平成29年3月期 有報開示事例分析 第2回:マイナス金利

2017年11月8日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 中込 佑介

Question 

平成29年3月期決算で話題におけるマイナス金利の開示状況は?

Answer 

【調査範囲】

  • 調査日:平成29年8月
  • 調査対象期間:平成29年3月31日
  • 調査対象書類:有価証券報告書の以下の項目
  • 調査対象会社:平成29年4月1日現在の日経株価指数300のうち、以下の条件に該当する186社
    ① 3月31日決算
    ② 平成29年6月30日までに有報を提出
    ③ 日本基準を採用
    ④ 連結財務諸表作成会社

【調査結果】

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入され、平成28年3月31日時点では10年物の長期国債の金利がマイナスとなっていた。一方、平成29年3月31日時点ではプラスに転じているが、残存期間が5年未満の比較的短期の国債については依然としてマイナスとなっているものがある。

このような状況の中、企業会計基準委員会(ASBJ)は、公益財団法人財務会計基準機構内に設けられた基準諮問会議より、マイナス金利に関する種々の会計上の論点への対応を図ることの依頼を受け、平成29年3月29日に実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」を公表した。そこでは、退職給付債務等の計算において、割引率の基礎とする安全性の高い債券の支払見込期間における利回りがマイナスとなる場合、利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれの方法も認められることとされている。

そこで、主に国債利回りを基礎に割引率等を決定する注記項目について、割引率等がマイナスやゼロとなっている事例を調査した。

(図表)で示したとおり、各注記項目でマイナス金利を使用している事例が検出された。マイナス金利を使用していることについて脚注等で追加説明をしている事例は、本稿の分析対象会社からは検出されなかった。

(図表)マイナス金利・ゼロ金利を適用した会社数 (単位:社)

調査項目 使用された値の最小値 増減
平成28年3月期(A) 平成29年3月期(B) (B)-(A)
マイナス 0 0超 不明 マイナス 0 0超 不明 マイナス 0 0超 不明
退職給付 (割引率) 6 19 168 0 3 18 159 1 △3 △1 △9 1
資産除去債務 (割引率) 1 10 31 8 1 14 26 8 0 4 △5
0
ストック・オプション (無リスク利子率) 6 2 60 0 54 0 2
0 48 △2 △58 0

※1 開示された値にマイナスであることを示す記号(「△」や「-」)が付されている場合に、マイナス金利を使用していると判断した。

※2 複数の率や使用した率のレンジが開示されている場合には、開示されている値のなかで最低の率を調査した。

※3 「不明」とは、例えば「耐用年数に応じた国債利回り」等と文章で開示されていて、数値が記載されていない場合等を示している。

なお、ストック・オプションの公正な評価額の算出に使用する無リスク利子率について、平成29年3月期は平成28年3月期と比較して、マイナス金利を使用している会社数が著しく増加している。これは、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入が平成28年1月29日に決定されたことにより、平成28年3月期はその影響が限定的であったのに対して、平成29年3月期は通年でその影響を受けたことによるものと考えられる。

(旬刊経理情報(中央経済社) 平成29年9月20日増大号 No.1490 「平成29年3月期『有報』分析」を一部修正)

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