EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
セミナーにおける各登壇者の発言要旨は以下となります。
改正基準は、制度対応としての単なる引当金算出実務の変更だけではなく、経営管理方法の見直し、さらには生成AIの活用の可能性を伴う金融機関の実務変革の転換点となると考えます。株式会社三井住友銀行とEYは、前年に引き続き創造的なパートナーシップの下、情報発信を強化し、金融機関の皆さまのリスク分析、経営管理およびIT対応の高度化を共に支え、より強靱で透明性の高い金融システムの実現=社会的価値の創出を目指します。
EY新日本 パートナー 越智は、ASBJにおける金融資産の減損、すなわち引当・償却に関する基準開発の概要について説明しました。
基準開発は、2021年8月より6つのステップに分けて検討が行われ、2025年10月29日に公開草案が公表されました。一方、分類・測定について見直しを行うかは今後決定する方針とされています。
今回は、16の会計基準等の改正や新設が行われました。主な基準等としては「金融商品に関する会計基準」と「金融商品会計に関する実務指針」が大きく改正され「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」とその補足文書が新設されました。この補足文書が新設されたことも大きなポイントで、適用に際して有用な情報の提供を目的として、5つの論点に即した予想信用損失モデルや開示の事例などを示しています。
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。
また、最後の論点の有価証券の取扱いですが、現行の日本基準では時価のある有価証券は市場価格の下落に基づき減損が認識されます。そのため、例えば国内の長期金利が上昇する中では、長期債を多く保有する保険会社等において、金利リスクが会計上のトピックになり得る一方、改正基準の下では、市場金利によって減損が生じることはなく、日本国債であれば、その信用リスクに対して引当を検討することになります。なお、保険会社の責任準備金対応債券は、公開草案で取り扱われていませんが、私見では、日本公認会計士協会の方で業種別監査委員会報告の改正が検討され、手当てされるのではないかと予想しております。
続いて、EY新日本 シニアマネージャー 田中が、改正基準における予想信用損失モデルの特徴と現行日本基準との比較について説明しました。
主な論点としては、まず、改正基準には、SICRと呼ばれる信用リスクの著しい増大という概念が入ってくることに大きな特徴があり、SICRの該当有無によって、当該債権に対する引当額が大きく変わり得るアプローチになります。これは改正基準では債権等の当初実行時は信用リスクにかかわらずステージ1に分類され、引当期間は12カ月となりますが、後に信用リスクの悪化によってSICRに該当するとステージ2に分類され、引当期間が全期間に拡大するためです。
さらに、ECLには将来予測情報の反映が必須になり、また、貨幣の時間価値の考慮が必要となるという点にも、大きな特徴があります。
EY新日本 アソシエートパートナー 八ツ井は、内部管理に則した3種類のアプローチを紹介し、特にPD/LGDの計測を日頃から行っていない金融機関が貸倒実績率をベースとして改正基準に対応する方法を説明しました。
バーゼル規制対応で内部格付手法の承認を受けている金融機関であれば、PD/LGDを日頃から推計しているため、改正基準対応でもこれらのパラメータを活用できますが、圧倒的多数の金融機関はバーゼル規制では標準的手法採用行であり、PD/LGD等のパラメータを必ずしも計測しているわけではありません。
そのような状況の中では、貸倒実績率を用いた改正基準対応が現実的であろうと考えており、それが表中のプランBおよびプランCとなります。いずれも、貸倒実績率を活用することで改正基準に対応することを目指しています。ただし、現在の一般的な貸倒実績率の計算方法とは異なり、改正基準に対応するための修正が加えられています。
ファシリテーター:EY新日本 シニアマネージャー 田中 謙介
(田中)改正基準の大きな論点としては、償却原価や融資手数料の対応、ECL算定に関してはSICRの導入や将来予測、新しい開示への対応がありますが、日本基準特有の取扱いとして、簡素化された算定方法が示されていることも、大きな特徴と考えます。SMBCの渡辺様はASBJの金融商品専門委員会の委員として、今回の改正の検討にも関与されておりましたが、SICRや予想存続期間の算定で認められている簡素化された算定方法の実務的な論点についてご意見をお願いします。
(渡辺氏)日本基準特有のアプローチとして、簡素化された予想信用損失の算定方法が4つ設けられています。その中で、1つ目の信用リスクの著しい増大に関する判定と、2つ目の債権等の予測存続期間に関する規定に着目しています。
改正基準において引当影響が大きくなるポイントとして、ステージ2の引当期間がライフタイム、つまり残存期間となることが挙げられます。そのため、どのような債権をステージ2に分類するのか、その引当期間をどう算出するかが重要な検討事項です。
また、信用リスクの著しい増大の判定、いわゆるSICRの判定は、簡素化された方法では、必ずしも債権単位で当初実行時からのPDを判定する必要はありません。正常先を優良格付、中間格付、要判定格付の3つに区分した上で、要判定格付について、SICRの判定をする方法が可能です。自社の内部信用格付で、どの区分を要判定格付にするのか、また、優良格付、中間格付の区分をどうするのかなどを整理することが必要になります。
