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欧州サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD:人権・環境DD指令)の簡素化 変更のポイントと実務への影響


2026年2月26日、EUにおいて、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD:人権・環境DD指令)の簡素化を含むオムニバス改正指令が公布されました。これにより、本指令に基づく義務の履行方法など企業の実務対応の一部に変更が生じます。


要点

  • 2026年2月26日、EUにおいて、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令の簡素化を含むオムニバス改正指令が公布された。
  • 本改正により、デューデリジェンス実施に関する運用上の要件が一部簡素化されている。
  • 適用対象となる企業は、改正後の適用開始時期である2029年7月に向けて対応を進める必要がある。

欧州コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive/CSDDD/CS3D)(以下「本DD指令」という)が、2024年7月25日にEUにおいて発効されたことは、以前の記事で紹介しました。本DD指令の発効後、EUでは、その実施に係る要求事項や適用対象基準、適用開始時期を含む要件の簡素化について議論されてきました。そして、本DD指令の簡素化を含むオムニバス改正指令が、EU官報掲載を経て2026年3月に発効されたことにより、本DD指令の適用対象基準の引き上げや適用開始時期の延期、義務内容の一部簡素化が確定しました。この記事では、今回の改正により変更された本DD指令の内容について、企業実務への影響を交えながら解説します。

改正後の適用対象基準と適用開始時期

今回の改正により、本DD指令の適用対象基準が引き上げられ、適用開始時期が延期されました(表1参照)。EU域内・域外を問わず、本DD指令の直接的な適用対象となる企業数は減少しますが、直接適用されない企業であっても、適用対象企業のバリューチェーンに含まれる場合には、自社の事業活動に関する人権および環境への悪影響の適切な管理や対応を求められる可能性があります。そのため、適用対象となる企業が、新たな適用開始時期を見据えて本DD指令への対応準備をすることはもちろん、適用対象とならない企業であっても、本DD指令の趣旨や実務への影響を理解しておくことが重要です。

表1:改正後の適用対象基準・適用開始時期

 改正後の適用対象基準※2改正後の適用開始時期
EU企業単体基準:従業員数平均5,000 人超、かつ、直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高15億ユーロ超の企業2029年7月26日から
連結基準:連結財務諸表を採用した、または、採用すべきであった直近事業年度に、連結ベースで当該閾値 (いきち)を満たす企業グループの最終親会社
EU域外企業(第三国企業)単体基準:EU域内での年間純売上高15億ユーロ超の企業
連結基準:直近事業年度の前の事業年度において、連結ベースで当該閾値を満たす企業グループの最終親会社

※2 : これら以外に、EU域内でフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループの最終親会社で、EU域内でのロイヤリティが、年間7,500万ユーロ超、かつ、当該企業またはグループの直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高2億7,500万ユーロ超の場合のEU企業および第三国企業にも適用される。

運用面における要件の簡素化

DD実施・運用面の要件に関する変更

以前紹介したとおり、本DD指令は、従業員数や売上高など一定の規模要件を満たす企業を対象として、人権および環境への悪影響に関するデューデリジェンス(Due Diligence/DD)の実施を義務付けるものです。その対象は、EU域内に本社を置く企業(EU企業)に限られず、EU域外に本社を置きつつ、EU域内に子会社を設けるなどして操業する企業(EU域外企業/第三国企業)にも及びます。このDD義務の対象となる人権と環境への悪影響には、企業とその子会社の操業により生じるものに限られず、企業の供給網(Chain of Activities)(以下「バリューチェーン」という)上で生じる悪影響が含まれます。

本DD指令が求めるDD実施に関する基本的な枠組み―すなわち、DD方針とリスク管理体制の構築、悪影響に関するリスクベースでの特定・評価・優先付けと適切な対処、ステークホルダーエンゲージメントの実施、苦情処理メカニズムの運用、有効性のモニタリングおよび情報開示―については、今回の改正によって変更されていません。今回の改正によって変更されたのは、こうした基本的な枠組みではなく、企業によるDD実施に関する運用面における具体的な要件です。罰則や民事責任についても、詳細は変更されていますが、引き続き規定されています。(表2参照)

一部の要件の見直しにより、人権DDの運用面における企業の実務負担は、一定軽減されると見込まれます。具体的には、悪影響の特定・評価の初期段階において、従来求められていたバリューチェーン全体を網羅的に把握する手法(マッピング)が、合理的に入手可能な情報に基づいて対象範囲を絞り込む手法(スコーピング)へと見直されました。これにより、初期スクリーニングにおける企業の負担が緩和されます。また、ステークホルダーエンゲージメントについては、これまで取引関係の停止等の判断やモニタリング指標の策定を含むDDの各段階で実施が求められていましたが、改正により実施が必要となる局面が限定され、実務運用の合理化が図られています。さらに、モニタリングについては、最低限の実施頻度が「5年に1度」とされたほか、悪影響に対する措置がもはや適切または有効でないと合理的に判断される場合に実施することとの規定が追加されました。これにより、状況に応じた、より柔軟なモニタリング運用が可能になると考えられます。

