脱炭素電源の拡大と系統整備に向けた近年の取組みが電力業に与える影響

情報センサー2026年5月 業種別シリーズ

脱炭素電源の拡大と系統整備に向けた近年の取組みが電力業に与える影響


近年、脱炭素電源への積極的な新規投資を促進する事業環境整備や、系統整備のような大規模かつ長期の投資に必要な資金を安定的に確保していくための取組みがなされています。こうした取組みに関連する制度や仕組みを取り上げ、電力業に与える影響を解説します。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 電力・ユーティリティセクター 公認会計士 山本 真之介

当法人に入社後、主に国内電力会社の監査業務に従事。2020年から3年間の経済産業省出向では、再生可能エネルギー促進や電力系統整備の政策立案などに携わる。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 電力業』(第一法規)がある。

※所属・役職は記事公開時のものです



要点

  • わが国のエネルギー情勢は、経済安全保障上の要請に加え、DXやGXの進展に伴う電力需要増加、カーボンニュートラルなど、考慮すべき要素が増加。
  • 第7次エネルギー基本計画(2025年2月)では、脱炭素電源の拡大と系統整備が重要とされている。
  • 脱炭素電源の投資回収や、系統整備の安定的な資金確保に関連する近年の取組みについて、電力業に与える影響を解説する。

Ⅰ はじめに

東日本大震災後に進められた電力システム改革以降、ウクライナ情勢や中東情勢の緊迫化などわが国を取り巻くエネルギー情勢は大きく変化しています。経済安全保障上の要請に加えて、DXやGXの進展に伴う電力需要増加、カーボンニュートラルの要請など、エネルギー政策についても考慮すべき要素がさらに増加する傾向となっています。これらを踏まえ、2025年2月18日に第7次エネルギー基本計画が閣議決定されました。

第7次エネルギー基本計画では、エネルギー安定供給と脱炭素を両立する観点から、再生可能エネルギー(以下、再エネ)や原子力などのエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することが必要不可欠であるとされています。こうした脱炭素電源への投資回収の予見性を高めるべく、事業者の積極的な新規投資を促進する事業環境整備や、電源開発や系統整備といった大規模かつ長期の投資に必要な資金を安定的に確保していくための政策に取り組むとされています。本稿では、こうした取組みに関連する近年の制度や仕組みを取り上げ、電力業に与える影響を解説します。


Ⅱ 脱炭素電源の投資回収の予見性向上

1. 長期脱炭素電源オークション

長期脱炭素電源オークションは、容量市場取引の一種であり、電力広域的運営推進機関を市場管理者として、2024年1月から開始されました。再エネや原子力発電などの脱炭素電源への新規投資を主な対象としており、落札した事業者は原則20年間、固定費水準の収入を得られます。これにより、投資の長期的な予見性を高め、脱炭素電源への新規投資を促進することで、電力供給の長期的な安定化、電力コストの急激な変動リスクの抑制、2050年カーボンニュートラル実現への貢献を目指すこととされています。また、卸市場・非化石市場といった他の市場などから得た収入から可変費を除いた収益のうち約9割は還付が必要で、会計上は売上の減額処理が想定されます。

2. FIT制度からFIP制度への移行

再エネ特措法に基づき、一般送配電事業者が固定価格で電気を買い取るFIT(Feed in Tariff)制度が2012年より導入され、再エネの普及が進みました。これにより再エネの新規参入企業や供給量が増加しましたが、電力の買い取り費用は利用者負担となるため、再エネ賦課金を含む電気料金の上昇が消費者の負担増加につながっています。さらに、FIT制度では、発電事業者は電気を固定価格で販売できるため、電力の需給バランスを意識する必要があまりなく、特に太陽光発電では、需要が少ない春や秋の日中を中心に出力制御が増えています。こうした課題解決のため、新たなFIP(Feed in Premium)制度が導入されました。

FIP制度では、固定価格ではなく市場価格にプレミアムを加えて収入を保証します。発電事業者は市場価格の変動などを負担することとなるため、蓄電池などを利用して、市場価格が高い時間帯に売電するインセンティブが高まります。また、FIT制度では発電事業者は一般送配電事業者にしか売電できませんが、FIP制度では市場以外にもPPA(電力購入契約)を別途締結することで、相対取引も可能になります。例えば、市場価格より高く購入してくれる需要家がいる場合、PPAを結ぶことで市場価格以上の売電をするとともに、市場価格に基づいたプレミアムも得られるため、採算性をさらに向上させることができます。

3. バーチャル電力購入契約

近年、バーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement、以下、バーチャルPPA)の取引量が増加しています。これは、需要家が発電事業者から再エネなどの電力を長期間にわたり購入する契約ですが、発電事業者がつくった再エネ由来の電力は卸電力市場で販売され、需要家はこれまで通り小売電気事業者から購入する一方で、発電事業者から需要家へと環境価値(非FIT非化石証書)だけが移転される仕組みです。また、標準的な契約では、契約上の固定価格と市場価格との差額を発電事業者と需要家が精算します。

この仕組みでは、発電事業者が卸電力市場の電力価格変動リスクを背負いますが、需要家との差金決済によって収入を契約の固定価格に合わせることができます。そのため、発電事業者は長期にわたって安定した利益が保証され、新たな設備投資が進む利点があります。一方、需要家は一定規模の環境価値を継続的に確保できるメリットがあります。さらに、需要家が小売電気事業者から購入する電力の価格が市場価格に連動している場合でも、発電事業者との間の差金決済によって、調達コストの変動リスクを抑制する効果も期待できます。

