーの今後

財務コントローラーは複雑なビジネス環境において、またとない機会に直面しています。財務コントローラーがトランスフォーメーションを起こし、自信を持って未来を形づくるにはどうすればいいのかをMyles Corsonが説明します。


財務部門のトランスフォーメーションと全社的な変革を受けて、財務コントローラーの役割が進化しています。価値の保護(規制コンプライアンスなど)と価値(段階的な効率化など)の最適化にほぼ専念してきたかつての財務コントローラーが、現在では長期的な成長に向けて企業を導くことができる潜在的な価値創造者としてますます認識されるようになってきました。

もちろん、財務コントローラーは依然として、組織の会計業務と報告業務を適切に監督しなければならないことは言うまでもありません。それは、いわば「当たり前の」業務なのです。しかし同時に、自動化と人工知能(AI)が、財務コントローラーの手間を省き、先頭に立ってイノベーションを推し進め、独自の知見をデータから導き出し、組織の新たな成長ドライバーを把握して価値を創造する重要な機会を財務コントローラーにもたらしてもいます。

これは、「両立の時代」(財務部門のリーダーが、複数の優先課題のバランスを同時に取り、短期的なパフォーマンスと長期的価値の創造を同時にサポートすることへの期待が高まる時代)が生んだ新たなシナリオです。このような時代には、従来の報告・コンプライアンス関連の任務を引き続き果たしながら、トランスフォーメーションと価値創造の促進役を担うことが財務コントローラーには求められます。そうした任務や役割を果たしていく中で、経営陣や取締役会に対してだけでなく、CFOの特別なパートナーとして、また他部門への信頼できる戦略アドバイザーとしての地位を確立することができます。

2024年度のGlobal EY DNA of the Financial Controller Report(PDF)では、すでに進行中の、以下のようなパラダイムシフトに焦点を当てています。

  • 調査対象となった財務コントローラーの86%が、今後5年間で自らの役割が大きく変わると予想。
  • 調査対象となった財務コントローラーの26%が、今とはまったく異なる、未知のスキルセットが求められるようになると回答。
  • 財務コントローラーの役割がどのように進化していくと思うかと尋ねたところ、最も多かったのは、今のように価値の保護と最適化に重点を置くだけでなく、価値創造も担うようになるという回答(調査対象となった財務コントローラー、財務部門幹部共に39%)です。

財務コントローラーは、価値の保護と最適化に加え、価値創造も担うようになることで、CFOを目指すにしろ、財務コントローラーとしてのキャリアを築くにしろ、長期的なキャリアの成功は約束されたも同然です。財務コントローラーの役割をどのように再定義すればいいのか。1,200人以上の財務コントローラーなど財務部門幹部を対象とする調査結果をまとめた2024年度のGlobal EY DNA of the Financial Controller Surveyが示す、そのロードマップは、以下のような内容です。

  1. トランスフォーメーションの機会を生かす:財務コントローラーは、データとAI、サステナビリティがもたらす機会を生かして、新たな価値を創造できる。
  2. 将来に備える:財務コントローラーは、日常業務やプロセスに新たなテクノロジーとツールを活用して、時間と手間を省き、自らのビジネススキルの幅を広げるとともに、自らの役割を果たすには何をする必要があるのかを巡るマインドセットを進化させることができる。
  3. 自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)として成長する:自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は、全社レベルで責任を負い、将来役立つ仕事に時間を投じて、財務コントローラーの役割の再構築に貢献している。

今回の調査は、将来の財務コントローラーのDNAを明確にし、定義することを目的に実施しました。そのため、財務コントローラーだけでなく、チームを育て、組織全体を成功に導くことを目指す財務部門幹部も、非常に参考になる知見を得られるはずです。本稿はEYの「CFOが直面する喫緊の課題シリーズ」の1つです。本シリーズでは、財務部門のリーダーが自らの役割に自信を持って企業の未来を形づくる際に役立つ重要な見解や知見を提供しています。その他の各種知見・インサイトについては、EY CFOアジェンダをご覧ください。

2024年度のEY Global DNA of the Financial Controller Report

本レポートでは、調査結果をさらに詳しく紹介するとともに、財務コントローラーが自らの役割を進化させて、将来価値を創造できるようになるにはどうすればいいかを考察していますので、ぜひご覧ください。

