研究から事業へ――歯を失うことが怖くない社会を実現するために選んだ道とは

研究から事業へ――歯を失うことが怖くない社会を実現するために選んだ道とは


「歯を失うことが怖くない社会を実現する」というテーマを掲げ、歯科再生医療の研究成果を治療として社会に届けることを目指すトレジェムバイオファーマ株式会社の喜早氏。起業家としての原点、事業の強み、そして未来への構想を語っていただきました。



要点

  • 大学での研究と臨床経験から、歯を失う恐怖をなくす社会を目指し、歯を生やす薬の早期実用化を強く願って起業を決意した。
  • 入れ歯やインプラントではなく天然歯の再生を目指す。特に先天性無歯症に対する新たな治療選択肢となる可能性を示している点が特徴である。
  • 10年、20年後に「歯を失うことが怖くない社会」を実現し、健康寿命延伸に寄与することを目標としている。



プロフィール

経歴:
京都市出身。2006年大阪歯科大学卒業、歯科医師免許取得、京都大学医学部附属病院臨床研修歯科医師。2008年京都大学大学院医学研究科博士課程(感覚運動系外科学講座口腔外科学分野)入学、以後髙橋克(元京都大学准教授)の下で歯の再生研究に携わる。2014年京都大学大学院修了、医学博士取得、京都大学医学部附属病院歯科口腔外科医員。16年京都大学医学部附属病院研究員、診療従事医。20年5月トレジェムバイオファーマ株式会社を共同設立し、代表取締役社長に就任、現在に至る。24年4月から専任。25年3月MBA取得(同志社大学大学院ビジネス研究科)。

事業概要:
京都大学 高橋克准教授(現・公益財団法人田附興風会医学研究所北野病院歯科口腔外科主任部長)の研究成果を基に、歯の発生を負に制御するUSAG-1に対する抗体を用いてBMPとWntシグナルを増強させ、本来は退化してしまう歯の芽(歯胚)を成長させることによる歯の再生を目指している。

また先天性無歯症患者に係る欠如歯の回復や、永久歯のあとに第3歯堤(通常では退化消失する歯の原器)を再生させ、さらには高齢者の口腔機能を改善させることにより、健康寿命の延伸を目指す。


EOY 2025 Japan 関西地区 Challenging Spirit部門 オーディエンス賞・特別賞

EOY 2025 Japan 関西地区
Challenging Spirit部門 オーディエンス賞・特別賞
トレジェムバイオファーマ株式会社
代表取締役社長 喜早 ほのか 氏



EY Entrepreneur Of The Year 2025 Japan 関西地区大会を終えて

―― 受賞を振り返っての率直な感想を教えてください。

今までのピッチイベントでは発表のみということが多く、評価される機会が限られていたため身が引き締まる思いでした。当日オーディエンス賞をいただいたことで、外部から「期待されている」ということを自分自身改めて実感し、社内に対してもそのような事実を示すことができ、大変貴重な機会をいただいたと思っています。

―― どのような思いで臨まれたのでしょうか。

今回のプレゼンテーションでは、会社概要ではなく自身の熱量を伝える貴重な場であったため、自分自身の原点を思い返し、伝えようという思いでした。

私たちは何を成し遂げるためにここにいるのか、何をしたくてこうなっているのか、といった自身を見つめ直す良いきっかけをいただきました。


EOY 2025 Japan 関西地区 Challenging Spirit部門 オーディエンス賞・特別賞

「一日でも早く歯の生える薬を届けたい」歯科医療現場と研究がつないだ起業の原点

―― 喜早さんは2020年にトレジェムバイオファーマ株式会社を設立されました。どのような経緯で起業に至ったのでしょうか。

歯が生える薬を一日でも早く届けたいという強い思いで起業を決意しました。
私たちは大学発研究開発型ベンチャーに該当しますが、研究成果の実証が極めて困難な内容を取り扱っていたため、経営にたけた専門家の方とタッグを組むことなく、まずは研究のみを進めてきました。研究を進める中で、私自身が抗体投与により無歯症モデルマウスでの歯の回復を確認する機会を得て、この研究が実際に患者さんに届き得るものであると強く実感しました。この研究がきっかけで、この薬を一日でも早く届けたいという思いが芽生えました。起業するとなった際には悩みましたが、自ら確認した結果への強い思いを原動力に、まずは自分ができるところまでやってみようと決意しました。 

