EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
※本稿は、2025年10月7日に実施された、「欧州サステナビリティ保証実務家に聞く、SSBJ/CSRD実務対応セミナー」の内容を基に記事化したものです。
セミナーはこちらから(要登録、2026年10月6日までオンデマンド配信)ご覧いただけます。
日本においてSSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準に基づく開示の義務化が目前に迫っています。2027年3月期からは時価総額3兆円以上のプライム上場企業を皮切りに段階的な適用が始まり、その翌期からは第三者保証の導入も予定されています。対象企業には、早急な準備体制の構築が求められています。
こうした状況の中、サステナビリティ開示において、いかに短期間で保証まで含めたプロセスを完遂させるかが重要な課題となっています。保証実務に対する関心の高まりとともに、不安の声も聞かれるようになってきました。
サステナビリティ開示における「ガバナンス」と「リスク管理」は、数値データ以上に定性的な説明が中心となります。ここで重要なのは、保証人が評価するのは体制自体が「適切かどうか」ではなく、開示された内容が「実行された事実に基づくものであり、かつ正しく開示されているか」という点です。その上で欧州での保証実務に照らせば、保証を受けるにあたって企業が最も注力すべきは、情報開示の裏付けとなるドキュメンテーション(文書化)の整備です。例えば、取締役会がサステナビリティのリスクをどのように監視・監督しているかを開示する場合、説明責任を果たすため、その実態を証明する証跡が不可欠となります。それが保証手続きにおけるエビデンスにもなります。
例えば、取締役会や監査役会の議事録において、サステナビリティに関する議題がいつ、どのような頻度で審議されたのか、また経営陣からどのような報告がなされ、どのような意思決定が行われたのかという具体的な記録が求められます。単に「適切に監督している」と記述するだけでは不十分であり、社内規程や職務権限規程、戦略策定プロセスにおける審議の足跡など、外部から客観的に検証可能な文書がそろっていることが保証対応上必要です。
特に欧州の先行事例で厳格に検証されたのは、(マテリアリティ評価とも呼ばれる)開示項目の決定プロセスに対する経営層の関与です。どのトピックを重要と判断し、どの項目を非重要として開示対象から外したのかという判断のプロセスにおいて、取締役会が最終的な責任を持って承認したというエビデンス(証憑)は、保証の妥当性を左右する極めて重要な要素となります。
実務上の対応としては、全く新しいガバナンス体制をゼロから構築しようとするのではなく、既存の内部統制報告制度やリスク管理システムに、サステナビリティの観点をいかにシームレスに組み込めるかが鍵となります。日々の業務執行や会議体の中で自然に生成される運用記録を、そのまま保証のためのエビデンスとして活用できる体制を整えることが、過度な事務負担を避けつつ、信頼性の高い開示を実現するための最も効率的なアプローチといえます。
連結ベースでのデータ収集は、多くの日本企業が直面する課題の1つです。特に国内外に多数の拠点を持つ企業にとって、数千に及ぶ全拠点から精緻なGHG(温室効果ガス)排出データを集め、保証に耐え得る品質を確保することは容易ではありません。この膨大な作業に対しては、既存のインフラを活用した現実的なアプローチが有効となります。
具体的には、ゼロから新しいサステナビリティ専用の収集システムを構築するのではなく、財務報告で既に運用されている「レポーティング・パッケージ」の枠組みをGHG排出データの収集にも転用することが推奨されます。欧州の先行企業の多くは、連結財務諸表を作成する際のレポーティング・パッケージの中にGHG排出量の入力項目を追加し、財務データと同じルート、同じ承認プロセスで情報を吸い上げる手法を取っています。使い慣れたツールや組織体制をそのまま利用することで、現場の心理的なハードルを下げ、データの収集漏れを防ぐとともに、財務情報とサステナビリティ情報の整合性を高めることが可能になります。
また、保証の手続きにおいては、全ての拠点の生データを完璧にそろえること以上に、会社として「どのような計算ロジック(算出プロセス)で連結数字を導き出したのか」という点について、企業側に説明責任が問われます。例えば、データが得られない小規模な拠点について、用いた代替データ及び適用した推計ロジックを明確にするとともに、その算出根拠や排出係数の選定理由を明確にしておくことが重要です。第三者が同じ手順を踏めば同じ数字を再現できる状態にしておくことが、効率的な保証対応の鍵となります。