トランスフォーメーションの機会を生かす
1

第1章

トランスフォーメーションの機会を生かす

データを具体的な対策に落とし込み、サステナビリティ戦略とビジネスパフォーマンスを融合させます。

組織のデータを管理する担い手として、財務コントローラーはすでに、企業に対する信頼の構築で重要な役割を果たしています。両立の時代の今、複雑さを増すビジネス環境やテクノロジーの急速な進歩、サステナビリティがもたらすリスクと機会に対する認識の高まりを受けて進化を遂げることで、そうした立ち位置をさらに強化することができます。今回の調査の結果から、財務コントローラーが価値を創造するに当たって重要な3つのトランスフォーメーションの機会が明らかになりました。

1. データを具体的な対策に落とし込む

企業には今、自由に利用できるデータが豊富にあります。ただし、どのような対策を講じれば長期的成功につながるのかを企業が見極めるのに役立てられるような形でデータが分類・整理、管理、利用されているとは限りません。戦略的な立場にあり、大きな影響力を持っているため、財務コントローラーはデータの潜在的価値を引き出しやすい環境にあります。データを分析して知見を提供するだけでなく、AIなど強力なデジタルツールを活用して、参考になるデータ要素を把握する手助けもできます。

EY Global Finance Transformation LeaderのDeirdre Ryanは、コンプライアンス要件を満たすためにデータを収集することで、財務コントローラーは基本的なデータレイヤを作成しており、それが企業にとって非常に貴重な財産になる可能性があるとみています。「法的義務を順守するために財務コントローラーが収集しているデータは、価値を高めるために企業が利用するデータと同じです」とRyanは言います。「財務コントローラーはそのデータをマイニングし、場合によっては、業務データや外部データと組み合わせることによって、知見を導き出し、企業全体にとってより良い判断を下す意思決定者の能力を高めることができます」

今回の調査結果から、財務コントローラーがこうした機会を把握していることが分かりました。回答者の88%がデータから得た知見を生かして、戦略的機会を提言することはすでに財務コントローラーの重要な役割の1つだと述べています。自らの役割の一環として、データを活用した意思決定とテクノロジーを常にまたは頻繁に推進している財務コントローラーも3分の2以上(67%)いました。

法的義務を順守するために財務コントローラーが収集しているデータは、価値を高めるために企業が利用するデータと同じです。

2. AIに対する信頼を財務部門内と社内で醸成する

AIは、企業とその財務部門が何をどうやるかについて、根本から見直すことを可能にする、いわゆるゲームチェンジャーとなる可能性を秘めています。今回の調査結果から、財務コントローラーがすでにAIツールを熱心に利用していることが分かりました。回答者の89%がAIを導入し、65%が生成AIを頻繁に利用していると答えています。ただし、今回の調査対象となった財務コントローラーが、AIに投資する十分なリソースを有する大企業に勤めているため、このような調査結果になった可能性もあります。

AIツールを採用する企業が増える中、財務コントローラーは自らの専門知識を生かして、AIを活用したトランスフォーメーションを組織内で推進するサポートができます。具体的には、潜在的なユースケースを把握すると同時に、AI、特に生成AIのアウトプットが信頼性・透明性・説明可能性の要件を満たすかどうかを評価して、テクノロジーに対する信頼を醸成することができるはずです。財務という文脈に限定すると、AIを利用して幅広い基本的な財務プロセスを自動化でき、また生成AIについても、市場動向の予測や競合他社の業績の常時チェックなどさまざまな戦略的業務に活用できます。

EY Global Accounts Committee Assurance LeadのJeanne Boilletは、財務の日常業務の自動化が進むにつれ、今後5年間でコンプライアンス業務に費やす時間が減り、財務コントローラーは組織内でより戦略的な役割を果たす時間が確保できるようになるとみています。Boilletは次のように述べています。「財務コントローラーは今後、事業予測や企業をサポートする業務など、判断を必要とする分野に割く時間を増やし、企業が的確な判断を下すサポートをするようになるでしょう」

財務コントローラーは今後、事業予測や企業をサポートする業務など、判断を必要とする分野に割く時間を増やすことになるでしょう。

3. サステナビリティ戦略とビジネスパフォーマンスを融合させる

より持続可能な経済への移行は、財務コントローラーがイノベーターと価値創造者としての実力を発揮する一助となるかもしれません。イノベーターとしては、新たな種類のデータの調達や新システムの導入、新たなプロセスの構築、新たなチェック・管理体制の確立など、確固としたサステナビリティ情報開示体制の整備を求める声の高まりに対応することができます。一方、価値創造者としては、組織の財務・非財務業績を、取締役会やアナリスト、投資家などステークホルダーにどのように伝えるか、その対応を担うことができます。