―― 創業時に思い描いたビジョンや思いを教えてください。

今に至るまで「歯を失うことが怖くない社会の実現」というビジョンを掲げています。                                  

大学病院の口腔外科で勤務した後、地域の歯科診療所で2年間勤務し、歯を失っていく患者の皆さんを診療してきました。そのような患者さんから、食事を楽しむことができなくなった、人前で笑うこともおっくうになり気分が落ち込んでしまう等の悩みを聞くことが多く、歯があることの大切さを感じてきました。                              

私たちが開発してきた歯を生やす薬はこれら課題を解決し、世界を一変させる効果があると信じています。その思いは今も変わっていません。
 

「人工歯」ではなく「天然歯」による新たな治療法の確立

―― 喜早さんが考える事業の強みは何でしょうか。

歯の再生を目指す抗体医薬の開発に取り組んでいるということが私たちの事業上の強みです。歯を失った際には、入れ歯やインプラント等の人工物に置き換える治療が一般的になりますが、私たちは自身の組織由来による天然歯を生やすという治療法になります。その中でも特に、先天性無歯症への有効な治療法を初めて確立できた点で自社の強みを発揮できるのではないかと考えています。ただし、このような治療法はあくまで従来の治療法を否定するものではなく、あくまで治療の選択肢が一つ増えたという形で考えていただければと思います。

EOY 2025 Japan 関西地区 Challenging Spirit部門 オーディエンス賞・特別賞

治療実装に向けた動きと新たな研究価値の創出に向けて

――  現在の事業開発状況について教えてください。

2025年9月に第一相試験(Phase 1)最終被験者における主要評価項目の観察を完了し、現在データ解析を進めるとともに、歯の形成に関する長期的な経過については観察を継続しています。今後は第二相試験(Phase 2)へと移ります。

これからはAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が実施する「創薬ベンチャーエコシステム強化支援事業」からの補助金を活用し、日本を中心に開発を進めつつ、米国展開を視野に検討を進めています。早ければ2026年夏よりPhase 2の治験が開始し、計画通りに進めば28年3月に最終結果が出るため、現在はそれらに向けた資金調達に注力しています。

――承認に向けて活動される中で直面している課題はありますか。

事業が計画通りに進む中、組織構築がうまく進んでいない点です。事業が順調に進んでいることに伴い、昨年より正社員の募集も始めましたが、会社としての体制が整備しきれていないので、段階的に整備を進めていきたいと考えています。

―― 今後の事業拡大の展望について教えてください。

まずは先天性無歯症の方々にわれわれの研究成果を届けることを第一と考えています。その次の展望として、歯科医療に関する優れた基礎研究を事業化し社会に届ける橋渡しの役割を担いたいと考えています。

日本の歯科医療に関する基礎研究は非常に優れたものが多く存在する一方で、事業化されているものは極めて少ないです。そこで私たちはアカデミックな側面を支援しつつも、自社のノウハウを生かし、研究成果を事業化させて社会に届けることができるような会社を目指しています。
 

アントレプレナーとして描く将来像

―― 10年、20年後にはどのようなビジョンを描いていますか。

「歯を失うことが怖くない社会の実現」を達成していることです。私自身中学生の時に、顎の病気で奥歯を2本失ったことがありますが、たった2本でも大きく影響が出たことから自分の歯があることの大切さを実感しています。             

まずは先天性無歯症の方々に薬を届けることで歯があることの喜びを感じてもらいたいという思いとともに、われわれもその効果を享受できる可能性があるため、健康寿命を延ばすためにも引き続き研究し、掲げたビジョンの達成を目指したいと考えています。

EOY 2025 Japan 関西地区 Challenging Spirit部門 オーディエンス賞・特別賞


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サマリー 

トレジェムバイオファーマは「歯を失うことが怖くない社会」の実現を掲げ、歯の再生医療を研究から治療へとつなぐ大学発ベンチャーです。世界初の歯の生える薬を開発し、先天性無歯症を皮切りに国内外での治験を通じて、再生歯科医療の社会実装を目指しています。


EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー ジャパン
関西地区

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