図1 バーチャルPPAの取引例

図1 バーチャルPPAの取引例
出所:自然エネルギー財団「コーポレートPPA実践ガイドブック(2023年度版)」(2023年7月)を基にEY作成

なお、2025年11月11日に企業会計基準委員会より実務対応報告第47号「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」が公表されました。これにより、需要家は、発電により生じた非化石価値を受け取る権利について、金額を合理的に見積もることが可能となった時点において費用処理を行い、対価の支払義務に係る負債を計上すること、また、遅くとも国による電力量の認定時点までに金額を合理的に見積もることが求められます。この実務対応報告は、2026年4月1日以降に始まる連結会計年度及び事業年度の期首から適用されています。

4. 廃炉拠出金

国内における原子力発電所の廃止措置が本格化することを踏まえ、円滑かつ着実な廃炉の推進に向けて必要な措置を講じるために、原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律が改正されました。従前は各事業者が内部引当していた廃炉資金について、2024年より拠出金制度に移行し、廃炉に必要な資金を確保する体制へと変更されました。

具体的には、原子炉等規制法に基づく発電用原子炉の廃止費用について、資産除去債務に計上します。資産除去債務相当資産については、資産除去債務に関する会計基準の適用指針第8項を適用し、原子力発電施設解体引当金に関する省令の規定に基づき費用計上していましたが、2024年に電気事業法等が改正され、当該省令が廃止されました。2024年以降、原子力事業者は使用済燃料再処理・廃炉推進機構に「原子力発電における使用済燃料の再処理等の実施及び廃炉の推進に関する法律」第11条第2項に規定する廃炉拠出金を納付し、当該費用を廃炉拠出金費として計上することとなりました。


Ⅲ 系統整備の安定的な資金確保

1. レベニューキャップ制度

託送料金は、従来は総括原価方式に基づき決められていましたが、2020年6月の電気事業法改正により、必要なネットワーク投資を確保しつつ、国民負担を抑えることを目的として、レベニューキャップ制度が導入されました。この制度では、一般送配電事業者が一定期間ごとに事業計画と収入上限を設定し、国の承認を得てその範囲で料金を決めます。効率化によるコスト削減は事業者の利益となり、計画期間終了後は削減分が利用者にも還元されることとなります。

レベニューキャップ制度は、2023年度から2027年度までの5年間を第1規制期間として開始されています。一般送配電事業者は、一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画の策定を行い、この事業計画の実施に必要な費用を見積もって収入上限を算定し、国に提出します。ここで見積費が適正か査定が行われ、国の承認を受けた収入上限を超えない範囲で託送料金を設定することとなります。

また、外部要因や需要の変動によって、設定した収入上限と実際の費用や収入に差異が生じる場合は、その内容に応じて収入上限を調整する仕組みがあります。調整は原則として翌規制期間に行いますが、予見可能性が低い事象などに起因する場合は当該規制期間中にも調整が可能とされています。規制期間終了時または必要に応じて規制期間中でも、各事業者の事業計画を国が確認・評価を行い、効率化によって費用が削減された場合には次の規制期間の収入上限に反映され、系統利用者へ還元されます。

2. 発電側課金

これまで小売事業者が負担していた送配電設備の維持・拡充費用について、発電事業者にも一部負担を求めることで、系統を効率的に利用するとともに、再エネの導入拡大に向けた系統増強を効率的かつ確実に行うための制度として、2024年度から発電側課金が始まりました。

発電側課金導入前は、再エネの導入拡大などによる送配電網の強化費用は、その地域の小売電気事業者を通じて、最終的にはエリア内の需要家が負担していました。導入後は、発電事業者がその一部を負担し、それを売電価格に上乗せすることで、実際にその電気を購入する需要家(エリア外の需要家を含む)が費用を負担することとなりました。なお、電源の需要地近郊や送配電網が十分整備された地域の場合など追加コストが小さい地域の電源については、発電側課金の負担額を減らす措置も設けられています。

図2 発電側課金の導入イメージ

図2 発電側課金の導入イメージ
出典:経済産業省「発電側課金の導入について 中間とりまとめ」(2023年4月、2025年4月改定)

3. 系統整備費用の回収前倒し

資源エネルギー庁の「電力システム改革の検証を踏まえた制度設計ワーキンググループ」において、大規模系統の整備に際し、このうちの一部費用を前倒しで回収することが検討されています。具体的には、新たに特別法上の引当金として「特定系統整備準備引当金(仮)」を設け、その使途を系統整備費用に充てることに限定し、当該引当金に繰り入れる額について各一般送配電事業者が収入の見通しに算入し、系統設備の運用開始前に託送回収を行うことを認めるという仕組みが検討されています。


Ⅳ おわりに

第7次エネルギー基本計画に示されているように、脱炭素電源の拡大と系統整備は電力業全体に関わる重要な課題であり、今後もこれらに関するさまざまな取組みがなされると考えられます。本稿で紹介した事項をはじめとする新たな制度や仕組みが電力業に与える影響については、引き続き留意が必要です。なお、本稿の詳しい内容については『業種別会計シリーズ 電力業 四訂版』(第一法規)において記載されていますので、ぜひご参照ください。




業種別会計シリーズ 電力業 四訂版

A5判/443ページ
出版社:第一法規
価格(税抜):4,600円
発行年月:2026年4月

概要

  • 第7次エネルギー基本計画に対応した業界動向、会計処理等の実務ポイントを詳解
  • 再エネビジネス・サステナビリティ情報開示の動向も解説
  • 電力業特有の会計処理・税務、監査上の重要ポイント、内部統制制度の留意点等を詳解
  • 豊富な設例・図表を収録

※ご希望の方は書店にてお求めいただくか、出版社へ直接お問い合わせください。



サマリー

電気事業者における脱炭素電源の投資回収の予見性向上や、系統整備の安定的な資金確保に関する制度や仕組みについて解説します。



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