曲線のウッドデスクを囲んで座るビジネスパーソン(俯瞰アングル、AI生成)

銀行がAIを利活用する8つの方法


投資銀行や商業銀行は、AIの利活用を拡大していくことで先駆者としての優位性を得ることができます。当記事では最新のレポートを基に、成功のための8つの要素について明らかにしていきます。


要点

  • AIは大きな可能性を持っているが、ほとんどの投資銀行や商業銀行では、まだこの技術を事業全体に適用させていない。
  • 当初は、AI投資と言えば社内プロセスの効率化が中心だった。一方、顧客向けアプリケーションへのAIの利活用についてはこれからであり、より大きな可能性を秘めているが、同時に新たなリスクも伴う。
  • 従業員の必要なスキルやクラウドの利用からガバナンスに関すること、ROI(投資利益率)に至るまで、最新のレポートでは銀行がAIの道を加速させる8つの方法を解説している。

AIはあらゆる分野で大きな可能性を秘めていますが、投資銀行、商業銀行等の銀行業務における機会は全くの別物になります。与信、決済、為替など、銀行のサービスは複雑であり、書類も多く、かつ厳格な規制環境下にあり、これらはAIが効率性、創造性、競争優位を生み出すのに非常に適している条件と考えます。

しかし、現時点における利活用を見る限り、一貫性に欠けています。銀行は慎重にAIの利活用を実証実験しており、ほぼ全ての銀行において、AIの実行可能性および利点を検証するための小規模プロジェクトを複数実施しています。しかし、組織全体でAIをスケールさせた例は非常に少ないです。EYがMIT Technology Review Insightsと共に実施したエージェント型AIに関する最近の報告書によると、半数以上(52%)がこの技術を試行した一方で、完全にユースケースを導入したのはわずか16%にとどまっています。彼らがAI利活用を試行した領域において、その結果は期待外れとなりました。

52%
の銀行がエージェント型AIを試行
16%
の銀行が完全にユースケースを導入

上述のレポートに反して、ほとんどの銀行では潜在的に、このような結果ではなく、AI利活用の先駆者となることができます。私たちは2025年6月と7月の2回に分けて、各行のリーダーや、EYの銀行およびテクノロジーを専門とするチームに話を聞き、銀行がAIの機会を生かすための8つの方法を見つけました。


試行から実績へ

法人、商務、中小企業向け銀行がAIを戦略的に活用し、先駆者としての優位性を獲得するためのポイントを探ります。

1. 顧客向けAI利用への転換

現時点でAIは主に銀行内部の効率化に使用されており、それらの価値は比較的小さいと考えます。私たちが話を聞いた全ての銀行の幹部は、この技術は内部効率化ではなく、顧客の利益のために使われることが最も有効だと話しています。例としては、回答を事前に入力してローン申請書の記入時間を半分にすることや、チャットボットを通じてアカウント関連の問い合わせに即時に回答を提供することのほかに、権限を付与の上より洞察に富んでパーソナライズされた回答を生成AIに作成させて、リレーションマネジメントに活用することもできます。

 

これらの潜在的なAI利活用の可能性はあるものの、銀行は顧客向けのAI利用に対しては慎重な姿勢を保っています。なぜなら、AIが誤ったアドバイスを生成することや、多くの銀行においてAIを担当するチームは、クライアントに直接関係のないチームによって主導されているため、責任の所在が不明確だからです。

 

また、AIを利活用した顧客体験を追求するあまり、そもそもの銀行全体の運営モデルや提供するサービスの根本的な見直しを行うという視点を忘れがちにもなります。

 

この点に関し、EY Global Corporate, Commercial and SME Banking ConsultingリーダーのMatt Coxは「今日、銀行はAI能力を構築し、影響力のあるユースケースを展開するために競争している。彼らはAIを使ってビジネスを変革する競争に参入する必要があり、それにより先行者の利益を獲得できる」と述べています。

 

2. ビジネスの拡大に向けて

ほとんどの銀行では、技術周りに関するチームがAIへの投資・導入プロジェクトを主導しています。同時に、これが理想的ではないことも認めています。通常クライアント対応を行わない技術周りに関するチームは、なじみのあるバックオフィス周りの業務にAIを導入する傾向があります。

 