ただし、このような機会が生まれることは明らかであるものの、ほとんどの財務コントローラーがサステナビリティにあまり関与していません。実際、今後5年間で財務計画と報告に当たってのサステナビリティへの配慮に頻繁に関与することになると考える人は、調査対象となった財務コントローラー全体のわずか43%です。しかし、現在頻繁に関与していると答えた人は36%であることを考えると、緩やかに増えているといえます。

つまり、先見性のある財務コントローラーの中には、ステークホルダー全体への組織の価値提案をどのように強化し、伝えればいいかを模索している人がいるということです。「財務的観点とサステナビリティの観点の両方から、エクイティストーリーと株主価値の創造を財務報告書でどのように後押しするか。それが今、多少進化してきました」と話すのはEY Americas Leader, EY Center for Executive LeadershipのJuan Uroです。「財務コントローラーは、企業の財務目標とサステナビリティ目標の達成状況を説明することで、株主全体の立場に対応して、多くの価値を高めることができます」

財務コントローラーは、株主全体の立場に対応して、多くの価値を高めることができます。

提案事項

財務コントローラーがトランスフォーメーションの3つの機会をつかむためには、以下の対応を取ることが重要です。

  1. 自らの解析技術を伸ばし、他部門と協働してデータから新たな知見を導き出し、データ量とデータソースが増え続ける中、高い拡張性を備えたデータ戦略の策定とデータガバナンスの構築をサポートして、データを管理する担い手という自らの役割を強化する。
  2. 財務部門だけでなく組織の他部門のプロセスを再構築するには、自動化とAIシステムの両方をどのように利用すればいいかを理解する。例えば、予算編成や予測など基本的な財務プロセスは自動化に適している。また、どの業務にはどのツールが最適かを評価する一環として、AI関連のコストと見込み投資利益率も考慮に入れる。
  3. 自動化などによって手間を省く機会を探り、サステナビリティ情報の作成に、より関与できるようにする。具体的には、報告に関係のあるデータセットや指標の特定、それに伴う管理体制やプロセスの強化などが考えられる。
Businessman in the city looking into digital tablet computer
2

第2章

将来に備える

財務コントローラーが、将来の財務リーダーとして成功するには、自己啓発に励み、任務の幅を広げる必要があります。

財務コントローラーがトランスフォーメーションの3つの機会を最大限生かすには、自らのスキルセットの幅を今よりさらに広げなければなりません。財務の専門知識の他に必要となる可能性が高いのは、ビジネスセンス全般、AIや解析、サイバーセキュリティの知識、戦略的思考スキル、データガバナンスを監督する能力です。

こうした技術的スキルやデータスキルに加え、対人スキルやコミュニケーションスキルも高める必要があります。幅広い社内外のステークホルダーを管理する上で重要となる可能性があるのは共感スキルとリレーションシップスキルです。自己ブランドの構築は、新たな人材を呼び込み、組織全体の同僚と交流する有力な戦略となり得るため、LinkedInなどのソーシャルメディアチャネルを含め、自己ブランドをいかに構築するかを知ることも役立ちます。

財務コントローラーは、協働スキルやコーチングスキルへの投資が効果的なチームワークの促進に不可欠となる可能性があることを認識しています。今後5年間でチームビルディングやメンタリング、キャリア形成に常にまたは頻繁に携わることになると考える人は、回答者のほぼ半数(46%)に上りました。

財務コントローラーがデータやAI、サステナビリティを通じてより大きな価値を創造するには、アジリティとイノベーションを取り入れる意欲が重要です。また、財務部門幹部の51%が、革新的であることは財務コントローラーの重要な資質であると考えているのに対して、調査対象となった財務コントローラーのうち、重要な資質だと考えている人は43%であることから、マインドセットのシフトも必要です。


