財務パフォーマンスを最大化するサプライチェーン ──リスク時代のサプライチェーンパフォーマンスの新たな形

財務パフォーマンスを最大化するサプライチェーン
──リスク時代のサプライチェーンパフォーマンスの新たな形


地政学的リスクをはじめとする種々の危機要因を背景に、サプライチェーンの在り方を根本から見直す動きが加速しています。これまでの「リスク対応型」の打ち手に終始せず、いかにして「財務パフォーマンスの最大化」を並行して実現するかが、その鍵を握ります。



要点

  • さまざまなリスクが絡み合い、複雑性・不確実性が高まる現在は、財務パフォーマンスの視点から企業経営とサプライチェーンを見直す好機である。
  • サプライチェーンプランニングでは、製品ポートフォリオ管理と製品ライフサイクルを掛け合わせた戦略が重要。調達面では価格転嫁メカニズムの仕組み化などを通じて財務インパクト最大化を図る。
  • サプライチェーンプラットフォームやロジスティクスの変革においてもデータ/テクノロジーの活用は不可避。インテリジェントな仕組みの構築が急務となっている。


リスク時代の企業経営とサプライチェーン活動


サプライチェーン活動における「財務パフォーマンス」の重要性


「サプライチェーンを取り巻く環境は今、激動の様相を呈しています。地政学的リスクの高まり、エネルギー・資材費の高騰、それに伴う貿易戦略の見直し、種々のルール形成やDX進展などが背景にあるのは周知のとおりです。その中でサプライチェーンの在り方を根本から問い直す必要に迫られているわけですが、これまでは多くの企業が『リスク対応型』の打ち手に力を投じるあまり、膨れ上がるコストに経営を圧迫されてきたことも確かです。われわれEYのサプライチェーン&オペレーションズはそこに課題を認め、リスク対応の手を緩めることなく、かつ同時に『財務パフォーマンスの最大化』に目を向けたサプライチェーン変革を推し進めるべきだと考えています。本日は、戦略・計画・調達・製造・物流にわたるサプライチェーンの各領域においてそれをどう実現するのか、最新事情や実践事例を通じてご紹介します」

高見 幸宏 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズリーダー パートナー

セミナーの冒頭に登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティングの高見幸宏はそう趣旨を述べて、リスク時代のサプライチェーン活動に求められる新たな視点を指摘しました。その論拠として高見はまず、企業のグローバルSCにまつわるリスク環境が、かつてのQCD(品質・コスト・納期)を中心としたものから、BCP(事業継続)、地政学的リスク、サステナビリティ、コンプライアンスといった多様な側面を持つ状況へと急激に変化してきた経緯に言及。その中で、サプライチェーンの継続性確保のために企業が取らざるを得ない数々のリスク対策は、例えば、計画段階における在庫数の見直しや部材の先行手配に伴う在庫増をはじめとして、さまざまな面で事業コストを押し上げる要因ともなっています。

「同様に、調達段階ではサプライヤーの複線化や調達先の見直しによってコストが増大。製造段階でも拠点の移転や国内回帰が原価を高め、在庫の再配置などロジスティクスの改革が物流・販売の費用を押し上げています。それらはいずれも必要不可欠の対策ですが、そうであればこそ並行して『財務パフォーマンス最大化』の施策を打つ必要があるわけです」

では、そのポイントとは。高見は、「計画から物流・販売までの多岐にわたるSCの各領域において、従来の業務の仕組みを見直すべき」とした上で、後続するセミナー各演目での詳述へと話をつなぎました。
 

VUCA時代に企業パフォーマンスを高める方法

続いて基調講演に立った黒岩健一郎氏(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)からは、「VUCA時代の企業パフォーマンス」と題してお話がありました。マーケティングを専門とする黒岩教授は意識レベルを一段引き上げ、企業経営そのものの観点から財務パフォーマンス最大化のポイントを整理しました。それによると、「マーケット・オリエンテーション」の考え方に基づく従来型の経営の在り方からの脱却に、変革への糸口があるようです。

黒岩 健一郎 氏(青山学院大学大学院国際マネジメント研究科教授)

「マーケット・オリエンテーションとは、顧客ニーズに関する市場の変化や競合の動きといった多様な情報を敏感に捉え、そこから組織にとって価値ある知識を生成し、部門間で共有することで組織内に普及、さらに全組織的反応として行動に結びつけるという、一連のプロセスを表す考え方です。旧来、これを実践する企業の業績は好調を維持するとされてきたのですが、VUCAの顕在化に伴い、2020年頃から企業の実態調査に基づく新しい考え方が言われるようになりました。エンドユーザー、アジリティ、そしてエコシステムという3つの要因が、優秀企業の形成に影響を与えるとする説です」

