EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 製造業セクター 公認会計士 横井 貴徳
品質管理本部会計監理部において、会計処理および開示に関する相談対応、研修・セミナー講師等に従事した経験を有する。現在は製造業を中心とする監査業務に従事している。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
製造業における在庫は、単なる保有資産ではなく、「安定供給」「納期対応」「サプライチェーン維持」といった事業継続を支える重要な経営資源です。
近年は地政学リスク、原材料価格高騰、物流停滞、半導体不足等への対応として、多くの企業が戦略的に在庫を積み増ししてきました。その結果、従来は「安定供給のために必要な在庫」として保有されていたものが、需要減速局面では過剰在庫へ転化するケースが増加しています。
製造業においては、需要・生産・販売計画に照らして必要水準を超えて保有されている在庫を「過剰在庫」とし、一定期間、出庫・使用・販売の動きがない在庫を「停滞在庫」として管理するケースがあります。過剰在庫と停滞在庫は必ずしも明確に切り分けられるものではなく、過剰在庫が長期化し、消化見込みが低下する過程で、停滞在庫として把握される場合があります。このように過剰在庫や停滞在庫が増加すると、保管期間の長期化に伴う品質低下や、商品ライフサイクルの変化に伴う陳腐化のリスクが高まります。
本稿では、過剰在庫が常態化する背景や企業の取組み事例を通じて、過剰在庫の改善に向けた在庫管理上のポイントと、棚卸資産の評価に関する会計上の留意点について解説します。
製造業各社に共通する業界慣行・課題としては、<表1>のようなものがあります。特に、「過剰在庫の常態化」は、実務上、課題として捉えられることが多いテーマです。保管コストの増加や資金効率の低下に加え、需要減速局面では在庫の滞留にもつながり得るため、重要な経営課題の1つと言えます。
表1 主な業界慣行・課題
項目 | 内容 |
過剰在庫の常態化 |
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システム未整備 |
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特定の購入先からの供給リスク |
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過度な値引き慣行 |
|
サプライチェーンの属人化・非効率 |
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その他 |
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過剰在庫が常態化する背景としては、<表2>のような要因が考えられます。
過剰在庫は個別の要因によって発生することもありますが、その常態化は、「適正在庫水準のポリシー未整備」「サプライチェーン・リスクへの対応」「需要予測の困難性」などの要因が相互に関連することで生じる場合があります。
例えば、グループとしての適正在庫水準や在庫保有方針が明確でない状況で、サプライチェーン・リスクに備えて先行発注や大量発注を行うと、その後の需要減速やフォーキャスト変更に応じた在庫調整が難しくなります。その結果、当初は安定供給を目的として保有していた在庫が想定どおりに消化されず、過剰在庫として常態化することがあります。
表2 過剰在庫の常態化の主な背景
項目 | 内容 |
適正在庫水準のポリシー未整備 |
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サプライチェーン・リスクへの対応 |
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需要予測の困難性 |
|
本章では、上述した過剰在庫の常態化を踏まえ、在庫管理を「現場管理」から「経営課題」へ転換した企業の取組み事例について考察します。<図1>は、過剰在庫への対応として、在庫水準の適正化と在庫の質の改善に取り組んだ複数の事例を基に、その共通点を一般化して整理したものです。
図1 過剰在庫の改善に取り組む企業に見られる共通点
ある企業では、コロナ禍における半導体不足やサプライチェーンの混乱への対応として部材確保を優先した結果、在庫が大幅に増加していました。その後、需要減速や生産調整により在庫の消化が進まず、過剰在庫が常態化し、在庫管理基準や用語が事業部門ごとに異なっていたため、経営者層が在庫残高や滞留状況を十分に把握・管理できていない状況でした。
このような課題に対応するため、基準在庫・戦略在庫等の用語を統一し、保有日数をKPIとして設定するとともに、役員会による定例レビューを通じて、経営層が継続的にモニタリングする仕組みを構築しました。また、BIツール等を活用したデータ可視化や製販会議を通じて在庫情報および生産計画を全社的に管理し、同時に滞留在庫に応じた評価損を事業部門の業績管理に反映することで、責任の所在と権限を明確化しました。
これはこうした取組みにより、在庫水準の適正化が進むとともに、顧客との滞留在庫引取り交渉の早期化や廃棄・評価減の促進を通じて、在庫の質の改善につながった事例です。過剰在庫の常態化に対応するためには、単に在庫削減を進めるだけではなく、適正在庫水準、管理指標、責任部署を明確にし、経営層が継続的にモニタリングできる体制を構築することが有用と考えられます。
過剰在庫への対応としては、このような管理体制の構築に加え、収益性の低下を棚卸資産の評価にどのように反映するかという会計上の検討も必要となります。次章では、在庫に関する会計上の考え方について確認します。
通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準は<表3>のとおりです。
過剰在庫や停滞在庫が増加している場合には、当該在庫が今後の販売又は生産活動での使用を通じて回収可能かどうか、慎重に見極める必要があります。特に、当初は安定供給を目的として保有していた在庫であっても、その後の需要環境の変化により消化見込みが低下している場合には、現在の経済的実態を踏まえ、従来の棚卸資産の評価ルールが収益性の低下を適切に反映しているかを検討することが重要です。
表3 通常の販売目的で保有する棚卸資産の評価基準
| 会計処理 |
原則 |
|
営業循環過程から外れた滞留又は処分見込等の棚卸資産 |
(1)帳簿価額を処分見込価額まで切り下げる方法 |
過剰在庫の改善に当たっては、在庫を単に削減対象として捉えるのではなく、安定供給と資本効率のバランスをどのように取るかが問われます。そのためには、在庫管理を「現場任せ」にせず、在庫の保有目的や管理区分を明確化した上で、経営KPIやDXを活用し、全社的に在庫状況を把握・モニタリングする仕組みを構築することが求められます。
過剰在庫・停滞在庫への対応には一定期間を要するものの、在庫の適正化は資本効率や収益性改善にも直結します。需要変動やサプライチェーン環境の変化を踏まえ、在庫管理体制を継続的に見直していくことが有用です。
※表1~3および図1はEY作成
過剰在庫の改善には、保有目的・管理区分・責任体制を明確にし、経営層が関与する在庫管理体制の構築が有効です。会計上は、需要環境の変化を踏まえ、従来の棚卸資産の評価ルールが収益性の低下を適切に反映しているかを検討することが重要です。
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