表2:運用面の要件の主な変更点

 改正前の規定概要改正後の規定概要
悪影響の特定・評価
  • 自社のバリューチェーンをマッピングし、負の影響が重大な領域を特定し、特定された領域における自社・子会社・ビジネスパートナーの操業に関して深掘評価を実施する
  • ビジネスパートナーに対する情報提供の要請の制限に言及なし
  • 合理的に入手可能な情報に基づいてバリューチェーンにおけるスコーピング作業を実施し、負の影響が重大な領域を特定し、特定された領域において深掘評価を実施する
  • ビジネスパートナーに対する情報提供の要請に制限あり(当該情報取得は、スコーピング作業で原則行わず、深掘評価では必要な場合にのみ行う等)
悪影響への対処
  • 最終手段として取引関係の停止・終了について言及
  • 取引関係の停止・終了のうち、「終了」が削除
ステークホルダーエンゲージメント
  • エンゲージメントの対象に、影響を受ける個人やコミュニティのみならず、国内の人権機関や環境機関、市民社会組織を含む
  • エンゲージメントは、DDの各ステップ※1で実施する
  • エンゲージメントの対象を、影響を受ける個人やコミュニティ(およびその正当な代表者)に限定
  • エンゲージメントの実施を、各ステップのうち悪影響の特定・評価・優先順位付け、防止・是正行動計画の策定および救済措置の実施の場面に限定
苦情処理メカニズム(企業の義務に関して変更なし)
モニタリング
  • 重大な変更が生じた場合等には遅延なく、しかし最低1年に1回実施する
  • 重大な変更が生じた場合等には遅延なく、しかし最低5年に1回、および悪影響に対する措置が適切または有効でないと合理的に考えられる場合に実施する
罰則
  • 全世界純売上の5%未満であってはならない
  • 全世界純売上の3%が上限
民事責任
  • EUレベルでの統一的な民事責任を規定
  • EU各国の国内法の規定による
情報開示(企業の義務に関して変更なし)

※1:改正前、各ステップには、悪影響を特定・評価・優先順位付けする段階、防止・是正行動計画を策定する段階、取引関係の停止・終了を決定する段階、救済措置を講じる段階、適切な場合にはモニタリングのための定量的・定性的指標を策定する段階が含まれていた。

気候変動緩和対策に関する要求事項の削除

改正前の本DD指令では、企業の事業モデルおよび戦略をパリ協定の1.5℃目標等と整合させることを目的として、気候変動緩和のための移行計画を策定・実施することが求められていました(旧第22条)。具体的には、気候変動に関する期限付き目標や段階的目標、これを達成するための施策等を移行計画に盛り込むことに加え、当該計画を少なくとも12カ月ごとに更新し、その進捗・達成状況を報告することなどが規定されていました。この条文が削除されたことで、企業は、本DD指令の対応としては、気候変動に対応するための詳細で継続的な計画策定や報告義務を負う必要はなくなりました。

日本企業に求められる対応

本DD指令はEU域外の企業にも適用されるため、日本企業にも影響します。DDの体制整備には一定の時間を要することから、早期に検討・対応することが重要です。欧州でバリューチェーンを有する企業においては、以下を実施することが推奨されます。

  • 自社が本DD指令の適用対象となるかを確認する。
  • 自社が採用すべきDDのアプローチについて、国連やOECDの関連ガイダンスや、今後欧州委員会から公表される予定の各種ガイダンスを通じて、理解を深める。
  • 適用対象企業は、自社の現行の取組状況と本DD指令の要求事項との間でギャップ分析を行い、対応計画を策定する。
  • 本DD指令に準拠したDDの実施を確保するための方針を策定し、グループ全体において本DD指令要件への準拠を確保するための管理・監督体制を構築する。
  • 必要に応じて、外部専門家、関連団体、データベース等を活用し、助言や実務的な支援を得ることを検討する。

EYにできる対応

SSBJ基準では「持分割合アプローチ」「経営支配力アプローチ」「財務支配力アプローチ」からの選択適用である一方で、改訂版ESRSでは「財務支配力アプローチ(場合によって、経営支配力アプローチを併用)」が必須です。このため、「財務支配力アプローチ」を採用することが、SSBJ基準およびCSRDの双方の対応が必要となる企業にとって手戻りを防ぐ効率的な方法と考えられます。

しかしながら、改訂版ESRSでは報告境界に関する追加規定を適用しなければならない場合があり、SSBJ基準で採用可能なGHGプロトコル(2004年)の「財務支配力アプローチ」と完全に一致しないケースが生じる可能性がある点には注意が必要です。

したがって、先行してSSBJ基準対応の準備を進める際にも改訂版ESRSの報告境界に関する規定を参照し、自社の温室効果ガス排出の状況に鑑みて、SSBJ基準と改訂版ESRSによる温室効果ガス排出報告の間にどのような差異が生じ得るのかを把握する必要があります。

その上で、差異が生じる場合には、温室効果ガス排出量の報告に向けた情報収集の設計時にその差異を考慮したプロセスを構築することが手戻りのない効率的な開示準備につながります。

【共同執筆者】

石橋美咲
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 シニアコンサルタント


サマリー 

2026年3月、改正されたCSDDDが発効しました。EU域内に製品・サービスを提供している企業は、本指令への適用該当性を確認し、遵守に向けた準備を進めることが推奨されます。



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    この記事について


    EY Japan Assurance Hub

    時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