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エンドユーザー、すなわち製品やサービスを最終的に利用する顧客と企業が、アプリなど何らかのインターフェイスを介して直接つながること、またそのことを通じて、顧客ニーズをいち早く感知し、ユーザーが持つ知見を製品開発などに取り入れることが、企業価値を高める要因の1つ目です。翻ってこれをサプライチェーンの視点で見れば、需要の予測精度が高まり在庫が減る、サプライチェーンの変容に迅速に対応できるなどの利点が考えられると、黒岩教授は言います。

アジリティは、試行錯誤による学習であり、変化の兆しを素早く察知し、俊敏に意思決定を行い、速やかに行動することを意味します。そのために重要なポイントは、組織構造や業務プロセスをシンプルにすること、経営陣や会議体の意思決定を迅速化することの2点。これにより、変化への対応スピードが上がり、従って顧客満足度も上昇。サプライチェーンの側面では、リスクの早期発見や、対応策の確実性・効率性の向上が期待されます。

3つ目のエコシステムは、多様な事業体の連携による互恵的ネットワーク・システムを指します。黒岩教授によれば、できるだけ業種や領域の異なる「距離の遠い組織」と手を組むことが、より迅速かつ独創的な価値創造を生み出すとのこと。また、そうした異種混合のシステムをうまく機能させるため、ハブとなって関係を結んだり導いたりする存在も重要です。SCに関しては、API連携によるリアルタイムのやり取りなどでコスト削減効果が導出されます。

黒岩教授は、これらの要素を合わせ持つ企業の時価総額が世界的に上向きである状況を踏まえ、顧客や企業との接点を持つことの重要性を指摘して壇を降りました。

 

計画・調達フェーズにおける変革の流れ

事業継続性を見据えたサプライチェーンプランニングの考え方

次に登壇したEYストラテジー・アンド・コンサルティングの平井健志による講演は、製品ポートフォリオ管理(Product Portfolio Management 、以下PPM)と製品ライフサイクル管理(Product Lifecycle Management 、以下PLM)を掛け合わせた視点からのサプライチェーンプランニングの構築がテーマです。端緒として平井はまず、多くの製造業におけるリスク対応とそれが企業収益にもたらしてきた影響について、クライアントから実際に届いた声を交えて例証しました。

平井 健志 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

すなわち、「有事への対応」を主眼とするサプライチェーンプランニングは、「複線化・可視化・自動化」をキーワードとする変革が急務であること。またその一環で、リスクの影響範囲を瞬時に把握し、サプライヤーや顧客と連携した対応を実現するプラットフォームの重要性が高まったこと。しかし、一方では、原材料・中間財・製品にわたる在庫の拡大、調達複線化による製品情報管理の複雑化、リスク重視への偏向による製品ポートフォリオのバランス喪失などが顕在化。リスク対応によって利益が棄損される事態が浮き彫りとなっています。

「そうした中でサプライチェーンプランニングの潮流は、需給調整による在庫最適化を目的としたPSI(生産・販売・在庫)をはじめ、それを踏まえて利益の最適化を図るS&OP(販売・操業計画)、さらにはそれらを一歩進めたIBP(統合事業計画)の展開へと向かっています。つまり、需給調整・製販調整のみならず、そこに財務や投資などの視点も加味した最適化・統合化の要素が重視されつつある中で、さらに加えて多面的な製品ポートフォリオ管理や製品ライフサイクル収益の最大化と、それらを可能にする社内外連携体制を意識した調和型のプランニングが求められているのが実情です」

この「PPM×PLM×SC Planning(PSI・S&OP・IBP)」の図式こそが、「財務パフォーマンスを最大化するサプライチェーンプランニング」の要諦であると平井は言います。しかしながら、これを全社レベルで一挙に実現するのは至難の業です。全社戦略や事業計画を個々の製品レベルに落とし込むことを念頭に、自社の置かれた状況に即してポイントを絞り、PPMやPLMの計画立案と施策実行を段階的に進めていく必要があります。