全てのデータポイントに対して一律に過度なリソースを割くのではなく、全体の排出量に対する影響度が大きい拠点や、排出量の多い活動セグメントに焦点を絞り、重点的に検証を行うリスクベースのアプローチを徹底することも重要です。データの完全性を追い求めるあまり報告プロセス全体を停滞させるのではなく、まずは既存の連結財務諸表を作成する仕組みを土台として、段階的にデータの精度を向上させていく姿勢が、最も現実的な選択肢といえます。
「重要なリスク及び機会の識別・評価」プロセスは、企業の戦略そのものを映し出す鏡です。保証実務においては、単に「何を選んだか」という結果だけでなく、その結論に至る「プロセス」が適切かつ網羅的であったかどうかが検証されます。
保証提供者が注目するポイントとして、まず「決定プロセス」の文書化が挙げられます。企業がどのような基準でリスクと機会を識別し、なぜ特定の項目を重要と判断したのか、そのステップが一貫性を持って実行されていることが保証の前提となります。評価の過程で使用した分析データや、社内会議での議論の記録をエビデンスとして残しておくことが不可欠です。
加えて、重要なトピックを意図的に除外していないかという「網羅性」も確認されます。業界特有の開示トピックや競合企業の開示項目と比較し、重要な項目が漏れていないかを客観的に説明できる体制が求められます。「重要なリスク及び機会の識別・評価」が単なる報告書作成のための作業にとどまらず、企業のビジネスモデルや中期経営計画にどのように統合されているかという「コネクティビティ(関連性)」を明確にすることが、報告の質を高めることにつながります。
サステナビリティ開示において、いかに短期間で保証まで含めたプロセスを完遂させるかという「適時性」の確保は極めて重要です。欧州の先行企業は、財務決算と並行して、わずか2〜3カ月という限られた期間の中でサステナビリティ情報の開示と保証を実現しています。この驚異的なスピードを支えているのが、徹底した「早期準備」と、サステナビリティ報告を財務報告プロセスの一部として組み込む設計思想です。
具体的には、財務報告が終わってからサステナビリティ報告の準備を始めるのではなく、両者を1つの統合されたプロセスとして管理することが重要です。欧州で成功している企業では、実際の報告期間末日より前に、開示項目の確定やデータ収集のテストランを完了させています。また同時に「スケルトン報告書」を作成し保証人と共有しています。つまり、期末を迎えた段階では、「あとは最新の数値を流し込むだけ」という状態までプロセスを整えているのです。このように財務決算のタイムラインにサステナビリティデータの収集・検証を同期させることが、適時性を実現するための前提となります。
また、本番の報告期間をスムーズに乗り切るためには、SSBJ基準への準拠表明までの課題を洗い出す「ギャップ評価」の活用が不可欠です。これは単なる社内調査にとどまらず、保証人による事前シミュレーションとしての側面があります。どのデータにエビデンスが不足しているか、どのプロセスにリスクがあるかを事前に特定し、あらかじめ保証人と「どのような管理体制であれば保証が可能か」について具体的な合意形成を図っておくことで、予期せぬ手戻りや議論の停滞を防ぐことが可能になります。
義務化されてから対応を検討し始めたのでは、必要なデータの収集体制構築に十分な時間を割くことは困難です。今ある時間を最大限に活用し、早期に着手することこそが、サステナビリティ情報開示という「継続的プロセスとしての新たな旅路」を成功させ、企業の信頼性を確かなものにする唯一の道といえます。
サステナビリティ情報の開示義務化は、コンプライアンスの対応ではなく、企業の意義や中長期的なパーパスを見直す重要なマイルストーンです。この対応は、サプライチェーン上のリスクと機会を再定義し、経営を次のステージへと引き上げるきっかけとなります。
サステナビリティ開示の義務化は、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、企業の透明性と社会的信頼性を高め、次なる成長を牽引する戦略的ツールとなります。このプロセスを中長期的な価値創造に向けた「継続的プロセスとしての新たな旅路」と位置付け、早期のギャップ分析や保証人との密接な対話を通じた準備を加速させることが、不確実な経営環境下での確固たる競争優位性を築く鍵となります。
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