ScotiabankのGlobal Transaction Banking Product部門のグローバル責任者であるMatthew Parker-Jones氏はこの点を強調しています。「私たちは、より良いクライアント体験やコスト削減など、AIを活用して成果を導く力を与えてきました。おそらく進みは遅くなるでしょうが、その影響はより持続的になるでしょう。トップであるCEOから、これはビジネスリーダーに期待されていることだと明確に伝える必要があります。そうでなければ、中央チームが代わりに主導することになるでしょう」

私たちは、より良いクライアント体験やコスト削減など、AIを活用して成果を導く力を与えてきました。

もしくは通常顧客に接するフロント部門が、AI投資を主導すべきです。フロント部門は、AIが顧客体験をどのように改善し、成長を生み出すかを正確に理解できるため、より高いリターンが見込める分野でAI利用が展開されるでしょう。

3. ROIを無視しない

AIのROI評価は複雑で、短期的には予想よりも低いことが多いです。さらに複雑なのは、AI導入にはワークフローやプロセスの変更が伴うため、その直接的な影響を算定するのが難しいことです。このため、一部の銀行はROI計算を完全に無視しています。

歴史を振り返ると、即時の短期的なリターンを期待する際には、慎重であるべきと示唆されます。例えばインターネットバンキング台頭時の初期が当てはまると考えられ、当初の初期段階において算定されたコスト削減結果は時期尚早だったと思われます。実際の経済的利益が表れ始めたのは、それから数年後のことだったからです。AIも同様の軌道をたどり、長期的な利益が短期的な成果をはるかに上回っていくだろうと考えられます。

少なくとも、A/Bテストを使ったROIの大まかな評価は、ユースケースの優先順位付けに役立ちます。また、個々のユースケースと、データ、技術、人的能力への基盤的投資を区別することも役立ちます。これらの基盤投資は、ROIの正当性にかかわらず継続しなければなりません。

「ROIは、たとえ大ざっぱな推定であっても無視してはいけません」と、EY EMEIA Corporate, Commercial and SME BankingリーダーのJames Sankeyは述べています。「目を大きく開いてこの旅に臨むことが助けになります。多くの人はROIがプラスになると予想していますが、全ての技術コストを考慮すると、最初の2年間はマイナスになるかもしれません」

4. 持続可能な成功のためのAIプラットフォームの構築

多くの銀行は、ユースケースをゼロから構築するため、AIのスケールに苦労しています。このアプローチは迅速な一方で、長期的な課題を生むことが多いです。AIのユースケースは、有効なテクノロジーやツール、ケイパビリティの寄せ集めに依存し始めてしまうのです。

より持続可能な戦略は、あらゆるユースケースで再利用可能な基盤的な能力のプラットフォームを構築することです。これらの機能には、AI-OCR、機械学習、検索拡張生成(RAG)構造、ベクターデータベース、プロンプトライブラリが含まれます。長期的には、このプラットフォームアプローチは機能の重複や複数の基盤システムの維持を回避することで、スケーラビリティを高め、コストを削減することにつながります。

現在、銀行は長年使ってきたプラットフォームに組み込まれたAIに大きく依存しています。しかし、これらは分断されており、与信のようなサービスでプロセスを結びつけることは不可能です。

統合されたプラットフォームがなければ、銀行はプロセス統合やクライアントサービスの改善を制限してしまうサイロ化されたAIエージェントのリスクを負います。Matt Coxは「現在、銀行は長年使ってきたプラットフォームに組み込まれたAIに大きく依存しています」と説明します。「しかし、これらは分断されており、与信のようなサービスでプロセスを結びつけることは不可能です。この連携がなければ、与信業務の提供方法を変えたり、顧客サービスの提供を改善したりすることは不可能です。プラットフォームアプローチがこれを可能にしています」

5. データ問題の現代的な修正方法を探る

不完全または質の低いデータは、AIをスケーリングしていく上で最大の障壁になります。この課題に対する標準的なアプローチは、人材を投入することです。しかし、これには限界があり費用もかかるため、多くの銀行がデータ品質向上を支援するAI搭載のツールを使用することを模索しています。AIは良いデータを必要としますが、同時にデータの質を向上させる手助けにもなります。銀行はすでに、最新のツールを用いてデータ検証やコンプライアンスの向上を実感しています。

「私たちは大手銀行がAIを使って、信用審査に使われるデータを理解・解釈し、基礎となる記録の正確性を検証するのを支援しました」と、Ernst & Young LLPのEY Americas Corporate, Commercial and SME AI Banking Lead部門のManaging Directorを務めるAdam Smithは述べています。「これにより約90%に大幅に上昇し、従業員は誤りの可能性が高い特定の問題に集中できるようになりました」

