EUDR(欧州森林破壊防止規則)で日本企業に求められる対応と基盤づくりのステップ

EUDR(欧州森林破壊防止規則)で日本企業に求められる対応と基盤づくりのステップ


欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始時期が12カ月延長されることが2024年11月に決定しました。企業は適用開始までに必要情報の収集およびデューデリジェンス実施体制の整備が求められます。

EUDRの適用対象となる企業の定義と、EUDR対応のための基盤構築のポイントを解説します。


要点

  • EUDRの適用開始が12カ月延期され、大企業には2025年12月30日から、小規模・零細企業には2026年6月30日から適用される。
  • 2024年10月に公表された追加ガイダンスには、デューデリジェンス義務の理解のためシナリオ例等が示されている。
  • 日本企業はデューデリジェンス義務を負わない場合にも、情報照会に備えトレーサビリティの確保などの準備が必要となる。

欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始が12カ月延期されることが2024年11月に決定しました。また、2024年10月には欧州委員会からEUDRに関する追加ガイダンスが公表され、各種ステークホルダーがEUDRに対応するための補足的情報が盛り込まれています。

本記事では、追加ガイダンスに示された情報を基に、適用開始までの期間に企業が実施できる対応について解説します。

1. EUDRに関する最新動向

2023年6月29日に発効された欧州森林破壊防止規則(EUDR)は、発効から18カ月の猶予期間を経て適用開始が予定されていましたが、2024年10月2日に、欧州委員会からEUDR適用開始日までの1年間の段階的導入期間の延長が提案され、2024年11月14日に欧州議会によって可決されました。これにより、EUDRの適用開始が12カ月延期となり、大企業には2025年12月30日に、小規模・零細企業には2026年6月30日に適用が開始されることとなりました。

また、欧州委員会による延期提案と同日に、追加のガイダンスとFAQが公開されており、合法性の要件、製品の適用範囲の説明や、サプライチェーンの整理に関する情報等が盛り込まれました。

2. オペレーター・トレーダーの定義と義務

EUDRは、EU市場で流通する、またはEUから輸出される規制対象商材のサプライチェーンに関わるあらゆる企業に影響が及びます。EUDR適用対象企業の中でも、その企業がオペレーターであるかトレーダーであるか、またSME企業であるか非SME企業*であるかによって、義務や免除措置の内容が異なります。
* 非SME企業:中規模企業の基準であるバランスシート合計が2,000万ユーロを超える、純売上高が4,000万ユーロを超える企業

自社サプライチェーン上におけるEUDRの影響範囲を適切に整理するためには、まずはオペレーター・トレーダーの定義とそれぞれにおける義務を正しく理解する必要があります。

追加ガイダンスにはオペレーターの定義・役割や、シナリオを用いた具体例が示されています。

オペレーター・トレーダーの定義

分類

オペレーター

トレーダー

定義

商業活動の過程で対象製品を最初にEU市場に持ち込む、またはEUから輸出する企業

商業活動の過程で対象製品をEU市場内で提供する、オペレーター以外のサプライチェーン上の全ての企業

※ EU外で設立された法人が対象製品を市場に持ち込む場合、当該対象製品をEU市場において最初に利用可能とするEU内で設立された法人が、「オペレーター」と見なされる(EUDR第7条)

(1) オペレーターの義務(EUDR第4条)

オペレーターはEUDRの規制対象商材をEU市場で流通させる、またはEUから輸出する際には、デューデリジェンスを行い、EUDRに順守していることを証明しなければなりません。

しかし、オペレーターがSME企業である場合には、取り扱う対象商材に関するデューデリジェンスステートメントを過去に既に提出している場合には、新たにデューデリジェンスを行う必要はなく、要請があった際にデューデリジェンスステートメントの参照番号を管轄当局に提出すればよいとされています。

また、オペレーターが非SME企業である場合には、取り扱う対象商材のデューデリジェンスを過去に既に実施していたことを確認した場合には、既に提出されているデューデリジェンスステートメントの参照番号を、新たなデューデリジェンスステートメントに記載することができます。

(2) トレーダーの義務(EUDR第5条)

トレーダーのうちSME企業であるものは、対象商材を取り扱う場合、その商材に関する情報(商材名、登録照合・商標、住所、メールアドレス、その商材の提供者であるオペレーターまたはトレーダーの情報、利用可能な場合はデューデリジェンスステートメントの参照番号)を収集し、保管する必要があります。

一方で、非SME企業であるトレーダーは非SME企業オペレーターとみなされ、オペレーターとしての義務を負います。

ここでのポイントは、オペレーターとなる非SME・SME企業、およびトレーダーとなる非SMEがEUDRによるデューデリジェンス義務(情報収集・リスク評価・リスク軽減)を負うということです。