突き詰めると、財務コントローラーに求められるのは、財務部門を未来へと導くことができる変革の推進者になることであると唱えるのは、EY Americas Strategic Tax Transformation LeaderのAndrea Gronenthalです。「トランスフォーメーション戦略の運用化は財務コントローラーが担うことになります」とGronenthalは言います。「そのため、財務部門の大きな変革を成功に導くピープルリーダーが必要です。また、リスク管理など組織の管理の担い手という役割と、価値を創造し、CFOの戦略的目標を達成するという役割のバランスも取らなければなりません」

CFOが取るべき対応

CFOは、財務コントローラー職の人材育成で不可欠な役割を担っています。CFOが将来必要となるマインドセットとスキルセットを財務コントローラーに身に付けさせるには、常勤であれ、非常勤であれ、あるいはプロジェクトベースであれ、財務コントローラー職以外の責任を担うことを彼らに奨励しなければなりません。財務コントローラーに特に必要なのは財務計画・分析(FP&A)やIRに触れる機会に加え、価値創造についてより幅広く考える機会を増やすことです。また、経営幹部など社内外の重要なステークホルダーとの交流も増やすことが求められます。

米国をはじめ多くの国・地域ではスキル不足が問題となっています。そのため、CFOは柔軟な人材戦略を展開し、次世代の財務コントローラーを発掘する際には多様な人材プールを開拓すべきです。優れた人材を呼び込むには、財務コントローラーの魅力的な将来像を描く必要があります。

「人材の育成に当たって、財務コントローラー職をあくまでもコンプライアンス関連の役職に分類していては、財務コントローラー職の役割に適したマインドセットとスキルセットを備えた人材を呼び込み、つなぎ留めることが難しくなる可能性があることをCFOは認識しておくべきです」と話すのは、EY Global and EY Americas Strategy and Markets Leader, Financial Accounting Advisory ServicesのMyles Corsonです。「CFOが優秀な人材を確保するには、組織内でダイナミックかつ戦略的な力を発揮して、組織の財務データの管理を担う役割と、価値を創造し、CFOの戦略的目標を達成する役割のバランスを取るという、財務コントローラーの魅力的な将来のビジョンを描く必要があります」

CFOが優秀な人材を確保するには、財務コントローラーの魅力的な将来のビジョンを描く必要があります。

提案事項
 

財務コントローラーが将来に備えるためは、以下の対応を取ることが重要です。

  1. 組織のさまざまな部門の同僚と関係を構築して、社内のネットワークを広げ、価値創造を図る。例えば、ビジネスの初期段階からより深く関与することを目指すなどが考えられる。
  2. 日常業務やプロセスに新たなテクノロジーとツールを活用して、時間と手間を省き、スキルセットとマインドセットの向上に取り組む。
  3. 社内の各ステークホルダーグループがそれぞれ、財務コントローラー職を現在どのように見ているかを把握し、自らのチームを財務コントローラー職の将来のビジョンに沿ったものにする計画を策定する。
group of people having business meeting
3

第3章

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)として成長する

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は、将来を見据えた業務に時間を費やすことで、長期的価値の創造に貢献しています。

トランスフォーメーションの機会を捉え、将来役立つマインドセットとスキルセットを身に付けて、自らの役割を再定義し始めた財務コントローラーもいます。私たちが「自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)」と名付けたこのグループは、ファイナンストランスフォーメーションの推進や企業の成長の加速、長期的価値の創造で形成的な役割を果たしています。

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)を定義する

財務コントローラーが、CFOの将来の優先課題にどの程度沿っているかをより深く理解するため、EYではテクノロジーと高度なデータ解析、サステナビリティ、イノベーションに直結した資質を重視する財務コントローラーの回答を参考に指数付けをしました。この4つの項目は、CFOが今後3年間に財務部門のトランスフォーメーションを行うに当たって最も重要な優先課題です。

その各項目に対する財務コントローラーの重視度に応じて指数を決めました。各要素の合計スコアを0から100まで正規化して得た数値を基に、数値が高い回答者の上位25%を「自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)」に選定しました。

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は他のグループとどこが違うのか

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は、他の財務コントローラーより将来役立つ仕事に多くの時間を費やし、その分野のスキルを伸ばすことを自身のチームにも促しています。自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)のほぼ4分の3(72%)が、データを活用した意思決定とテクノロジーの利用に常に、または頻繁に時間を投じています。また、リスク管理に常にまたは頻繁に時間を費やしている自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)の割合は66%で、企業責任に関しても、同じく66%です。


