(1) 資産の特定
まず、資産の特定について、本適用指針第6項は「資産は、通常は契約に明記されることにより特定される」とされています。しかし、建設業の場合、資機材の発注書等の書面では資産が明確に特定できないことも想定されます。ここで、本適用指針BC10項では、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、IFRS第16号)の定めおよびこれに関する設例を取り入れていない旨が示されていますが※2、その理由として「当該定めを置かなくとも、顧客が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有し、かつ、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有している場合には、資産が契約に明記されていなくとも事実と状況によりリースが含まれることが明らかであるときがあり、このときにはリースの識別に関する適切な判断がなされると考えられるためである」としていることから、黙示的に資産が特定されることもあり得ると考えられます。
よって、発注書等の書面では資産が特定できない場合であったとしても、通常は建設現場に搬入された時に必要とする資機材の種類および数量が明確化されるため、黙示的に特定される場合も多いと考えられます。
ただし、前述により資産が特定されたとしても貸主が資産の実質的な入替権を有する場合※3や資産が稼働能力の一部分であり物理的に別個のものと区分できない場合にはリースの識別の要件を満たしません(本適用指針第6項、第7項)。一方、貸主に実質的な入替権がなく、物理的に区分できる資産であればこの要件を満たすことになります。貸主の実質的な入替権については、「例えば、顧客はサプライヤーが資産を入れ替えることを妨げることができず、かつ、サプライヤーが代替資産を容易に利用可能であるか又は合理的な期間内に調達できる場合等がある」とされています(本適用指針BC11項)。通常、工事で使用中の資機材を貸主が入れ替えることは困難であり、借主である建設会社がその入れ替えを妨げることができない場合はかなり限定的な状況と想定されるため、貸主が実質的な入替権を有すると判断されることは少ないと考えられます。また、資機材はそれぞれ物理的に別個の資産として識別できるものが多く、物理的に区分できない場合も限定的と考えられます。
(2) 特定された資産の使用の支配
特定された資産の使用の支配については、その使用期間全体を通じて①顧客が特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有していること、および②顧客が特定された資産の使用を指図する権利を有していること、の2つの要件を満たすことが必要です(本適用指針第5項)。
1つ目の要件である➀については、借主である建設会社が賃借した資機材を使用して工事を進めることができるため、その使用による経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を借主が有していると考えられます。
次の➁については、本適用指針BC13項は「使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る意思決定を考慮する」と示しています。建設会社は施工計画や工事の進捗(しんちょく)状況に応じて、建設現場において賃借している資機材の使用時期や使用時間等、その使用から得られる経済的利益に影響を与える事項の決定権を有していることが多く、この点を踏まえると、基本的には借主である建設会社がその使用を指図する権利を有していると考えられます。
以上のことから、一般的には建設現場において賃借する資機材はリースに該当することが多いと考えられますが、契約条件やその実態に応じて慎重に判断する必要があります。
また、協力会社へ資機材の賃借を前提とした施工業務を委託する場合には、当該施工業務に含まれる賃借が実態としてリースに該当しないか検討する必要があります。すなわち、形式的には協力会社へ施工業務を委託することになりますが、実態として元請会社が対象となる資機材を賃借し、協力会社にそれを使用した作業を委託したと解される取引の場合には、元請会社においてリースに該当する可能性があります。協力会社への発注は発注書や注文書、賃貸借契約書などさまざまな形式で行われるため、取引実態から適切にリースを識別することに留意が必要です。
2. リース期間
本会計基準において、借手のリース期間とは、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間、および借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間の両方を加えた期間であるとされています(本会計基準第31項)。
建設業においては、第Ⅱ章のとおり、リースの範囲に含まれる対象物件の種類は多岐にわたります。また、それらのリース期間については、明確に取り決められていない場合も多く、月次などで使用の都度利用料を支払い、現場で使用しなくなったら返却して賃借が終了するといった、建設業特有の商慣習により、リース期間の見積りが困難な場合が多いと想定されます。このような状況においてリース期間の見積りは、建設現場において使用される資機材等の種類に応じて行うことが1つの方法として考えられます。
例えば、大型重機など金額的にも単独で重要であるものは個別に見積りを行う一方で、現場事務所やコピー機などの物品、および資機材置き場用土地等は、工事の期間にわたり使用することが想定されるため、工事期間をリース期間とすることが考えられます。
なお、一つ一つはそれほど大きくないさまざまな資機材については、過去の実績等に基づき全体の工事期間のどの程度の期間を賃借するかの見積りを行った結果、リース期間は1年以内として短期リース※4に該当すると判断される場合もあると考えられます。
3. 割引率
リース負債は、リース料総額に対して割引計算を行うことで算定されます。借手がリース負債の現在価値の算定のために用いる割引率は、貸手の計算利子率を知り得る場合、当該利率によることとされています(本適用指針第37項(1))。しかし、必ずしも「リース契約」の形式ではなく、発注書や注文書の形式で取引が行われることが多い建設業においては、貸手の計算利子率を知り得ることは多くないと想定されます。このような場合は、借手の追加借入利子率を用いることになります(本適用指針第37項(2))。
4. 非リース部分
リース料の中には、リースの対象となる資機材を賃借することに対する対価のほかに、当該資機材を利用した施工業務に対する人件費などが含まれる場合があります。このように資機材を賃借することに対する対価以外の施工業務などのサービスを受けることに対する対価はリースを構成しない部分、すなわち非リース部分となります。
本会計基準においては、リースを構成する部分とリースを構成しない部分は原則として分けて会計処理を行うとされています(本会計基準第28項)。しかし、「資機材一式」の形式で発注したり請求書を入手したりする場合には、取引の中に非リース部分が含まれているか明確ではない、または非リース部分が含まれていることを把握できたとしても、当該部分の金額を把握できないこともあり得ると考えられます。このような場合には、対応する資機材を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと、または性質および企業の営業における用途が類似する資機材のグループごとに、リース料総額から非リース部分を除外せず、全額をリース料として取扱い割引計算を行うことでリース負債を算定することができます(本会計基準第29項)。ただし、非リース部分を除外する場合と比較してリース負債の金額が増加することについては留意が必要です。
また、協力会社が資機材を調達し施工業務を行う場合には、当該状況が資機材のリースおよび施工サービスを提供する取引なのか、または、協力会社が施工サービスのみを提供する取引であってリースを含まないサービス提供取引なのかは、第Ⅳ章「1.リースの識別」に照らして慎重に判断する必要があります。
5. 減価償却
建設業においてリースの対象となる資機材は、通常は所有権が借手に移転することは想定されません。この場合、リースに係る使用権資産の減価償却費は、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとして、定額法等により減価償却費を算定します(本会計基準第38項)(<表3>参照)。