3. 日本企業に求められる対応

上記を踏まえると、EU域内に設立されている日系企業の子会社が、EU市場に対象商材を持ち込む際のオペレーターとなるケースは多く想定されます。一方、EU域内設立の法人を有さない限り日本で設立された企業がオペレーターとなるケースは少なく、多くの場合EUDRによるデューデリジェンス義務を直接的に負う可能性は少ないと考えられます。しかしながら、EUに流通する対象製品のサプライヤーである場合には、対象製品の生産地等に関する情報照会をEU域内の企業から求められる可能性があるため、企業はトレーサビリティを確保し、EUDR適用開始に向けて備えをしておくことが重要です。

例えば、以下のケースで、日本企業が情報照会を受ける可能性を考えてみましょう。

ANNEX 1,Scenario3
”ANNEX 1,Scenario3”,Guidance Documentを基にEY作成

日本設立企業である卸売業者Aが牛の原皮をEU域内企業の製造業者Bに販売する場合、契約上、その牛の原皮の所有権がEU域外に所在する間(船舶や航空機での輸送の間等)に製造業者Bに移転するのであれば、製造業者BがEUDR対象製品を最初にEU市場に持ち込む「オペレーター」となりますので、日本企業である卸売業者Aにはデューデリジェンス義務は発生しません。

一方で、製造業者Bはオペレーターとしてデューデリジェンスステートメントを提出する必要があるため、牛の原皮に関する情報を卸売業者Aに問い合わせる可能性があります。

このように、デューデリジェンス義務を直接的に負わない日本やその他第三国設立企業も、EU市場に流通する対象製品の製造に関わるサプライヤーである場合には、その製品の生産地等の情報をあらかじめ収集しておくことで、適切な対応ができ、取引先との継続的な契約につながる可能性が考えられます。

4. EUDR対応のための基盤をつくる7つのステップ

EUDR対応のため、以下のステップが必要と考えられます。

1. サプライチェーン上の対象製品や企業のマッピング
まずは自社のサプライチェーン上からEUDR適用対象となるコモデティ・製品やエンティティが存在するかを確認します。

2. サプライヤーからの情報収集およびコンプライアンス違反リスクの有無の分析
自社のサプライヤーに働きかけを行い、対象製品の生産地の情報収集や、森林破壊や法規制抵触リスク等の有無の確認の上、リスク分析を実施します。

3. サプライチェーンの情報に基づき、エンティティ・コモデティごとにDD義務の有無を特定し優先順位整理
サプライヤーから得た情報を基に対応の優先順位の検討を行います。

4. DDプラットフォームの構築・データ連携
デューデリジェンスが適切に実施できるためにはデータの活用も必要となります。必要に応じてデューデリジェンスプラットフォームを構築します。

5. サプライヤー契約の見直し
リスクが特定された場合、サプライヤー契約を見直す必要が発生する場合があります。
一方で、ローカルな小規模サプライヤーとの契約をただ打ち切るのではなく、支援策を講じるなどの措置も必要となります。

6. リスクマネジメント体制の整備・導入
リスク評価のフレームワークを確立し、既存システム等も活用しながらリスク管理体制を整備します。

7. DDプロセス・サプライヤープロセスのモニタリング・改善
コンプライアンス順守のためのモニタリングを継続します。

まとめ

EUDRの適用開始が1年延期となりましたが、トレーサビリティの確保等対応には時間を要します。また、自社がデューディリジェンス義務の対象でない場合にも、取引先から情報照会を受ける可能性もありますので、早めに準備に取り掛かることが必要です。また、リスクマネジメント体制を整えることで、EUDRのみならず、CSDDDやEUBR等その他の規制対応への基盤ともなります。

われわれEYの気候変動・サステナビリティサービスユニット(CCaSS)では、EUDR対応のための基盤づくりとして、サプライチェーンDDの支援やリスク管理体制の整備等、有用な支援・サービスを提供させていただきますので、お気軽にご相談ください。

※2025年3月公開時点の情報です。


関連資料

  • Commission strengthens support for EU Deforestation Regulation implementation and proposes extra 12 months of phasing-in time, responding to calls by global partners
    ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_24_5009(2025年2月25日アクセス)
  • EU deforestation law: Parliament wants to give companies one more year to comply
    www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20241111IPR25340/eu-deforestation-law-parliament-wants-to-give-companies-one-more-year-to-comply(2025年2月25日アクセス)
  • COMMISSION NOTICE – GUIDANCE DOCUMENT for Regulation (EU) 2023/1115 on deforestation-free products
    eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52024XC06789&qid=1731687748447(2025年2月25日アクセス)


【共同執筆者】

細見 優
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS(気候変動・サステナビリティ・サービス)事業部

人材・IT企業にて営業・事業開発職を経験後、世界一周バックパッカー旅を経て2024年にEY新日本有限責任監査法人に入社。持続可能な経済活動に寄与したいという思いからCCaSS事業部にてTNFD、SBTN、サーキュラーエコノミー等のネイチャー・生物多様性分野やCSRD対応支援など幅広い業務に従事。

※所属・役職は記事公開当時のものです。



サマリー 

欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始が2025年12月30日に延期されました。

日本企業は、EUDRのデューデリジェンス義務を直接的に負わないケースも考えられますが、一方で取引企業から情報照会を受ける可能性もあるため、トレーサビリティの確保等、適用開始に向けて準備をする必要があります。


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