注目すべきは、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)が他の財務コントローラーより、組織のデータを管理する担い手としての自らの役割をうまく生かしているように見受けられる点です。ほとんどの財務コントローラーが財務部門の先頭に立ってデータガバナンスやデータ戦略、データ解析、報告を担っていますが、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)では、全社レベルでこれを担う人が多く見られました。

実際、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)の45%(他の財務コントローラーの1.7倍)が全社的な解析や報告を先頭に立って担っています。なお、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)で、先頭に立ってデータガバナンスとデータ戦略を担っている人は全体の26%(他の財務コントローラーの3.3倍)です。

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は他の財務コントローラーより、CFOのトランスフォーメーションへの取り組みに沿った役割を果たしているように思える一方、データから「思わぬ事実」が明らかになりました。CFOとして成功するのに必要なスキルと適性を備えているにもかかわらず、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は、財務コントローラー職にとどまって長期的に影響を及ぼそうとする人が多く、財務コントローラーをキャリアの最終目標と考えている人が32%いました(他の財務コントローラーは21%)。

キャリアの最終目標
自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)は他の財務コントローラーに比べ、財務コントローラー職を最終目標とする傾向にあります。

CFOへの道

財務コントローラーからCFOになるのは、いわばお決まりのルートです。実際、今回の調査結果では、現CFOの18%が元財務コントローラーで、調査対象となった財務コントローラー全体の51%が最終的にCFOに昇進することを目指していました。

CFOは今、確かな専門的スキルは持っていて当たり前とされています。CFOとして成功するには、戦略的思考や、堂々とうまくコミュニケーションを取る能力など、幅広いビジネススキルと対人スキルも必要です。さらに、トランスフォーメーションリーダーという立場で、部下を引き込み、部下の意欲を引き出し、やる気を奮い立たせる能力も求められます。

EY Global People Advisory Services Finance LeaderのLibby Hackerは、CFOになることを目標とする財務コントローラーには自らのビジョンを巡るナラティブをつくり込み、そのビジョンに人を引き込む能力も必要だと考えています。また、チーム育成もうまくなければなりません。「若い世代は自身のパーパス(存在意義)を、財務部門であれ、組織全体であれ、組織のより幅広いパーパスに合致させることを望んでいます」とHackerは言います。「そのため、財務コントローラーは、財務部門の従業員の意欲を引き出すことができ、優秀な人材を呼び込めるような財務部門のパーパスとビジョンを策定し、発信するサポートをしなければなりません。また、従業員の価値提案の内容や、どのようなキャリアパスがあるか、イノベーションを起こし、将来役立つスキルを伸ばすどのような機会があるかを説明できるようにしておく必要もあります」

ところが、CFOになることを目指す財務コントローラーが重視しているのは、財務関連のハードスキルです。それはおそらく、そうしたスキルが幹部職への道を開くと考えているからだと思われます。例えば、CFOを目指す財務コントローラーは、自らの役割に会計報告と財務報告が重要だと答える人が多い(86%、他の財務コントローラーは68%)一方、コミュニケーションやテクノロジー、イノベーション、サステナビリティに関する知識などソフトスキルが重要だと回答する人が少ない傾向にありました。そのため、自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)がキャリア目標を達成するには、幅広いスキル基盤の構築を好むマインドセットにシフトしなければなりません。

財務コントローラーは、財務部門の従業員の意欲を引き出すことができ、優秀な人材を呼び込めるような財務部門のパーパスとビジョンを策定し、発信するサポートをしなければなりません。

提案事項

自らの役割に自信のある財務コントローラー(confident controller)になるためには、以下の対応を取ることが重要です。

  1. 先頭に立ってイノベーションを担う能力を構築し、革新的なプロジェクトの投資利益率を明確に実証する方法を把握する。また、人材面と予算面で組織の支援を要請する必要もある。
  2. 優秀な人材の呼び込みとつなぎ留めに注力する。そのためには、チーム育成に費やす時間を増やし、組織に価値をもたらす上で必要なスキルと経験をチームに身に付けさせなければならない。
  3. 自らのチームに実力を発揮させ、幅広い重要業績評価指標に影響を与えて、組織内で財務コントローラー職というブランドを高める。
A man sits outside on a rooftop terrace and uses a laptop
4