平井はさらにこの図式を実現させた企業事例を紹介しつつ、PSIやS&OPから発生する情報と製品ごとのライフサイクル予測を土台として、複数のシナリオによって最適な製品ポートフォリオをシミュレートすることの有用性を指摘。これを中長期計画の実現に結びつけていくことが肝要だと述べました。その上で、①利益やリスクに目を向けた多面的な製品ポートフォリオ管理の実行や、②製品ポートフォリオ管理と製品ライフサイクルシミュレーションの組み合わせが重要であり、それらの実現に向け、③製品開発段階から量産化やアフターサービスを見据えた在庫管理・業務効率化の視点を持つこと、④製品ライフサイクルに応じたサプライチェーンプランニングルールによって収益視点に立った在庫最適化を果たすことを、強く推奨しました。
 

財務パフォーマンスに貢献する調達の役割

次に大橋素智が登壇し、財務パフォーマンス向上における調達部門の役割へと話題を展開しました。。製造業の調達を取り巻く環境変化として、「供給制約と原材料価格高騰」「部材不足の影響」「運転資金の負担増大」を挙げ、これらの下で「単価交渉中心型」から「レジリエンス強化と財務貢献の最大化」へと、企業の調達戦略が変わりつつある現況を概観。また、物価高による倒産が過去最高を記録(2025年11月、東京商工リサーチ調べ)する中で企業行動にも変化が現れているとして、「価格転嫁の重要性」「調達先の多元化」「事業継続計画(BCP)強化」「調達の経営中核化」などの事象を挙げ、いずれも財務インパクトにつながる重要なものであると位置付けました。

大橋 素智 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

「調達はこれまで、コスト削減によってのみ利益向上に貢献する部門であると認識されてきました。しかし、今は違います。売上、利益率、キャッシュ、資本効率といったさまざまな側面で財務にインパクトを与える存在へと変容を遂げています」

では、調達部門には具体的にどのような取り組みが望まれるのか。大橋は次の3つのポイントを挙げました。

1)価格交渉力の質的転換(感覚的からより論理的へ)

価格交渉だけで調達の価値を最大化することはできない。かつてのような経験値による属人的な交渉から脱し、サプライヤーとの価値共創の関係づくりを基礎に、数値に裏打ちされた原価分析や、それを可能にするテクノロジーの活用が不可欠。また、机上の分析に終わらせず、営業、開発、品質、物流等の各部門と連携し、数値と現場情報の両面をカバーする体制でPDCAを回すことが重要。

2)価格転嫁メカニズムの仕組み化

コスト上昇分を自社内で吸収するには限界があり、収益安定化を図るための価格転嫁は最も重要かつ基本的な対策。定期的な価格見直しも必要だが、対応が後手に回りがち。コスト変動を自動的に価格に反映するシステムを導入すれば、交渉の労力軽減と利益率予測が可能になる。透明性の高い価格改定ルールを設けて互いに共有することで、納得感のある取引を実現できる。

3)KPI設計とパフォーマンスマネジメント

経営の中核的役割を担う部門として調達を位置付ける以上、そのパフォーマンスを正しく評価するための仕組みも必要。DIO(棚卸資産回転日数)やDPO(仕入債務回転日数)などの財務KPI、OTD(納期遵守率)などのオペレーショナルKPIを連鎖的に設計し、多角的な指標を用いて調達活動の実態を把握することで、経営に与える影響を可視化する。

最後に大橋は、ゴールへの綿密なプランニングと、それを実行するための短期・中期・長期に分けたロードマップの重要性を強調。「原材料高騰という未曽有の危機を経営変革への好機と捉え、変化への対応力を磨いてほしい」とメッセージを投げました。

 

プラットフォームとロジスティクスの近未来

サプライチェーン・データプラットフォーム活用戦略

続いてのテーマは「サプライチェーンデータプラットフォームの活用」です。サプライチェーンオペレーションモデル変革や、サプライチェーンプラットフォーム戦略などのプロジェクトを一気通貫で支援する立場から、花岡直毅がコンサルティング事例に基づく最新トレンドを紹介しました。花岡は、サプライチェーンを取り巻く昨今の不確実な外部環境変化に触れた上で、「それらの変化に即座に対応してサプライチェーンオペレーションを変革するには、『ヒトの判断』だけではもはや限界にある」と指摘。次のように述べて、サプライチェーンオペレーションの将来像を示しました。

花岡 直毅 EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

「ここ10年以上にわたり、サプライチェーンオペレーションに関するコンサルティングサービスの主流を占めてきたのは、競争優位の源泉をサプライチェーンの仕組みの中にどう埋め込むか、リスクが顕在化した際にどう対応し、いかにリカバリーを早めるか、あるいは意思決定の連続性をどう高めるかといったことでした。しかし、すでに現在、サプライチェーンオペレーションはコストや在庫、収益、納期といった単一の課題ごとの施策ではなく、複数の観点から総合的に見た全体最適化を追求すべき状況となっています。そこには顧客対応におけるプッシュ型からプル型への転換や、先端テクノロジーの活用による可視性の向上、科学的要素に基づく意思決定を可能にする組織づくり、などといった要素も含まれます」

