会計上の見積りの開示に関する会計基準 第1回:概要

2021年9月2日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之

1. 基準の概要

2020年3月31日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「本会計基準」という)が公表されています。

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となります。このため、財務諸表利用者にとって、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りに基づく場合、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目の会計上の見積りの内容に関する情報等は、有用な情報であると考えられます。

国際会計基準(IAS)第1号第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」は、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として、日本基準においても注記情報として開示を求めるべきか検討が行われてきました。本会計基準の開発に当たっての基本的な方針は、IASの定めを参考にしており、その基本的な方針は、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断することとなっています。

したがって、本会計基準は個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りについて包括的に定めた会計基準において原則を示し、開示する具体的な項目及びその注記内容については当該原則に照らして判断することを企業に求めることとしています。

2. 適用時期

本会計基準では、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することとしています。また、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることとしています。

3. 監査上の主要な検討事項との関係

監査基準委員会報告書701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な検討事項の報告」(以下「監基報701」という)第12項では、監査人が監査報告書に監査上の主要な検討事項(KAM)を記載するにあたり、財務諸表に関連する注記事項がある場合には、当該注記事項を参照するとされています。

この点、監査を実施する上で監査人が特に注意を払った事項を決定する際に考慮する事項として、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りが挙げられていることから(監基報701第12項)、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りがKAMの候補となることが考えられます。

本会計基準の適用により、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあるとして開示された項目はKAMで参照される可能性があり、参照される注記内容とKAMの記載内容は整合することになる点、留意が必要です。

4. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)との関係

2019年1月31日に、改正開示府令が公布、施行されています。2018年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における「財務情報及び記述情報の充実」、「建設的な対話の促進に向けた情報の提供」、「情報の信頼性・適時性の確保に向けた取組」に関する提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正が行われています。改正の一つである【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】において、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、見積り・不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響等、会計方針を補足する情報の記載が求められており、本会計基準に従って開示する内容との整合性に留意する必要があります。

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