EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
欧州コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(Corporate Sustainability Due Diligence Directive/CSDDD/CS3D)(以下「本DD指令」という)が、2024年7月25日にEUにおいて発効されたことは、以前の記事で紹介しました。本DD指令の発効後、EUでは、その実施に係る要求事項や適用対象基準、適用開始時期を含む要件の簡素化について議論されてきました。そして、本DD指令の簡素化を含むオムニバス改正指令が、EU官報掲載を経て2026年3月に発効されたことにより、本DD指令の適用対象基準の引き上げや適用開始時期の延期、義務内容の一部簡素化が確定しました。この記事では、今回の改正により変更された本DD指令の内容について、企業実務への影響を交えながら解説します。
表1:改正後の適用対象基準・適用開始時期
| 改正後の適用対象基準※2 | 改正後の適用開始時期 | |
| EU企業 | 単体基準:従業員数平均5,000 人超、かつ、直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高15億ユーロ超の企業 | 2029年7月26日から |
| 連結基準:連結財務諸表を採用した、または、採用すべきであった直近事業年度に、連結ベースで当該閾値 (いきち)を満たす企業グループの最終親会社 | ||
| EU域外企業(第三国企業) | 単体基準:EU域内での年間純売上高15億ユーロ超の企業 | |
| 連結基準:直近事業年度の前の事業年度において、連結ベースで当該閾値を満たす企業グループの最終親会社 |
※2 : これら以外に、EU域内でフランチャイズまたはライセンス契約を締結している企業またはグループの最終親会社で、EU域内でのロイヤリティが、年間7,500万ユーロ超、かつ、当該企業またはグループの直近事業年度におけるグローバルでの年間純売上高2億7,500万ユーロ超の場合のEU企業および第三国企業にも適用される。
以前紹介したとおり、本DD指令は、従業員数や売上高など一定の規模要件を満たす企業を対象として、人権および環境への悪影響に関するデューデリジェンス(Due Diligence/DD)の実施を義務付けるものです。その対象は、EU域内に本社を置く企業(EU企業)に限られず、EU域外に本社を置きつつ、EU域内に子会社を設けるなどして操業する企業(EU域外企業/第三国企業)にも及びます。このDD義務の対象となる人権と環境への悪影響には、企業とその子会社の操業により生じるものに限られず、企業の供給網(Chain of Activities)(以下「バリューチェーン」という)上で生じる悪影響が含まれます。
本DD指令が求めるDD実施に関する基本的な枠組み―すなわち、DD方針とリスク管理体制の構築、悪影響に関するリスクベースでの特定・評価・優先付けと適切な対処、ステークホルダーエンゲージメントの実施、苦情処理メカニズムの運用、有効性のモニタリングおよび情報開示―については、今回の改正によって変更されていません。今回の改正によって変更されたのは、こうした基本的な枠組みではなく、企業によるDD実施に関する運用面における具体的な要件です。罰則や民事責任についても、詳細は変更されていますが、引き続き規定されています。(表2参照)
一部の要件の見直しにより、人権DDの運用面における企業の実務負担は、一定軽減されると見込まれます。具体的には、悪影響の特定・評価の初期段階において、従来求められていたバリューチェーン全体を網羅的に把握する手法(マッピング)が、合理的に入手可能な情報に基づいて対象範囲を絞り込む手法(スコーピング)へと見直されました。これにより、初期スクリーニングにおける企業の負担が緩和されます。また、ステークホルダーエンゲージメントについては、これまで取引関係の停止等の判断やモニタリング指標の策定を含むDDの各段階で実施が求められていましたが、改正により実施が必要となる局面が限定され、実務運用の合理化が図られています。さらに、モニタリングについては、最低限の実施頻度が「5年に1度」とされたほか、悪影響に対する措置がもはや適切または有効でないと合理的に判断される場合に実施することとの規定が追加されました。これにより、状況に応じた、より柔軟なモニタリング運用が可能になると考えられます。
表2:運用面の要件の主な変更点
| 改正前の規定概要 | 改正後の規定概要 | |
| 悪影響の特定・評価 |
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| 悪影響への対処 |
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| ステークホルダーエンゲージメント |
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| 苦情処理メカニズム | (企業の義務に関して変更なし) | |
| モニタリング |
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| 罰則 |
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| 民事責任 |
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| 情報開示 | (企業の義務に関して変更なし) | |
※1:改正前、各ステップには、悪影響を特定・評価・優先順位付けする段階、防止・是正行動計画を策定する段階、取引関係の停止・終了を決定する段階、救済措置を講じる段階、適切な場合にはモニタリングのための定量的・定性的指標を策定する段階が含まれていた。
改正前の本DD指令では、企業の事業モデルおよび戦略をパリ協定の1.5℃目標等と整合させることを目的として、気候変動緩和のための移行計画を策定・実施することが求められていました(旧第22条)。具体的には、気候変動に関する期限付き目標や段階的目標、これを達成するための施策等を移行計画に盛り込むことに加え、当該計画を少なくとも12カ月ごとに更新し、その進捗・達成状況を報告することなどが規定されていました。この条文が削除されたことで、企業は、本DD指令の対応としては、気候変動に対応するための詳細で継続的な計画策定や報告義務を負う必要はなくなりました。
本DD指令はEU域外の企業にも適用されるため、日本企業にも影響します。DDの体制整備には一定の時間を要することから、早期に検討・対応することが重要です。欧州でバリューチェーンを有する企業においては、以下を実施することが推奨されます。
SSBJ基準では「持分割合アプローチ」「経営支配力アプローチ」「財務支配力アプローチ」からの選択適用である一方で、改訂版ESRSでは「財務支配力アプローチ(場合によって、経営支配力アプローチを併用)」が必須です。このため、「財務支配力アプローチ」を採用することが、SSBJ基準およびCSRDの双方の対応が必要となる企業にとって手戻りを防ぐ効率的な方法と考えられます。
しかしながら、改訂版ESRSでは報告境界に関する追加規定を適用しなければならない場合があり、SSBJ基準で採用可能なGHGプロトコル(2004年)の「財務支配力アプローチ」と完全に一致しないケースが生じる可能性がある点には注意が必要です。
したがって、先行してSSBJ基準対応の準備を進める際にも改訂版ESRSの報告境界に関する規定を参照し、自社の温室効果ガス排出の状況に鑑みて、SSBJ基準と改訂版ESRSによる温室効果ガス排出報告の間にどのような差異が生じ得るのかを把握する必要があります。
その上で、差異が生じる場合には、温室効果ガス排出量の報告に向けた情報収集の設計時にその差異を考慮したプロセスを構築することが手戻りのない効率的な開示準備につながります。
【共同執筆者】
石橋美咲
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 シニアコンサルタント
2026年3月、改正されたCSDDDが発効しました。EU域内に製品・サービスを提供している企業は、本指令への適用該当性を確認し、遵守に向けた準備を進めることが推奨されます。
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2024年7月25日、EUにおいて、コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD:人権・環境DD指令)が発効しました。本指令は欧州域内の企業だけではなく、日本企業にも影響があるため、本指令で規定されている義務履行のための取り組みを進める必要があります。
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