銀行は、新しいAI搭載ツールがデータ課題にどのように対応し、手動での修正の必要性を減らすかを探るべきです。これらのツールはまだ成熟途中かもしれませんが、今日でも役立つ可能性があります。

6. クラウドとオンプレミスのバランスを再評価する

銀行がAIを広く活用し、技術が成熟するにつれて、必要な計算能力は劇的に増加します。ここで、クラウドの容量を使うべきかオンプレミスのどちらを使うべきかという問題が生じます。クラウドが提供するスケーラビリティや柔軟性を好む人もいます。他の企業は、クラウドとオンプレミスのセキュリティ・制御の利点を融合させるハイブリッドアプローチを採用しています。

実際には、大規模なコンピューティングインフラを構築するための初期コストが非常に高く、実現可能なのは大手銀行のみです。

しかし、実現できる銀行にとっては大きなメリットがあります。「私たちはAI搭載の銀行アプリケーションの構築、展開、保守を可能にする独自のGPUインフラを構築しました」と、RBC Commercial BankingのEVP and Chief Operating OfficerであるNiranjan Vivekanandan氏は述べています。「これにより、われわれは強化されたセキュリティ、プライバシー、データ主権が保障されます。これは非常に重要です。なぜなら、信頼は顧客との関係において不可欠な要素だからです」

銀行は、クラウドコストやベンダー依存度に関する仮定を再評価する必要があります。AIワークロードの増加に伴い、クラウドの価格モデルも進化しており、少数のプロバイダーへの依存は戦略的な懸念を生んでいます。

7. 将来のスキル要件を評価する

技術スキル不足は、AI利活用の可能性を台無しにする可能性があります。エージェント型AIから価値を生み出す際の課題について尋ねられた際、銀行の58%が技術スキルや能力の不足を強調しました。スキル不足は、銀行がAIを活用する上での課題の一つとして認識されています。

対処すべき分野は2つあります。まず、全労働力がAI搭載ツールを使いこなす能力と自信を持つスキルアップが必要です。ターゲットを絞った研修コースと変革管理プログラムの組み合わせが不可欠です。次に、AIのスケールアップに伴い、ソフトウェアエンジニア、ユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスの専門家、ビジネスアナリストなど、技術チームに特定の能力を追加しなければなりません。「AIやデータエンジニア、アプリケーション開発者、サイバーセキュリティの専門知識を持つ人材であれ、銀行は5年前の3倍から5倍の人員を必要としています」とEY Americas Financial Services AI Leader.のSameer Guptaは述べています。


銀行の58%が、エージェント型AIから価値を生み出す際の最大の障壁として、技術スキルや能力の不足を強調しました。

こういった人材を引きつけ、維持することも同じくらい重要です。銀行は、特に銀行業がAIにそぐわないと見なしている候補者にアピールするために、AIの野望を外部に発信していく必要があるかもしれません。社内では、多様なプロジェクトや明確なキャリアパスを提供することで、需要の高い人材の定着に役立ちます。

8. リスクへの新たな注意を

特に顧客向けアプリケーションにおけるAIのスケーリングには、リスクとリターンが伴います。AI搭載ツールの出力の質が主な関心事であり、特にクライアントに直接アドバイスを提供する場合はなおさらです。EYのResponsible AI Pulse調査によると、銀行リーダーの3分の2が信頼性の低いAI出力を主要から中程度の懸念と考え、48%が誤ったAI生成情報が真剣に受け止められることを懸念しています。

銀行はまた、独自情報が大規模言語モデル(LLM)の訓練に使われる場合、データガバナンスについても懸念しています。MUFG BankのChief of Staff for Asia PacificのOsamu Abe氏は次のように説明しています。「データ漏えいは、私たちにとって最大のリスクの一つです。私たちは、独自データを他の企業と共有されるLLMに共有したくないかもしれません。何と混ぜられているのか分からないので。私たちは、ビジネスやニーズに合わせたデータセットをキュレーションできることを重視します」

銀行はこれらの脅威をどのように軽減できるのでしょうか? まずは、複雑な言語ベースの生成AI(GenAI)モデルのリスク管理とモデルガバナンスには、より高度なアプローチが必要です。それは新しいスキルを意味します。

次に、AIアプリケーションやその周辺のワークフローを設計する際の透明性に関する懸念に対処する必要があります。例えば、ナレッジマネジメントツールの開発者が、LLMによって作成されたアドバイスは必ずソースの資料を参照することを指定できます。徹底的なリスク評価によって、人間の関与が必要かどうかも判断されるべきです。