ヒトの判断に依存しない仕組みをつくるには、データやAI/生成AIを活用した「インテリジェントなオペレーションへの変革」が不可欠です。徹底した現状分析に基づくデジタライズをはじめ、AI/生成AIへの判断移譲に伴う組織構造の変革や、小さな成果を積み上げるアジャイル方式の採用など、中長期的なロードマップに沿った取り組みが求められています。その結果、計画段階からアフターサービスまで、SCの主要な機能の全体において高度なテクノロジーと分析を用いることで、可視性が高まり、財務パフォーマンス最大化に向けた意思決定が可能になると、花岡は説明します。実際、EYの顧客調査によれば、このようなオペレーションの体現により、SCプランニングでは需要予測精度が20〜25%上昇し、調達では間接コストが10〜15%削減するといった成功事例が確認できました。

「2030年までの今後5年間で、サプライチェーンデータプラットフォーム上でのオペレーションに向けた取り組みが加速することは確実とみられます。その過程において、欧州を中心に進展するサーキュラーエコノミーに伴うDPP(デジタル製品パスポート)規制をはじめ、さまざまなルールの遵守にデータが関係することも見落とせないポイントです」

「そこから必然的に生まれる新しいビジネスモデルに対応するためにも、早期の変革が求められます」と述べて、花岡は話を終えました。
 

経営・事業継続性に貢献するロジスティクス

セミナー最後の演題は、志田光洋による「経営・事業継続性に貢献する今後のロジスティクスの在り方」です。物流危機ともいわれる社会状況の中、国の重点課題にも位置付けられる物流ロジスティクスの強化について、「かつての当たり前が通用しない難しさ」の確認から志田の話は始まりました。

志田 光洋 EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー

「増大する物流需要に対し、労働力などの潤沢なリソースを背景に十分な供給が可能であった時代においては、物流ネットワークの見直しや配送計画の最適化などの施策により対処することができました。しかし、リソース不足が顕在化し、運賃が上昇して法規制も強まり、さらに環境への配慮が社会価値にもつながる現在では、変革へのあらゆる側面で光の当て方を変えざるを得ません。単にQCDを追求するだけでなく、サステナビリティやアジリティ、レジリエンスの視点を踏まえた施策を通じて、いかに企業価値を高めていくかが、物流改革の大きな流れとなっています」

その中でも注目すべき動きは、改正物流効率化法の施行により、2026年4月から一定規模を超える荷主企業に対して「物流統括管理者(CLO)」の設置義務が発効することです。これに対して多くの企業の関心は、「物流全体の管理・統括・効率化」を責務と捉える「守りの物流」に向けられる傾向にあるようです。しかし、より重要なのは「攻めの物流」であり、サプライチェーン全体の調整役となり、社内横断によるSCMの全体最適化はもとより、業界全体に行動変容を起こす連携や、ESG観点からのロジスティクスの可視化といった変革を先導するCLOの在り方です。その姿は物流責任者というよりも、強力なリーダーシップを備えた「サプライチェーン統括者」であると、志田は指摘します。

「そのような経営者目線を備えた統括者の下で、どのような変革を行うか。キーワードの1つはテクノロジーの活用です。業務効率化などを目指したかつてのIndustry4.0に、『人間中心・サステナブル・レジリエント』の視点を加味したIndustry5.0の概念をベースとして、ヒトの負担を軽減すると同時に、ヒトによる付加価値創出をもたらすような活用が追求されていくでしょう。それを可能にするのが、可視化・予測のためのデータ利活用にとどまらず、高度な意思決定までサポートするテクノロジーの活用です。すでにその試みを実践する企業もあり、納期調整の迅速化、有事の出荷対応の迅速化といった成果を上げています」

最後に志田は次世代ロジスティクス構築に向けた要点として、①ロジスティクスを経営課題に設定、②新たなKPIの設定・バランス、③協働体制の構築、④データ利活用による付加価値創出、の4点を挙げ、今回のプログラムの締めくくりとなりました。




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サマリー 

在庫削減や生産性向上などを通じて財務パフォーマンスに貢献するサプライチェーン変革への関心が高まっています。リスク対応にとどまらない全体最適化を、いかに財務価値の創出につなげるか。本セミナーでは、その実現に向けた考え方と実践のポイントが提示されました。


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