債権等の引当期間については、正常先のうち要判定格付、その他要注意先等については、それぞれの区分で、リスク特性が類似した債権のグループごとに平均残存期間を用いることができるとされています。この引当期間は、いったん決定したら、状況に大きな変化がない限り、継続利用ができます。そのため、導入当初に、どのような種類の債権をグループごとにまとめるかを検討することが必要になります。
(田中)続いて、改正によって、開示も大きく変わることが見込まれており、定量情報や定性情報について、開示情報が現行よりも大幅に拡充されますが、決算実務の観点から、どのような影響が見込まれるかについて、ご意見をお願いいたします。
(渡辺氏)開示情報は、ECLおよび信用リスクエクスポージャーに関する定量情報と、信用リスク管理実務に関する定性情報、さらにECL算定に用いるインプット情報などの注記が必要になります。開示情報は、企業の事業目的に照らして、信用リスクの影響を財務諸表利用者が理解できるようにという観点で、重要性を踏まえて開示することとなっていますので、自社で何を開示していくかを検討することが必要になります。定量情報のうち、作成方法を検討しておいた方がよいものとして、ECLの期首残高から期末残高への調整表があると思います。
この調整表を作成するためには、原則、債権ごとに、期末のステージと引当金額と、前期末のステージと引当の情報をひも付ける必要があります。この集計のためには、引当を測定するシステムに、前期末のデータを保持した形でデータを整備する方が効率的になります。
また、ECLモデルで用いるマクロ経済予測などのインプット情報は、重要な情報であれば開示が必要になります。そのためには、ECLモデルに、将来予測情報を織り込むモデルを作成する際に、どの程度のインプット情報の開示が可能になるかなど、ECL測定の検討過程において、開示内容も見据えて検討していくことが有用になると考えられます。
(田中)ECLは将来予測が必須となることで、会計上の見積りの不確実性が高まり、監査人も従来よりも慎重な対応が求められ、これに対応する銀行にとっても、従来よりもガバナンスや内部統制の重要性が高まると思いますが、銀行としてどのような体制整備が必要とお考えでしょうか?
(渡辺氏)銀行では、貸倒引当金は見積りの要素が高いので、現行でも、監査上の主要な検討事項(KAM)に該当し、監査法人の監査も重点的に見られている領域だと思われます。将来予測については、見積りの要素がより一層高まりますので、ガバナンスの重要性も高まります。例えば、マクロ経済予測シナリオの妥当性を検証する会議体を設けるなど、ECLの引当評価結果を適切な経営レベルで承認するなどの体制整備が必要になると思います。
(田中)呉藤様は、将来予測を含むECLモデルの開発、検証ならびに毎期の運用をご担当されておりますが、特にモデルに関するガバナンス体制についてご意見をお願いいたします。
(呉藤氏)マクロ経済予測の妥当性を承認する会議体について、従来、特に金融機関においては、自己査定や償却引当に関して、主に過去実績等を用いて計算された引当結果を経営へ報告するような体制を敷いている金融機関が多かったかと思われます。
一方、今後ECLを算定するに当たっては、将来予測値は、重要な見積り要素であるとともに計算の“前提”となるパラメータですので、従来の結果の報告に加えて、検証・報告体制の整備も必要と考えます。検証に際してですが、将来予測においては、何らかの経済指標値の見通しを採用するのが一般的だと思いますが、政府等の公表値を使うのか、外部のシンクタンクが作成したものを参考にするのか、社内の業務計画等の前提で見積もったものを使うのかなど、選択肢は複数存在します。いずれの選択肢を取るにしても、その値が客観的に見て妥当かどうか確認する体制を敷いておくことも必要です。
また、完璧に予測することは困難です。見積時点で採用しようとしている予測値、そのデータソースおよび算出過程等が、マーケットおよび行内での認識と整合的か、複数の予測値を使用する場合は、予測値間に齟齬がないかなどを検証する体制を構築することが重要と考えます。経済指標を選択する際も、それが検証可能なのかという観点も必要です。なお、複数シナリオを作成し、各シナリオの発生確率を加重平均する場合は、この発生確率も見積りの要素になります。
ベースラインのシナリオは、市場の見通し値や行内の業務計画など、比較的取得が容易ですが、ダウンサイドシナリオやアップサイドシナリオと、それらが発現する確率に関する客観的な情報の取得は容易ではないと考えます。ダウンサイドシナリオは、ストレステスト等資本の十分性の検証として実施していることはありますが、特にアップサイドシナリオの作成や発生確率まで見積りを行うことは、行内の中でもECL特有の論点になっています。
さらに、コンセンサスの取れた見通し値が公表されていたとしても、直近で言えば米国の政策関税等、将来の不確実性が高い経済環境である場合や、場合によっては決算のタイミングで何らかのイベントが発生し、有効な経済指標がないような状況も、基準改正後、運用していく中では大いに想定されると思っております。
その場合は、マネジメント・オーバーレイ等の活用を検討することになりますが、さらに客観性を担保することが重要視されるため、検討プロセスや承認体制といったガバナンス面の重要性が一層高まると考えます。
ファシリテーター:EY新日本 アソシエートパートナー 八ツ井 博樹
(八ツ井)将来予測については、どのようなオプションを採用するにしても、実施が必要になるテーマになりますので、本日視聴されている方々のご関心も大きいものと推察しております。
早速、呉藤様にご質問ですが、実務的な面で、モデル構築とその利用に関しては、相応のガバナンス上の要求があると思いますが、差し支えない範囲で具体的にはどのような要求があり、その対応負荷はどの程度のものでしょうか?