第4章

今後の展望

財務コントローラーは、価値を守り、最適化し、創造するという役割を担っています。

「将来の財務コントローラーはトランスフォーメーション全般にわたり、CFOの信頼できるパートナーになるでしょう」と述べるのは、EY Global Assurance Deputy ChairのMike Verbeckです。「会計とコンプライアンスの専門家としての立場に加え、アナリスト、協働者、イノベーター、ストーリーテラー、優れたチームのリーダーとしての立場で価値を創造するはずです」。では、財務コントローラーが現在の立ち位置から、価値を守り、最適化し、そして創造するという、将来あるべき姿になるにはどうすればいいのでしょうか。

財務コントローラーは、以下のような対応を取ることで、自らの役割を変革する機会をつかむことができます。

  1. 不確実性と混乱にうまく対処する
    コンプライアンス状況を監督し、効率化を図りながら、組織に価値をもたらす新たな機会を発掘します。
  2. データの潜在的価値を十分に引き出す
    データを利用して、組織の短期的なパフォーマンスを向上させ、長期的価値創造戦略を推し進めます。財務データを業務データや外部データと組み合わせれば、有益な知見を提供して、経営幹部のより的確な意思決定を支えることができます。
  3. AIの力を活用する
    AIの力を利用して、働き方のスマート化を図ります。AIを活用した財務コントローラーチームの将来のビジョンをまとめたロードマップを作成し、どのデータとプロセス、管理体制が必要か、そして何より、今とまったく違うやり方にするにはどうすればいいかを検討します。
  4. 将来役立つマインドセットとスキルセットをチームに身に付けさせる
    幅広いビジネススキルや対人スキル、技術的スキルを伸ばしながら、アジリティを取り入れることをチームに促します。また、財務とコンプライアンスの専門家であるだけでなく、イノベーターであり、プロブレムソルバー(問題解決者)でもあるという自覚を持つようチームに求めて、意欲をかきたてる必要もあります。

CFOは、以下のような対応を取ることで、企業全体に価値をもたらす潜在能力を財務コントローラーに発揮させることができます。

  1. 財務コントローラーの職務内容と業績評価基準の項目にイノベーションを加える
    トランスフォーメーションプログラムなど革新的なプロジェクトを率いる機会を与え、そのために適切な予算と人員を割き、また適切なメンタリングを行います。
  2. 将来役立つスキルを財務コントローラーに身に付けさせる
    現在の役職で価値を創造し、本人が望むのであればCFOなどより上の地位に昇進する一助となる、将来役立つスキルを伸ばす手助けをします。例えば、税務や財務を主体的に担当するなど、さらなる責任を財務コントローラーに課すことを検討する必要があります。
  3. 財務コントローラーの人材パイプラインを構築する
    人材の採用・維持において、柔軟なアプローチを取って、将来の人材を育てます。採用では学歴より、マインドセットや学習意欲を重視することが重要です。また、財務部門が、従業員の仕事に対する意欲を引き出すという組織のパーパスにいかに貢献しているかを明確に示します。

EY Global DNA of the Financial Controller Survey(PDF)では、組織内での財務コントローラー職の地位向上を目指す財務コントローラーとCFOなど財務部門のリーダーの参考になる実用的な知見を提供します。価値の保護と最適化に伴う従来の責任を果たしながら、新たなビジネス価値を創造することで、財務コントローラーはファイナンストランスフォーメーションを支え、長期的成功へと組織を導くことができます。

2024年度のEY Global DNA of the Financial Controller Report

さらに詳しい調査内容や、ファイナンストランスフォーメーションの推進のタイミングを知るには、レポート全文をご覧ください。


サマリー

将来の財務コントローラーは価値の保護と最適化に伴う従来の責任を果たしながら、価値創造も新たに重視する必要があります。財務コントローラーに求められているのは、コンプライアンスのスペシャリストとデータを管理する担い手であると同時に、技術イノベーターであり、将来を見据えた変革の実現者であることです。

関連記事

CFOが直面する喫緊の課題:大胆な改革を進めるCFOは自身の役割をどう捉え、ベストな成果を生み出そうとしているのか

財務チームに大胆な変革をもたらしパフォーマンスを高めるためにCFOは何に取り組むべきなのか、EYのDNA of the CFO Surveyが明らかにします。

5年間にわたる税務・財務部門の変革が成果を上げている理由

EYの調査によると、過去5年間の新しい税務運用モデルは、企業に価値をもたらしました。今後5年間でその価値はさらに高まるでしょう。

    この記事について