私たちは大手銀行がAIを使って、信用審査に使われるデータを理解・解釈し、基礎となる記録の正確性を検証するのを支援しました。これにより約90%に大幅に上昇しました。

また、リスクチームと密接に連携し、生成AIユースケースを拡大するために必要なチェックの順序を定義すべきです。「生成AIはプライバシー、知的財産、ベンダー、データ、意思決定に関するリスクの側面を大幅にもたらすため、安全に技術を活用する方法を見つける必要があります」とINGのChief Analytics OfficerのBahadir Yilmaz氏は述べています。「生成AIのために評価すべきチェックは140件ありますが、そのうち一部は自動化されています」

生成AIはプライバシー、知的財産、ベンダー、データ、意思決定に関するリスクの側面を大幅にもたらすため、安全に技術を活用する方法を見つける必要があります

推奨される行動

AI利活用の機会を実現するためには、銀行はリーダーシップ、技術、データ、人材の全てにおいて明確な行動を取らなければなりません。以下の点に注力すべきです。

1. 所有権と戦略的焦点の再構築
  • ビジネスチームがAIの課題を推進できるよう力を与えつつ、あらかじめ確立された機能を持つ統一AIプラットフォームを通じて一貫性を確保します。
  • バックオフィスの効率化よりもクライアント向けアプリケーションを優先し、新たな成長機会を切り開きましょう。
2. 適切な基盤を築く
  • クラウドストレージとオンプレミス、Build vs Buyモデルの可能性を評価し、ソリューションが成熟するにつれて早期にベンダーと提携しましょう。
  • 特に顧客向けアプリケーションにおいて、生成AIのスケールと複雑さの拡大に対応するため、リスクフレームワークとガバナンスを更新しましょう。
3. データと測定によって価値を引き出す
  • AI搭載ツールを活用してデータギャップを特定し、精度、品質、コンプライアンスを向上させます。
  • ROI測定を確立・強化し、明確な指標を定義し、AIツールを活用して投資が具体的なビジネス価値を生み出すことを確実にします。
4. 人材と協力に投資する
  • データサイエンスや分析からセキュリティに至るまで、AIを効果的にスケールさせるために必要なスキルを特定し、構築しましょう。
  • 継続的なスキルアップと人材の定着、従業員のエンゲージメントを維持し、長期的な能力を確保するプログラムを開発しましょう。

※さらなる洞察や推奨内容については、ページ上部の全文レポート(PDFファイル)をお読みください。



EY Global CCSBリーダーのMatt Coxが、銀行がいかにAIを戦略的に活用し、先行者利益を獲得すべきかについて考察を述べます。

本Sibos TVインタビューでは、投資銀行や商業銀行がAIを駆使することで、業務効率の向上、顧客体験の強化、オペレーティングモデルの再定義をいかに実現できるかについて解説します。


財務責任者の視点

未来を見据えた最新の調査に基づき、財務管理の将来像と、銀行がつかむべき新たな機会を解き明かします。

AI駆動型アプローチによるコマーシャル・バンキングの再定義

AIを活用して業務の高度化と効率化をいかに実現するか、商業銀行業務を刷新するためのEYの支援アプローチをご紹介します。


サマリー

投資銀行や商業銀行では、当初の強い関心にもかかわらず、AIをまだ利活用できていません。EYの新しい研究は、銀行の内部効率化よりも顧客向けサービスのユースケースへのシフト、AI基盤のプラットフォームの構築、データ・ROI・ガバナンスに関する課題への取り組みまで、AI利活用においての先行者利益を獲得するための8つの主要なアクションを特定しています。これらはビジネスリーダーを支援し、チームのスキルを向上する一方で、新たなAIリスクの管理も不可欠です。本当のチャンスは効率化だけではなく、変革することにあります。行動の早い銀行が、次の時代の競争において一歩リードするでしょう。


関連記事

生成AIの力を銀行業務に活用するための5つの優先課題

最適な戦略、人材、テクノロジーを備えた銀行では、生成AIによって業務を変革し、将来のビジネスモデルの再構築に役立てることができます。

PayTechの力を活用するための4つのイネーブラーとは

決済サービスプロバイダーが賢明な成長を実現するには、顧客体験の設計、リスク、テクノロジー、データと分析について考える必要があります。EYの最新記事をご覧ください。


    この記事について

    執筆者