(呉藤氏)当行では、EYにご支援もいただき、ECLモデルを構築し米国基準決算で使用しております。PDモデルであれば、実際の決算に適用できるまで1年強かかりました。統計分析やロジック構築、事例分析などは、ご支援いただいた効果もありスムーズに進んだと思っております。一方で、内部統制の構築に向けたデータ有無の確認ならびにマニュアル、ツールおよびシステムの整備、モデル承認プロセスには相応の時間を要した印象です。
モデル承認プロセスに関してですが、モデルリスクの管理体制自体は、銀行によって在り方はさまざまかと思いますが、ロジック等の詳細を記載したモデル記述書の作成や継続利用に当たってのモニタリング体制の整備が必要です。特に、不適切な数字が算出されるリスクを防ぐために、モニタリングで予測値と実績を比べ、大きく外れていないことを検証し結果を蓄積するのが非常に重要です。
また、モデルの構築時にはデータ数の制約や、過去の極端な景気変動等から統計的な分析が難しく、モデルの限界・弱点として整理する部分が生じてくると思います。モデルの限界・弱点が顕在化している状況で算出されるパラメータは不適切な可能性が高く、モデルの見直しも検討する必要があるので、どのような限界・弱点があるのかは、適切にモデル文書に残し、そのような状況が足元で顕在化していないかという観点での管理も重要です。
モデルに対するガバナンスからは少し話がそれますが、何らかのモデルを構築しようとする場合は、的中率などモデルの精度だけでなく、モデルの説明性、複雑度合い、モニタリングの方法や業務運営、検証に抵触した場合の対応方針なども慎重に検討する必要があり、導入時の検討事項は相当多いと考えます。
(八ツ井)では、ここから少し将来夢のある話に進みたいと思います。生成AIについてはさまざまなビジネスシーンでの活用が進んでいますが、EYでも積極的に改正基準対応ソリューションへの取り組みを進めております。
事前に数社のITベンダーに生成AIの改正基準対応に向けたアンケートをお願いしたところ、回答としては大きく①将来予測への活用②異常値チェックへの活用③開示に向けた活用に関して非常に前向きな回答をいただきました。
ここから渡辺様にお話を伺いたいのですが、かなりAIの活用が現実的になるイメージについては、主計の立場としてはどうでしょうか?
(渡辺氏)先ほど、将来予測のマクロ経済情報の開示が必要との話をいたしましたが、定量情報だけではなく、その経済見通しとなる定性的な説明が必要となります。その経済見通しは、自分たちの見通しを記載することになるのですが、外部機関や他社のものと比較して検討することも必要になると思います。そのような情報は、今は各種レポートや他社の開示情報を見比べているのですが、AIで取得できるようになれば、効率的になると考えています。
(八ツ井)では、呉藤様、将来予測の観点などを含めてどのようにお考えでしょうか?
(呉藤氏)ニュースやレポート等は基準改正にかかわらず、現状もフォワードルッキング情報として参考にすることも多いので、AIにより迅速かつ今まで着目していなかった所からの情報などを網羅的に収集できるようになれば効率的です。注目するトピックやデータソースは銀行によってさまざまだと思いますので、各社の置かれている状況、ビジネス、ポートフォリオの状況、ECLモデルのロジック等の特徴によりマッチしたものが迅速に得られるようになるとさらにいいように思います。
将来予測もそうですが、基本的にかなりの量の時系列データを扱うケースが多く、それが今後ますます蓄積されることになるので、大量データの分析をサポートしてくれるだけでも、実務的な負担は抑えられますし、ゆくゆくは大量に蓄積されたデータを活用して将来予測モデルを高度化していくことにもつながると思います。
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前年に続き、三井住友銀行と金融商品会計基準の改正対応に関するセミナーを実施しました。
ASBJが公開草案を公表した金融商品会計基準をテーマに、EYの3人による講演のほか、同行の2人を交えたパネルディスカッションでは、改正基準への対応方法やこれに伴う論点などを議論しました。